石松が百両の銭を貸してりますと、都鳥三兄弟の吉兵衛、常吉、梅吉と、都鳥四天王の伊賀蔵、伴作、重太郎、音松の七人は、黒龍屋亀吉の花会へと向かう為、十一日の明前七ツ立ちで、濱松へと出発致します。
そして、十四日の深夜四半過ぎに帰って参りましたが、九ツの鐘が鳴りましても、百両を石松に返す気配が御座いません。
まぁ、十四日はバタバタしていたから、十五日になるのかとおもっていたら、全く百両の『ひゃ』の字も申しません内に、十六日を迎えます。
流石に人の宜い石松も、堪忍袋の緒が切れて、都鳥の貸元、吉兵衛を捕まえて談判しようと致しますが、朝から家には居りません。
また、舎弟の常吉、梅吉も十一日に濱松へ旅立つ時に現れて以来、姿を見せませんから、仕方なく都鳥の古株の一人、伊賀蔵を捕まえて文句を垂れます。
すると、四天王の残る三人も、押っ取り刀で現れて、その石松の説教を、伊賀蔵を取り巻く形で受け止めて居ります。
石松「何んだぁ!何んだぁ、そのシケた面はぁ、伊賀蔵、伴作、重太郎、そして音松!賭博打(ばくちうち)の四天王なんてなぁモンは。。を
だいたい賭博打の古いのなんてモンは、肥瓶の古いのにも劣るお荷物小荷物だ!役に立たねぇ〜の、この上ない。
何んだぁ!面白くも無ぇ〜、コン畜生がぁ。四天王とか呼ばれているくせに。江戸の蔵前に行ってみろ!畜生。團子の天玉って、面白くも有難い天王様がある。
餡子玉、きな粉玉、みたらし玉、そしてずんだ玉の四天王だ。残念ながは、今度の火事で焼けて無くなりやがったけれど、何か文句が有るなら言ってみろ!ベラ棒めぇ。」
伊賀蔵「石兄ぃ!、ご存知の通り、俺たち四人は先代の源八親分の代からの子分で、一年半前に、若親分の吉兵衛が代替わりする時に、
一家を起こして分家か?盃を直して新たに直参の子分になるか?選べと言われ、一本独鈷で一家を構える甲斐性が無く、ダラダラ子分を続けておりますが、
不幸な間違いから殺された先代源八は、こうした未熟な間違いはしない人で、たとえ濱松の黒龍屋とは反りが合わないからと言って、刀を抜いて斬った張ったする様なお人では有りません。
極々穏便に事を済ませようと致しますから、返って互いに義理の掛かった場面では、過度に見栄を張った結果、妙な意地の張り合いとなり、今回の二百両のやり取りみたいな我慢比べを致します。
其れに、石松さんを巻き込んでおいて、親分の都鳥吉兵衛、常吉、梅吉の三人は、バッ暮れて姿を見せないとは、先代からの子分のアッシ等でも、呆れて物が言えません。
こうなったら、アッシ等三人が、何んとしても百両拵えます。でも、一人頭、二十五両を拵えるんだから、二十日の夜四ツまで、待って貰えませんか?お願いします石さん。」
じっと噺を聴いていた石松がぁ、閉じた片目をキラリと光らせて、伊賀蔵、伴作、重太郎、音松の四人を睨んで語り出した。
石松「分かった。今一度だけ信じてやろう。お前たち四人で拵える百両を、二十日までまってやるが、『四ツ』と言う刻限が気に入らねぇ〜。
四ツは縁起が悪いから『暮れの六ツ』にして呉れ。いいか?ヨシ。もう、ガタガタ言うのは、之が最後だ。頼んだぜぇ、よったりさん!約束だ。」
四天王「へい!石松さん、有難う御座んす。」
と、伊賀蔵、伴作、重太郎、音松の四人は、親分である都鳥吉兵衛の借金、百両を石松に返す約束を致します。
四天王と噺が付いたその十六日。昼の日なか、もう秋の過ごしやすい頃のハズが、相変わらず残暑厳しい都田で御座います。
家に居るのも辛い残暑。それならばと石松は、何を思ったか?都鳥の家の裏山に有る用水の溜池へ、鮒釣りに出掛けてみたいと、言い出します。
石松「さっき、裏山の方を見ていると、釣竿を持った旦那衆が、ゾロゾロ歩いて行ったが、何んか面白そうだなぁ、魚釣!!俺も一つやってみたい。」
音松「石さん!アンタ、鮒釣りはお好きかんですかぁ?」
石松「お好きも何も、今日が初めての魚釣だよ、音松。だから道具は有るかと聞いたんだぁ。」
音松「竿と針に天糸、そしてウキと魚籠は有りますよ。ただ、石松さんには向かないと思いますよ『魚釣』。貴方は、無類の短気だから。」
石松「馬鹿言え。短気だから魚釣するらしいじゃねぇ〜かぁ。そんな事は何んだって宜い。早く道具を出しねぇ〜。」
音松「出すのは構わないが、『魚釣りはヘラ鮒に始まりヘラ鮒に終わる』と言うぐらいだから、簡単そうに見えて、意外と奥が深いんだぜぇ、石さん。」
石松「何んでも構わねぇ〜、早く用意しねぇ〜。隣の人を真似て池に釣り糸を垂らしていりゃぁ、何んとか成るって。」
音松「そんじゃ、之が竿だ。俺が仕掛けは付けて於いたから、跡は針に餌のミミズを付けるだけだ。そして、之が魚籠。」
石松「期待していろ!!今日の晩飯ぐらいは釣って帰るからなぁ。」
音松「何んにも知らないんだねぇ〜石さんは。鮒は釣り上げて来たその日は、泥臭くて食えねぇ〜から。生かして持って来て下さい。跡は井戸水に泥を吐かせてから頂くんだよ。覚えておきなぁ。」
石松「畜生!音松の分際で偉そうに。。。まぁ、宜い!兎に角、釣りに行って来らぁ〜。」
と言って石松は、残暑厳しい八月十六日のお昼。握り飯と沢庵、そして竹の水筒に水と酒を詰めさせて、二本水筒をぶら下げて、小松村の用水池へとやって参ります。
そして、いきなりデカい声を張り上げて、「皆の衆!皆の衆!鮒、釣れますかぁ〜」と、三波春夫とアントニオ猪木を足して2で割った様な間抜けな掛け声を発しますから、
大勢の太公望は、『こりゃぁまた、大変だ!落語の「野ざらし」みたいな野郎が来た!』と、煙たがります。
石松は、そんな事はお構い無しに、ズカズカと釣り人達をお膝送りさせて、日陰の一等地に分入ろうと致します。是には、先口の釣人が怒り文句の一つも飛び出します。
釣人「お前さんねぇ!後から来たんだ。向かいの日向が空いているじゃねぇ〜かぁ、あの空いている所に、大人しく収まりなさい。」
石松「貴様、この溜池の地主か?地代払って居るのか?てめぇ〜、違うなら黙って膝送りして、俺様が入れるだけ隙間を開けるがいいだろう?
トイ面の日向の地獄場が空いているのは百も承知で、俺様はこの極楽の一等地に入ると言ってんだ。つべこべ言っていると、池ん中に叩き落とすぞ!!ベラ棒めぇ。」
釣人「分かりましたよ、開けますよ、乱暴な人だなぁ〜」
仕方なく、周囲の十数人が詰めて呉れて石松が入れる様にして呉れます。其処へ、ドッカと腰を下ろした石松。
先の釣人に、ミミズを付けろ!と命じて、竿を出し釣り糸を垂れて、ウキが立ったかと思うと、今度は直ぐに『釣れねぇ!釣れねぇ!』とゴネ始めます。
釣人「貴方ねぇ、ウキがだったばっかりで、直ぐに釣れたりしませんよ。辛抱して、大人しくして下さい。」
そう言われても、セッカチの塊みたいな男ですから、万度、竿を引いて針をあげては、又、池に戻します。
そしてそんな事をしていると、弾みで針が自分の手に引っ掛かり、自らを釣り上げてしまう。
石松「痛てぇ〜コン畜生!手から血が出たじゃねぇ〜かぁ。あぁ〜痛てぇ。オイ、隣の人、俺の袂に手を入れて、莨の屑、粉になった葉を摘み出して呉れ。
出したら、水筒の酒を傷に掛けて、莨の粉をこの血が出てる所に振り掛けて、オイラが首に巻いている手拭いで、強く縛ってくんなぁ!頼む。」
釣人「何を言うんですかぁ、そんな事、知りませんよ、貴方が勝手に、自分を釣り上げ粗相したんだ。自分で何とかしなさい。」
石松「あぁ〜、薄情で不親切な野郎だなぁ〜」
そう言って石松、自ら水筒に口を付けて、酒を口に含み血の出る手へ、霧吹き掛けて、莨と手拭いで血止めを致します。
しかし、相変わらず竿を激しく上げ下ろし、釣れない!釣れない!と、騒いでおりますと、勢い余り竿を強く引いた拍子に、針が背後の柳の枝に引っ掛かって仕舞います。
石松「畜生!柳の葉っぱに餌取られちまった。お隣さん、餌を付けてくんねぇ〜。」
釣人「何を甘えてるんです。自分の手で付けなさいよ。両方の手を怪我した訳じゃぁ、なし。」
石松「駄目なんだよ、付けて呉れよ。」
釣人「何が駄目なんです?」
石松「いやぁ、手が汚れて臭くなるだろう。握り飯が不味くなるから、厭なんだ。頼む!餌を付けて呉れ?!」
釣人「何を我儘な事を言ってるんですか?自分でしなさい!自分で。」
石松「分かったよ。もう、釣り何んかぁ、止めだ!止めぇ。」
そう言うと、天糸を竿の先から乱暴に引き千切り、持って来た道具に仕舞うと、更には竿も半分に叩き折り、更に四半分にオッぺし折って、此れも道具箱に押し込んでしまった。
是を見た周囲の釣人達が、乱暴なぁ!釣人としての料簡が駄目だと嗜める様に言い放つと、短気な石松、遂にカチン!と来た様子で。
乱暴だぁ?本当の乱暴者ッてぇ〜のは、こうするんだぁ!!
と、叫び二十五、六貫目はあろう大きな石を抱えて、池ん中に投げ入れ、池を混ぜ返してしまいます。
是には、周囲の釣人は困り果てますが、もう後の祭。諦めて、この日は釣りを諦めて家路へと帰り始めます。
勿論、石松の方も、このまま用水路に居ても仕方ないので、仲の町の盛場の方へ向かって、道具箱を下げて歩いて行きます。
すると、「オイ、石ッじゃねぇ〜かぁ?!」と、声を掛けられて、肩をトントンと二つ、三つ叩く野郎が現れた。「誰だぁ?!俺様を『石』と呼び捨てにする奴は?!と、振り返ると、其れは極顔見知りで御座います。
石松「何んだぁ〜、誰かと思ったら小松村の兄貴!七五郎ドンじゃねぇ〜かぁ?!」
七五郎「兄貴じゃぁねぇ〜ぞ、石松。元気にしていたかい?聴いたよぉ、お前さんが清水湊へ出て、次郎長親分の身内になり、
清水二十八人衆として売り出して、あの保下田ノ久六を叩き斬ったのは、お前らしいじゃねぇ〜かぁ。大した奴だぁ。
この濱名の森町生まれで、同郷のよしみで仲良くさせて貰ったオイラだが、完全にお前さんに先を行かれた。
俺のオヤジとお前さんのオヤジが、義兄弟の契りの盃を交わしていて、その倅同士も兄弟盃を交わしているなんざぁ、滅多に在るもんじゃねぇ〜。
生まれた時はバラバラでも、死ぬ時は一緒の義兄弟だ。俺が関羽でお前は張飛。俺が劉備玄徳ならお前は張飛。結局、お前がやっぱり張飛。
俺は、お前さんが清水湊へ出た後、ここ小松村へとやって来て、誰も親分何んて持たない一本独鈷でやって来た。
そして、三年前からは、手前の子分を持つ様になり、まだ十人足らずツ離れしない一家と呼ぶには頼りない身内だが、漢を売り出し中の身の上よぉ。
だから、お前さんを頼って、清水湊へ行って次郎長親分の盃を貰おうかとも、考えはしたんだが、喧嘩しては草鞋をお履きになるから、なかなか場面が合わなくてよぉ〜。」
石松「確かに、喧嘩に明け暮れて、草鞋を履いてばかりだった。」
七五郎「其れはそうと、小松村の隣、都田の貸元、都鳥吉兵衛ん所に四、五日前に草鞋を脱いだと聴いたが、なぜか?一向に俺ん処へはやって来ない。
確かに、都鳥は老舗の侠客で、親子二代。今のケツ持ちは、上州の大前田英五郎だから、そりゃぁ〜吹けば飛ぶ様な、小松村の七五郎一家とは、貫目が違うとは思うが、あまりに連れないぜぇ!兄弟。」
石松「厭みな言い方じゃぁ、ねぇ〜かぁ!兄弟。実は、カクカクしかじか、濱中の峠で、椋木の木陰で吉兵衛さんとばったり会って、二、三日のつもりで寄ったら、
濱松の黒龍屋の花会の件で、百両の金子を貸したんだ。そしたら、返す段になって、野郎含め都鳥三兄弟で、バッ暮れやがるから、噺がややこしくなり、
何とか、二十日まで待てば、都鳥四天王の伊賀蔵以下四人が二十五両ずつ拵えて返すと言うんで、余りに暇だから釣りに、都田山の用水池で、鮒を釣っていたんだ。
ホレ!この道具箱は、釣り用なんだ。竿や浮き、天糸と針に鉛。そして、魚籠やなんか一式入ってるんだ。」
七五郎「そうだったのかい。ところで、兄弟!お前さんに、魚釣なんて趣味が有ったッケ?」
石松「無ぇ〜よ。生まれで初めてだ。でも、二度としねぇ〜よ、魚釣なんぞ。釣人なんて輩は、不親切で根性のヒン曲がった、外道の集まりだ!!」
七五郎「どうした?何んか有ったなぁ?」
石松「何んか有った何んてもんじゃねぇ〜。飛んだ災難さぁ。慣れない針で人が怪我して血を流しているのに、周りは知らぬ顔だ。
まず、お膝送りで日陰の宜い釣り場を空けて呉れない。オマケに、怪我した俺の針に餌は付けてくれない。全く薄情な連中の集まりだ。
しかも、鮒の野郎まで俺を馬鹿にして、釣れてくれないと来ている。あんまり腹が立ったから、二十五、六貫目はある大きな石を担いで、用水池に放り投げてやった。ざまぁ〜見ろってんだぁ!」
七五郎「相変わらず乱暴な奴だなぁ、お前さんは。ところで、釣りの噺は別にいいんだがぁ。都鳥の吉兵衛に貸した百両、お前さん相変わらず人が宜いなぁ。お人好しだ。
無職渡世の任侠道、お人好しでは漢に成れねぇ〜ぜぇ、石松。お前さん!見受山の貸元から預かったその百両。都鳥の吉兵衛が返すとでも思っているのか?!」
石松「ベラ棒めぇ〜。借りた物は返すのが道理じゃねぇ〜かぁ。それに、此の百両は俺の銭じゃねぇ〜。いわば、次郎長の銭だ。オラぁ、命に替えても取り返すぜぇ。」
七五郎「お前さんは、自分が正直で曲がった事が嫌いだから、他人様も皆んな真っ直ぐだと思っているが、あの都鳥三兄弟は違うぜぇ、兄弟。
恥ッてモンを知らない獣(けだもん)だ。人じゃねぇ〜。一日、一度は恥をかかないと、三度の飯が不味くなる!通じの加減が悪くなるって変態野郎だ!
だから、自分の実の親で、かつ固めの盃を交わした親が斬り殺されたのに、仇討の『か』の字も言わず、それより大前田の見舞金と、死んだ親分の香典の方が嬉しいッて野郎よ。」
石松「へぇ〜」
七五郎「日頃、賭場で会うと愛想だけは宜い。だが、懐中具合が悪くなると、長脇差だろうと堅気だろうとお構なし、一両、二両と借金をする。
ところが、後日どっかで会っても、その借金を返さねぇ〜『親分、お願いします返して下さい!』と、堅気の衆に言われても、平気で『今銭の持合せが無ぇ〜』と返さなねぇ。
そんな恥っ晒しの親分なんだぞ、都鳥。都田の貸元とか都鳥の親分とか呼ばれている野郎のする事ちゃねぇ〜。此処らのモンは皆んな相手にしない鼻摘まみだ。
そんな都鳥の吉兵衛が、お前さんに百両返すとは思えない。石松!お前さん、百両返して貰えない時は、次郎長親分と見受山の貸元に、何んて言い訳するんだ?!」
石松「そりゃぁ〜、返すの返さないのと、グズりやがったら、都鳥の連中は全員纏めて叩き斬って、オイラも腹カッ捌いて死んでやるよぉ!!」
七五郎「だから、貴様は馬鹿って言われるんだ。本当の馬鹿だなぁ。今のを聴く前は、『馬鹿は死ななきゃ治らねぇ〜』と思って居たが、お前の馬鹿は、『死んでも治らねぇ〜』ぜぇ。」
石松「それなら、どうしろッてんだぁ。もう、貸しちまって、しかも、全部使われたんだぜぇ?百両。」
七五郎「だから、その百両は、俺が肩代わりして用意してやる。百両や二百両なら、俺が頼めば、用立て呉れる仲間やご贔屓が俺にだって有るから遠慮は要らなねぇ〜。
取り敢えず、二十日に都鳥が百両返す、返さないに関わらず、二十一日は、俺ん所に来い。噺を聴いてから、銭の算段をしようじゃねぇ〜かぁ。
万一にも、俺は都鳥が銭を返す何んて事たぁ〜無ぇ〜と思うが、もし返して呉れたなら、其れは其れで御の字だから、美味いモン食って、美味い酒を呑んで、翌二十二日の朝に清水湊へ帰れば宜い。
そして、やっぱり駄目な時は、取り敢えずお前さんは、都鳥に罵詈雑言!気の済むまで悪口垂れてから、俺ん所へ来い。
直ぐ心当たりの金主に、百両の借金を俺が申し込んで用立ててやる。そして、やっぱり美味いモン食って、美味い酒を呑んで、翌二十二日の朝に其れを持って清水湊へ帰れば宜い。」
石松「そうして呉れるんなら、都鳥を殺しもしねぇ〜し、俺の命も助かるが、お前は百両の借金背負ってどうする積もりよぉ?!
お前ダケに、百両もの損をさせて、莫大な借金背負わせるのは、心苦しいし寝覚が悪いぜぇ!兄弟、大丈夫なのか?お前さんの方は?!俺は直ぐに百両なんて金、返せねぇ〜ぜぇ?」
七五郎「心配するなぁ、お前から百両回収する気はサラサラ無ぇ〜。俺が取り立てるのは都鳥吉兵衛の野郎からだ。言っただろう?肩代わりだって。」
石松「どうするんだ!?吉兵衛は因業だぞ!」
七五郎「石!お前みたいな真っ直ぐな性格の野郎には、借金の取立て何て出来ないだろうがぁ。俺は得意だから安心しなぁ。
野郎の女房子を、女衒に叩き売ってでも、野郎に百両拵えさせて、取立てやるんだ!そのくらいしないと、野郎から百両なんて取れ無ぇ〜よぉ。それに。。。」
石松「それに??? 何んだい?兄弟。」
七五郎「お前のオヤジさんの死目に、俺の手を握ってオヤジさんがこう言ったんだ。此の石松って野郎は、一本気で曲がった事が嫌いに育って呉れたが、
兎に角、気が荒れぇ〜。又、頭に血が上ると分別は付かなくなるし、馬鹿で困った野郎だぁ。俺は其れだけが、この野郎の行く末で心配だった。
だが、七五郎!お前さんのような、ちょっと引いて俯瞰から物事が見られる兄貴分が側に居てくれたら、安心だ!七五郎、石松を頼んだぜぇ、馬鹿で手の焼ける舎弟分だが、宜しく頼む。
そう言って、手を強くギュッと握り締めて、亡くなったのを、今でも思い出す。漢が約束したからには、お前の面倒は俺が見させて貰うぜぇ、兄弟!」
石松「馬鹿野郎!あんまり古い噺を持ち出すなぁ、涙が止まらなくなるじゃぁ、ねぇ〜かぁ!」
そう言って石松は、ジッと七五郎の目を見て、宜い兄貴分に恵まれたと思った。そして、久しぶりに、七五郎の家へと向かい。
七五郎の内儀(にょうぼう)となっている、石松とも幼なじみのお民の顔を拝む事になるのだが、この続きは次回のお楽しみ。
つづく