大坂堺筋の旅籠屋、松屋平兵衛とその兄・政五郎の悪事を裁き、弟子である故松之助の許婚・お浅を無事救出した曲垣平九郎。
平九郎「では、お浅!お主は丸亀へはどうしても帰らないと申すのか?」
お浅「先生、あのまま、苦界に身を沈められて一生を終えるのかと覚悟していた所を、助けて頂き、誠に有難う御座いました。
松之助さんの事は残念でなりませんが、之れも前世での約束事なれば、拠ろ(よんどころ)御座いません。
付いては折角のご親切なれど、『貞女、屏風で(両夫に)見えず』と落語『風呂敷』では申します。
もう二人で丸亀を逃げた時から、心に誓こうておりました、『二度と再び家には帰らない』と。
ですから、連れ添う人が死んだからと、一人オメオメと國に帰るに考えは御座いません。松之助さんの後世の菩提を弔う為に、髪を落として比丘尼となり、諸國を修行して廻る覚悟で御座います。」
平九郎「それは大変殊勝な考えではあるが、『一時の発心、末に遂げ難し』、なかなかお前の様な器量の優れた婦人が一人旅をすると、
お前自身は高き意識で、出家に成ったつもりで居たとしても、他が放って置くまい。又、還俗する様な事になるのがオチだ、返って宜しくない事だぞ。
其れに、『女、三階(三界)に言えなし(家なし)』と、之れも落語『風呂敷』で申しておる。婦人は生涯夫を持たねばならぬもの。
國許へ立ち返り、よく両親に詫びを致し、末の人生を安らかにする事こそが、お前の幸せに通じる。
松之助の事は、お前の心の奥に仕舞い、時折命日にでも線香の一本も手向けてやれば差し支えない。」
お浅「先生のご親切、暖かいお言葉には感謝致しますが、誰が何と言おうと私の決心に変わりは有りません。決して還俗する事など有りません。ですから、是非、出家させて下さい。」
平九郎「そうか、お前の決意の固さは拙者にも伝わった、もう止めん比丘尼に成りなさい。しかし、拙者が直接出家させてはやれぬが、お前の好きにしなさい。」
お浅「曲垣先生、私の我儘を聞いて頂いて有難う御座います。」
平九郎「之れは、決して不浄な金子ではない、十両ある、之れで出家に成りなさい。」
お浅「本んとに有難う御座いまする。」
お浅は、涙を流して平九郎の渡す十両の金子を受け取った。平九郎は、淡路島から丸亀へとお浅を連れて行くつもりが、当てが外れてしまった。
取り敢えず、目的を決めず、西へと進む事を決めた曲垣平九郎は、甲州屋夫婦に礼を述べて、大坂を後に、播州兵庫へと足を進めた。
三、四里進むと泊まり、四、五里進めば又泊まる。武者修行の旅と言うより、是はもう遊山旅で御座います。
漸く、神戸に入った曲垣平九郎は、楠木正成を祀る湊川神社へと足を運びます。山道にはポツリポツリと、茶店や一膳飯屋が御座いますが、
良く言えば落ち着いた雰囲気、悪く言えば閑散とした空気の神社で御座います。
この神社、現在何が有名かと申しますと、水戸の黄門様が漫遊中に、『嗚呼忠臣楠子之墓』と記した碑を建立した事です。
流石に、『寛永三馬術』は『赤穂義士傳』より大分以前の噺由えに、講釈師が嘘を言うにしても、是は流石にバレバレなので、平九郎は此処では苔むした岩を見た事に致しましょう。
そんな曲垣平九郎、神戸湊川へと参りまして、宮参りの後、神社参道の茶店へと入り、例によって休息を取ります。
何んですよね、曲垣平九郎、参道の茶店に入ると人に出会い、其処から事件へと発展するのが常ですよね。今回もそうなるのか?!
平九郎「頼もう!」
茶店爺「へぃ、おこしやす。」
平九郎「茶を一杯と、何か茶菓子が有れば茶菓子も貰おう。」
茶店爺「茶菓子と言いましても、アンの入った様な甘味は御座いません。かき餅になりますが、宜しいですかなぁ?」
平九郎「かき餅、十分だ!持って参れ。」
茶店爺「へぃ、おまちどう様に御座います。」
出されたお茶を飲んで、曲垣平九郎、少し驚きます。
平九郎「美味いぞ、爺さん、このお茶は高いだろう?」
茶店爺「葉は、普通で御座います。ほうじ方や入れ方、そして水を厳選しております。何も取り柄の無い店で御座いますから、工夫しております。」
平九郎「参道のかけ茶店で、こんなに美味い茶に出会えるとは思わなんだ。」
茶店爺「ささぁ、かき餅に御座います。」
平九郎「美味い!美味い。小腹が空いていた所に丁度宜いワ。」
曲垣平九郎、茶店の爺さんと噺をしながら、かき餅を食べて茶を飲んでおりますと、深編笠に面体を隠した、
年齢は若そうで老けた感じの、身の丈五尺五、六寸、かなり草臥れた黒い木綿物を着て、手甲脚絆は汚れ倒していて、草鞋も切れる寸前の擦り減り様。そんな浪人者が飛び込んで来ました。
浪人「アぁ、許せよ。」
茶店爺「へぃ、其方へ座って下さい。」
浪人「御老人、甚だ失礼ながら、前を通りますよ。」
平九郎「さぁ〜、どうぞ。」(神社に居た奴だなぁ〜)
浪人「御免!」
と、平九郎から半間ほど離れた席に、その浪人は腰掛けた。すると其処へ、ガタイのいい二人の雲助が追って来た。
雲助A「あのぉ〜、お武家様」
浪人「おう!」
雲助A「駕籠賃を頂戴しとう存じます。」
浪人「そうであった。貴様たちが頑張ったお陰で、楠木公の石碑にお詣り出来た。礼を言う。」
雲助A「へぇ〜、どう致しまして。」
浪人「で、代は幾らだ?!」
雲助A「ハイ、二人で八百文です。」
浪人「そうかぁ、八百かぁ、八百は御の字だ。」
雲助A「早く、頂きたいです。」
浪人「だから、八百は御の字であろう?!」
雲助A「何を申されてます?意味が分かりません。」
浪人「野暮な奴だなぁ〜、大工調べ、落語の『大工調べ』を知らぬのか?政五郎が、与太郎に知恵を付けるだろう。八百は払わなくても、御の字だと。あれだ!あれ。」
雲助A「あれは、二両八百の代金に対して、二両払っているから、八百は御の字なんですよ、旦那!!之れはただの八百!御の字な訳ないでしょう。いい加減にして下さい。」
浪人「そうか、ただの八百なのか?ただの?払わなくて宜いのか?!」
雲助A「違います!早く、惚けないで八百文下さい!」
浪人「座興だ、冗談、冗談。払う払う、普通に出したら面白くないだろう、洒落の分からん奴だ。ほら、八百ある、数えてみろ?
宜いかぁ、数えるぞ、ひい、ふう、みー、今何時だい?、四ツです。いつ、むー、なな、やー、ホレ八百。」
雲助A「時そばで擬るのは止めて下さい、七百しかありません。」
浪人「気付いたか?!賢いなぁ〜お前。気付かれたなら仕方ない。ほら、残りの百だ。数えるか? あぁ、もういいのか、数えずに仕舞うと足らないかも知れんぞ?!」
雲助A「もう、いいです。本んとに落語キチガイなんですね旦那は。駕籠の中から、その狐の尻尾を見せて、『儂は伏見稲荷のお狐様だ!』と言って、
稲荷でも何でもない湊川神社に行くんだもん。だいたい、狐の尻尾ダケの剥製なんて、普通持って歩きませんから、襟巻にもならないでしょう?」
浪人「神戸には、駒竹稲荷があるが、やはり武士なら楠木正成公だろう!、本んとは狐では御座らんからなぁ。」
雲助B「あぁ、そうだ忘れるとこだった。旦那、言いましたよね。急いで湊川に着いたら、酒手は弾むって?!
だから、途中、全然、立場にもよらず、休憩無し、しょんべんも我慢して走りっ放しだったんだ。二百!二人で酒手を二百下さい。」
浪人「八百出したんだ。今度こそ、二百は御の字だろう?!」
雲助B「汚ねぇ〜、旦那、最初(ハナ)から二百を払わない為に、八百は御の字とか言いだして。。。酒手を踏み倒すなんて!?あんまりだ、畜生。」
是の様子を見ていた、曲垣平九郎、笑いを堪えるのに必死でしたが、思わず、声に出して笑ってしまいます。
雲助B「何んだ!関係ない、貴方まで笑う事はないだろう!」
平九郎「すまん!この御人とお主達のやり取りが、余りに滑稽で笑ってしまった。失礼ついでだ、そのお主達が貰い損ねた酒手は、拙者が払おうではないか、二百文だなぁ?ホレ二百文だ。」
雲助AB「有難う御座います。」
現金なもんで、結局、二人で一分の上がりになって、雲助二人は恵比寿顔で去って行きます。
平九郎「お若いの、胴巻の中が、遊び疲れて寂しい様子で御座るなぁ?!」
浪人「忝い。持って居たら払う酒手なのだが、もう胴巻には、二十四文しか御座らん。此処の茶代を出したら、遂にオケラ街道だ。」
平九郎「宜しければ、この先、一緒に旅を共に致しませんか?」
浪人「宜いのか?拙者、此処で茶代を払うと一文無しだぞ。之れでも國を出る折には、五、六十両持っていたのが、今は懐かしき夢の又夢。」
平九郎「拙者、貴公の駕籠屋とのやり取りを見て感心しました。三民の上に立つ武士なれば、普通は、黙れ!と言って刀を抜き脅せば、二百文を負けさせるなど容易な事。
なれど、貴公はそうはなさいませんでした。知恵を使い相手の気持ちを慮り、恐らくは持ち合わせが足りぬと気付いた駕籠の中、
狐の尻尾で、道化た辺りから、この戦略は始まっていて、大工調べ、時そばとボケてみせて、最後は紋三郎稲荷風壺算式のボケで、相手を煙に巻く、お見事としか言いようがない。アッパレ!」
浪人「爺さん!金主が着いたから、茶のお代わりだ。」
茶店爺「私も、先の座興を見たので、このお茶代は、奉仕(サービス)させて頂きます。」
浪人「之れなら、拙者、旅の武芸者と名乗る前に、旅芸人と申すべきだなぁ〜。さて、金主のご老体、拙者、申し遅れましたが、伊勢松坂の古田織部正が家臣、二百石取りの指南番、山内傳内と申します。」
平九郎「ご指南番を?!」
傳内「ハイ、一刀流は一応、免許皆伝、國に道場が御座いまして、広く剣術を教えております。」
平九郎「左様ですか。手前は、丸亀藩生駒讃岐守が元家来、後に越前松平忠直公にもお仕えしましたが、越前國替により再び浪人、現在は、隠居の身なれど諸國を武芸の見聞を広げる為に旅をしております、曲垣平九郎で御座る。」
傳内「曲垣平九郎!それは、知らぬ事とは申しながらご無礼仕った。あの日本一の馬術の名人で御座いましたかぁ〜、爺!!貴様も頭が高い、控えおろう!」
平九郎「そんなに大袈裟に持ち上げられると返って恐縮します。さて、貴公も播磨より西へと向かわれますか?」
傳内「ハイ、備前、備中、備後、因幡、安芸の國、出雲の國を巡るつもりで、四国・九州へは渡るつもりは御座いません。」
平九郎「之れからは、長い旅路になり申す。私も同じ方角を目指す旅なれば、道中、ご一緒しましょう。金子の方は拙者が面倒見ます。」
傳内「之れは誠に忝い。」
こうして、二人は茶店を出て、兵庫湊町二丁目、伊豆屋勘兵衛、通称『伊豆勘』と言う旅籠に宿を取りました。
直ぐに風呂に入り、膳部に舌鼓を打ち、酒に興じて布団に入ったのは、九ツをとうに過ぎて、八ツになろうとしていた。
傳内「先生、曲垣先生!まだ、起きていますか?」
平九郎「起きている。眠られないよ、あの気味の悪い泣き声がするから。」
傳内「ですよね、しかも、よりによって次の間から。宿屋仇ならば、手を叩いて、伊八を呼んでいますよね?」
平九郎「確かに。」
傳内「仕方有りません。女中を手を叩いて呼びましょう。」
どーれ!どーれ!
と、山内傳内が大な手を叩きますと、血相を変えて女中がスッ飛んで参ります。
女中「すいません、お武家様、深夜で御座います、お静かに願います。」
傳内「それは、此方の科白だ!!聞こえるだろう?あの泣き声。夜通し泣かれては、拙者の方が寝られずに難儀する。貴様では、埓が開かん。主人の部屋へ案内せぇ!!」
そう言うと、主人の伊豆勘夫婦が寝ている所へ押しかけて、山内傳内、是を叩き起こすと、さめざめと泣いている次の間へと押し掛けて行った。
伊豆勘「すいません、お客様。ちょっと泣き声が煩いと、お隣のお武家様より苦情が出ています。泣くのを止めて頂けますか?」
と、次の間へ入ると、居たのは、五十五、六の初老の男と、十七、八の若い娘の二人連れで、二人して目を真っ赤に腫らして泣いていた。
傳内「やい、伊豆勘!若い娘のではないか?泣いているんだ、何か理由(ワケ)が在るはずだ、優しく聞いてやらんか!」
伊豆勘「って、あんたが、煩いと言い出したんでしょうが?!」
傳内「娘さん、泣いていては、理由がわからぬ。拙者で良ければ力になる。理由を話してみなさい。」
老人「私は、三州田原の者で太田屋甚兵衛ともうしまして、米と酒を扱う小売業に御座います。そして、この娘は、私の娘で、名を初と申します。
前年妻を亡くし、百日の法要を済ませまして、親子で妻の供養を兼ねて、金比羅詣りの巡礼に出掛ける事になり、商売は番頭と親戚に任せてこの旅を始めました。
資金として三十両の金子を持って親子二人で旅に出たのですが、道中、須磨海岸に近い糸の庄と言う所で、道連れになった長州の畳職人の茂兵衛さんと言う人と、この宿に泊まる事に成ったのですが、
その茂兵衛さんが、先程来、突然居なくなって、居なくなるにしても、一言、声ぐらい掛けて出るべきだと、娘と話をしていたのですが、
そうだ!他人様が居ない時に、残金の確認をしようと、胴巻の持ち金の残りを出してみると、何んと!金子ではなく、石ころに化けていて、
あの金子が無いと、金比羅詣りの旅が続けられないどころか、國へも帰れません。途方に暮れて親子二人して、ただただ、泣くばかりでおりました。」
傳内「そうかぁ、そうかぁ、其れでは泣くのも無理は無い。拙者も二百文の酒手すら払えぬ時は、泣きそうだった。
さぁ〜、もっと泣け!大きな声で泣け!もっと大きな声で泣け!まだまだ、大きな声で!まだまだだ!泣け!もっとだ!泣け!
そんな小さな声でどうする?もっと、泣け!声が出ぬなら、代わりに身共が泣いてやろうか?どうだ、もっと、もっと、泣け!泣け!泣け!」
伊豆勘「お武家様、冗談はよして下さい。煽り過ぎですよ。」
平九郎「そうだぞ!傳内殿。」
傳内「先生、何時この部屋に?」
平九郎「唐紙越しに聞いていたが、貴公の声が煩い由えに、寝ておられんので、越えて参った。さて、太田屋さん、糸の庄で付いて来たゴマの蝿は、何時居なくなりました?」
太田屋「ハイ、四ツになる少し前です。」
平九郎「その男、何か理って部屋を出て行ったのか?」
太田屋「いいえ、何も言わずに。」
平九郎「伊豆勘殿、本日、夜立ちの客はあるか?」
伊豆勘「今日は、一組も有りません。」
傳内「先生!上役人か、岡っ引のようだなぁ?」
平九郎「拙者些か、宿屋の悪事に精通しておるでなぁ。」
傳内「まさか、日本一の馬術の名人が、枕荒らしをやっていたなどとは言うまいなぁ?」
平九郎「兎に角、先ずは、夜立ち客がないのなら、まだ、そいつが旅籠内に潜んで居る可能性もある、館内を探してみよう。」
全員で調べてみると、一階の台所脇の雨戸の桟(サン)が外されて、人一人が通れる位の隙間が出来て居た。
平九郎「此処から、その茂兵衛とか言う賊は逃げたなぁ?で、その者の特徴を教えて欲しい。年齢、身の丈、身体や顔の特徴。」
太田屋「歳は三十七、八で、背丈は五尺二、三寸、そう言えば、左の目尻にアザが御座いました、黒い小豆よりやや大きい位のアザです。」
傳内「そうかぁ〜、ヨシ!!」
平九郎「傳内殿、ヨシと言われたが、道中見知りおる輩ですか?」
傳内「ハーイ、先生、ご案じなさいますな、この傳内に、少しばかり心当たりが御座る。」
平九郎「本当か?!」
傳内「其処でだ、伊豆勘!この旅籠から、もう一人、居なくなっている奴が必ず居る、よーく探してみよ。」
伊豆勘「本当ですか?昨晩お泊まりの客に、独り客と言うのが有りませんが、宜しいでしょう、探してみましょう。」
そう言って、主人伊豆勘が全泊まり客を、宿帳に照らして確認してみると、十二番・藤の間の二人連れの客が消えております。
平九郎「どう言う事だ、山内氏?」
傳内「拙者が風呂へ行く時、廊下の隅で、その左目尻に小豆アザの男を見ているんだ。そして野郎、連れと廊下で立ち話を始めたんだ。
拙者、廊下からは下手の脱衣所に行ったのだが、風向きのせいか?噺声が丸聞こえだった。『親分首尾は?』『ナーニ、あんなモン訳ないさぁ。きっちり巻き上げて行くから、先に福原の播磨屋で待って居なぁ?!』と、言っておりました。」
平九郎「福原の播磨屋と申すは遊廓だなぁ?伊豆勘殿。」
伊豆勘「さいだす。福原きっての大きな遊廓ダス。」
傳内「ヨシ!出来た。」
平九郎「何んだ急に、出来たとは?」
傳内「取り敢えず、旦那は、太田屋さん親子を慰めて、二部屋ブチ抜きにして、酒でも呑みながら、あの可愛い娘に酌などさせて、拙者の帰りを待っていて下さい。
拙者は、是から一人で福原に乗り込み、小豆野郎一味から三十両取り返して、此方の親子にお返し申し上げる。
そんで持って、悪党由えに三十両の上を持っていたりするようなら、その分は拙者がご褒美に頂戴して、之れから先の路銀に致します。」
平九郎「親子の面倒を見るのは承知したが、貴公は、盗っ人の上前を撥ねずとも、拙者が路銀は面倒みる由え、止めて置かれよ。」
傳内「拙者が悪党の銭を取らなければ、其れは上役人に上前を撥ねられるだけに御座る。それに、拙者は悪党の銭の上前を撥ねるのが十八番、之れまでも二度之れにて路銀を繋いでおりますから。其から、伊豆勘!当地の町奉行、代官は何んと申す?」
伊豆勘「それは、津山五左衛門様と仰います。」
傳内「俺が小豆野郎一味を捉えて戻ったなら、直ぐに問屋場へ駆け込み、悪党を引き渡すと訴え出ろ。呉々も、訴えるのは拙者が、賊を連れて来た後だぞ、
なまじ知らせて、取り押さえている最中に、役人が来たら後が面倒になる。訴えの願書とか、町役五人組とかは、準備しておけ、宜いなぁ!」
伊豆勘「ハイ、分かりました。」
と、旅籠の主人伊豆勘が返事をすると、山内傳内、疾風の様に福原は播磨屋に向けて飛んで行って仕舞いました。
つづく