愛山先生の会から引き続き、夜の部は、琴調先生の会でした。私にとっては至極の時間が流れました。席亭の瀧口さん!有難う御座います。
そして、この日が墨亭は、琴調先生、初登場だったんですね。そんな講釈漬けの三月二十七日の〆は、こんな内容でした。
1.寛永三馬術『愛宕の春駒』
墨亭の畳の会場を見るなり、「本牧亭を思い出しますねぇ〜」と、遠い目になる琴調先生。
寄席や独演会で何度か聴いた、鉄板のマクラ。何度聴いても笑える、本牧亭の絵描の先生と一見さんのカップルが、座席で揉める噺から始まりました。
そして更に、之も琴調先生の鉄板のお噺ですねぇ。落語『猫と金魚』の、丸であの「金魚を持って来て呉れ!」と、旦那に言われて、
金魚鉢から、わざわざ金魚だけ出して持って来る番頭さんの様な噺を振る琴調先生。
琴調先生が、まだ、前座見習い時代。琴僚だった頃、寄席の開口一番の高座は務めて居るが、先輩からはこう言われて居た。
「いいかぁ?新人。兎に角、楽屋の仕事がお前の務めでは一番だぁ!
確かに開口一番で高座にも上がらせてやっているがぁ、あんなのはオマケだ!
いいかぁ、精進して真っ先に一人前になるのは楽屋仕事。講釈覚える前に楽屋仕事を出来る前座に成れ!!」
と、口を酸っぱくして兄弟子、先輩方から言われた前座見習いの琴僚青年。
そんな或時、此の日もニ、三人の客を相手に、開口一番を務めて居たら、楽屋のピンクの電話が、けたゝましく鳴り出した。
何を於いても、楽屋仕事が第一だ!!
と、言われて居たから、琴僚青年は高座を降りて電話に出る。すると、電話の向こうに居た大先輩の師匠と、楽屋で出番待ちしていた兄弟子の両者から、
何んでお前は高座を下りて来るんだ?!この田分け、高座は講釈師が命を賭けて戦う戦場だ!いいかぁ、何が有っても高座を下りるなぁ!
と、今度は言われた。だから其れからは、今度は琴僚青年、之の教えを愚直に守ります。
月日は更に流れた或日、今度は最前列下手に必ず居る講釈好きのご夫婦と、くだんの絵描の紳士の三人を相手に開口一番を務めていると、
突然、絵描先生が苦しみ出して倒れてしまう。其れでも、何が有っても高座を止めるな!此処は講釈師の戦場だ!
とまで言われている琴僚青年は、之に構わず講釈を続けます。
そこで、見るに見かねたご夫婦が、絵描先生を介抱して救急車に乗せて付き添って釈場を出る。
其処へ、大先輩が現れて「お前、客も居ないのに開口一番してるのか?!」と、尋ねるから、
琴僚青年は「いえいえ、三人常連さんが居たけどカクカクしかじか。。。」と答えたら、
又々、烈火の如く、大先輩からの雷が落ちる、馬鹿野郎!お客様は神様だ、お前の高座なんてどうでもいいに決まっている!!
高座を下りて、なぜ、お前が客を助けない?!馬鹿かお前は?この常識知らず!
と罵られます。いいでしょう?若かりし時代の琴調先生の『猫と金魚』の番頭ぶり。
そんなマクラから、春の定番!『愛宕の春駒』。長い長い『寛永三馬術』の冒頭の一話ですね。
私は、つい最近、此の『寛永三馬術』を通しで読んだから、嬉しかった久しぶりに、琴調先生から『愛宕の春駒』聴けて。
そして、一番大好きな琴調先生のくすぐり!あの石段から人馬共に落ちる際の擬音が聴けました。
ヒヒーン、ブルブル、ガラガラ、ドテン、ポンポン。
ヒヒーン、ブルブル → 馬の悲鳴と首振り
ガラガラ → 馬が階段を落ちる音
ドテン → 馬から人が落ちる音
ポンポン → 馬の目玉が飛び出す音
之は、琴調先生から『愛宕の春駒』を教わった講釈師は皆さんやる様で、一龍斎貞鏡さんも、全くこの通りに、
最後の「皆さんご一緒に!ポンポン」まで、やっておられまして、貞鏡さんのファンは、
琴調先生ファンよりも、客席からのポンポン!の御唱和が多かった様に思います。
◇寛永三馬術『誉れの梅花』
発端
https://ameblo.jp/mars9241/entry-12624602491.html
馬比べ
https://ameblo.jp/mars9241/entry-12625449577.html
2.人情・匙加減
五代目宝井馬琴先生と六代目小金井芦州先生の藝を比べて、馬琴先生は『鎌倉刀、同田貫』の様に骨まで切れる。
鉈の切れ味と私は感じるのですが、そんな藝だと表現されて、如何にも五代目馬琴の武張った感じに似合います。
一方の芦州先生の方は『匕首』だと言う。任侠と江戸っ子魂が、血潮に響く感じの調子で御座います。
琴調先生は、「思わず、痛ッ!と声が出る様な藝」と仰っておりました。正にその通りで御座います。
そして、結果は全く対照的なのですが、兎に角、売れている講釈師は流行に敏感だと言って二つのエピソードを紹介して下さった琴調先生。
馬琴先生は、何処だかの収録?ホールの会?で、松鶴家千歳師匠と一緒になりまして、
もう当時は、あの『分かるかなぁ〜、分からねーだろうなぁ〜』の夕焼け小焼けのネタが下火になって居た頃。
そのアフロヘアーで、ラップの走りみたいな漫談藝を見て、琴調先生に師匠馬琴先生が、「誰だ、あいつは?!」と聞いたそうです。
聞かれた琴調先生が、「松鶴家の弟子で。。。有名なんですよ、之れ之れで。」と説明すると、
「そうか?変なモンが流行るんだなぁ〜」と、その場は、この噺はそれで収まった。そして、馬琴先生の出番。
高座に上がり、普通に噺に入った馬琴先生が、噺の山場に差し掛かって、突然、「分かるかなぁ〜、分からねーだろうなぁ〜」をぶっ込んだ!!
ドッカン!ドッカン!
本家、松鶴家千歳より何倍もの大受けで、ニッコっと、してやったりと高座を下りる馬琴先生だったそうです。
一方、小金井芦州は、或日の本牧亭にて、何を思ったか?珍しく『四谷怪談』を始めた。
アレです。『四谷怪談』は私も全部読んだから、直ぐにピン!と来ましたが、女衒の風車ノ長兵衛と民谷伊右衛門が、お岩を売り飛ばす算段の場面。
そうです!まだ、お岩が生きているから、幽霊も出て来ない、怪談にしては全く恐くならない、えらいダレ場の抜き読みです。
袖から聞いていた琴調先生も、何んで侠客一筋の芦州先生が、なぜ、こんなダレ場を?と、思っていたら、
この女衒の長兵衛が、伊右衛門を問いただす科白に、ダウンタウン・ブギウギバントの「アンタ、あの娘の何んなのさぁ?!」之れを、突然ぶっ込んで来た!!
しかし、シーンと水を打った様に静か。
そりゃぁそうです。本牧亭の客ですから、宇崎竜童なんて知っているハズがない。
と、こんなエピソードから、小金井芦州先生仕込みの大岡政談、『人情・匙加減』に入りました。
琴調先生の主人公の医師、阿部元益の暮らす八丁堀の長屋、ここの大家が宜い味です。
鍛冶屋と松本屋を、完全に上から見下して手玉に取る痛快さは、時代劇の勧善懲悪で、スッキリさせて呉れます。
落語でも、何人かぁ、この『匙加減』をおやりになる方はありますが、此の琴調先生の様に、痛快娯楽!ッて感じは、なかなか出せません。
大変素晴らしい二席で、琴調ワールド全開の大変素晴らしい会でした。又、墨亭にて近日聞ける事を願います。