赤穂義士傳、本傳、銘々傳を少しお休みして、NHKの大河ドラマ『元禄太平記』を、久しぶりにDVDを借りて観たので、あらすじに触れながら感想を述べたいと思います。


原作は同題名の南條範夫『元禄太平記』で御座います。そして、忠臣蔵も入ってはおりますが、『柳沢騒動/柳沢昇進録』が主軸の物語で、伏線として『赤穂義士傳』が展開されると言う構成です。


ですから主役は、大石内蔵助役の江守徹ではなく、柳沢吉保(保明)役の石坂浩二です。

石坂浩二さんは、この『元禄太平記』で柳沢吉保を演じ、後の大河ドラマ『八代将軍吉宗』では、柳沢の天敵、間部詮房役も演じています。

因みに、この『元禄太平記』では間部詮房役を演じるのは、古谷一行ですが、いやぁ〜、かなり違和感が御座います。

そして、キーマンとして、この本のオリジナルの登場人物、柳沢兵庫と言う吉保の甥が登場しますが、是を竹脇無我が演じます。

水戸光圀公を、森繁久彌が演じている関係で、どうも森繁バーターの森繁ファミリーとして、この竹脇無我、そして堀部安兵衛役の関口宏、更にはおしんと言う女官役でちょっとだけ黒柳徹子も登場。

確か、『徹子の部屋』の第一回ゲストが、森繁さんです。

さて、物語は、柳沢吉保がまだ、柳沢保明と名乗って居た御家人と旗本の間くらいのペーペー時代に、火事の最中、江戸勤番時代の大石内蔵助と出会う所から物語が始まりまして、

柳沢保明の昇進、若年寄の下の地位、目付役から一気に若年寄を飛び越えて、側用人に出世し、此処で初めて一万石を超えて大名格へと成り上がります。

そして、此処で水戸光圀から嫌われて、光圀vs保明の政治戦争、非常に官僚的な江戸城内の争いが描かれる展開になります。

この辺りを観ていると、吉良上野介役の小沢栄太郎より、登場回数も貫録も上で非常にタイプの似た森繁さんが活躍をするので、

何んとも、小沢さんには気の毒な展開が続き、森繁さんの光圀が石坂さんの柳沢保明の策略で隠居させられるまでは、非常に吉良上野介が霞んでおります。

本来なら森繁さんを吉良上野介にして、小沢さんが水戸光圀でも宜いはずなんだけど、森繁さんのスケジュールを長く押さえられなかったのか?はたまた、柳沢吉保が主人公だからか?この配役です。

一方、赤穂藩側は、主要な人物の紹介となるのですが、何せ、関口宏の堀部安兵衛が、実にニンに無い存在で、まだ、清水一学役の三善英史と変わった方がマシな感じで、

意識して険しい顔を作るのですが、この写真程度の迫力しかなく、ちょっと気を許して顔を緩めると、関口さんの人の良さが現れ、堀部安兵衛像から遠くなります。

それでも、浅野内匠頭長矩役が、片岡孝夫時代の仁左衛門丈で、是が無駄に迫力があり、迫真の演技だから、何んとも凄いです。

特に、この松之廊下刃傷は、歴史に残る名演に違い有りません。仁左衛門丈が凄過ぎて、止めに入った梶川与惣兵衛役の早川雄三では、止められないだろう?!と、突っ込みたくなる位です。

尚、殿中刃傷の理由は、このドラマでは、吉良上野介が、側用人・柳沢保明に呼ばれて雑談で聴かれた『塩の製法』を、

上野介が勘違いをして、浅野内匠頭の領地没収を柳沢が画策していると、早とちりして、勅使饗応役の指南に便乗して、

虐めながら、国替に応じる様にと水を向けるのですが、思い余った内匠頭は、直接、柳沢保明に其れを問い正して、上野介の勘違いだと分かったので、

更に是を内匠頭が、正直に吉良上野介へ直球でぶつけるもんだから、上野介は怒り心頭!、老中からの『奉書』伝達を内匠頭だけ見せない意地悪をします。

是が最終的に刃傷の決め手となり、内匠頭長矩は、上野介義央へ松之廊下で襲い掛かります。

さて、この『元禄太平記』では、五代将軍綱吉も物語のキーマンで、演じたのは芦田伸介。芦田さんの綱吉は、実に重厚で将軍らしい上からの物言いが冴えておりました。

また、六代将軍となる甲府の綱豊、後の徳川家宣は、木村功が演じているのですが、是も芦田さんに対する木村功さんと言うバランスが絶妙です。

一方、女性陣の配役を見ると、柳沢の正室が町子(弁子)が松原智恵子、側室で五代将軍綱吉より払下げられた染子に若尾文子、

内蔵助の妻、陸には、岡田茉莉子、内匠頭の妻、阿久里/瑤泉院には、松坂慶子、そしてこの本オリジナル、とき弥と言う吉良邸探索の密命を遂行する役を三林京子が演じます。

このとき弥は、浪人で吉良家の警護に雇われた森本レオ演じる左右田源八の妹という設定で、竹脇無我演じる柳沢兵衛との恋に落ちます。

この配役で、少し感じたのが大石内蔵助夫婦ですねぇ、岡田茉莉子さんの陸は、華が有り過ぎる感じで、ゴージャスな陸になります。


物語は、この松之廊下刃傷の処理に移るのですが、なぜか?柳沢保明はずしが老中連中の間で画策されて、

内匠頭は即時切腹、吉良上野介にはお咎め無しの沙汰が下りまして、赤穂藩は上を下への大騒ぎとなり、

柳沢保明は、何んとか側用人より上の老中職を目指して、五代綱吉の生母、桂昌院への従一位の官位を画策、見事に関白・鷹司兼熈より官位の沙汰を手に入れます。

この柳沢保明の京へ上る場面で、柳沢保明と大石内蔵助の再開の場面が、なかなか、渋い感じに展開します。


是で、柳沢保明は将軍綱吉より『吉』の字を賜り、柳沢吉保と名乗る様になりますが、更なる出世を目指して、六代将軍の跡目争い、

紀伊綱教と甲府綱豊の争いでは、最初、紀州の綱教を推します。綱教は綱吉の娘、鶴姫の婿であり、一方の綱豊は実の甥に当たります。

ドラマでは、綱教が島村美輝で、綱豊は先程申した通り、木村功です。島村さんは大して出番は無く、此の争いを制す木村功さんは後半出番が多いです。

この争いは、大奥も二分する争いになり、大奥ご支配の中野良子演じる右衛門佐(うもんのすけ)と、鶴姫の母、草笛光子演じるお傳の方の陰湿な女の戦いになります。

そんな折り、綱豊、綱教より上位となる実子、右衛門佐が綱吉の子を懐妊します。

そして迎えた花見の歌会で、一番の歌だ!と、綱吉が右衛門佐の歌を褒めると、お傳の方が「折角の歌じゃ、桜の枝に短冊を留められよ。」

と、右衛門佐自らに、短冊を枝へ留めさせますが、木の枝に届かぬ右衛門佐へ、踏み台を差し出すのですが、踏み台の片側に油が塗られていて、

そちらを踏んだ瞬間に、右衛門佐は踏み台から落ちて、大切な若子を流産して仕舞います。


また、此方は講釈の『柳沢昇進録』でも有名な、鶴姫様の祈祷だと嘘を言って、柳沢吉保が甲府綱豊の病没を祈祷して、隆光と言う魔道を操る坊主に胡麻を炊かせます。

この隆光役は金田龍之介が演じて、なかやかの妖怪ぶり、しかし、是は間部詮房役の古谷一行に見破られて、魔道のお札を胡麻の祭壇から剥がされてしまいます。


こんな世継ぎ争いの最中に、吉良邸討入りが起こりまして、見事に四十七士は討入りを果たして本懐を遂げるのです。

討入りのシーンは、勿論、其れなりに盛り上がるのですが、何んと関口安兵衛と三善一学の一騎討ちが、頑張ってはいますが。。。

最後は、上野介の腹に、内匠頭の短刀を大石内蔵助が突き刺して、本懐を遂げます。

又、討入りには参加しませんが、吉良邸から上杉邸に伝令が飛ばない様に、柳沢兵衛など影で応援の面々の活躍もあったりします。


この後、赤穂浪士は泉岳寺へ引き上げ、四家に分けられて、処分を待ちます。そして有名な細井広沢と荻生徂徠の論戦場面が、このドラマでも繰り広げられます。

細井広沢を久米明が演じ、荻生徂徠は岸田森です。この場面は、なかなか素晴らしい。

そして、切腹と決まった大石内蔵助と柳沢吉保が、三度、切腹前に細川邸で再会します。


この後、柳沢吉保は土壇場で、綱教を捨てて綱豊に六代将軍争いを乗り換えますが、綱吉が大御所として政に止まる事は無く、

最後の悪あがき、頭を丸める所存ですと、幕府中枢から引くどころか、出家を匂わせたら、綱豊改め家宣が引き留めてくれるハズと思ったが、

「頭を丸めるのは、辞職願を出してから!」と言われて、柳沢吉保は失脚してしまい、老中筆頭まで勤めて大老同格だったので、

柳沢吉保は、江戸に留まる事が許されて、駒込に隠居所を設けて暮らす事になります。


尚、このドラマの赤穂浪士は、こんな感じです。


◆赤穂四十七士

・大石内蔵助(おおいし くらのすけ)江守徹

・大石主税(おおいし ちから)中村勘九郎勘三郎

・堀部安兵衛(ほりべ やすべえ)関口宏

・堀部弥兵衛(ほりべ やへえ)有島一郎

・吉田忠左衛門(よしだ ちゅうざえもん)中村伸郎

・片岡源五右衛門(かたおか げんごえもん)日高晤郎

・小野寺十内(おのでら じゅうない)加藤嘉

・不破数右衛門(ふわ かずえもん)目黒祐樹

・原惣右衛門(はら そうえもん)垂水悟郎

・矢頭右衛門七(やがしら えもしち)小坂まさる

・大高源吾(おおたか げんご)竜崎勝

・赤埴源蔵(あかはに げんぞう)長沢大

・武林唯七(たけばやし ただしち)美濃部厚

・寺坂吉右衛門(てらさか きちえもん)綿引洪

・奥田孫太夫(おくだ まごだゆう)浜田寅彦

・前原伊助(まえはら いすけ)福田豊土

・間喜兵衛(はざま きへえ)嵯峨善兵


四十七士と言うけど、連続ドラマですら、二十人弱を描くのがやっとです。


さて、最後に、是以外でドラマの中で輝いていた人物を順不同に紹介します。


まず、お妙役の竹下景子!2223歳だと思いますが、町娘を可愛く演じています。オスカーの中村静香さんも、同年代はこんな感じでした。

次に、綱吉暗殺を狙う浪人役の蟹江敬三!凄い迫力で、関口さんの堀部安兵衛と代わって欲しいくらい必見の迫力です。

最後は、藤岡琢也の紀伊國屋文左衛門ですね。柳沢吉保に全く引けを取らぬ貫禄が素晴らしいです。

次回は、『峠の群像』をお届けします。