大石主税良金、十五の元服を山階で行って、十六歳で単身江戸表への東下り、同年、裏門隊々長を勤めて、翌年切腹、十七の春に散る。
そんな人物ですから、まず、講釈で銘々傳を演じるのを私は観た事が御座いません。
併し、『仮名手本忠臣蔵』では、浄瑠璃も芝居にも、まずまずの準主役として、活躍しまして、女性ファンの心を掴むアイドルで御座います。
「力彌さんのお屋敷はもう、御座いませんのかぇ〜、私ゃ悔し恥ずかし、悲しゅう御座まするぅ〜」
と、相愛の許嫁?小浪とか言う女子に愛染められて、顔を赤らめる役で御座いまして、紫の派手な手拭いで頬冠をしたり、
父由良助が遅れる判官腹切では、可愛いらしくイヤイヤをする。何んとも優しいナヨっとした感じの美青年に描かれてます。
併し、実際の記録などから、大石主税を見てみますれば、十七にして五尺七寸。ガッチリした肉付きで、萬夫相応の働きは、歳に似合わず珍しき、と、寺坂吉右衛門は手記に書き残しています。
演劇上の力彌と、実在の主税は、かなり人物像は異なる様で御座いますが、ここで、お馴染み、テレビドラマで描かれる大石主税を、その配役から見て行きましょう。
1964年 大河ドラマ『忠臣蔵』
中村賀津雄/中村嘉葎雄。萬屋錦之介の舎弟ですが、兄より柔和なイメージで、この大河の頃は、二十五歳。この白黒写真みたいな感じだったはずです。芝居の力彌に近い感じが致します。
1969年 あゝ忠臣蔵
三田明。もう、此の時代からトップアイドルが忠臣蔵の松之丞・主税役を演じていたんですね。
三田さんは、御三家が成人して、キャーキャー言われるアイドルから脱皮した直後に、彗星の如く登場した「シャー」の様な存在でした。
現在ジャニーズがやっている様な、ポジションを最初に確立したと言うか、勤めたアイドルの魁です。
1971年 大忠臣蔵
長澄修。70年代青年期は、若手のテレビの時代劇役者として活躍されました。その後舞台に活躍の場を移して、現在は関東国際高校の演劇科の顧問だとか。
1974年 編笠十兵衛
岡村清太郎。時代劇の子役で有名でした。その後、学園ドラマにも出演して、現在は清元の宗家、七代目清元延壽太夫として活躍中です。
1975年 大河ドラマ『元禄太平記』
中村勘九郎/十八世中村勘三郎。説明不要でしょう。卒なく演じるんでしょうね。この後、次男も登場です。
1979年 赤穂浪士
湯沢紀保。私はあまり知らない役者さんです。俳優座出身で、舞台で活躍されています。子役やアイドルではない、主税役です。
1979年 女たちの忠臣蔵
金田賢一。爽やかな若者でした。同い年です。『太陽にほえろ』に出ていた頃がピークだっかな?でも、親の七光りですが、続いているから大したもんです。
1982年 大河ドラマ『峠の群像』
松本秀人。X JAPANのHideではありません。時代劇を中心の役者さんでした。最近は見ていませんねぇ〜。
1985年 忠臣蔵
坂上忍。この方も説明不要ですね。子役上がりの厭な部分が満載です。杉田かおると、坂上忍ってその厭な部分が、似ている気がします。
1988年 大忠臣蔵
市川染五郎/十代松本幸四郎。現幸四郎ですね。この人は、役の幅がもっと広くできないのかなぁ〜。オヤジさんより、更に酷い。
1990年 忠臣蔵
真木蔵人。ビートたけしが、この真木蔵人のヤンチャぶりを普通にラジオで喋っていた。大らかな時代でした。この人の大石主税は、一番実像に近いかも?!
1991年 大石内蔵助
山根隆明。力彌のイメージに近い、本格派の主税役です。時代劇にもよく出ていましたし、演技派です。アイドル、子役にない安心感があります。
1991年 忠臣蔵
片桐光洋。この方は、『チビ玉』で一世風靡しました。現在も、現代歌舞伎、新作歌舞伎で活躍中!!
1994年 大忠臣蔵
松岡昌宏。ジャニーズ枠での出演。主税らしい配役だよなぁ〜。
1996年 忠臣蔵
竜小太郎。大衆演劇の玉三郎ですね。タチと女形の二刀流。実際には見た事ありません。
1999年 赤穂浪士
横山裕。ジャニーズ枠なんだろうけど、力彌とか主税ってイメージがありません。同年に主税を演じると、七之助丈と比較されるとかは思わないのかなぁ?
1999年 元禄繚乱
中村七之助。主税より右衛門七に近い気がします。兄貴の六代官九郎の方が主税に近い感じがします。兄弟で主税と右衛門七は?
と、思ったら、右衛門七はジャニーズ枠で、翼くんが演じていました。
2001年 忠臣蔵
岡田准一。是はジャニーズ枠でも当たりです。目が鋭いですよね、岡田准一くん。時代劇もそつない感じが致します。
2003年 忠臣蔵
細山田隆人。子役デビューみたいですが、殆ど知らなくてすいません。コメントのしようがない。爽やかな感じは致します。
2004年 忠臣蔵
山崎裕太。はっぱれさんま大先生の『ユウタ』のイメージです。主税か?!とは正直思います。内山くんの主税よりはマシですが。
2004年 最後の忠臣蔵
内田健介。オーッと、渋い主税です。演技派の主税ですね。やや地味目ですけどね。
2007年 忠臣蔵
篠山輝信。篠山紀信と南沙織の息子です。やや母親似でしょうか?役者としては、殆ど見た事は御座いません。
さて、二十人以上見て行きましたが、やはりアイドル、優しくて可愛いらしい美少年。力彌をイメージさせる配役ですね。
特に一本撮りの作品の場合は、演技度返しで、視聴率のマイフンを上げる為の道具ですよねぇ〜。流石に三十回以上の連続ドラマは、演技も気にした配役ですが。
大石主税良金は、幼名は松之丞。神田ではありませんよ!そして、総領ですから内蔵助からは大層寵愛を受けたそうです。
そんな松之丞ですから、幼い時に内蔵助から守り刀を頂戴しています。更には、馬も、駿馬を一頭賜ったと申します。
そんな松之丞は、常に父・内蔵助の背中を見て成長致しますから、元服に際しては、本傳でも書いた様に、
「主君の仇を必ず討たん!と、決意致しました。」と、十五の夏に宣言するような倅に成長致します。
また、父母への孝行心も人一倍強く、口癖のように『父の恥にならぬ為!父を落胆させぬ為』と、言って常に行動するのでした。
さて、元禄十五年極月十四日。本懐を遂げた大石主税良金は、久松家に預けられまして、是は堀部安兵衛等と共に預けられたのですが、
切腹に際して全く臆す事無く、介錯人の波賀清太郎に対し、最後、振り返りにっこり微笑み会釈したと言う。
清き蕾の花は、享年十七歳で散り、その戒名は『刃上樹剣信士』、内匠頭長矩の半分にも満たない。
完