この読書シリーズ初の怪談噺、如何でしたでしょうか?怪談噺の中でも、余りに有名な『四谷怪談』をお届け致しました。
実際に生の講釈で、私が聞いていたのは、『お岩誕生』『淪落の女』『伊藤快甫の最期』の三話くらいで、他の場面は、この本で読むのが初めてでした。
特に、高田大八郎が櫻井吉郎太夫になっていて起こす『島文騒動』などは、非常に面白い物語なのに、残念ながら演じる人がおりません。
確かに、物語の本筋には一切関係のない部分ではありますが、お岩の最大の仇役、民谷伊右衛門の誕生秘話なので、連続を持っている先生にはやって貰いたいと思います。
また、風車ノ長兵衛は、非常に個性豊かなキャラクターなのに、この人物も生講釈では聞いた事がありません。
なんせ、お岩の復讐が、伊藤快甫は比較的直接攻撃であるのに対し、伊右衛門、長兵衛、伊藤喜平、河合三十郎に対しては、外堀を埋めるような復讐なので、当人を仕留めるまでがどうしても長くなる傾向にあります。
ただ、芝居や映画に比べると、長編の講釈の場合は、仕込み(ダレ場)が在って修羅場へと展開するので、この情緒というか趣を、理解して付いて行かないと楽しめないように思います。
あとは、この講釈の場合、お岩が怨みを抱いて怨霊と化すまでが51%で、復讐劇が49%という、ほぼ半々の構成です。
だから、怨みを受ける全員が紹介される51%の筋書の密度に対して、復讐劇49%のそれがどうしても薄く単調に感じます。
それでも、喜平とかしくの廓を舞台にした艶噺や、長兵衛が身延へ向かう長脇差が登場する股旅モノなど、それなりに工夫は在ります。
最後に、芝居の『四谷怪談』は、あまり良い公演に私は当たっていない。上方歌舞伎で1回、当代菊之助で1回見ているが、パッとしなかった。悪くはないのですが、同じ演劇で見るなら、怪談は映画だと思った。天知茂の四谷怪談は、なかなかいいと思います。
さて、次回『於岩稲荷利生記』を、連続でやろうか?とも思ったのですが、次回は、長脇差が活躍します、赤尾林蔵の伝記『関東七人男/文政七人男』をお届け致します。
是は、宝井の先生がやる講釈で、私は宝井梅湯さんのを、ほぼ全て朝練講談会で聴きました。梅湯さんが『関東七人男』を連続でやり、
浪曲師の玉川大福さんが、『清水次郎長傳』を連続でやると言う二本立て。なかなか、個性の異なる無職渡世を堪能致しました。
なかなか、この赤尾林蔵と言う侠客も、豪快なので、ご期待下さい。明治三十年の速記本で、『天保水滸伝』と同じ伊東陵潮の公演からです。
この伊東陵潮って講釈師は、十九回奥さんを変えたと言う破天荒な明治の芸人です。