愛宕山の貸し馬の一件を終えても、二人は暫くは『謡曲流し』を続けながら日銭を稼ぎ、相変わらず木賃宿で長屋へ移る目処は立たなかった。
そんな江戸表での暮らしの中、曲垣平九郎は、虎ノ門の貸し馬屋で手綱を握った南部の黒馬の感触が忘れられず。このまんまでは、浪人生活から抜け出せる日が来るとは思えず、悶々とする日々を送っていた。
そして、二人が江戸へ来て早や三ヶ月が過ぎようとしていた昼下がり。この日も、平九郎は謡曲を唄い流して、昼間は伊勢屋の御隠居から一朱頂き、夕方過ぎに一膳飯屋で百二十文を稼いだ。
度々平「今日はまずまずの稼ぎだったんで、新橋の夜鳴きのおでん屋台で一杯やりましょう。」
平九郎「度々平、お前は家来として江戸表まで拙者に付いて参ったが、貴様の任を退いてやるから、今日より一人で好きにして宜い。短い間だったがご苦労だった。感謝しているぞ、度々平。」
度々平「どうなさったんですか?旦那。急にアッシに暇(いとま)を下さるなんて?何が有ったのですか?」
平九郎「あの愛宕山下、虎ノ門の貸し馬屋での出来事から、この二ヶ月あまり、拙者なりに考えたのだが、
此のまんま江戸表に居ても、拙者に取っての、貴様が言う所の『信長公』は、なかなか見付からぬと言う結論に至ったのだ。
其処で拙者は、心機一転、越前の國は松平伊予守忠昌公のご領地『福井』へと赴く事に決めたのだ。」
度々平「福井?越前松平に、旦那の親類が在るのですか?!」
平九郎「親類が居ると言うのではなく、拙者が丸亀の江戸勤番時代に、馬術を教えていた二十人ばかりの門弟の中に、
越前松平家の藩士で『箕部禽太夫』と申す馬廻り役をしている者が有って、その馬術の弟子箕部氏を頼り福井へ参る所存なのだ。」
度々平「馬術の弟子が、二十人も江戸表に居たんですか?!それならわざわざ、福井まで行くよりも、まだ江戸表に居る他の弟子の世話になりましょうよ。」
平九郎「其れも考えたが、二十人程居た弟子の中で、師で在る拙者が浪人の身であっても受け入れてくれるのは、その箕部禽太夫だけなんだ。」
度々平「福井行きの事情は判りました。ですが、アッシに暇(いとま)を下さるのは、どういう料簡なんです?旦那。」
平九郎「考えてもみろ。丸亀を出て江戸へ参った時とは、大分事情が異なる。路銀は殆ど無く『謡曲流し』を糧にしての苦しく厳しい旅になる。
よって旅籠には泊まれず、大半が野宿である。そんな貧乏旅に貴様を無理やり伴として連れて参る訳には行かぬ!だから、暇をやる!故郷の江戸で貴様は好きに暮らせば宜い。」
度々平「旦那!水臭いですよ。度々平は生涯、曲垣平九郎の旦那の僕(しもべ)に御座います。福井にお伴させて下さい。」
度々平は、其の場に正座して、頭(こうべ)を下げてこう申します。是を見た平九郎、感じ入り涙を滲ませて、度々平の申し出に感謝するのでした。
度々平「福井に行くッたッて、路銀が心細い。ですから、予め『謡曲流し』をして、最低限の金子を貯めながら進むに如かずと、心得まする。」
平九郎「確かに、そうだが、通る道筋(ルート)が肝要と言うのは、拙者にも判るが、度々平、貴様に任せる!宜しく頼む。」
度々平「旦那!頭を上げて下さい。取り敢えず、濱松町から近い日の出桟橋から船で、先ずは、川越を目指しましょう。二人の船賃二分が溜まり次第出発です。
そして、川越から熊谷、深谷、高崎、安中、軽井沢、小諸、上田、篠ノ井、長野、豊野、飯山、新井、そして直江津へと向かいます。
直江津からは再び船に乗り、加賀百万石の湊、金沢湊へ。更に此処からは又陸路を通り、小松、福井と参る工程になるかと存じます。」
平九郎「其れで、何日掛かる?流石に、唐突に訪問して箕部氏を驚かせたり、困らせるのは本意ではない。予め手紙を書くつもりだ、其れに到着する見込みを書いて置きたい、宜しく頼む!度々平。」
度々平「そうですね、川越から安中までは、二十日。安中から小諸までは、名代の難所の碓氷峠が在るんで、あくまでもアッシの皮算用ですが、三十日一ヶ月くらい掛かると思われます。
更に、小諸から直江津までも同じく一ヶ月、最後に直江津から金沢までの海路を含め福井到着に十日です。ですから、約三、四ヶ月の長い旅になります。」
平九郎「そうかぁ忝い、其の様に箕部氏には手紙に書いておこう。」
そう言って二人は、三日ほど『謡曲流し』で一両足らずの路銀を貯めて、芝の日の出桟橋から船に乗り川越へと向かった。
道中は、繁華な宿場では江戸表同様に、『謡曲流し』での路銀調達が出来たが、流石に田舎の宿場では謡や能など興味を示す人が居らず苦戦致します。
辻堂や、寺の軒下での野宿が続き、畑から盗んだ野菜で飢えを凌ぎながら、予定より半月遅れで漸く直江津の湊へと到着致します。
平九郎「度々平、想像を遥かに越えて厳しい旅であるが、其の方、大事無いか?!」
度々平「水しか飲めず十日余り歩きましたから、飢えてはおりますが、病や怪我は御座いません。船に乗る為の船賃が、此処直江津で稼げないと、大幅に到着が遅れます。」
平九郎「今更、陸を歩いて能登半島から富山を越えて石川、福井と進んだら、箕部氏に知らせた三、四ヶ月後が、五ヶ月を遥かに越えて半年後の到着になる。何んとしても、船賃を貯めて船で参るぞ!度々平。」
二人はそんな心配をしておりましたが、『案ずるより産むが易し』、直江津では、荷の積み込み積み下ろしの人足が、本に不足しておりまして、この日雇いの日給が一人二朱と百五十文。しかも、昼食は賄い付。
二人で十日余り働くと、二両二分と二百文が貯まり、是で福井までの路銀に目処が立ち、二人は期待に胸膨らませ、江戸表を出て四ヶ月と二十日後に福井藩のご城下に到着致します。
平九郎「度々平!艱難辛苦を乗り越えると、人は玉に成ると言うが、この様な苦労は一度きりにしたい物よのぉ〜。」
度々平「そうですね。其れでも、之れだけの苦労噺が拵えられますと、隠居して孫など出来ましたなら、『爺さんは昔なぁ〜!』と、茶など飲みながら話す自慢の種に成りましょうなぁ。」
平九郎「さて度々平、まだ日の高い内に、貴様は一足先に城下の然るべき番屋へ出向き、箕部禽太夫殿の居場所を聞いて参れ!拙者は、この橋の袂にて待つ。」
度々平「ハイ、急ぎ聞いて参ります。」
と、言って度々平は、振り分けの荷物を平九郎に預けて、福井城を目指し小走りに駆けて参ります。そして、半刻程すると、度々平、左の足を引き摺りながら戻って参ります。
平九郎「どうした?遅かったなぁ、度々平。足はどうした?痛むのか?!」
度々平「いいえ、足は大した事は有りませんが、箕部禽太夫殿は、既に二年も前に暇(いとま)が出て、浪人の身になられて城下の藩邸には居られません。」
平九郎「何にぃ〜、既にお暇に…」
度々平「その報を聞いて、落胆が足に来て。。。何んでも旦那同様に、朋友の讒言(ざんげん)に掛かってしまわれて、身に覚えの無い咎で今は浪人なさっておるとの事です。」
平九郎「今、箕部氏は何処に居られる?!」
度々平「半年前までは、越前國は今立郡の壬生と言う所に居たと、城下藩邸の知人の方が教えてくれましたが、現在は、其処に居る確証は無いそうです。」
平九郎「。。。」と、流石に磊落な平九郎も絶句して、軽い放心状態に陥ります。そして是を見た度々平は。
度々平「旦那!しっかりして下さい。お気持ちは判ります。一緒に江戸表から福井くんだりまでやって来たんだから、其れに、箕部ッて方、もう行方知れずだ。今更、壬生って所へ行っても逢えるか?どうかぁ?!」
平九郎「其れもそうだなぁ。」
度々平「その箕部ッて人以外に、此処福井には知り合いは、無いんでゲしょう?!」
平九郎「無い!全く無い。頼りの綱が切れた格好だ。さて、どうにも困った!是からどうするか?これは思案の為所だなぁ〜、度々平。」
度々平「旦那、下手な考えては何んとやらで御座ぇ〜ヤス。旦那は直ぐ弱気の虫が出なさる。其れだけが玉に瑕だ。此処は一つ、気晴らしに良い旅籠に泊まり、美味い地酒と地元の海の幸でパァーッとやって憂さを晴らしましょう。」
平九郎「度々平!良い旅籠も悪い旅籠も、泊まれるだけの金子が我らには無かろう?!貴様、ギリギリの路銀で漸く辿り着いたのを忘れたのか?!」
度々平「心配ご無用でぇ。イザ鎌倉!ッて時に困らない様に、馬を買う銭をへそくりするのが山内一豊の妻・千代ならば、
同じ様に、福井くんだりまで来て途方に暮れた時に、憂さを晴らす金子を捻出するのが、忠僕度々平で御座います。
イザって時の為に、丸亀を出た時から、五両の金子は何時でも使える様に残してありました。ご安心下さい。」
平九郎「誠か?!嘘では無かろうなぁ〜、後から無一文だと白状し、旅籠の主人に『竹の水仙』を作れ!とか、『大黒様』を彫れ!と、言われても、拙者、甚五郎ではないので務まらんぞ。」
度々平「心配しないで下さい。ほら、ちゃんと五両、御座います。」
と、度々平は、自分の腹を出して、此の胴巻ん中に仕込んで御座いますからと、平九郎を安心させた。
二人は、福井の繁華街である『九十九橋通り』へ出て旅籠を物色して、最も大きく立派な門構えの『丸岡屋九左衛門』と言う旅籠に泊まる事に致します。
度々平「旦那、この旅籠、創業の主人が越前丸岡の生まれだから、丸岡屋なんでゲしょうねぇ。このくらい立派な旅籠であれば、旅の垢も十分過ぎる位に落ちるハズです。」
平九郎「高そうな宿だが、大丈夫か?」
度々平「五両とちょいと有りますから、五日以上十日未満は、何んとかなりますゼ、旦那。」
そう言って宿へと入ると、手代の若衆が揉み手をしながら愛想笑いで寄って参ります。
手代「いらっしゃいませ、二名様、ハイ!お豊、お豊、お客様だよ、お足元をお濯ぎして、お部屋にご案内して!! お客様、後ほど私が宿帳をお持ちします。」
度々平「あいよぉ〜、姐さん!部屋は二階がいい、こないだと同じ奥の、そうそう山水の絵が飾ってあるあの部屋で頼む。
其れから、湯は沸いているかい?沸いている!ヨシ、じゃぁ〜旦那、部屋に荷物置いたら、先に湯へ行きましょう。サッパリしたい。
姐さん!また、こないだみたいに、茶代ご祝儀は弾むから、宜しく頼むぜ。俺たちは、先に湯に入るから、半刻したら、酒肴、そうだなぁ、酒は地酒で宜いヤツを三合ばかり燗して持って来てくれ、
あくまで宜い酒だぞ、頭にピンピン来るような代物んだったら、二階から窓下の地面(じびた)に撒いて仕舞うぞ!!いいなぁ、
其れから肴は、海がこんだけ近いんだ、刺身だ!刺身。魚は何んでもいいから、活の宜いピチピチしたコリコリを持って来い!
又、河豚じゃねぇ〜だろうから、身は厚く切れよ、透かして向こうが見えて、刺身同士が貧乏たらしく肩寄せ合っている様なのは、突っ返す!分かったなぁ。」
と、度々平が江戸っ子らしく啖呵調子で注文を付けて、足を濯いだら、宿のハシゴ勢いよく、トントンと駆け上がります。
一方、曲垣平九郎の方はと見てやれば、旅の垢、埃塗れにはなっておりますが、人品良ろしく威厳に満ちていますから、宿の下男下女からの扱いはすこぶる丁寧で御座います。
又度々平とは対照的に、悠然とハシゴを上がり、度々平の誘導で奥の『桔梗の間』へと入りますと、早速浴衣に着替えて、師弟二人して湯殿へと参ります。
度々平が、主人である平九郎の背中を流しながら、語り始めます。
度々平「湯加減はどうでしたか?こちとら、熱い湯好きのアッシにしてみると、やや温く感じますし、風呂桶も江戸表の湯屋のに比べると半分ですからねぇ〜。」
平九郎「湯屋なんぞが、あんなに沢山有るのは江戸だけだぞ。丸亀は勿論、京・大坂だってあんなに沢山は無い。
其れはそうと、度々平、お前は以前福井に来ているのか?そして、此の丸岡屋に泊まった事がある口振りで、前回と同じ二階の奥をと、部屋まで指定ていたなぁ〜。」
度々平「あぁ、アレですかぁ。アレは当て図っぽうの張ったりですよ。此の宿は勿論、福井になんか来た事は有りません。是が初めてです。
でも、あの様に裏を返した風に、振舞うと、馴染みになって貰えるか?と、扱いが良くなりますから、初手からカマシてみました。」
平九郎「其れでは、茶代ご祝儀を弾むと言うのも張ったりか?!どうせ払うんなら、早い方が良いぞ。滞在中の扱いが、宜くなるはずだからのぉ〜。」
度々平「そいつは、ご心配無く。一文無しですからご祝儀酒手は切りたくても切れない、紐の取れた越中褌!!着れません。」
平九郎「な、な、な何が一文無しだ。へそくりの五両が有るんだろう?!」
度々平「そんなモン在る訳ないでしょう。有れば往路の道中で、使う場面が、何度もあったはずです。まず、間違いなく碓氷峠は駕籠で越えたし、直江津湊で日雇い労働なんてしていません。」
平九郎「な、な、な何んとするんだ?!度々平。」
度々平「今更、何んとも成りません。旦那も、腹を括って下さい。」
平九郎「なぜ、一文無しなら最初(ハナ)から、そう言わぬ。五両在るなんぞと、嘘を付き仰って、怪しからん!貴様は、実に怪しからん!」
度々平「仕方ないでしょう。正直に言えば、旦那は泊まらない!泊まらない!と、ガキみたいにダダを捏ねるでしょう。」
平九郎「当たり前だ!!痩せても枯れても、拙者は、三代将軍家光公より『日本一の馬術の名人』と、言われた漢だ。無銭飲食、無賃宿泊など出来るかぁ!!」
度々平「残念でしたねぇ〜、もう、風呂に浸かり無賃宿泊はやっていますし、此の後、部屋に戻れば、無銭飲食が待っております。」
平九郎「そ、そ、そ其れで、貴様は、無一文でどう切り抜けるつもりだ。我ら、此の福井に親類縁者は居らんのだぞ?!」
度々平「まぁ、アッシは慣れていますから、全てアッシに任せて下さい。」
平九郎「お前と言う奴は、実に怪しからん奴だ!」
度々平「怪しからんで、結構ですから、そろそろ風呂を出てご馳走と酒を頂きましょう。」
呆れ返った様子の曲垣平九郎では有りましたが、完全に度々平の調子(ペース)に乗せられて、酒を喰らい地魚の刺身に舌鼓を打ちます。
平九郎「覆水盆に返らず、毒を喰らわば皿までだなぁ、度々平!!」
度々平「先生は、どうしてそんなにマイナス思考なんですか?俺なら、出た所勝負!や、賽は投げられた!ッて言いますけどね。」
平九郎「賽を投げたのは、ローマ帝国の皇帝シーザー/カエサルだぞ。イエズス会から貴様、其れを聞いたのか?!それに、そんな風だから、シーザーはブルータスに殺されたんだ。」
度々平「いいじゃ有りませんかぁ、太く短く、シーザーも信長も、アッシは大好きですけどね、そんな人生、そんな生き方。」
そんな事を言いながら、平九郎は度々平を相手に憂さ晴らしの酒を呑みながら、夕まぐれの窓から、外を行き交う人の流れを、度々平がぼんやり見ておりました。
すると、上手の方から歩いて来たのは、六十がらみの鯔背で粋なお爺さん、歳に似合わぬ派手な縞の羽織を着てる一本刀の落とし差し、
そして其の両脇には、『御厩』と染め抜きに刺繍の羽二重の肉襦袢を羽織った若い奴を二人連れて居ります。
是を見付けた度々平、『ハハぁ〜、アレは越前公御厩の部屋頭に違いない!!』と、思いましたから、ここぞ!とばかりに立ち上がり、窓から身を乗り出す様にして話し掛けます。
度々平「アぁ〜モシ、親方!親方!御厩の頭じゃ御座んせんかぁ?!素通りは殺生ですゼ、親方!!」
是には、流石に平九郎先生驚いた。生まれて初めての福井で、知り合いが通る訳が無い。其れなのに、往来で見掛けた部屋頭らしき爺さんに、馴れ馴れしく度々平が声を掛ける。
すると、又、その爺さんの方も上を見上げて、度々平の方を見て、噺返して来たのには、見ていて驚くのも無理はない。
部屋頭「おーい!お前さん、アタシを呼んだかい?!」
度々平「やぁ〜、どうも部屋頭。すっかりご無沙汰しております。両三年前は、ひと方ならぬご厄介になりやして、本当にお礼の言葉もありません。
この夏に親父を亡くしまして、又、此方福井の方に参りました。何分どうか、宜しくお引き立てをお願い致します。二、三日の内に必ず顔を出し致しやすから!」
部屋頭「おぉー、所でお前は誰だっけ?!」
度々平「頭!誰だっけは酷いなぁ〜、まだ若いのに耄碌(もうろく)なすった?!」
部屋頭「えへへ、そうかい!そうかい!又、部屋に顔出してくれよ。」
度々平「へい、必ず寄せて貰います。お部屋の皆さんに宜しくお伝え願います。お伴のお二人も、ご苦労サンで御座んす。」
伴二人「へい、おおきにさんで!」
そう言うと、三人は街中へと消えて行った。この度々平の様子を見て、曲垣平九郎が、少し酔った調子で度々平に尋ねる。
平九郎「ヤイ!度々平。」
度々平「へぇー」
平九郎「度々平、貴様はあの連中を存じおるのか?知らぬだろう?知るハズがない!」
度々平「勿論、知る訳ないでしょう。『御厩』の肉襦袢を見たから、強引に噺を合わせに行きました。あの部屋頭は、使えますよ!旦那。」
平九郎「お前は、全く知らぬ相手に、あんなに馴れ馴れしくできるのか?呆れた!」
度々平「確かに、ちょっと強引過ぎました。あの部屋頭が、『思い出せない?耄碌したのかな?』ッて顔するから、途中、笑いを堪えるのに必死でした。」
平九郎「其れで、貴様はどうする積もりなんだ?!」
度々平「どうするも、こうするも、有りません。此処は、あの部屋頭に頼み込んで、出来る事なら、越前藩六十七万石の御厩へ潜り込み、旦那に出世頂いて、再び、天下にその名を知らしめて頂きたいと願いまする!!」
平九郎「そんなに、上手く行くものか?!全部、貴様の描いた『絵に描いた餅』であろう?」
度々平「その絵に描いた餅を、本物にして見せるのが、『魔術師度々平』アッシの腕の見せ所じゃありませんか、一つ、大船に乗ったつもりで、付いて来て下さい。」
平九郎「魔術師だぁ?!本当か?泥舟ではなかろうなぁ?!」
度々平「旦那が元居た丸亀藩は十七万石の外様だけど、越前松平はその四倍で、御三家に継ぐ徳川家の血筋、確かに越後高田の松平の分家でありますが、譜代の名門ですよ。大船でしょう?!」
平九郎「越前松平は、確かに加賀の前田家に継ぐ大家で大船だが、貴様自身はどうなんだ?!泥舟では無いのか?!」
度々平「任せて下さい旦那!明日、一緒に御厩の大部屋へ出向いて、旦那とアッシの二人連れで、越前松平の御厩へ勤められる様にしてみせますから。」
つづく