『清水次郎長傳』を読後と言う事で、清水次郎長の映画が観たくなった。

ちょうど、都合よく仕事が半竹に成って午後有給を取り映画を観る事にした。

次郎長の映画と言えば、鶴田浩二の『次郎長三国志シリーズ』が有名ですが、

あえて大映作品の『次郎長富士』に致しました。作品時間が、104分と長さも丁度宜くて、なかなか見応えが御座いました。


先ず、キャストですが、清水次郎長には、長谷川一夫。森ノ石松に勝新太郎、そして、吉良ノ仁吉が市川雷蔵で御座います。

更に、女優陣は、ウワバミお新と言う巾着切りに山本富士子。このお新は、石松の胴巻の銭を狙う女摺と言うかぁ、枕泥棒で御座います。

そして、仁吉の女房、安濃徳の妹、お禧久が若尾文子。更に、大和田の二代目、女貸元に京マチ子。

この大和田の貸元が登場しながら、見附ノ友蔵は別に登場すると言う、この映画ならでわの配役になっておりました。


さて、ストーリー。まずは、講釈の筋通りに、枡川ノ仙右衛門の仇討。吃安こと武井ノ安五郎と黒駒ノ勝蔵が碁盤を囲んでいる所に、

次郎長が、法印大五郎を連れて、飛び込んで行き、神澤ノ小五郎を出せ!!と、迫る場面からいきなり始まります。

まぁ、全く講釈の『清水次郎長傳』を知らない人でも理解できるようには作って在りますが、まぁ、公開当時、大体のお客さんは、

次郎長の甥、枡川ノ仙右衛門の仇討のあらすじを知り尽くしている前提で、かなり唐突に、秋葉の祭の花会が開かれていて、

その盆割の為に、吃安と黒駒ノ勝蔵がこの地に来ていて、旅籠に泊まり碁を打っているのですが、そこへ旅姿でいきなり次郎長がやって来ます。

此処で、吃安と黒駒ノ勝蔵が親分子分の設定ではなく、友好関係の貸元二人と言う設定で、然も、貫禄は勝蔵が吃安より遥かに上の設定です。

更に、ここで見附ノ勝蔵と津向ノ文吉と言う貫禄の大親分が次郎長の味方に着くのが、『次郎長傳』のストーリーですが、

この映画では、いきなり仙右衛門と神澤ノ小五郎の一対一の決闘が行われて、その場所が、秋葉山の神社前。

仙右衛門が見事に、神澤ノ小五郎を討ち取りますが、其の際に神社を血で汚し、祭を中止にして次郎長は、代官所からの手配対象になります。


此れで次郎長が長い旅の逃亡生活となり、清水からお蝶を連れて三河へ逃げている次郎長に届けるのが、勝新太郎扮する森ノ石松。

この旅の途中で、石松は同じ旅籠に泊まるお新と言う謎の女と、酒の呑み比べでベロベロに酔わされて、

寝ている隙に、胴巻の路銀一切を抜かれて仕舞います。此れでお蝶と石松が、旅が続けられずに、途方に暮れていると、

貧乏だが、昔、清水湊で一宿一飯の恩義を受けた『浦島ノ亀』と言う野郎と偶然出会い、この亀の野郎の家に厄介になります。

この『浦島ノ亀』が、講釈だと小川ノ勝五郎ですが、深見ノ長兵衛や寺津ノ間之助が登場して、お蝶が旅の空で亡くなる講釈と同じ展開にすると、

映画の尺に全く収まらないので、此処は大胆な編集が入っていて、次郎長と法印大五郎、枡川ノ仙右衛門の三人が逃げた旅籠が偶々、

『大野屋』と言う、昔、次郎長の子分だった大野ノ鶴吉の実家だったと言う設定で、鶴吉の親父さんが事情の一切を語る。

ここで語られる代官と保下田ノ久六の悪事も少し講釈とは異なるが、

映画では、許嫁のお美世を代官が強引に妾にしようとするのを、独りで鶴吉が、婚礼の席に斬り込むが。。。

其処に次郎長、仙右衛門、法印の三人が助っ人に行き、途中で、都合よく森ノ石松も是に加わり、亀崎の代官斬りと講釈はなります。

そして映画の方は、代官には領民をもう虐めないと誓わせて、保下田ノ久六だけが殺されて、久六は黒駒の兄弟分と言う設定で、次郎長と勝蔵の遺恨は深まる。


そして、丁度、次郎長、お蝶と仙右衛門、石松、法印が旅に出ている最中に、

清水では、次郎長の不在を宜い事に吃安が乗り込んで、次郎長の島内で、大きな花会を勝手に開いていた。

其れに腹を立てた大政、小政、大瀬ノ半五郎、追分ノ三五郎たち二十五人は、その吃安の賭場へ殴り込み盆茣蓙を蹴散らして、

逃げる吃安一味を追い掛け、大きな農家に逃げ込んだ吃安を討ち取るのだが、農家に桶屋ノ鬼吉が火を点けてしまう。


是に次郎長は怒り心頭で、全員を斬り殺すと言い出したから、二十五人は吉良ノ仁吉を頼り仲裁を願い出るのだが、

吉良ノ仁吉の所へ行くと、神戸ノ長吉に呼び出されて、大事な相談があると、留守だった。

そして、吉良ノ仁吉は講釈どおり、荒神山の火場所を安濃徳に取られて悔しい!と言う長吉を助けるべく立ち上がり、

大政以下二十五人も、是を助けるべく立ち上がるが、仁吉は、安濃徳の妹である女房のお禧久を離縁して、安濃徳の元へ弥右衛門船に乗せて帰してしまいます。

因みに、この映画では、茶で墨を擦る場面は残念ながら有りませんでした。

そして、映画の方は、仲人の下りは無く、直ぐに荒神山での喧嘩になり、吉良ノ仁吉は安濃徳の鉄砲で撃たれて亡くなります。

安濃徳は、荒神山で捕らえられて、殺されそうになりますが、断末魔の仁吉から、お禧久を頼むと言われて改心し、その場で髷を切り、仁吉と和解します。


この一件で、益々、次郎長の評判が鰻登りに高まると、是に、危機感を募らせた黒駒ノ勝蔵は、甲州、三州、尾州から四百の助っ人を集めて次郎長に喧嘩状を送ります。

そして、映画は石松の三十石船の場面が強引に組み込まれ、この金毘羅代参の帰路で、枕強盗のお新と石松は再会、

富士川で、清水次郎長・百五十と黒駒ノ勝蔵・四百が激突する大喧嘩を知らされて、石松は富士川に駆け付ける。

そして、この富士川で黒駒ノ勝蔵は次郎長に斬り殺されて、大団円となるのですが、

石松とウワバミお新が旅籠で会う場面に、田舎娘の女中役で、中村珠緒が出ていて、勝新と絡む場面がありました。

全く、夫婦になる前の共演ですが、二人とも二十歳凸凹で、初々しいのが印象です。

そう!映画は、講釈みたいなダレ場が無いから、繋ぎを大胆かつ強引にやりますね。


あと、此の映画を観ると市川雷蔵が如何に大映が期待していた新人かが分かります。

勝新太郎より、市川雷蔵を二枚目で売りたかったのでしょう。勝新太郎は石松で完全に三の線ですからねぇ。

また、恐らく四十二(やく)そこそこの長谷川一夫がカッコ宜過ぎ!!私が六十代後半を太秦で生を見たのとは、えらい違いでした。

鶴田浩二は、鶴田浩二、独特の貫禄で次郎長と言うニンに有りましたが、

やっぱり、松方弘樹、杉良太郎、高橋英樹の次郎長とは、貫目がまるで違いますね。ましてや、中井貴一の次郎長何んて鼻糞です。


さて、今日は『続・次郎長富士』を観ます。都鳥をやって呉れるのか?