二本松から戻った幡髄院長兵衛の噂と人気は、江戸市中を賑わしております。何んせ、二本松の祭禮を楽しみにしていた堅気の衆、侠客、そして丹羽家の三方に配慮して、

たった二人で二本松へ乗り込み、予め十分な根回しをして於いて、祭禮の最終日の夕刻に、法華ノ長兵衛とその手下、合わせて五人だけを始末する幡髄院長兵衛の遣り方に、世間は拍手喝采なのですが。。。

唯一、是を快く思わない連中が、水野十郎左衛門率いる旗本奴の連中で御座います。旗本奴と町奴は、長兵衛が頭角を現す前から仲が悪い。

其処に幡髄院長兵衛が、唐犬ノ権兵衛、夢ノ伊知郎兵衛の二人を子分に従えて、町奴を統一して親分!元締!と呼ばれる様に成ったもんだから、一層不仲の溝が深く成ります。

加えて、旗本は江戸表へ参勤交代でやって来る大名家の家臣達とも、すこぶる仲が悪いので、その大名と商いをする幡髄院長兵衛も、憎い相手なので御座います。

この旗本と大名家が仲が悪いのは、私の此のBlogを読んで下さるご通過皆様には、また、其の噺かぁ!と、お思いでしょうが、

旗本は、徳川家(とくせんけ)の直参・直臣であり、陪臣の大名より格が上だ!と、常に上からなので、之が大名家と其の家臣には許せない点で有ります。

ですから、有名な噺ですが、旗本奴は時々、江戸市中入りの大名行列に、ちょっかいを出して、此の通行を邪魔して揉めて喧嘩に成りました。

そんな中でも有名なのが、旗本・兼松叉次郎が起こした仙台公伊達の行列に、馬で駆け付けて、其の行列の鼻先を『上位!上位!』と叫んで横切り、

そのまんま、大老土井大炊頭の屋敷へ駆け込んでしまうと言う事件が起きる。伊達家はまだ、政宗公が健在の時代で、幕府に猛抗議が寄せられる。

幕府は、是れを口実に伊達家を中心に外様大名が団結するのを恐れて、登城及び公務での旗本の馬の利用を全面禁止令!是を即日打ち出した。

更に、この法令は、馬だけでなく、乗り物全般、つまり駕籠の利用も禁止となり、基本旗本は、公務の際は素歩きに限ると言う法度が通達された。

是に大反発したのが、旗本の頭(ドン)、天下のご意見番!大久保彦左衛門。駕籠が駄目ならと、足を挫いたと言う理由で、

巨大な盥を桶屋に造らせて、此の盥で江戸城へと登城する。これには流石の幕府も苦慮し、後に四十歳以上の旗本の駕籠利用は許可されます。

此の様に、町奴と旗本奴は、水と油の犬猿の仲。特に大名と屋敷渡世で付き合う幡髄院長兵衛一家は、旗本奴から目の仇にされていた。


そんな或日、唐犬ノ権兵衛と夢ノ伊知郎兵衛の二人は、茅場町の用事の帰り道、其処から北へ日本橋の方を指してフラッカ!フラッカ、歩いておりました。

伊知郎兵衛「権兵衛さん!」

権兵衛「何んだい、伊知ッ?!」

伊知郎兵衛「このまま、右に曲がって橋場から船で浅草に戻るのを止めて、曲がりを左にして、芝居を観に行かねぇ〜かぁ?!」

権兵衛「好きだなぁ〜、お前は。芝居何んて、そんなに面白れぇ〜かぁ?!」

伊知郎兵衛「木挽町の今掛かっている芝居が、宜いって噂なんですよ、権兵衛さん。連日、大入りらしいんで、しかも今日は総見だ!行ってみませんか?!」

権兵衛「俺は厭だなぁ芝居は。いい歳して漢が白粉塗って、二枚目だ!女形だ!って漢のママゴトを見せられる。

其処行くと、漢が見物するに相応しいのは、やっぱり相撲よ!天下の力士が大名富貴の前で、安座(あぐら)掻いて切符を見せる漢ん中の漢の様式美だ。

其れと比べるとだなぁ、芝居は何んだ?!昔、出雲のお國ッて女子(おなご)が、京の七条河原に菰(コモ)を敷いて始めた乞食座興の成れの果てだ。

相撲なら行くが、芝居は御免だ!遠慮しておくぜぇ、兄弟!」

伊知郎兵衛「そうかい!そうかい!連れ無い事を言いやがる。そういう料簡なら俺にも考えがある。

そうだ!何処か店へ上がってチョイと呑んで、お前さんと俺の兄弟盃は無かった事にして返してやるから、絶交だ!!一昨日来やがれベラ棒めぇ〜。」

権兵衛「おいおい待っツ呉れ!伊知ッ。そりゃぁ〜何故だぁ?何故だぁ?!」

伊知郎兵衛「もう忘れたのかぁ?!去年の十一月の事ッたぁ。深川の八幡様の奉納相撲が在っただろう!

江戸中の宜い力士が一同に集まり、上方からも一流処が呼ばれてるんで、女房を質に入れても、江戸っ子なら観に行くきゃない!そう言ったよなぁ?!」

権兵衛「そう言った。そして、観に行ったよ、其れがどうした?」

伊知郎兵衛「俺は角力(すもう)は、デブの集まりで好きじゃないが、兄弟の誘いだから、空気を読んで、交際(つきあい)だからと、深川八幡宮へ一緒に行った。

『なのに〜なぜ?歯を食い縛りぃ〜、君は行くのか?そんなにしてまでぇ〜』と芝居仲間に言われながら、俺は相撲に行ったんだ!

あぁ〜其れなのに、其れなのに、貴様は芝居は厭だと断る!其れでも兄弟かぁ?!此処は、分かった喜んで、一緒に芝居に行こう!と、なぜ、言えないんだ、お前さんは。」

権兵衛「そんなぁ〜、厭々に歯を食い縛りお前は相撲に行ったっけかぁ?!」

伊知郎兵衛「行った!厭々行ったさぁ。だいたい、俺は大食いのデブは嫌いなんだ。あいつ等世間の元凶なんだ、飢饉の素に違いない。

世の中の全てを喰い尽くす勢いで食べて太る。そして、所詮、相撲なんて強い奴が勝ち、弱い野郎が負ける。そんな分かり切った勝負を観て何が面白い!」

権兵衛「其れを言うなら、芝居だって台本通りで、新作以外は何十年も同じじゃねぇ〜かぁ。富樫は弁慶の勧進帳が白紙と知りつつ、関所を通しやがる。富樫が「曲者!」といきなり義経を斬り殺さないのと同じじゃないかぁ?!」

伊知郎兵衛「馬鹿!其れを言うなら勧善懲悪の人の道、道理を芝居は教えているから、筋が台本通りなのは当たり前田のミネソタ・ツインズだ!

そんな事を言うなら、力士は大名贔屓からお抱え侍となり、いちょ前に刀を差して江戸の町を闊歩してやがるが、

あのデブが、侍と言うなら相撲が始まった織田信長や、武田信玄の時代から、一番乗り一番槍一番首で、大手柄を上げた力士侍が居るのか?!

ただただ大飯喰らいで常に『ゴッつぁん!ゴッつぁん!』と、贔屓を引き倒しての貰い体質、どっちが乞食かぁ分からないのが相撲じゃねぇ〜のかぁ?!兄弟。

そんな、百害在って一利無しの相撲を、兄弟の交際(つきあい)だからと我慢して観に行ったのに、

立場が代わりゃぁ〜鹿十する。こっちが芝居に誘ってみたら行かない何んて、本当にどういう料簡をしているんだお前さんは?!そんな連れ無い奴とは絶交だ!と、そう成るだろう?!」

権兵衛「あぁ〜、其れは俺が悪かった、謝るよ。」

伊知郎兵衛「悪かった謝るじゃ無ぇ〜ぜぇ、兄弟!」

権兵衛「分かった木挽町へ行くよ、芝居を観たら宜いんでしょう?!行きます、一緒に芝居を観に行きます。」

伊知郎兵衛「ヨシ、そう来なくっちゃ困る。さて、芝居に行くと成ったら、其れは其れで、一つ相談が在る。聴いて呉れるか?兄弟。」

権兵衛「相談?何んだぁ?!」

伊知郎兵衛「芝居は、相撲と違い女子供の比率が高い。だから、俺たちみたいな荒くれの町奴が行くと特に女性客は露骨に厭な顔をする。

そうなると、俺たちだけの評判が悪くなる分には構わないが、町奴全体、引いては親分、幡髄院長兵衛の評判が下がると、之は少しばかり具合が悪い。

特に今日行く芝居は『総見』だから、色街の綺麗い処がご贔屓の旦那衆と大勢来ているから、尚更だ!其処で、こんな具合に手拭いを使って頬冠してから入って貰いたい。」

権兵衛「分かった、頬冠は合点だが、刀は何処かに預けて行くのかい?兄弟。」

伊知郎兵衛「いやぁ、刀は自分の着物ん中へ、懐中でも、背中でも、好きな所に隠して入るしかない。」

権兵衛「そいつは、かなり辛い格好になるがぁ〜、そうまでして、芝居を観ているのか?お前さんは?」

伊知郎兵衛「あぁ、歯を食い縛り!君は行くのかぁ〜」

権兵衛「そんなにしてぇ〜までぇ。だなぁ?!分かった、分かりました、隠します。隠します。」

ぶつぶつ文句を言いながら、唐犬ノ権兵衛も、刀を懐中に仕舞い、手拭いで頬冠を致します。「ヨシ、行こう!」と、二人は木挽町へと参ります。


此の時代、木戸に行き銭を払うと『半畳』と言う座布団の様な畳の様な敷物を貸して呉れた。是が現在のチケットの半券みたいな物。

予約席ではなく、ご招待客以外の一般入場者は、この『半畳』を拾い桟敷の好きな場所へと起き芝居を観るのである。

これは、現在の(三代目伯山時代)釈場と同じで御座います。座布団片手に背中を預けて観られる、壁や柱前が特等席。

釈場では、壁側にぞろぞろ席が埋まる光景を、壁に張り付きますから『ヤモリ連』などと呼びますが、江戸の此の時代はどう呼んだのか?

さて、頬冠のまんま、木戸で『半畳』を受け取った夢ノ伊知郎兵衛と唐犬ノ権兵衛。二人で人の波を掻き分け掻き分けしながら、何んとか観劇場所を確保し開演を待ちます。

伊知郎兵衛は毎度の事なので、刀で背中を膨らませ、膝を抱える様にして、大人しくしております。

然し一方の権兵衛の方は、不慣れな芝居で懐中に刀を隠し、狭い空間で、煙草も飲めず、中々幕が上がらない現状にイライラして、

白粉と髪の椿油の混ざる強烈な匂いに、鼻では息が出来ない状態に、『歯を食い縛りぃ〜』の歌が頭ん中で木霊します。

幕が上がり、漸く、一幕目が始まりますが、伊知郎兵衛が喰い入る様に舞台を観ているのに対して、芝居に興味の無い権兵衛は、僧侶の禅の修行の様に眼を閉じて耐えに!耐えます。

伊知郎兵衛「兄弟、少しは舞台を観たらどうだい?面白いぜぇ〜?!」

権兵衛「お構い無く、見てしまうと余計に気分が悪くなるから、気にしないで呉れ。」

そんな感じで、大好きな伊知郎兵衛は、舞台に釘付け、一幕でも沢山芝居を観てやりましょうと、どんなに窮屈でしんどい姿勢でも我慢して芝居を観て居た。すると。。。彼等の背後の客が、唐犬ノ権兵衛に話し掛ける。

客A「すいません、前の手拭いで頬冠して懐中を抱えてなさる旦那さん、頭が邪魔で舞台が見えませんなら、右に逃して下さい!」

と言うんで、権兵衛、仕方なく首を右へズラす。すると、更に隣で、権兵衛の首が移動して来た側の客が今度は文句を言う。

客B「手拭いの人!頭が邪魔です。退けて下さい旦那様。」

言われた権兵衛、今度は首を左へズラす。また、そしたら反対側から文句が出るので、真ん中に戻すといった具合で、絶えず、頭を動かしております。

そのうちに、この二幕目が終わり、常識幕が敷かれて、暫しの休憩となりまして、少しばかり煙草を吸い付けに出る奴、または厠へと向かう奴が御座いますから、幾分、場内がゆっとり致します。

権兵衛「伊知ッ!あと何幕観る積もりたい?!」

伊知郎兵衛「勿論、体力の続く限り。日の暮れの最終幕まで、俺は此処に居たいぜぇ!」

と、夢ノ伊知郎兵衛は、当然、終日この小屋ん中に居る積もりですから、権兵衛も覚悟を決めて座り直します。すると!其処へ。。。


白い柄の揃いの刀、錦糸銀糸の派手な刺繍の着物に、白や金銀、中には緑や藍の鮮やかな袴を履きまして、白い揃いの足袋に分厚い雪駄履き。

一目で四ツ谷六法白柄組、水野十郎左衛門率いる旗本奴と分かる連中が、ゾロっか、ゾロっか十一人で入って来て、花道の方を睨みながら、

小屋の二階、貴賓席へと上がって行きます、其の面々はと見てやれば、先頭に水野十郎左衛門、近藤登之助、加賀瓜新十郎、池田勘左衛門、松平三左衛門、長坂血鑓九郎、

そして席は一段下りました位置に、金時金兵衛、宝生庄太夫、渡邊綱右衛門、末竹竹右衛門、そして案内方の奴ノ九郎兵衛で御座います。

伊知郎兵衛「之で兄弟!旗本奴の連中が来たからには、俺たち、帰る訳には行かなく成った!」

権兵衛「おうよ、頬冠も要らなく成ったし、刀も仕舞う必要はねぇ〜、俺もじっくり芝居とやらを、観させて貰うぜぇ!!」

と、二人は、臨戦態勢で頬を二、三度、叩いてから気合いを入れて座り直します。


すると、この幕内の休憩を利用しまして、『半畳改め』と言う、小屋側のちゃんと木戸銭を支払っての客か?どうか?のチケットの確認みたいな行為が始まります。

お昼前、四ツ半も過ぎて、小屋ん中が混雑して参りましたから、『半畳』を持たずに、紛れ込んだタダ見の客を、小屋側が追い出す作戦に出たので御座います。

若衆A「半畳改めです。 どちら様から?近江屋さんから!」

若衆B「半畳改めです。 どちら様から?越後屋さんから!」

若衆C「半畳改めです。 半畳は?貸してるの?エッ、無い? 何んで無いの半畳。。。もうダメだよ、札入り満員なんだから。

お前さんの居座りを認めたら、あそこに札待ちで並んでいる、三幕、四幕からのお客様に失礼になるんだ!!半畳無しは、出て出て行って!!」

と、言われて、花道の脇から通路に引き摺り出された此の野郎、半畳を持っていないとバレて、外へ摘み出され掛けたが、

次の瞬間、その半畳無しは、開き直り花道に上がり大の字に成って啖呵を切り始めます。

金五郎「さぁ〜、打つなと蹴るなと好きにしやがれ、俺は下谷幡髄院から、今は浅草花川戸!幡髄院長兵衛の身内で、『雷(イカズチ)ノ金五郎』だ!と言うおあ兄ぃさんだ!

その親分から、金公!観て来て呉れと頼まれて、この総見に顔を出したんだ!其れを何んだこの小屋は、俺を幡髄院の名代と知っての狼藉かぁ?!

その木戸に在る帳面を確かめて見やがれ!ベラ棒めぇ、イの一番に幡髄院の名前が在るハズだ。その名代の俺様を摘み出せるもんなら、出してみやがれ!すっとこどっこい!」

と、言われた若衆の方が、今度は驚いた。ただのチンピラが、悪さして半畳無しで潜り込んだと思うから、摘み出そうとしたら、あの!今や江戸一番のヒーロー幡髄院長兵衛の身内だと言い出す。

若衆C「済みません、お客様。知らぬ事でご無礼致しました。許して下さい。御免なさい。」

金五郎「御免で済むなら、町奉行は要らないんだよ!三下、お前じゃ、噺にならない。座頭を連れて来い!馬鹿野郎、謝り方を教えてやる!」

と、雷ノ金五郎がこの若衆を捕まえて殴り掛かりますから、周囲の他の若衆が止めに掛かると、周囲の客席から、『喧嘩だ!』『喧嘩だ!』と、えらい騒ぎに小屋が沸き返ります。


是を見ていた唐犬ノ権兵衛と夢ノ伊知郎兵衛。

権兵衛「あの金五郎とか言う野郎、知っているか?兄弟。」

伊知郎兵衛「会うのは初めてだが、名前は聴いた事がある。」

権兵衛「ウチの身内か?」

伊知郎兵衛「元締の盃を正式に貰ってるかは怪しいが、小平の所で仕事の使いッ走りはさせている。」

権兵衛「強いのか?」

伊知郎兵衛「強い野郎が幡髄院長兵衛の名前を出したりするかぁ?!弱いに決まっている。元締や小平の名前で、タダ呑み、タダ芝居、タダ相撲して、世間を困らせている、太い野郎さぁ。」

権兵衛「分かった。其れなら放って於こう。」

と、権兵衛と伊知郎兵衛の二人は、雷ノ金五郎を放置しておりますと、二階の貴賓席では、水野十郎左衛門が、金時・渡邊の両人に何やら耳打ち致します。

すると直ちに、金時金兵衛と渡邊綱右衛門の二人が下へとハシゴを降りて来て、花道の上へと上がり、金五郎を二人で挟み討ちに致します。

そして、その首ッ玉を捕まえて、文句を申します。

金時「ヤイ!金五郎だか有崎勉だか知らねぇ〜がぁ、この小屋は幡髄院の持ち物かぁ?我が物顔で、ふざけた真似を仕腐ってからに!

やい一文も払わずデカい面しやがって、とっとと幡髄院の門前に引き下がり、此処へ長兵衛本人を呼んで来い!この三下奴。」

金時の松の枝の様に太い腕で、雷ノ金五郎は何発も殴られて、鼻血を垂らしながら外へと放り出されます。

すると、是を見ていた客が反応します。『流石、旗本!日本一』『いいぞ、水野の白柄組!!』『着物も派手で素敵!』『ヨッ、日本一、白柄組!』

やんや!やんや!の掛け声と拍手の嵐に、唐犬ノ権兵衛と、夢ノ伊知郎兵衛は、我慢しているはずが御座いません。

唐犬ノ権兵衛、退け!退け!退けぇ〜と、直ぐに花道へと上がり、金時の横ッ面に、相撲好きらしく張り手を喰らわします。

金時「何をしやがる!無礼千万、貴様、何者だぁ?!」

権兵衛「知らざぁ〜言って聴かせやしょう。花のお江戸で六十四州、日本全国津々浦々の大名家から、仲間奴の人入れを頼まれての口入屋!

そんな屋敷渡世に此の人在りと言われる幡髄院長兵衛の一の子分!町奴にその人在りと謳われた『唐犬ノ権兵衛』とは俺の事だぁ。

よくも、ウチの身内に恥をかかして呉れたなぁ〜、倍返しだ!覚悟しやがれ、この箱根みたいな金時野郎!!」

そう言うと、権兵衛がいきなり頭突きを喰らわせ、白柄組の金時金兵衛をボゴボコにタコ殴りにして、意識不明!伸ばして仕舞います。

然し、その唐犬ノ権兵衛の背後から、正に今、刀を抜いて斬り捨てて仕舞おうと、渡邊綱右衛門が抜き足、差し足、忍び足で迫る所でしたが、

更にその背後から、夢ノ伊知郎兵衛が鞘の鐺(こじり)を掴んで引いておりますから、網右衛門は刀が抜けない!!

渡邊「誰だ!!」

と、声を掛けますが、伊知郎兵衛が目と鼻の間、眉間目掛けて殴り付けますから、渡邊綱右衛門は一発で大の字に倒れて気を失います。


ヤイ!俺が幡髄院の二番隊長、夢ノ伊知郎兵衛だ! 水野十郎左衛門、貴様のヘナチョコ連は、片付けた、

早くそのハシゴを降りて来て、俺たち二人と勝負しやがれ、ベラ棒めぇ!!


芝居小屋の花道で、唐犬ノ権兵衛と夢ノ伊知郎兵衛が、二階席の水野十郎左衛門に向かって啖呵を切ると、見物客は「さぁ〜、新幕だ!」「いいぞ、幡髄院、日本一!」「ヨッ、ご趣向!」と、

狂言よりも面白い!と、次なる喧嘩の展開に固唾を呑んで待っておりますと、さて、此処へ真打登場!幡髄院長兵衛が現れて、

いよいよ、水野十郎左衛門と幡髄院長兵衛の喧嘩へと発展するのですが、今日は時間、一杯!一杯!次回の乞うご期待。



つづく