天保元年三月三日、甲州身延の大野では、毎年恒例の御會式博打のご開帳が始まります。此処から六日迄の四日間で、一万五千両の金が七つの賭場で動くと言われております。

この大野山本遠寺のお祭では、寺の賽銭・寄進と宿場町の旅籠・居酒屋の売上、そしてこの御會式博打の上がりの三つを合わせると、四日間のシノギは五万両を越えたと申します。

ですから此の大野の祭が、如何に地域住民に取って不可欠な祭であったかが窺い知れるのです。

源兵衛「多助!貴様、今日は何処の賭場へ行くつもりなんだ?」

多助「仙之助親分の子分で、仙吉さんって人がやっているチョボイチの盆茣蓙が在るから、今日はそこで運試しだ。」

源兵衛「大きな賭場か?」

多助「中の上ッて感じさ、一分(ガク)で張って勝負が出来る。全部で盆茣蓙は、幾つ有るか、源兵衛!貴様知っているか?」

源兵衛「さぁ〜、二百以上敷かれていると聞いたが、一生に一度で宜いから、頂上(テッペン)の七つで勝負がしてみたい。」

多助「確かになぁ、頂上の七つに行けば、清水次郎長、國定忠治、笹川重蔵、佐原喜三郎、倉田屋文吉ッてなぁ、錚々たる親分衆と並んで博打ができる。

まぁ〜其でも、仙吉親分の賭場は、二百三十八在る盆茣蓙の中では、上から五十から六十番目くらいの賭場だ。

だから、そうだなぁ、赤間源左衛門、芝山ノ仁三郎、そして火の玉小僧!鬼ノ慶助ぐらいの侠客になら出会える茣蓙が敷かれているぜ!」


さて、三下奴の源兵衛と多助は、江戸から来た旅の博徒で御座います。同じ旅籠には、所謂、『旅打人』の連中が居て、

中でも頭に立ッて居るのが、火の玉小僧・鬼ノ慶助、信州は善光寺ノ鐵五郎、そして相撲上がりの朝比奈雷電ノ音吉の三人で御座います。

この三人のうち、曲者なのが『善光寺ノ鐵五郎』でして、此の人、酒を呑まなければ、本当に宜い侠客なのですが、酔うと酒癖が悪く手が付けられなくなるのです。

この日も、昼過ぎに起きてきて、いきなり冷やで茶碗酒を煽り始めて、フラッカ!フラッカ!していますから、鬼ノ慶助から、今日はもう博打場へは行くなと言われておりましたが、

旅籠を抜け出して、山歩きして酔いを覚ますだけだと言いつつ、結局、仙吉の賭場に現れます。


盆茣蓙を前に、上手奥七分辺りの所に陣取り、ドッかと座る鐵五郎。辺りの様子を、まだ、赤ら顔のまんま観ております。

そして、壺振りね横に居る出目を操作している若衆が勝負で御座います。と、声を掛けて壺が半開きになり、鐵五郎の席から『三』の目が見えた瞬間!

自分の目の前の張り位置へ、ポンと素イチで三両、勢いよく銭を投げて張ってしまいます。そして、壺振りが壺を開けたら、勿論、三の目が出ております。

鐵五郎「ヨシ!三だ。へぇへぇ、三で死んだが、三島のお仙ッて言うだろう。仙吉の盆茣蓙には、三の目が似合う。

誰かが、言ったよなぁ〜、富士山には月見草が似合うと。アレとおんなじだ。判るか?皆の衆、判かんねぇ〜だろうなぁ〜」

と、酔った勢いで饒舌に能書きをタレておりますと、当然、この盆茣蓙を仕切る仙吉が、鐵五郎に対して文句を付けます。

仙吉「勝負!の声が掛かった跡に張りなすった。その三両は無効だ。銭を引いて下さい、お客さん。」

鐵五郎「俺が張ったのは、勝負の声掛かりの前だぜ。三に賭けて当たりになると、『無効です。』だとぉ〜、貴様!この善光寺ノ鐵五郎をコケにする気かぁ?!」

そう言うと、いきなり脇差の鞘を払って、盆の上に足を乗せて見栄を切る格好で、「ガタガタ、抜かしやがるなら、全員叩き斬るぞ!三ピン野郎」と、怒鳴ります。

此処で、仙吉が毅然として、子分たちもしっかりと対応できていれば、怪我人・死人が出たかも知れませんが、鐵五郎は取り押さえられていたのに、

当の仙吉が、全く予期しない出来事に、震え出して後退りして逃げ腰に。又、間が悪く血の気の多い武闘派がこの場には居らず、鐵五郎はまんまと、盆茣蓙の上の賭け金、百両あまりを胴巻に拐い込んで逃げてしまいます。


此の知らせを聞いた『御會式博打』の実行委員会の親分衆が、直ぐに集まり、身延大野の詰所に居る用心棒!秋山鷹助の元へ向かった。

そして、此処に集まった面々は、


一番茣蓙・西部ノ周太郎の盆からは、三井ノ卯吉。


二番茣蓙・身延ノ半五郎の盆からは、伊沢ノ万五郎。


三番茣蓙・大前田英五郎の盆からは、英五郎の右腕『人斬り榮次』駒形ノ榮次。


四番茣蓙・銚子ノ五郎蔵の盆からは、飯岡ノ助五郎。


五番茣蓙・土浦ノ皆次の盆からは、佐原ノ喜三郎。


六番茣蓙・祐天仙之助の盆は、被害の当事者ですから、仙吉の親に当たります祐天仙之助。


そして最後に控えしは、七番茣蓙・仙台の鈴木忠吉の盆は、笹川ノ重蔵と勢力富五郎の二人が参ります。


仙之助「皆さん、お集まりご苦労サンです。今回の鐵五郎による賭場荒らし、アッシが居る盆で在れば、野郎を生かしては帰さなかったのに。。。

子分の仙吉がドシを踏みまして、皆様方に、多大なるご迷惑をお掛けした事を、まずは、謝罪させて頂きます。」

喜三郎「オイオイ、先ずは謝るよりも、祐天のぉ!事の起こりを詳しく皆に教えてくんねぇ〜。」

仙之助「是は失礼しました。事の起こりは、三両の賭け金を、鐵五郎の奴が、勝負!の声の跡で、壺が半開きになり、三の目が見えた所で張りやがったんです。

其を、ウチの仙吉が指摘して、三両の銭を引く様に促したら、野郎!いきなり段平を抜いて、其を振り回して暴れ始めたんです。

こん時に仙吉の奴とその場に居たウチの若衆が、立ち向かっていたら、展開は違っていたのかも知れませんが、

お客様を逃しながら、自分達も一緒に逃げてしまい。。。盆茣蓙の上の百十八両を盗まれて、まんまと旅籠へ逃げ込まれてしまいました。」

重蔵「その鐵五郎は、まだ、旅籠に居るのかい?」

仙之助「へぇ〜、旅籠の周りはウチの若衆が取り囲んで、ネズミ一匹這い出る隙は有りませんから、中に居るはずです。」

助五郎「それで、どうケジメを取るつもりだねぇ、祐天のぉ?!」

仙之助「ここは、今後の事や俺たちの面子に関わる事ですから、世間に俺たちが本気なのを示す意味でも、

旅打人で旅籠に集まっている百六十三人を、今回の不祥事の連帯責任で、全員撫で斬りにして血祭に上げてやろうと思います。」

万五郎「確かに、凶状持ちの旅打人達を、この御會式博打に入れる際には、あいつらが決めた頭目の統率命令に従い、間違いを絶対に起こさないのが条件で、念書まで取って在るから、

理屈では奴等は斬り殺されても文句は言えない立場だが。。。

その理屈が、公儀や代官所に通じるのか?もっと言うと、百六十三人殺して、本当に来年も、御會式博打は出来るのか?!」

卯吉「それと、旅打人の中には、うちの周太郎親分とは、正式に盃事をした訳じゃないが、兄弟同様の侠客、火の玉小僧、鬼ノ慶助さんが、頭として居なさる。

百六十三人を皆殺しとなると、鬼ノ慶助さんも、敵に回して斬り合う事になるし、鐵五郎と相撲崩れの朝比奈雷電だってかなりの強者だぞ?!

百六十三人相手の喧嘩だ、コッチだってあの三人を始末するには、それなりの手練れを用意する必要があるし、二百、三百の身内の犠牲も覚悟が必要になるぞ!」

榮次「オイオイその為に、上納金まで払って秋山鷹助先生を雇っているんじゃないのか?此処は一つ、秋山先生に相談申し上げて、鬼ノ慶助、鐵五郎、そして朝比奈雷電の三人を始末して貰おう。」


七つの盆茣蓙の代表は、不祥事を起こした善光寺ノ鐵五郎から、落し前を取る為には、野郎一人の首だけでは世間の笑い者に成ると考えて、

甲府に近い柳町の旅籠に纏めて留置いている旅打人、百六十三人全員の命を頂きに行くと、果たし状を認めて、旅打人の頭目である三人に送り付けます。

その上で、秋山鷹助を呼び出して、事件の経緯と、旅打人の頭目、鬼ノ慶助、善光寺ノ鐵五郎、そして朝比奈雷電ノ音吉の三人を先鋒として攻めて斬り殺して欲しいと依頼します。


一方、是を聞いた秋山鷹助は、是は赤尾ノ林蔵を世に売り出す宜い機会だ!と、思いますから、七つの盆茣蓙の代表たちに、

三人の始末を引き受ける替わりに、この喧嘩に落とし前を付ける全権を、拙者・秋山鷹助に預けると誓わせます。

また、柳町の旅籠の旅打人達も、賭場を荒らして百両を持ち逃げした鐵五郎が酔いが覚めるとえらい事件を起こしたと反省し、

指(エンコ)を飛ばして盗んだ百両を、全額返しに行くかと算段していたら、いきなり、『果たし状』が届き、是では首を届けても許されまい!と悟ります。

そして、御會式博打に来たばっかりに、鐵五郎の不祥事で命を奪われるかもしれない百六十三人の旅打人の事を思うと、頭目に担がれた鬼ノ慶助と朝比奈雷電の二人は落とし所に頭を痛めておりました。


さて、秋山鷹助は、岸丈右衛門を伴って、林蔵が居る山根村の温泉旅籠を訪ねます。

秋山「林蔵、居るかぁ?!」

林蔵「ハイ、是は先生?どうかされましたか?」

秋山「お前さんに、格好の漢を売り出す好機が訪れたぞ。」

林蔵「何ですか?其れは?!」

秋山「御會式博打の六番茣蓙、祐天仙之助が仕切る脇の盆茣蓙で、善光寺ノ鐵五郎と言う凶状持ちの旅打人が、百両からの金子を奪って逃げてしまった。」

林蔵「其れでは、盆茣蓙を敷いている親分衆は、怒り心頭でしょうねぇ〜。」

秋山「怒り心頭何んてもんじゃない。旅打人は全部で百六十三人居るのだが、是を連帯責任で、全員血祭だと決めて、先方へは、果たし状を送り付けているんだ。」

林蔵「果たし状?!そうは言いますが、先生。旅打人の凶状持ちにも、手練れが何人か居るでしょう?三十人力、五十人力、そして百人力が。」

秋山「其処でワシの出番よ。御會式博打の親分衆から、旅打人の頭目を務める手練れの三人を、ワシに斬り殺してくれと打診があった。」

林蔵「それで、先生はお受けになったのですか?」

秋山「上納金の手前受けた。しかし、一つ条件を付けた。其れは、この一件の落とし前の全権を、この秋山鷹助に預ける、と、七人の親分衆に誓わせだのじゃぁ。

其処で林蔵、貴様には命を掛けて、この仲人(ちゅうさい)役を務めて貰い、この御會式博打を仕切る親分衆と肩を並べて欲しいんだ。

つまり、この御會式博打のケツ持ちを務める親分衆と、貴様が五分に格付けされる親分になれば、高萩一家の子分連中は、簡単にはお前に手出し出来なくなるだろう?それが狙いよ。」

林蔵「しかし、西部の貸元、大前田の親分さんと肩を並べる親分衆ですゼ!鈴木忠吉、銚子ノ五郎蔵、土浦ノ皆次なんて伝説級の親分だ。

その下に控える、佐原喜三郎、飯岡助五郎だって、今の私の貫目なんかより、二枚、三枚上なんですゼ。そんなアッシが、この喧嘩の仲人(ケツモチ)が務まりますか?」

秋山「だから、拙者が命懸けと申しておる。務まらぬ時は死ね!林蔵。其れも漢よ。」


そうハッパを掛けられた林蔵は、兎に角、果たし状を突き付けられた、甲府柳町の旅籠へと出向き、仲裁交渉の条件となる戦利品を取りに参ります。

林蔵「御免なすって!?お控えなすって!!」

取次「誰だ!!貴様は?」

林蔵「アッシは、武州入間郡赤尾村で貸元を務める『赤尾ノ林蔵』と申します。」

取次「赤尾ノ林蔵?!って、あの高萩ノ伊之松の首を斬り、その前には、高坂ノ藤右衛門一家、七十人を独りで斬り捨てたと言う、あの!赤尾ノ林蔵さんですか?!」

林蔵「へぇ、その赤尾ノ林蔵です。」


赤尾ノ林蔵が来たぞぉ〜!!


取次の旅打人が、頭目三人に赤尾ノ林蔵が乗り込んで来たと伝えると、かつて、高坂ノ藤右衛門に殺されかけて、林蔵とは面識のある鬼ノ慶助が、応対に出て来た。

慶助「林蔵さん!久しぶりですね。火の玉小僧、鬼ノ慶助です。」

林蔵「貴方も、旅打人の中に居たんですか?」

慶助「ハイ、一応、頭目三人の一人です。御會式博打の盆茣蓙を荒らした鐵五郎も、宜く知っています。林蔵は何をしに来たんですか?」

林蔵「実は、高萩ノ伊之松を斬り殺して川越には居られなくなりましてね。甲州東郡の竹森ノ七蔵って親分に厄介になって居たんですが、

御會式博打には、大勢高萩ノ伊之松の身内がやって来るってんで、身体(ガラ)を交わして居たんですが、

剣の師匠の秋山鷹助先生が、此の御會式博打の用心棒をされて居て、貴方達三人への対応を引き受ける条件に、この揉め事を仲裁する全権を、秋山先生が手になされました。

其処で、秋山先生から、『林蔵!貴様がこの喧嘩を鎮めて参れ。』との命を受けて、此処に参上したと言う訳です。」

慶助「そんな訳が。。。其れで、林蔵親分!貴方の我々に対する処分は、どうなさるお積もりですか?」

林蔵「兎に角、血を流さない。一人の命も失わないで、この場を治めたいと思います。」

慶助「一人の命も差し出さず、御會式博打を主宰している親分衆が、我々を許しますか?百六十三人全員を皆殺しにすると、果たし状には書いておりますよ。」

林蔵「判っています。其を何んとか、一人も死なせる事無く、喧嘩を中止にさせるのが、この赤尾ノ林蔵の役目なんです。」

慶助「もし、そうして下さるのなら、此方、旅打人には全く異存は御座いません。」

林蔵「ヨシ、それならば、慶助さん!此の旅籠に居る旅打人全員が持っている金子を全て集めて差し出して下さい。

そして、頭目の三人は、頭の髷を落としてツルツル坊主にし、私に付いて、御會式博打の親分衆の前で詫びて下さい。」

慶助「分かった!其れで許されるのなら、我々は、林蔵親分!貴方の命に従います。」


元々、鬼ノ慶助は髷が有りませんから、替わりに子分の権左衛門が髷を切る。残る二人、善光寺ノ鐵五郎と、朝比奈雷電ノ音吉の二人も、正に断腸の思いで髷を落とします。

三人共に、クリクリ頭にされて、林蔵にのお伴に付いて参ります。更に、旅打人全員の金子が集められて、是が鐵五郎が盗んだ百十八両と併せて四百七十二両御座います。

是に、林蔵自身が二十八両足して、キリ良く五百両の金子に致しまして、三人の旅打人の頭目を連れて、御會式博打の親分衆の元へと参ります。

河原屋源兵衛と言う茶屋旅籠が、この時、御會式博打の親分衆の控え所に成っており、大前田英五郎、鈴木忠吉、西部ノ周太郎、銚子ノ五郎蔵、土浦ノ皆次、身延ノ半五郎、そして、祐天ノ仙之助と言った面々が一堂に会して居ります。

河原屋の周りには、喧嘩装束で捻り鉢巻の若衆が、鏡を開いた樽酒を煽りながら、旅打人が宿泊している旅籠に、何時討ち入れと命令が有るかと待っている状態でした。

其処へ現れた赤尾ノ林蔵。落とし差しの刀を、鞘ごと抜いて、右手に是を持って抜く意思が無い事を示して、玄関に居る取次の奴(やっこ)に声を掛けます。


林蔵「御免なさい!此方に祐天の貸元は、いらっしゃいますか?私は、武州入間郡赤尾村の林蔵と申します。祐天の親分さんに、大事なお噺が有って参りました。」

取次「是は是は。少々お待ち下さい。取次致します。」


取次の奴が、バラバラと駆けて奥に消えて、祐天ノ仙之助に、「親分、武州入間郡赤尾村の林蔵と名乗る方が、面会に来ています。」と、伝えると、

祐天ノ仙之助が首を傾げます。仙之助も、赤尾ノ林蔵って言う、今売り出し中の漢が居るとは聞いているが、

確かその林蔵は、高萩ノ伊之松の首を斬り落として長い草鞋を履いていると聞いた。この御會式博打の親分衆が集まる河原屋に、何をしに来たんだろう?と思います。

この河原屋には、伊之松の呑み分けの兄弟分が、十人、十五人と集まっている。其処へ飛び込んで来るとは、飛んで火に入る夏の虫。

仙之助「兎に角、会うから、丁重にお連れしなさい。」と、奴に伝えます。

林蔵は、旅打人の頭目三人には、入口脇の土間で待つ様に言って、独り草鞋を脱いで、通された奥の部屋に入ると、

綺羅星の如き有名な長脇差が二、三十人集まって、其処にトグロを巻いて居る。

ただ、林蔵を見付けた伊之松とは呑み分けの兄弟分、妙味ノ雷蔵、鰍沢三之助、一本柳源九郎、廣澤ノ兵衛門、まぼろしノ辰蔵の五人が、

『林蔵』と言う名前を聞いて、熱り立ち突然席を立ち上がる。すると、「やいやい、手前めぇ〜達、じたばたするんじゃねぇ〜!!」

と、大声で制したのが、一番茣蓙、甲州のドン西部ノ周太郎でした。

西部「林蔵は、貴様達に用が有って来たんじゃねぇ〜。仙之助に噺が有って来ているんだ!その噺が終わって、林蔵が此処河原屋を出てから、その後貴様達の好きにしろ!」

立ち上がった五人は、周太郎に言われて、苦虫を噛み潰したような顔をして座ります。ズラリ御會式博打を仕切る親分衆が並ぶ中、真ん中に置かれた敷布が一枚。其処へ林蔵は「敷物を頂戴します。」と、右手の側に刀を置き堂々と座ります。


林蔵「甲州の大親分、祐天の貸元が御座いましたら、お言葉を頂戴しとう存じます。」

仙之助「おう!申し遅れた。私が祐天ノ仙之助だ。噺の向きを伺おう。」

林蔵「左様で。アッシは縁有りまして、秋山鷹助政勝先生の門下で四年間、剣の修行を致しまして、その秋山先生からこの度の甲府での間違いに付いて子細を伺いました。

そして先生より、此れも何かの縁。林蔵、大野の街、イヤ、身延、甲府と甲州全土の堅気の皆様為に、貴様の命を賭して鎮めて参れ!と、仰せ遣って参りました。

決して、親分さんの顔に泥を塗る様な真似は致しません。ですから、どうが、この赤尾ノ林蔵の提案をお聞き届け願いたい。」

仙之助「オウオウ!誰なんだ貴様?俺の顔に泥は塗らないから、貴様の提案を聞けと言うが、貴様は何様のつもりだ?

喩え、貴様が國定村の長岡忠治だ!東海道の弓張、清水ノ長五郎だ!と、言われても、俺は聞き入れるつもりは無ぇ〜!!

この喧嘩は、旅打人百六十三人の首を、此処に貴様が持って参らぬ限り、落とし処は無ぇ〜んだよ!!一昨日来やがれベラ棒めぇ!!」


言われた林蔵、右に置いた刀をスーッと左に直して、足を直し低く姿勢を整えます。

林蔵「そうですかぁ。じゃぁ〜、失礼さんに御座んす。」と、その場を去ろうと致します。すると、


待て!林蔵。と、声が掛かる。


林蔵「やい!此処に居る親分衆から、俺様は半紙一枚恵んで貰った事は無ぇ〜。それを『林蔵』と、呼び捨てにするのは、何処のどいつだ?!出て来い!!」


妙味ノ雷蔵だ!

鰍沢三之助だ!

一本柳源九郎だ!

廣澤ノ兵衛門だ!

まぼろしノ辰蔵だ!


三之助「俺たちはなぁ〜、貴様に騙し討ちに合って殺された高萩ノ伊之松の兄弟分だ!その仇だ!覚悟しろぉ〜!!」

と、言って五人が林蔵を取り囲むと、その場の甲州者の子分の殆どが立ち上がり、その後ろから取り囲む。

林蔵「是は是は、『薄ら馬鹿五人男』の皆さんですか?!水晶と葡萄が名物らしいが、所詮、田舎奴の三下博徒のくせして、一人前の口をききやがる!!片腹痛いワ。

酒に酔って寺銭盗む善光寺ノ鐵五郎も悪党だが、その悪党にビビって芋を引いたのは、何処のどいつだ!!

貴様らの身内だろうがぁ?!この赤尾ノ林蔵様が、その腐れ博徒の芋引き野郎に、天誅を下してやるから掛かってきやがれ、一人、二人は面倒だ!束に成って掛かって来い!!」

と、啖呵を切って、林蔵が二尺三寸の段平物を右手でギラりと抜いた。その時、


待て!待て!待て!


と、大きな声で、その場に駆け込んで来たのは、果たして誰でしょう?!あぁ〜、お時間。この続きは、またの次回へ。



つづく