いちかさんの会の後、北千住でお昼を食べてから又曳舟へと戻りまして、桂夏丸師匠の会を鑑賞しました。こんな内容です。
1.開帳の雪隠
乗り物の発達とは目覚ましいってなマクラを振りまして、Suicaの噺から、リニアの噺。
リニアが出来ると、名古屋まで40分だから大須演芸場に東京から通えるなんて噺を振りつつ、
昔は、そんな物は無いから、歩くか?駕籠か?馬か?そんな物しか無かったから、
遠方の神々を、お寺が呼んで、御開帳なんぞと言う趣向が流行ったそうです。と、やる夏丸師匠。
このマクラを聞いていて思い出したのが、小遊三師匠が、『宿屋の仇討』のマクラで話した、談志師匠の思い出。
小遊三師匠が、「昔は、新幹線も飛行機も無いから、大変だった。歩くか?駕籠か?せいぜい馬。」とマクラを振って、
『三人旅』のびっこ馬をやって高座を下りたら、談志師匠が楽屋に居て、「お前は、大概なアホ助だなぁ!!」と言う。
「何がですか?」と言うと、「昔の人が、新幹線や飛行機が無いから、歩くのが大変だなんて思う訳がない!」と言う。
更に「なぜですか?」と、小遊三師匠が聞き返すと、「それなら、近未来の人がリニアが開通したら、新幹線や飛行機の時代は不便だった、大変だった!
何んて事を言うか?言わないだろう!だから、お前は間抜けで、芸も半人前なんだ!」と、屁理屈な小言を言われたそうです。
この『開帳の雪隠』と言う噺、意外と聞いておりません。
過去十年を調べてみると、正雀師匠と三三師匠で各二回。そして、今松師匠で一回でした。
下げが、実に落語らしくて、私は意外と好きな噺で御座います。
2.正直車夫
まぁ、先のマクラの交通の進化の噺は、この人力車夫の話にも通じているのですが、
『正直車夫』は、講釈ネタで、私は、田辺銀冶さんで、二回聞いています。重い噺の後には、丁度いい感じの噺で、夏丸さんらしく人情噺っぽくしないのが、宜いと思います。
昭和初期の車夫の夫婦らしくてねぇ。古き良き時代を感じさせます。LGBTの権化のような、福島瑞穂や田島先生には、理解できない世界観です。
3.橘ノ圓物語
いやぁ〜、良かった又聞くて。2016年。一周忌の時に千駄木のChizu寄席で聴いて、圓師匠の人柄が滲み出ていて好きな噺だったんです。
其れが、又、七回忌に聴けて、来た甲斐が有りました。
夏丸!ビールを頼もうかぁ〜
と、万度呑んでいた、酒豪で山形出身の圓物語。
奥さんが居酒屋をして、ご本人は、兼業農家顔負けで野菜造りに励んでいた師匠。
抗がん剤を、レモン酎ハイで呑みながら、前立腺癌を克服した師匠。
之は神田鯉栄先生から聴いた噺ですが、野菜をやるから取りに来い!と、圓師匠の自宅に呼ばれた鯉栄先生。
居酒屋の厨房で、野菜の泥を落としていたら、ご飯が炊き上がる電気釜を見て、圓師匠が、
「きらり!極上に美味い物、ご馳走してやろうか?!」と言う。
「何んだろう?」と思った鯉栄先生(二つ目時代はきらりといった)が、恐る恐るハイと言うと、
炊き立てのご飯を丼に盛って、其処へ冷蔵庫からバターを取り出して、熱々のご飯の真ん中に穴を空けてから載せる。
そして、バターが溶けた所へ、醤油をひと垂らし加えて、箸でコレをかき混ぜて食べろと言うのである。
実は、圓師匠、このバターライスが大好物なんだけど、コレを食べると血圧と悪玉コレステロールの値が敵面に悪化するので、奥様から固く固く禁止されている、アカン飯なのである。
そうとは、知らずに鯉栄先生と圓師匠が、キャッキャ!言いながら、このアカン飯を食べていたら、突然、圓夫人が帰宅されて見付かり、
まぁ〜、大きな雷が落ちて、圓師匠は勿論、鯉栄先生までも、大目玉で奥様から「アンタ!ウチの人を殺すつもり?!」と、叱られたそうです。
因みに、この圓師匠の奥様は、大変美人で、圓師匠が惚れに惚れて、『締め込み』の熊五郎のように、ウンかぁ出刃か?ウン出刃か?と言って口説き落とした相手なんだそうです。
そんな、圓師匠の人間味を、如何なく紹介する『橘ノ圓物語』。私は大好きな夏丸ワールド全開の一席でした。