柳家金語楼こと有崎勉作品の中から、珍品中の珍品を選んで、それを蝠丸師匠らしいテーストにアレンジして掛けて下さいました。

春の嵐が来るとの予報が、出ている中、雨にも負けず風にも負けず、曳舟まで行った甲斐が有りました。


そして、こんな内容でした。






1.引越しの夢/蝠よし

この名前を聴いて、筑肥線の『福吉』と言う駅名をイメージし、福岡県出身かな?と、思ったのですが、

確かに、蝠よしさん、福岡県出身なんですが、出身地は松田聖子でお馴染みの久留米!、福吉とは殆ど関係が無さそう。


マクラでは、蝠丸師匠が過度な秘密主義者であると訴える蝠よしさん。

兎に角、何んでも当日まで教えて呉れない、旅の仕事の行先すら秘密にするらしい。

だから、前座時代。初めての旅の仕事でも、集合場所の駅に着くと、

蝠よしさんを見た瞬間に蝠丸師匠が激怒。折角、普段よりお洒落して来たのに。。。

そう思ったら、『十月の青森、舐めるなよぉ!』と言われ、青森に着いた瞬間、ユニクロにダウンのコートを買いに走ったらしい。


さて、『引越しの夢』。なかなか豊かな表情で演じています。そして特に、落語協会の演者の様に、

吊り戸棚を挟んで、一番番頭の佐兵衛と二番番頭の徳蔵の会話が、全く長くありません。

あの吊り戸棚を担ぐ仕草を、左右にスイッチする会話で笑わせる場面が有りませんでした。

是は、返って新鮮に写りました。皆んなやりますからねぇ。

何んだろうなぁ〜、落語中の息の使い方が上手い話し方をします。

長科白を、落語口調、古典口調ですると、息継ぎのタイミングで途切れる若手を目にしますが、蝠よしさんには有りません。

多分、地味な稽古を愚直にやっているんだろうと思います。



2.下駄屋裁判

マクラでは、今回が三回目だが、初回は昨年八月、二回目は翌九月。そこから半年空いたのは、『墨亭出禁』の自身の噂を聞いたと言う。

その理由は、暴露噺をマクラで降るからなのか?って噺をされて、この日も、ひとつ暴露噺が有りましたwww


さて、本編の『下駄屋裁判』。芸術協会に残る有崎勉作品の中でも、受け継がれない珍品中の珍品です。

桂圓枝師匠がこのネタを掛けていたそうで、勿論、私は初めて聞いた作品です。

まぁ、簡単にあらすじを書くと、下駄屋の親子が、息子の進路で喧嘩になる噺。

オヤジは、下駄屋を継げ!と言うが、倅は、弁護士になりたいと言う。

そんな流れで、裁判ごっこみたいな展開へと噺が進むのだが。。。


この新作も、この後の二本目の『妻の舞妓』もそうなのだが、蝠丸師匠は師匠なりに、

現代に少しでも受け入れてもらえるようにアレンジされているのだが、

やはり、『圓丈前、圓丈後』の新作落語の構造的な違いを感じてしまう。

何んだろう、ストーリーの立体感とでも言うべきモノが有りません。

噺自身が、二次元的に展開されて、想像を超えるような衝撃が無く、淡々と噺が進んでしまう。


圓丈前は、此れが新作落語だったのだと、気付かされる。何んともほのぼのした気分にはなる。



3.妻の舞妓

蝠丸師匠の歌がきけました。こちらは、倦怠期を迎えた夫婦のお噺。

妻が倦怠期に悩み、仲人の旦那に相談する所から始まり、仲人に旦那の趣味嗜好から好きなモノは?

と、聞かれた妻が、『京都の舞妓さん』と答えると、仲人が舞妓さんで旦那様をもてなす提案をする。

この噺を、新作落語の旗手だった桂歌丸師匠が、まだ、二つ目時代に演じていたらしい。

女形が好きな歌丸師匠。さぞ、艶っぽく演じていたに違いない。

この噺の蝠丸師匠の工夫は、原作はお隣の女将さんに、妻が倦怠期を相談するのを、

女同士ではなく、『厩火事』風に、相談を受ける側を、仲人の旦那、つまり男に変えた事。

蝠丸師匠曰く、女同士を演じ分けて、十分程度の会話を成立させるのは難しいらしい。

確かに、何の違和感もなく、『厩火事』のように展開され、蝠丸師匠の演出が生きた作品になりました。



4.席亭瀧口氏と蝠丸師匠の対談

触りが多くあまり書けないが、新作落語、所謂、新作派から突然、

古典に目覚め圓朝モノに走る、歌丸師匠的なパターンがあると言う話は興味深かった。

新作を作り続ける事の難しさ、挫折から、圓朝に走るんでしょうなぁ。