幡髄院長兵衛は、百年目の長兵衛の薦めもあり、播州へ兄弟分の朝比奈藤兵衛、帆柱ノ伊之助、百年目の長兵衛の子分の玉造ノ五郎蔵、

そして、幡髄院自身の子分・源太郎と、仇討ちの当人である道頓堀、長堀橋の芸妓、梅乃も連れて、播州へと其の梅乃の仇、杉田金兵衛と白虎ノ六蔵を探しに出掛けた。

一行は、百年目長兵衛の定宿、播州明石の島帽子屋と言う旅籠に宿を取り、其処から加古川、姫路へと探索の手を伸ばすつもりで居た。

さて着いたこの日は、海の幸で舌鼓を打ちながら、庭を眺めて酒なんぞ呑んでおりますと、見るからに背の高いデップりと太った男が、庭へ入って来て奥の方へ消えて行きます。

長兵衛「ご支配人、今庭を通った若衆は、此の旅籠の使用人ですか?えらい身体が宜くて、相撲取りの様に見えますが。。。誰ですか?!」

そう、長兵衛に尋ねられた宿屋の主人は、少し決まりが悪そうな顔をして答えます。

支配人「アレは私の兄の倅で、甥っ子なんですが、ただ飯食いの大酒呑みの穀潰しの横道者です。」

長兵衛「非常に宜い身体している若者ですが、あの身体なら、相撲取り、力士に成れそうな身体に見えるが。。。穀潰しなのかい?支配人。」

支配人「えぇ、歳はもう二十一歳ですから、今更相撲部屋へ入門して辛抱出来る様な器ではありません。

兎に角、辛抱が足らないし粗暴な奴で、大飯喰らいの大酒呑みの横道者ですから。。。」

長兵衛「其れは、きつい言い様だぁなぁ〜支配人。あの若者と噺がしてみたい。此の部屋へ呼んで貰えますか?!」

支配人「止めて下さい。あんな横道者。粗相が有ると困ります。百年目の親分からの大事なお客様ですから。」

長兵衛「ご支配ッ!心配にはお呼びません。」

支配人「知りませんよ。」

長兵衛「構わない。呼んで下さい。」

旅籠『島帽子屋』の支配人は、客である長兵衛の誘いに、厭な顔を致しますが、あのデッぷりと太った甥っ子を、長兵衛たちの宴席に寄越します。


甥「此方へ行けと、叔父に言われました。私は、この旅籠の支配人の甥、太平と申します。」

長兵衛「おう!能く来た、能く来た。コッチへ来て一杯やって呉れ!やって呉れ!」

太平「ハイ、有難う存じます。」

拝むようにして、猪口で酒を呑みますが、如何にも此の男には、器が小さ過ぎます。

長兵衛「太平さん!お前のその身体(ガタイ)に其の猪口じゃぁ、小さ過ぎだろう、こっちの湯呑に器を替えて呉れろ。」

太平「へい、有難う存じます。」

と、太平は器を湯呑に替えると、二合徳利の酒が二杯で無くなるハイペースで、グビグビ呑み始めます。

長兵衛「太平さん、此の屋のご支配人、叔父さんから聞いたんだが、お前さんは宜い身体をしているのに、仕事はしていないのか?」

太平「へぇ、器用じゃありませんから、旅籠の仕事を手伝うにも、風呂の薪割りと掃除ぐらいしか勤まらなくて。。。叔父には叱られて、小言と言うより、愚痴を喰らってばかりで御座います。」

長兵衛「お前さんは、そんなに宜い体格をしているが、相撲、力士になろうとは思わなかったのかい?

三年も辛抱したら、お前のその体格なら、大関、三役も夢ではなかろう。」

太平「いいえ、相撲、力士を目指した事は御座いません。」

長兵衛「お前さんは、此処、明石の生まれなのかい?!」

太平「違います。私は、備前國は岡山の生まれで父は岡山在で、大島村の名主で御座います。ですから、

私も九ツん頃から百姓仕事をしながら小作の面倒をみて、野良で働いておりました。」

長兵衛「そんな百姓をしていたお前さんは、名主の親父さんをしくじって、此の叔父さんの家に預けられたと聴いたが、本当かい?!」

太平「へぇ、本当です。」

長兵衛「お前さん!大層酒好きだと聴いたが、大酒を喰らい喧嘩などして、親父さんから勘当されたのかい?」

太平「いいえ、確かに大酒呑みでは有りますが、酒で乱れたりは致しません。」

長兵衛「それじゃぁ〜、女かい?主在る女に手を出して、間夫したとか?」

太平「いいえ、私は元々姫嫌いの奥手でして、女でしくじった事は御座いません。」

長兵衛「と、言う事は、人は『三道楽』で身を持ち崩すと言う。酒と女が違うんなら、賭博だなぁ? 賭博の借金で田畑を取り上げられたのか?」

太平「賭博だなんて!違います。間違いが有り、弾みで役人を殺してしまいました。」

長兵衛「どう言う事だぁ?詳しく噺て下さい。」

太平「昨年、七月の事。小作人と稲刈りの準備で野良仕事をしていたら、突然、役人が来て、悪党を探している、面を検めるから被り物を取れ!と命令したのですが、

私は笠を被り、下に手拭いで頬冠もしていて、耳が塞がり聴こえないから、無視する形で野良仕事を続けておりました。

小作人たちは、従順に笠を取りますが、私独りが命令を無視したと思って、怒った一人の役人が寄って来て、乱暴に笠を取り、面検めしようと致しますから、

野良仕事の邪魔だ!と、払い除けたら、「顔を見せろ!」と怒りに任せて怒鳴り散らします。野良仕事を邪魔されると、年貢が納められません!

と、口答えしたら、更に、役人が怒り狂い出して、持っていた十手を使い、私の頭や顔、手などを打擲するので、今度は私が切れて、役人を抱え上げて地びたに叩き付けますと、

打ち所が悪く、血反吐を吐いて、その役人は死んで仕舞いました。すると、柔術の心得のあるもう一人の相棒の役人が来て、

その役人に掴み掛かると、簡単に田圃ん中へ投げ込まれて、其の泥濘に嵌り身動き出来なくされて、直ぐ縄を打たれて牢屋に入れられます。

そして、翌朝、物相飯が一膳出たんで、腹ペコの私は直ぐに平らげて、お代わり!と叫ぶと、牢屋でお代わりするなど言語道断。反省が足らないと竹刀で又打擲されて、

もう、牢に居る間は、腹がペコペコで、ペコペコで、飢え死にするかと思いましたが、四日目に大雨が降りまして、車軸を流す様な物凄い雨音で、

入って居た牢屋の格子を、ドンドン!と、ブチカマシたり蹴ったりして壊そうとしても、役人達に聴こえないからと、

一緒に牢に入れられている泥棒や盗賊が教えて呉れまして、餓死したくない一心で、牢屋格子をブチ破って全員一緒に逃げました。」

長兵衛「何ぃ?!役人一人殺して牢屋に入れられて、その牢屋を破り逃げ出したのか?其れからどうした?!」

太平「兎に角、家に逃げ帰ると、父も母もびっくりして。。。なぜ、牢破りなどしたのか?と、怒ります。

でも、物相飯が一日一膳の二食では、飢え死にしますと、言うと、役人には銭を掴ませて、死人は出なかった事にして、

三十叩きで、四、五日したら牢屋から釈放される手筈だったと怒るのですが、あと五日も牢屋に居たら飢え死にだったと言うと、父も母も泣き出します。

其れで、跡の事は金子で解決して於くから熱りが冷めるまで、叔父の旅籠で隠れて居ろと、五十両の金子を持って、この旅籠で居候していると言う訳なんです。」

長兵衛「三道楽でしくじっちゃぁ〜居ないが、人殺しに牢破りして、此処に居るとは、確かに支配人が言う通り、大した横道者だ。」

太平「そんなぁ〜、人殺しも牢破りも初犯で、一回しかやってないんですよ!」

長兵衛「一回で沢山だ!万度やられたら大変だぜぇ。それにしても、アンタは面白い漢だ!太平さん。さぁ、酒を好きなだけ呑んで呉れ。」


こうして、昼の日中。太平を加えて大坂から来ました長兵衛達が酒盛りをしておりますと、まだ、八ツ前、九ツ半くらいに太鼓が、ドンドンドーン!と、聴こえて参ります。

長兵衛「太平ドン、今の太鼓は何んだい?!」

太平「アレは相撲の三日目の興行を始める合図です。」

長兵衛「相撲?大坂か、江戸の相撲が来てるのかい?」

太平「違います、素人相撲を、賭博打(ばくちうち)の親分が勧進元になり、人丸神社の奉納相撲という事で、

花会と木戸銭も、その上がりを折半すると言う事で、人丸様の勘定場を立てた脇で、賭場を開く所謂お會式博打が行われております。

ただ、相撲の方は素人相撲。地元四股名の初めて聴くような力士ばかりで、明石潟、一ノ谷、鵯越、鉄海ヶ峰、淡路島、播磨灘、なんて連中が取組致します。

さて、お客様方は、相撲はお好きですか?」

長兵衛「相撲は、大好だ!相撲なんてもんは、玄人より素人に限るッてもんさぁ。

さて、直ぐにも行くから、太平さん、俺達を案内して呉れ!」

太平「ハイ合点とお伴したいのは、山々ですが。。。叔父さんが、私を外出させません。

そうだ!一旦、私は玄関までお見送りを致しますから、叔父さんの前で、私を案内役に指名して、強引に連れ出して下さい。

お客様方の願いであれば、叔父さんも無碍に断れないと存じます。」

長兵衛「ヨシ、分かった。強引に誘ってやろう。」


長兵衛一行は、人丸神社の境内へと足を運ぶと、寧ろで囲まれた青天井の相撲小屋が御座います。

木戸銭を払って、溜まりの後ろ四人枡席を四つばかり貸切りまして、島帽子屋から持ち込んだ仕出しの重箱を肴に、

小屋の世話屋から酒なんぞ仕入れて、観ておりますと、取組も、なかなか早いペースで、三番、四番と進みまして、

素人とは言え、身体(がたい)の宜い力士が登場して参りますから、長兵衛や伊之助が、アレは誰なんだ?どんな技を使う?と、世話屋の若衆を質問責めに致します。

長兵衛「伊之さん!今度は、えらい背が高い手足の長い野郎が出て来たぜぇ!」

伊之助「確かに、元締。六尺超えのアメンボみたいな野郎が出て来た!若衆、東のアレは誰だ?」

若衆「アレは、門前町の乾物屋です。」

伊之助「乾物屋?どんな取口だ?」

若衆「吊りが得意です。」

長兵衛「其れでぇ、何んて四股名だ?」

若衆「土佐ノ海」

長兵衛「上手い!座布団二枚だなぁ、乾物屋だけに、鰹節と釣りに掛けて、土佐ノ海は宜い。」

伊之助「西から出て来たのは、色が白い真丸の鏡餅みたいな野郎だなぁ、アレは誰だ?!」

若衆「アレは、神社に近い浦町長屋の豆腐屋さんです。突き押しと四つ相撲が得意です。」

長兵衛「でぇ、四股名は?」

若衆「へぃ、豆ヶ濱です。」

東しぃ〜土佐ノ海、土佐ノ海。西しぃ〜豆ヶ濱、豆ヶ濱。さっ!見合って、見合って、八卦宜い残った!残った! 豆ヶ濱ぁ〜!

長兵衛「勝った!豆ヶ濱が勝った。ヨシ、豆ヶ濱。ご祝儀だ!」

と、幡髄院長兵衛は、小判を三枚入れたお捻りを土俵の豆ヶ濱に投げますと、客席から割れんばかりの拍手が巻き起こり、豆ヶ濱も、有難うの四股を踏んで答えます。


更に、二番程取組が進みまして、色の浅黒い中肉中背、非常に均整の取れた目が鋭い筋肉質の力士が東方から登場致します。

長兵衛「アレは、誰だ?若衆。」

若衆「アレは、質屋の番頭ハンだす。技が豊富な相撲達者な方です。」

伊之助「でぇ、四股名は?」

若衆「へい、流れ月です。」

伊之助「質屋なだけに、流れ月かぁ、流石、上方や、洒落が利いとる。ほんでまた、さっき勝った豆ヶ濱が西から上がるんやなぁ?」

若衆「へい、さいだす。」

東しぃ〜流れ月、流れ月。西しぃ〜豆ヶ濱、豆ヶ濱。さっ!見合って、見合って、八卦宜い残った!残った! 流れ月ぃ〜。

今度は、朝比奈藤兵衛が、三両半紙に包みお捻りで土俵へと投げ入れます。


いよいよ、取組も進み本日結びの一番。明らかに身体の鍛え方が違う、玄人の力士に負けない二人が土俵へ上がります。

東!明石潟、明石潟。西!一ノ谷、一ノ谷。

若衆「いよいよ、此の素人相撲の真打登場!です。」

甲「明石潟!ブチかましてやれ!」

乙「一ノ谷!上手投げ、頼んだぞ!」

両者、負けない声援が飛び交う場内、明石潟!一ノ谷!共に、二分する人気で、場内は、最高潮に盛り上がります。すると、

長兵衛「藤兵衛!どうだ、此の一番に俺たちも、金子を賭けないか?」

藤兵衛「江戸の兄貴!幾ら賭けるんだぁ?二十両か?三十両か?」

長兵衛「そうだなぁ、この仇討ちが終わるまでの島帽子屋の勘定全部を、俺が払うか?貴様が払うか?其れを此の一番に賭けてみないかぁ?!」

藤兵衛「ヨシ、受けるぜぇ、兄貴!!俺は一ノ谷だぁ!」

長兵衛「ならば、俺は明石潟だぁ!」

こうして、幡髄院長兵衛と朝比奈藤兵衛は、明石での島帽子屋の滞在費を賭けて、本日、最後の一番を観る事になった。そして、

東しぃ〜明石潟、明石潟。西しぃ〜一ノ谷、一ノ谷。さっ!見合って、見合って、八卦宜い残った!残った!八卦宜い残った!残った!


明石潟!明石潟!


豪快な上手投げで、勝ったのは明石潟。敗れた一ノ谷は、西の柱下に投げ飛ばされてしまう。

藤兵衛「やい!一ノ谷。貴様、其れでも相撲取りの端くれかぁ!

田の草相撲のウドの大木、力士なんぞ!辞めてしまえ!」

と、罵りますと、一ノ谷は食って掛かるように、朝比奈藤兵衛に言い返します。

一ノ谷「行司!ちょいと待って呉れ。出入りだ!出入りが出来たからちょいと待って呉れ。」

一ノ谷はゆっくり土俵から、溜まりを越えて、客席へと進み、枡席の藤兵衛に近付くと、大きな声で話し掛けます。

一ノ谷「お客人!!何んと言いなさった?」

藤兵衛「あぁ、何度でも言ってやる!田の草相撲のウドの大木だから、相撲なんぞ辞めて仕舞え!と、言ったまでだ!!」

一ノ谷「『相撲なんか辞めちまぇ!』と、地元贔屓に言われるのなら、納得もするが、赤の他人の余所者に、そこまで言われる筋は無い!

其れに、何んなんだ?『田の草相撲?!』『ウドの大木?!』って訳を言え!」

藤兵衛「物事は、トドの詰まり、突き当たりまで言わないのが粋なモンだが、知らねぇ〜馬鹿には聴かせてやろう!

相撲を負けたくて、取っているのはコッチは百も承知だ。だがなぁ〜、負けるにしても、負け方ってモンが在るだろう?!

本日結びの一番に、取りで出て来て、会心の上手投げを喰らい、柱ん所まで飛ばされたから、まるで、

田圃に生えてる雑草が、お百姓にポイ!と、抜かれて飛ばされる様だったから『田の草相撲』と言わせて貰った。

更になぁ、ウドって奴は若くて旬の時は、其れは其れは香り豊かで、味は抜群、刺身のツマで有りながら、主役を喰う美味なもんだ!

其れが旬を過ぎて、デカく成り過ぎると、食えたモンじゃない。しかも、太くなったから木として使えるかと言えば、そうでも無く、スカスカで使えやしない。薪にもならない役立たずだ。

だから、今の貴様、一ノ谷!お前そっくりなんだ、この『ウドの大木』、相撲なんかぁ、辞めちまぇ!」

言われた、一ノ谷は理解をしたら、更に顔を真っ赤にして、怒り心頭!一段と大きな声で、朝比奈藤兵衛に一番挑戦をと、言い出します。


一ノ谷「やい!お客さん、流石に、そこまで言うのなら、儂と之から一番、相撲を取って下さい。辞めるようなウドの大木なのか?アンタ自身の身体で確かめて下さい!」

藤兵衛「面白い!やってやらぁ〜。」

と、朝比奈藤兵衛が、土俵に上がろうとするので、此れには、幡髄院長兵衛、玉造ノ五郎蔵、帆柱伊之助の三人が慌てて止めようと致します。

五郎蔵「藤兵衛ドン!幾らなんでも、素人とは言え、相手は半分玄人筋だ。お前さんが喧嘩自慢な事は分かるが、分別を持って呉れ!」

藤兵衛「何言ってんだ!五郎蔵、あんな田舎相撲は、俺の柔術で投げ飛ばしてやる!」

長兵衛「勝ち負け云々より、相手は、お前さんが大坂は宗右衛門町の朝比奈藤兵衛とは知らずに勝負を挑んで来ているが、

素性を知られたら、この相撲興行を仕切っている侠客・博徒が黙っちゃいないぞ?面倒臭い難癖を言って来ないとも限らない。

下手に勝ちでもすると、興行が明日以降成り立たなくなったと、法外な賠償を言って来るのは目に見えている。」

藤兵衛「そんな!?」

伊之助「其れに万一負けてみろ!銭金よりも大切なお前の評判はガタ落ちになり、この相撲を仕切る博徒が、ある事ない事世間に言いふらして大変な事になるぜぇ!」

藤兵衛「ウーン!?」

そう言って、朝比奈藤兵衛が引くに引けない状態で悩んで居ると、一ノ谷が「どうした?怖気付いたか?腰抜け野郎!!」と、挑発します。すると、

源太郎「元締!ここは、子分の私が出て、あの相撲取りと、先ずは戦ってみましょうか?」

長兵衛「馬鹿言え、お前は口は達者だが、相撲と言うかぁ、喧嘩じゃ役に立たんだろう?間違いなく、一瞬でやられて、時間稼ぎにもならんワぁ。

其れに下手をすると、殺されてしまうぞ!相撲を舐めるんじゃねぇ〜」

そう言って、幡髄院長兵衛が子分の源太郎を諌めますと、背後に控えていた太平が、立ち上がり、こう、言い放ちます。

太平「元締!此処は、私に任せて下さい。私は明石に来て叔父に外出禁止にされていたから、島帽子屋の身内だとは奴等知りません。

ですから、朝比奈の親分の子分のフリをして、あの一ノ谷と相撲を取ります。私なら、負けないし、怪我も致しません。」

長兵衛「ヨシ!宜く言った太平。お前が、朝比奈藤兵衛の名代で、まずは、土俵に上がれ!いいなぁ?藤兵衛。」


こうして、朝比奈藤兵衛の名代として、太平が土俵に上がる事になり、一旦、支度部屋へと下がり回しを付けて土俵へ上がります。

そして、一ノ谷の激しい張手の突き押しを真面に受けますが、ビクともしないまま土俵中央で仁王立ち。

そして、一ノ谷の張手が止むと回しを掴んで抱え上げ、一ノ谷の身体を、土俵に叩き付けて気絶させて仕舞います。

是を見た客席は、この遺恨の一部始終を見ていた客から、太平!太平!の拍手喝采が起こり、客席から土俵の太平に、ご祝儀の帯や羽織が投げ込まれます。

さて、翌日になると、太平の素性が知れて、一ノ谷に怪我させて、相撲興行が成り立なくさせられた勧進元の博徒が、島帽子屋へ怒鳴り込んで参ります。

さぁ、幡髄院長兵衛は、この博徒にどう対処するのか?明石の素人相撲から、思わぬ喧嘩に発展した此の一件どうなりますやら?!続きは、次回のお楽しみに。



つづく