代官竹恒三郎兵衛の下屋敷に押し入りました。清水次郎長以下、大政、小政、枡川屋仙右衛門、森ノ石松、大瀬ノ半五郎、奇妙院常五郎、法印大五郎、そして牢から救い出された大野ノ鶴吉の九人で御座います。

次郎長「ヨシ、代官の方は七人も居れば十分だ。石松!法印と二人で、お前達は保下田ノ久六を殺(や)って呉れ!!」

鶴吉「親分、久六の野郎は、三月も前から自宅には居りません。親分の仕返しが怖くて、此処代官屋敷に内儀(にょうぼう)子を連れて匿われておりやす。」

次郎長「何んだぁ〜、手間が省けたぜぇ。ヨシ、小政!仙右衛門!石松、お前達、三人は裏を固めろ、逃げて来る野郎が居たら、容赦は要らねぇ〜、皆んな叩き斬れ。」

三人「ヘイ、合点だ。」

裏に三人が廻ったのを確認して、大瀬ノ半五郎と奇妙院常五郎が玄関戸を蹴破り、ドカドカドカッと中へ押し入ります。すると、次郎長が大きくドスの効いた声で、

次郎長「駿河國、有渡郡、清水湊!山本長五郎、推参。兄弟分、深見ノ長兵衛の仇だ! 代官竹恒三郎兵衛、並びに、保下田ノ久六!

纏めて、地獄へ送ってやるから、覚悟しやがれ!ただなぁ、家来の下役人、与力・同心、そして久六の子分並びに下ッ引き!お前たちには恨みは無ぇ〜、大人しくしてりゃぁ、手出しはしねぇ〜

だがなぁ、逃げ出す奴と、逆らう野郎は容赦はしない。全部斬り殺すからそう思え、野郎ども!狙う相手は、代官と久六のただ二つ。首を落として引き上げるぜぇ。」

全員「ヘイ!」


障子戸を蹴破りながら、二つ先の間へと進みますと、居ました!代官、竹恒三郎兵衛。

しかし相変わらずの卑怯な奴で御座います。大黒柱を小盾に致しまして、大刀抜き身を構えて十数人の用心棒、下役人に守られて御座います。

代官「天下の大罪人、関八州の凶状持ち、俗名清水次郎長である。手加減無用!ささっ、討ち取れ!生かして於く必要はない!斬れ!殺せぇ〜」

と、代官竹恒三郎兵衛から激しい下知が飛びまして、血気盛んな二人の下役人が、斬り懸かろうと致しますが、

代官所で槍を手に入れた大政が、是を一つ突きで、纏めて串挿しにして、アッと言う間に片付けて仕舞います。

其れを見ていた用心棒に緊張と、『聴いてないよ、長脇差の渡世人じゃないのかよぉ?槍を使う達人なんて?竹槍じゃないよぉ〜聴いてないよぉ〜』と言う後悔の気持ちが湧き出て参ります。

そして、串挿しを目の当たりにした、下役人の一人が、刀を捨てて、その場で降伏します。しかし、是を見た代官が怒った!怒った。

直ぐに、抜き身の大刀で一線!降伏した下役人を袈裟懸けに背後から斬り殺してしまいます。

代官「いいかぁ、次郎長に従う者は、この様に拙者が斬り殺す。井上氏!お主の出番だぁ。」


そう言われて脇から出て来たのは、井上五郎と言う槍術の先生。次郎長一家には、大政と言う元武士の槍の名人ありと知って、代官自らが雇い入れた家来、宝蔵院流の使い手である。

出番と言われた井上五郎、槍を手に取ると、いきなり次郎長目掛けて、一つ突き、二つ突きと仕掛けて来る。是を次郎長、チャリン!チャリン!と、刀で受けますが、反撃出来ません。

是を見た大政が、ここは親分私に任せて下さいと、間に入り、槍同士の闘いなりますが、屋根が有りますから、槍を突くばかりの勝負では、なかなか決着がつきません。

其れを見ていた、大瀬ノ半五郎と奇妙院常五郎が何やら耳打ちをして、奇妙院が背後に回り込み、大政の突きに呼応して、背後から斬り付けます。

流石の井上五郎も、之には対応できず肩に一撃を喰らい、アッと、槍を落とす。其処を真横から半五郎が井上の脇腹を突いて仕留めます。

そして、槍の憂いが無くなり、次郎長が摺り足で、代官竹恒三郎兵衛ににじりより、間合いが十分詰まった所で、こう申します。

次郎長「恨み重なる、兄弟、深見ノ長兵衛の仇!覚悟しろぉ。」

大上段からの次郎長の刃を、敵もさるもの竹恒三郎兵衛、チャリンと一度は受け止めますが、返した二の手の刃を、モロ右腕に喰らい刀を握ったまんま、腕は斬り落とされてしまいます。


ギャッ!!


と、叫んだ代官竹恒三郎兵衛、血煙を上げる腕を左手で押さえた、そして膝を着いたその刹那!

大野ノ鶴吉が、『地獄へ落ちろ!腐れ外道がぁ〜』と吠えて、首を真一文字に斬り落とします。

血飛沫上げて、舞う代官の首。畳に転がる姿を見て、その場に居た下役人、用心棒は、戦意を失い武器を置いて正座致します。


其処へ、バタバタバタと!一人の女が、二つ三つになる子供を抱えて現れます。そしてその子を脇に置いて、土下座姿の命乞い!

お登勢「代官、竹恒三郎兵衛の奥に御座います。どうかぁ、我が子だけはお許しを!」

次郎長「代官の奥方さんかい?ッて事は、保下田ノ久六の妹だなぁ〜。いいかぁ?ご内儀。

お前さんの亭主、代官の竹恒三郎兵衛って人は、大層悪どい代官だった。銭にならない者には、罪も無いのに罰を与え、銭さえ払えば、罪人なのに裁かれねぇ〜

その代官に手を貸していたのが、お前の兄貴!保下田ノ久六だ。二人して、悪事の限りを尽くして知多亀崎の領民を痛め付けた。

そん中に、俺の兄弟分、深見ノ長兵衛が居た。之は半分は深見の兄弟の仇討だが、半分は世の為、人の為だ。恨むんなら、亭主と兄貴を恨め。

ただなぁ、女子供まで俺は殺しはしない。だから、保下田ノ久六!野郎が、何処に隠れて居るかだけ、正直に教えて呉れ!頼む。」

と言うとわ久六の妹、お登勢は次郎長に指で二階と差します。そして次の瞬間、森ノ石松の声で『逃げたぞ!保下田ノ久六が、逃げたぞ!』と、言うのが聞こえて来た。


二階に居た保下田ノ久六、代官が殺されて、妹が命乞いしているのに、自分の事しか考えない外道で御座います。

二階の壁を、相撲仕込みのブチかましで壊して下へ飛び降り久六は、奥川堤の方へ逃げて参ります。其れを一丁半ほど離されて森ノ石松が、必死に跡を追う。

堤に着いた保下田ノ久六、もう誰も追っては来るまいと思って、後ろを振り返ると一丁ほど後ろから、森ノ石松が一人追って参ります。

此処で、保下田ノ久六、何んだ石松一人かと思いまして、堤の茂みに隠れた、そして石松が来たら不意打ちを喰らわして殺す算段を致します。

そんな事とは知らない石松、久六を捕まえたいの一心で、奥川堤に着いて、正に、久六が埋伏している茂みの前まで来ます。

すると、真夜中と言え真夏、茂みに埋伏している保下田ノ久六、デブが走った跡の汗っかきですから藪蚊のいい餌食で御座まして、小声は漏れて蚊を叩く音も致します。

こんな馬鹿は見た事ないと、馬鹿の代表石松の方が笑うのを我慢するのに苦労する始末。そんな有様で、保下田ノ久六、気付かぬ振りで茂みに近付く石松に、

『死ね!』と叫んで斬りかかり、自分自身が石松の横一文字の刃を喰らって首が飛ぶと言う、実に、保下田ノ久六らしい最期で御座います。


九人は奥川堤を過ぎた先の松原で、松並木を見付け、代官竹恒三郎兵衛と保下田ノ久六の首を、一番目立つ大きな松の木の上に、二つ並べて晒して行きます。

次郎長「お前たちの力添えが有って、何んとか深見の兄弟の仇討が出来た。改めて、礼を言う。有難う!」

大政「何んの、親分!頭を上げて下さい。」

次郎長「もうじき夜が明けたら、代官殺しが露見して追手が来る。取り敢えず、逃げるぞ。大政!鶴吉!お前さん達二人は尾張生まれだ。逃げ道を指示して呉れ。」


そう言われた大政と鶴吉が、取り敢えず、街道を外れた獣道を伝わりながら、尾張を出て、支配違いの三州へを目指します。

次郎長「おい、大政!此処はどの辺りだ?」

大政「そうですね、山間から海の方に向かっているつもりなんですが、如何せん、目印になる様な建物が見当たらないから、アッ!あの石碑は?!」


今川総介義元戦死所


次郎長「義元公のお墓か?」

大政「そうです。此処は『桶狭間』です。」

次郎長「と言う事は、鳴海が近いって事だなぁ〜。何んとも不思議な心持ちだ。駿府の義元公が、尾張の信長に討たれた場所に、

清水湊の俺たちが、尾張の代官を討って此の場所に来ているとは、実に、感慨深いなぁ。義元公の仇討もした気分にもなる。」

鶴吉「そのくせ、信長みたいな少数精鋭ですからね、アッシらの方が。」

次郎長「さて、此処まで逃げて来れたので、お前たちに、改めて言う。今回の仇討。本当に有難う!お前たち無くして、仇討は出来なかったと痛感する。俺には過ぎた子分だ。

さて、此れから先の事に付いてだが、何時迄も九人で逃げ切れるとは、俺は思わないし、お前達を巻き添えにするのは、俺の本意ではない。

だから、俺は此の義元公の墓の前で、腹を切って自害しようと思う。

だが、お前達八人は散り散りになっても、逃げて逃げて、生き残って呉れ!小政、お前に介錯を頼む。いいなぁ!皆んな。」

小政「馬鹿な事を言っちゃぁ〜いけませんよ。清水次郎長らしくねぇ〜ぜぇ、親分!」

奇妙院「そうですよ。親分、アンタは武士の世界で言うなら、殿様、将軍ですよ。その殿様が切腹したら、アッシら子分は路頭に迷う。」

大政「其れに、親分!貴方の肩に掛かった命は、この八人ばかりじゃ御座んせん。清水に残している百人以上の子分はどうなるんです。

義元公の墓と、関ヶ原の武士(つわもの)どもの夢の跡を見て、感情的になっている場合じゃありませんよ。」

法印「兎に角、逃げて逃げて、逃げ捲くって。。。どうにもならん時は、また、そん時考えたら宜しいんです。違いますか?親分。」

次郎長「確かに、大将置いて家来が逃げるのは、道理に反するなぁ。皆んな!有難う。お前達、頼もしい料簡を持って居て呉れて嬉しいぜ。俺もまだまだ、未熟だ。お前達に教えられたよ。」

大政「さぁ、くよくよせず、止まぬ雨は無いと信じて、逃げましょう。」


山に分入り、炭小屋や洞窟に住み、小川の水を汲んでは呑み、此処での命の綱は、全員で三尺ん中に入れた『鰹節』と『スルメ』で御座います。

そして、山から山へと逃走中の次郎長一家の九人は、漸く広い街道脇に、比較的大きな真新しい地蔵堂を見付けます。代官を斬ってから五日が過ぎようとしておりました。

久しぶりに、星の見えない屋根のある地蔵堂ん中で寝た次郎長。落ち着いてぐっすり眠れたせいか、今は亡き恋女房お蝶の夢を見るのでした。

翌朝、何とも宜い心持ちです。きっと何か宜い事がある。是は必ずや吉兆だ!と念じていると。。。

目を覚ましたのは、次郎長一人。地蔵堂ん中を見渡すと、酷い高イビキの大合唱で寝ておりまして、石松の野郎は小さな石地蔵を枕代わりで御座います。

そして、もう四ツにはなるだろう高い位置にお日様は上がり、地蔵堂に通じる小径を、遠くから誰か歩いて来ております。

その人物は、どんどん大きくなり地蔵堂へと来る気配。そしてその服装(なり)はと見てやれば、木綿手織りの薄物に黒木綿、一つ所紋の紋付の羽織、茶献上の帯に小倉袴を履いて御座います。手には三尺棒も持っていて、是は見るからに、町役人か?名主、地頭で御座います。

地蔵堂の梁の隙間からこの役人風の老人が近付いて来るのを見ていた、次郎長は、地蔵堂の観音扉を開けるなぁ!開けるなぁ!と、必死に念じておりましたが、願いも虚しく老人は中へ入って参ります。

老人「何んだい、お前さん達は?地蔵堂の前まで来たら、中からイビキは聞こえるし、何をしているの?此処は、無職渡世の集会所じゃないの?!

あらあら、勝手にお地蔵を枕代わりにしちゃって。。。おい!おい!誰だあ、賽銭箱にションベンしやがって、臭いのなんの!早く早く出て行って!」

人品の良いこの老人、次郎長たちに怒鳴り散らしましたから、石松が目を覚まします。そして、寝ぼけて石松、老人に暴言を吐きます。

石松「何んだぁ〜、怪しい爺めぇ、蹴殺すぞ!!」

老人「怪しいだ?怪しいのはどっちだ!片目野郎。中途半端の丹下左膳か?多羅尾伴内が化けた駕籠カキかぁ?!蹴殺すだと、面白い。やるかぁ〜、片目」

と、老人が三尺棒で、石松を引っ叩こうとしますから、慌てて、次郎長が止めに入ります。


次郎長「石!大人しくしねぇ〜なぁ。お見廻りの町役さんに失礼だぞ! すいません、御役人さん、寝ぼけてまして、その上、医者が匙を投げた、死なねぇ〜と治らねぇ〜馬鹿を患っておりまして、

この通り、何んの因果かまだ生きておりましょう、だから、馬鹿は治らないんでぇ。許してやって下さい。馬鹿のする事ッてすから。」

老人「生きた馬鹿なら仕方ねぇ〜、大目に見るがぁ、片目の人、アンタ寝起き悪過ぎ、起きていきなり人に蹴殺す!何んて言うもんじゃないよ、さぁ〜、皆んな地蔵堂から出て行って呉れ!」

次郎長「済みません。申し訳ない。ご勘弁願います。」

老人「何んで苦労して、銭集めて地蔵堂を新しくしたと思ってんだい。こないだも、乞食が中で焚火しやがって、それで燃えたから新しくしたばっかなんだ。それを!賽銭箱にションベンしやがって。。。ッたく、早く出てって!!」

次郎長「出て行きます。少し猶予を下さい。まだ、寝ている野郎も居まして。。。」

老人「駄目だよぉ、俺が行くと、又、一刻したら次の登板の町役人が廻って来るんだから。其れで、此の雑魚寝の賭博打を後の役人が見たら、私が怒られるんだから。町役クビになったら困るから、直ぐに出て行って!頼むから。」

次郎長「まだ、寝ておりますから、日暮れ前には必ず出立します。だから、お願いします、日暮れまで。」

老人「駄目だって、賽銭箱にションベンするような奴は、於いて置けないって。次は糞すっかもしれないし。ここは、旅籠じゃないんだから、早く出て行って!」

次郎長「もう、賽銭箱には粗相はしませんし、この石松と私で、小川へ持って行き、綺麗に洗ってから戻します。だから、日暮れまで!宜しくお願いします。」

老人「馬鹿こくでない!お前は『らくだ』に出て来る紙屑やかぁ!?棺桶に使った菜漬けの樽で漬物が漬けられるかぁ?!

それと一緒だ。神様、仏様、キリスト様にお供えする賽銭を入れる箱だぞ?ションベンされて、洗ったからって、二度と使えるかぁ!馬鹿チン。」

次郎長「判りました。弁償します。此処に二両有ります、二両。之で文句はないでしょう、町役人さん。弁償しますから賽銭箱、又、作って下さい。」

老人「アンタ、変わった人だ。賽銭箱に二両は払い過ぎだ。二分でいいよ、二分で。おや?この手の傷、そして、左顎の黒子! 貴方は清水の親分さん?」

次郎長「何んで、俺を知ってなさる?」

石松「親分、此の爺、代官所の回者ですぜぇ、叩き斬りましょう。」

次郎長「よせ、石松。御役人さん!アッシを何故、知っていなさる?」

老人「私は町役人ですから、勿論、あなた方を探す為に、見廻っております。去る先月二十八日に、亀崎の代官下屋敷、筆頭代官の竹恒三郎兵衛様と、

代官配下の目明かしの保下田ノ久六が首を跳ねられて殺された件で、大変厳しい取締りが行われています。」

次郎長「それで、お前さん、アッシらを召し取るつもりかい?」

老人「いいえ、貴方が清水次郎長さんと判れば、私は貴方を匿わせてもらいます。なぜなら、こんな事でもないと恩返しが出来ませんから。」

次郎長「恩返し?御老人、貴方、何者だい?」

老人「此処は、牛窪、山本勘助の生まれ故郷ですよ!次郎長親分、牛窪を覚えていますか?この片目の旦那と同じ、山本勘助の故郷、牛窪ですよ。」

次郎長「そうかぁ!思い出した。女衒の富市に娘さんを売る、売らないで揉めてた!庄左衛門さん!元気にしていなすったかい?

で、娘さん、お糸さんといったなぁ。どうしている?もう、十年前だな、赤坂並木で、親子の別れだと言って声張り上げて泣く変なオヤジさんと会って、

話を聞くと田地田畑を抵当に借金が四十両と今年の年貢を払うに更に三十両、その上、来年植える種や種籾を買うのに三十両。都合百両の型に娘を売ると、アンタ泣いていなすった。

其れを俺が、富市と噺をし、銭はアッシが代替わりしてお前さんに百両渡し、富市には、宿場女郎にお糸さんを売ったら儲かるはずの五十両の半金二十五両で黙らせた。」

庄左衛門「神様、佛様、次郎長様でした。娘は売らずに済んで、翌年、米次郎って婿養子が来て、今じゃ田んぼも、畑も上手く行って、孫も二人居る。

二人とも男で、次郎長親分にあやかって、長吉と長二って名付けました。さぁ、親分、オラの家に、兎に角、来て下さい。逃げたい先へ、オラが段取りしますから。」

次郎長「長吉と長二は、俺じゃなくて圓朝だろう?」


こうして、情けは人の為ならず、此処でも昔助けた庄左衛門に助けられて、二百両の路銀を渡されて牛窪から天龍川の本玉ノ為五郎と言う貸元の所まで、逃してもらう。

更に、為五郎が勧進元の相撲興行と、それに付いてドサ廻りの芝居一座に次郎長以下九人は紛れて、小田原の相模屋政吉の所に厄介になります。


政吉「良く来た清水のぉ。待ってたぜ、お前さん方は売れっ子芸者顔負けだ、次郎長一家の面々、お前さん達は、本当に全国の人気者。そしてもう心配ないぜ、ここまで逃げて来たら。


さて先ずは、奇妙院の旦那と大五郎さんは、『コレ』女が此の小田原と大磯に居るらしいねぇ。

そして仙右衛門さんも商売込みで小田原が都合がいいよね。この三人はうちで預かります。


そしてね、次郎長ドンと石松さんは、小金井の貸元がどーしてもッて首を長くして待っている。あなた方二人は小金井へ行って下さい。


そして、江戸の新門辰五郎ドンからは、小政さん!貴方をご指名です。居合を習いたいそうです。

一方、大瀬ノ半五郎さん!貴方は江戸屋の岡安親分がお気に入りだ。将棋の続きがしたいらしい。

ッてな訳で小政、半五郎の二人は一緒に仲良く江戸へ行って呉れ。


最後に、大政さんと鶴吉さんの尾張の二人は、國定村からご招待だ。

代官斬り同士と言う事で、長岡の忠治親分さんがご指名です。

忠治親分は今、上州の大前田の親分の所ですから、前橋は大前田村へ行って下さい。以上報告終わり。」


こうして、次郎長たち九人は食客として、関東の様々な親分に引き取られ草鞋を脱いで、男を磨きます。この間七年。

そして、大前田英五郎と新門辰五郎、そして、小金井小治郎の三人が、次郎長の身代わりを二人用意して、是を寺津ノ間之助の身内にして、代官所に自訴させるのです。

代官所は、竹恒三郎兵衛と保下田ノ久六は、次郎長一家にやられたと知っては居ますが、お登勢までもが、間之助の子分二人に相違ありませんと証言しまして、亀崎代官斬りの一件は落着致します。

こうして、深見ノ長兵衛の仇を見事に討ち果たした清水次郎長は、益々、その名を天下に轟かせ、漢を売り出して参ります。



つづく