棟梁の吉兵衛に「普請が終われば、殺される!」と、聞かされて、全員の顔色が蒼白になりました。
八五郎「血判したから、棟梁は苗字帯刀で五百石取りの侍になり、俺も二十五両貰えるって。。。違うんですか?棟梁!」
吉兵衛「噺は、今日の普請が終わってからする。全員、湯から上がって飯を食ったら、酒は控えて集まって呉れ、宜いなぁ?!」
職人達は不安を抱えながら、その日の作業を終えて、湯を使って飯を食って、棟梁の吉兵衛を囲んで車座に成ります。
吉兵衛「皆んな昼間、休憩ん時に俺と與三が話していたのを聴いての通りで、この普請が終わると十中八、九、俺達は斬り殺される運命だぁ。」
八五郎「冗談じゃないぜ、棟梁。 なぜ、俺達が殺されるんだ? 血判で約束した『釣天井』は、期日通りに明日、出来上がるじゃないかぁ?!」
吉兵衛「建前は、俺達が約束を破って、與三郎を外へ逃がしたからだ。でも、輿三郎が逃げていなくても、
『千丈の堤は蟻の一穴で崩れる』の譬え、『下郎は口の善悪の無きものという』という憂い、
つまり、俺達がいつ何時、ポロッと『釣天井の秘密』を喋ってしまうんじゃないかと枕を高くして眠れない。
そのちょっとした綻び(ほころび)で、釣天井を使った将軍暗殺計画が露見する事をご家老は恐れていて、
つまり何が何んでも、河村様と一ノ宮様は、きっと我々を殺す(始末する)算段に違いない。」
改めて死を予見された職人達に、動揺の輪が広がり一同はザワ付き始めます。其れを見て、與三郎がこう提案します。
與三郎「私が先導しますから、例の床下の抜け穴を使って全員で外へ逃げましょう。
そしてお稲さんの、いや、植木町の町役人の六兵衛さんにお願いして匿って貰いましょう。
宇都宮の三大町役の六兵衛さんなら、お城の役人だって、簡単に踏み込んでは来れません。棟梁!そうしましょう。」
吉兵衛「あのご家老の事だ。既に手配が掛かっていて、もうこの城からは、蟻の這い出る隙も無いように思うが。。。
それに、万一、上手い具合に植木町まで逃げて行けたとしても、恐らく将軍暗殺の首謀者は、お殿様、上野介様だ。
譬え、町役の六兵衛さんの家まで逃げ込めても、與三、お前一人なら隠れても居られようが、二十三人だぜぇ。土台無理がある噺だ。」
與三郎「それなら、銭だけ借りて江戸へ逃げましょう!!」
吉兵衛「二十三人でかい?道中、馬で追って来られたら、直ぐに見付かるぞ、與三。」
與三郎「でも、棟梁!このまま、此処に居たとしても、結局殺されてしまうんなら、皆んなで逃げてみようじゃありませんか?!」
熊五郎「そうですよ、棟梁!どうせ死ぬんなら、城の外で。。。もう一度、女房子に逢ってから死にてぇ~。」
全員「棟梁!逃げましょう。」
吉兵衛「そうかい、お前たちがそれ程逃げようと云うんなら、俺も腹を括った! ヨシ、今夜九ツ過ぎにこの寮を抜け出そう!與三、お前が皆んなを案内しろ。」
こうして、吉兵衛たち二十三人は、床板を再度外し床下を通って、城内を脱出を試みます。
吉兵衛「いいかぁ?! 痩せた野郎から順に、二人一組で慌てず御用門のお堀前の茂みまで行くんだ。そして、最後(シンガリ)は、長兵衛お前に頼む。」
長兵衛「へい、合点です。」
吉兵衛「それから與三郎、お前が案内役だから先頭を独りで頼む、皆んなが付いて来るのを確認しながら進んで呉れ。いいなぁ?」
與三郎「へい、合点です。で、棟梁は誰と組むんですか?」
吉兵衛「与太に決まってんだろう、野郎を引率するのは、俺の仕事だ。」
与太郎「棟梁!照れるぜぇ、そんなに褒めちゃぁ。」
吉兵衛「誰が褒めた!馬鹿野郎。さぁいいかぁ、野郎ども。前に行く奴をよーく見て慌てずにゆっくり進むんだぁ。
そして一先ず、お堀の前の茂みん中で様子を見るから、いいかぁ?中に広がって伏せて待つんだぁ。
見廻りの侍が、至る所を徘徊している。誰か一人でも見つかったらお仕舞だからなぁ!気を引き締めて細心の注意で頼む。」
全員「合点です!!」
吉兵衛の指図で、痩せでチビの半次と留吉のコンビから床板を外して、寮の床下へと潜ずり込む。
狭い床下を匍匐前進をしながら建屋と建屋の繋ぎ目まで来ると、與三郎が掘った穴へと入り、隣家の床下へと更に潜ずり込む。
これを三度繰り返して、漸く集合場所の茂みの前まで到達し、最後にそこから二軒半ばかりの道を横断する。
順調に、二十一人まで床下から穴を通って、隣の建屋の床下へ潜ずり込んで行けたのだが、最後に元相撲取の常吉が残っていた。
長兵衛「オイ、常ッ、大丈夫か?どうだ、穴を通れそうか?」
常吉「うーん、何とか。。。尻が抜けたら、穴を通りそうだが、なかなか尻が。。。尻が。。。」
長兵衛「ヨシ、俺が後ろから押してやる!尻を振りながら、強引に通してみろ?! それ!それ!それ!」
常吉「痛い! 痛いって、小頭。そんなに強く押したら、尻が削れるって!!」
長兵衛「贅沢を云うなぁ! それ!それ!それ!」
常吉「痛い! 痛いって、小頭。尻が無くなるって!!」
長兵衛「もう少しだぁ! それ!それ!それ!」
と、尻から血を流しながら、何とか超あんこ型の常吉も、穴を抜けて堀前の茂みに集合できました。
吉兵衛「おーい!全員揃ったか? ヨシ。泣くなぁ!常吉。尻の皮が剥けた位でめそめそするなぁ!さて、ここからどっちへ行くんだぁ?與三郎?」
與三郎「番所の前の堀に、石が沈めて在るんで、その石を飛んで、堀の向こうに先ずは渡り切ります。」
吉兵衛「渡るって、何処へ向かうつもりだ。あの通り石垣が続いてて、一筋縄で登っては越えられないぞ。」
與三郎「だから、渡り終えたら、その少し先に行くと。。。 アレ?何んだぁ?あの炬火(かがりび)は?!」
と、與三郎が前回、お稲の元へ逢いに行った際に通った軽石の抜け穴、その前に炬火が焚かれて、三十人余りの若侍が槍を持って構えているのです。
吉兵衛「之はまずいぞ、堀を渡ったら、あの侍達に槍で突かれて、一巻の終わりだぁ。」
與三郎「仕方ありません、番屋を襲って、多十を縛り上げて、御用門の閂(かんぬき)を外して逃げましょう?!」
吉兵衛「ヨシ、長兵衛と與三の二人で、番屋の様子を見て来い。もし、多十が一人なら、野郎を縛り上げて閂の鍵を手に入れて呉れ!」
そう棟梁の吉兵衛に云われて、小頭の長兵衛と與三郎が番屋に近づいて、中の様子を見てみると、この番屋にも三十人くらいの侍が詰めていて、多十を襲うどころではありません。
吉兵衛「やっぱり、ご家老の河村靭負様のなさる事だ。いちいち抜かりが無い。一応、通用門の方にも回ってみるか?!」
と、今度は自ら吉兵衛が、長兵衛と二人で、通用門の方へも回って確認致しますが、此方にも同じ様に炬火が焚かれて、蟻の這い出る隙も無く若侍が警護しております。
吉兵衛「之は無理だ。逃げようとすれば、飛んで火にいる夏の虫! 血判破りの現行犯で、この場で槍の餌食にまるぞ。仕方ない、一旦、寮に戻るぞ!皆んな。」
そう言って、棟梁の吉兵衛が来た道を帰る決断をしますが、是を聴いて泣きべそをかいたのが、あんこ型の常吉でして、
常吉「棟梁!そりゃないよぉ~、決死の覚悟であの穴を抜けたのに。。。また、あの穴を戻るだなんて。。。何んて日だ!!」
吉兵衛「小峠か?!」
常吉「いいえ、大谷翔平です。」
そんなやり取りが御座いまして、吉兵衛たち二十三人は、仕方なく寮に戻り、翌朝を迎えます。
さて、普請の最終日。八ツ前には、普請の仕上げ、内装の仕上げとゴミ出しが終わり、いよいよ、釣天井の実地検証が行われます。
古い畳が敷き詰められて、薩摩より取り寄せた、『天井の雉木目』には、綿が敷かれて天板が破損しない様に配慮されます。
そうしておいて、毛綱を教えられた手際で、一ノ宮数馬が断ち切って行きますと、十数本目で釣天井が勢いよく落下して、仮想将軍様の藁人形が木端微塵になるのでした。
靭負「アッパレである、流石、吉兵衛。よく此処までの細工を二十日で仕上げた。皆にも礼を申す。」
吉兵衛「ご家老様、有り難いお言葉、痛み入ります。」
靭負「ヨシ、釣天井を元に戻したら、番屋の前に宴席を用意してある。今日は普請落成の祝いの宴じゃ、皆、存分に飲んでから帰って呉れ。」
全員「有難う御座います。」
そうして、宇都宮城の北奥に、釣天井の寝所が完成した。天井を元に戻す作業中、吉兵衛はかねての計画通り『楔(くさび)』を打ち込みます。
そして、一同が宴席に付いて、呑み喰い始めた頃、番屋の南側、今は使われていない古井戸の周り、鬱蒼と木々が茂り森のような場所で、
家老の河村靭負、目付の木村大膳、そして普請奉行の一ノ宮数馬、更に十名程の手練れの侍が片手に抜身を持って、古井戸の周りを囲んでおります。
靭負「そろそろ、宜かろう。誰か?棟梁の吉兵衛に、差し金を持参せよ!と伝え、此方へ連れて参れ。」
「ハハッ!」と、返事をした斎藤十兵衛と榊源平太の二人が、酒に興じて、都々逸を廻している吉兵衛達の所へ参ります。
齋藤「吉兵衛、ちょっと宜しいか? ご家老が、お主に聴きたい事があるそうだ、済まぬが差し金を持って、同道願いたい。」
吉兵衛「差し金をですか? 承知しました。 オイ、ちょっと御用だそうだ、席を外すが、お前たちは続けて呑んで居て呉れ。直ぐに戻る。」
そう云うと吉兵衛は、自分の道具箱から差し金を出して、二人の侍に同道して、番屋の南の森蔭へと消えて行く。
残された二十二人は、まさか、是が生きた棟梁、吉兵衛の見納めになるとは、知る由も無かった。
鬱蒼とした茂み、奥に何があるのか?全く分からない吉兵衛は、恐る恐る二人の若侍に先導されて進んで行く。
そして、漸く前に井戸が在るのが見えて来て、その周りを抜身をギラッと輝かせ、
それを片手に持った侍が七、八人、その井戸を囲んで立って居る。
是が目に飛び込んで来た訳ですから、きな臭い怪しいと感じない方がどうかしております。
思わず持っていた差し金を握る手に力が入り、同時に足が前に出なくなります。
靭負「どうした!吉兵衛、もそっと近こう参れ!」
「近こう参れ!」と、云われても、殺気立った若侍が今にも襲って来ようという雰囲気ですから、近くへは寄りたくない。
吉兵衛「何んの御用ですか?差し金を、この通り持参しました。」
そう言って立ち止まった吉兵衛の背後に、呼びに来た斎藤十兵衛と榊源平太の二人が廻り込みまして、
吉兵衛の退路を絶ってしまいます。仕方なく、吉兵衛は古井戸の前まで進み、是を挟んで靭負と対峙致します。
吉兵衛「ご家老様、わざわざ、こんな変な場所にアッシをお呼びになって、何の御用です。」
靭負「察しの宜いお主の事だ、判っておろう。 単刀直入に言おう、職人の中に約束を破って外に出た者が在るだろう?!有り体に申せ!」
吉兵衛「何の事ですか?存じませんが。」
靭負「十日前だ。点呼した際に返事が木霊した。」
吉兵衛「何を仰っているやら、一向に存じませんが。」
靭負「咎めはせん。正直に申せ!吉兵衛」
吉兵衛「正直にと言われましても。。。存じ上げぬモノは、答えようがありません。」
靭負「そうか、残念である。 オイ、此奴を縛り上げて、井戸に吊るせ!!」
矢鱈と、物を吊るのがお好きなご家老様のようで御座いまして、高手小手に縛り上げられた吉兵衛は、井戸の滑車に吊るされてしまいます。
靭負「吉兵衛、強情はよせ。速やかに白状すれば、命ばかりは助けてやる。誰が城を抜け出し、何方へ参った!!」
吉兵衛「吉兵衛、天地神明に誓いまして、存じ上げません。」
靭負「判った!もう、宜い。貴様には訊かぬ。」
そういうと、白柄の妖刀村正を抜いて、それで吉兵衛の首を跳ねて、そのまま亡骸は井戸に落としてしまいます。
この古井戸、遠の昔に水は枯れて、七、八軒下に落とされた吉兵衛の死骸は、松明(たいまつ)を翳すと見えて御座います。
靭負「斎藤!榊、次は、小頭の長兵衛を呼んで参れ!」
そう言うと、次は小頭の長兵衛が同じように古井戸の前に呼び出され、「棟梁のようになりたく無ければ白状しろ!」と、
こちらも、縛り上げられて詰問を受けるのですが、長兵衛も知らぬ、存ぜぬと、白を切り通して殺されます。
「次は、組頭だ!呼んで参れ。」と、一人ずつ呼ばれ、ここで漸く、與三郎って野郎が外へ出ました。
と、與三郎が外に出た所までは、聴きだしますが、それは、点呼の様子で靭負も勘付いておりました。
與三郎は、寸斬りに嬲るような拷問を受けますが、お稲と六兵衛の事は白状しないまま、
與三郎が出た事までは裏が取れましたが、行き先は頑として白状致しません。
続けて、一人ずつ同じように、井戸へ落とし山に成った死骸を見せて、脅しを掛けるのですが、誰も与三郎の行き先を白状致しません。
結局、靭負は、全員を古井戸の前で一人ずつ処刑し、その亡骸を井戸の中へ放り捨てて、血みどろの井戸を土砂で埋めてしまいます。
血の惨劇の翌日、棟梁の吉兵衛、そしてその手下の家族全員が、お城へ呼び出されます。
そして、家老、河村靭負は、その家族の前で、このような訓示を述べるのでした。
靭負「えぇ、実は昨夜の事であるが、棟梁の吉兵衛、小頭の長兵衛、及び、手下職人の與三郎の三が、
事も在ろうに、この城のご金蔵に忍び入り、金子を盗もうと致して、寸での所を捕縛されるという、実に由々しき事件が起こり申した。」
是を聴いた家族は、まさか?!と顔を見合わせて、信じられないという表情をしていたが、靭負は噺を続ける。
靭負「そんな訳で、本日、普請を終えた吉兵衛以下、二十三人を家に帰す事が出来なくなった。」
この言葉で、更に、一同はザワザワして、組頭の熊藏の女房、お崎が溜まらず靭負に喰って掛かった。
お崎「ご家老様、お言葉ですが、泥棒したのは棟梁と小頭それに與三郎の三人なんでしょう?それなのになぜ、ウチの人まで留置かれるんですか?!」
「そうだ!そうだ!」「三人以外は返せ!」と、ヤジが飛んだが、靭負が「黙れ!」と一喝し、その上で続けた。
靭負「黙らっしゃい、皆の衆。確かに捕まったのは三人ではあるが、まだ、吟味中。少し時間が掛かる。
とは言えお前たちの大黒柱を、こちらの都合で拘束するのだから、之まで二十日間働いた手間賃は、現金で支払う由え、我慢して貰いたい。
また、亭主を一日も早く返して欲しいのであれば、その方達に協力して欲しいのであるが?!」
お崎「協力? 何をしたら、ウチの人は早く帰して貰えるんですか?」
靭負「それは、賊の一人、與三郎について、何でも構わない。人付き合いや、趣味、恋人の類、何でも構わん!與三郎について知っている事を話して欲しいのだ。宜しく頼む。」
そう言って手間を払ってやり、河村靭負は二十三人の家族から、與三郎の事を聴き出そうと致しますが、棟梁夫婦が親代わりで可愛がっていた事ぐらいしか聴き出せません。
そこで、仕方なく棟梁、吉兵衛の女房、お志乃だけを城に留め置いて、引き続き、與三郎についての尋問を継続致します。
一方、宇都宮城下、植木町の町役六兵衛の家はと見てやれば、釣天井完成の三日ばかり前に、六兵衛の妻、お重が娘のお稲の懐妊に気付きます。
当然の如く、之を問い正しますと、『大工の與三郎さんとの子だ!』と、蚊の鳴く様な声で答えます。
びっくりしたお重は、之を六兵衛に話しますと、之また烈火の如く怒り出し、雷を落としますから、お稲は部屋に閉じ籠ってしまいます。
これを、お重が二日掛かりで懐柔して、何とかポツリポツリと、『與三郎の人となり』を語り始めます。
また、一旦、拳を振り上げて怒った六兵衛でしたが、なんせ一粒種の娘ですから、可愛いに違いない。
それに、與三郎について、街場で噂を聴いてみますと、実に誠実で義理堅く、棟梁夫婦を親代わりだと思って孝行に励んでいると知ります。
また、職人気質で、呑む・打つ・買うは当たり前、みたいな道楽者ではなく、読み書きも出来て、本などを読みなかなか賢い人物だと分かります。
其れならばと、思った六兵衛さん、自身も苦労人ですがら、娘の将来にとってこの與三郎、そんなに悪い相手ではないと思い始めます。
六兵衛「おい、重、お稲の様子はどうだ?」
お重「其れが、『與三さんが帰らない!』って、朝からブツブツ、ブツブツ言ってばかりで、相変わらず、與三郎にお熱です。」
六兵衛「俺も、最初(ハナ)、聴いた時は何てふしだらな!順序が逆だ!と、頭ごなしに𠮟り付けたが。。。
俺も、あんまり人の事は言えないと思って、與三郎の事を調べてみたら、意外と宜い野郎で、頭も賢い。
礼儀は正しく、孝行者だと評判だって云うじゃないかぁ。もう、この段階では俺の二十二の時より上物だぁ。」
お重「まぁ、大概の男はお前さんよりは、真面目ですねぇ。」
六兵衛「お前が言うな!重。それで、色々、根掘り葉掘り、與三郎の事を調べてみると、
なまじっか商人の倅や武家の次男坊を婿にするより、宜いかもしれないと思い始めて、
與三郎の親代わりという棟梁の吉兵衛さんとも噺をしなけりゃなんねぇ~が、野郎を養子で迎える時の親代わりを引き受けて貰って、
吉兵衛さんとも親戚付き合いしながら、與三郎を婿として迎えてやろうと思っているんだ。」
お重「それじゃ、善は急げ!ですよ、お前さん。お稲に、與三さんとの結婚を許す!と、早く言ってやって下さい。お願いします。」
六兵衛「そうだなぁ、善は急げだ!!」
そう言うと、夫婦の部屋を出て六兵衛、廊下を歩いて、庭の方へ出ますと、何やら香を焚いたような宜い匂いがお稲の部屋の方から立ち込めて、
妙な胸騒ぎがして、吉兵衛さんが、お稲の部屋の障子戸を開けると、お稲が倒れて御座います。
「お稲!しっかり」っと叫んで近寄る六兵衛ですが、もう、畳一面が唐紅に染まっていて、お稲は冷たく息もしてはおりません。
そして、机の上に、「植木屋六兵衛様へ」と、宛名書きされた『遺書』置かれております。
涙を堪えて、是を手に取る六兵衛が是を読んで更に驚く展開は、次回で御座います。
つづく