講談、落語、そして浪曲でも、夏は怪談と相場は決まっておりまして、そんな怪談の中でも、此の『四谷怪談』は、非常にポピュラーな演目、
と、言うより、怪談と言えばお岩さん!と、言うぐらいに、怪談の代名詞と言っても過言ではない物語で、
誰しも一度や二度は、観たり聴いたり読んだりした事のある物語だと思うのですが、お岩と伊右衛門の愛憎劇が、どうしても芝居や映画・ドラマでは、抜き読みされるので、
この部分こそが、『四谷怪談』と思われがちですが、全編読んでみますと、極一部が抜粋されているのだと分かります。
圓朝作の『牡丹灯籠』も、「お露新三郎」「お札剥がし」が有名ですが、実は「孝助傳」が物語の中心であるのに似ていると感じます。
さて、今回の本は、そんな『四谷怪談』と『お岩稲荷利生記』の二本立てで、公演は初代悟道軒圓玉。現在の二代圓玉先生とは、全く関係は御座いませんが、
幕末に、あの二代目松林伯圓に弟子入りし、五代目松林圓玉で真打。後に、初代悟道軒圓玉を名乗る様になります。
この人は、新作講談をモダンに演じる旗手であり、あの川口松太郎!川口探検隊の隊長、川口浩のお父さんが、圓玉の家に住み込んで、その口述を文章に起こした事でも有名です。
さて、前置きはこの位にして、本編の方に入りたいと思うのですが、芝居の『東海道四谷怪談』についてダケは、少し触れてから、本編へと入りたいと思います。
先ずこの物語は、元禄に起きた実話が元となっているそうで、その事件の舞台は、雑司ヶ谷四谷町。つまり、中央線の四ツ谷ではないのです。
しかし、四ツ谷には、於岩稲荷田宮神社と、於岩稲荷陽運寺があるから、ややこしいと思ってしまいます。なぜ、雑司ヶ谷に神社やお寺は作らなかったのか?!理由は簡単です。芝居も講釈も『四谷左門町』が舞台だからです。
そして、芝居の鶴屋南北作の『東海道四谷怪談』は、全五幕で、あまり強調されないのだが、『忠臣蔵』の外傳?!という体裁を取った物語なのです。
つまり、公開された文化文政の頃は、『仮名手本忠臣蔵』に便乗して、話題を巻き起こして観客動員を狙った節が御座います。
また、上演が始まった文化文政期は、心中が江戸でも大流行して、心中の死に損ないには、公儀の厳しい罰が下されて、神田川を戸板に釘で手足を打ち付けられた男女が流されたりしたそうで、
その様な残忍な刑が、芝居の演出にも時折り利用されていて、お岩と小平の死体は、正に戸板の両面に二人が打ち付けられて、漂着するシーンとして描かれている。確か第三幕の山場です。
そんな紆余曲折も有りましたが、『東海道四谷怪談』は、お岩を音羽屋が、そして伊右衛門を成田屋が、更に直助を高麗屋が演じると言う豪華さが、この作品の人気を呼びました。
そして、『東海道四谷怪談』のお岩を演じる事は、音羽屋のお家芸にまでなったのです。
ただ、この芝居の題目には、何故か?!『東海道』の三文字が頭に付いております。この四谷左門町が舞台ならば、『甲州街道』だろう!鶴屋南北!!
そう!芝居の演目は、必ず奇数だからなのかぁ?!ならば、『甲州路』とかにすれば宜いじゃないか?!なぜ、『東海道』なのか?!
単に、メジャーだから?ゴロの宜さ?原作者鶴屋南北の趣味?この謎は、未だに分かりません。東海道の宿場や風情なんて、出て来ないし。。。
頃は、八代将軍吉宗が将軍となりました享保の頃で御座います。江戸は四谷左門町に、民谷又左衛門と言う、極々身分の軽い御家人が居りました。
この物語は、この又左衛門の娘から、事が起こるのでありますが、この又左衛門と言う人は、三十俵三人扶持ちでして、徳川家(とくせんけ)の直参では御座いますが、誠に微々たる者、
然し、内福で小金が御座いますし、すこぶる手先が器用な人で、籐細工を作り是を問屋に持込みますと、職人顔負けのお足を頂戴するという才が御座います。
また、夫婦仲は良く温順な性格で御座いますから、組屋敷に住んでおりましても、ご近所からの評判も宜しく、頼りにされる存在です。
この又左衛門には、今年十八になる一人娘の『津奈』が御座いまして、是が夫婦の悩みの種で御座います。なぜなら世間から!『どうして?!』と、同情を買う程に醜い娘で御座います。
先ず、十八なのに、十八には到底見えません。チラッと見ると三十五、六、じっくり見直したら二十七、八、そして半刻も一緒に過ごすと五十三、四に見えて来ると言う摩訶不思議な容姿をしております。
と、申しますのも、この娘は、七歳の時に松皮疱瘡と言う、極々たちの悪い天然痘に掛かり、命を失い欠ける程の大病を致しまして、
顔一面が、軽石か?!ヘチマの束子か?!安いスポンジか?!という有様で、しかも、色は黒く、目も糸ミミズがのたくった様で、
また、髪も癖ッ毛のチリチリ、しかも、鋤い(すい)た様に疎らな本数!三百六十五本!一年を自で行く様なチリチリで御座いますから、鬘を付けるか頭巾を被らないと人前には出られない。
其れが年頃になり、白粉を塗りたくり、紅を指して、化粧を試みたり致しますから、其れは其れは不気味を通り越して、浅草奥山からスカウトに来る様な本寸法の妖怪で御座います。
其れを見るにつけ、又左衛門は女房のお仲に、こんな小言を申します。「おい!仲、娘を何とかしなさい!アレに白粉や紅を使わせるな!!頭巾も目立っていかん!恥の上塗り、不憫でならぬ。
是が並の器量の娘であったなら、お津奈は引く手数多だったろうに。。。さすれば、今頃は夫婦二人して楽隠居で。。。我が世の春を謳歌しておったのに!!
お津奈は、本に優しくて淑やかなれど、其れに気付いてくれる程に、お津奈を観てくれる男が世の中にはおらん!!実に口惜しい。」
民谷家の婿養子にと、数多声を掛けて、持参金を積んではみても、このお津奈を新造に迎えたい!と言う酔狂な。。。キリストの様な慈愛に満ちた男は、なかなか現れません。
そんな民谷家には、奉公人の下男で、傳助と言う男が御座います。生まれ故郷は下総は東金在、幼い頃に両親を失い叔父夫婦に育ててられますが、
直ぐに江戸へ奉公に出されまして、職を転々とするうちに、縁あってこの民谷家に奉公に上がり、もう半年を迎えた二十一歳で御座います。
此の傳助、六尺ちかい大男で、色が白くぽっちゃりした愛嬌のある顔で、実にひょうきんな性格ですから、ご近所にも可愛がられる人気者で御座います。
この傳助に、お津奈が恋心を抱く様になるのですが、傳助としては、お嬢様と奉公人ではあるし、お津奈のあの容姿ですから、恋へと発展するような事は御座いませんでした。
そして、春に雇われた傳助、当時の江戸名物、筑波颪の極寒の風が吹き荒れ始めた季節を、民谷家の組屋敷で、初めて経験致します。
是まで傳助が暮らした町場の長屋とは異なり、武家が住む屋敷は床下が高く、建物の床下を風が通り抜ける構造ですから、極寒の筑波颪が床下を通り抜けて寒さを室内に伝えるのです。
そんな享保三年極月十九日の夜、傳助は床下を通り抜ける筑波颪に苦しめられて、布団の中でその寒さと戦っておりました。
傳助「何んという寒い晩なんだろう?!凍えてしまう。もう少し暖かくしたいもんだが。。。おーっ!寒む、おーっ!寒む。
この風は何処から来るんだろう?!此の襟元にぢぃーっと!染み渡る風の冷たい事!!驚いた!驚いた!
其れに、この布団が薄い!煎餅布団とよく言うが、是は煎餅どころか畳鰯だ!!」と、畳鰯並の布団の中で愚痴を言う傳助は、身体が芯まで冷えて、頻繁に厠へ立っておりました。
又左衛門「傳助かぁ?!貴様、また厠へ行くのか?腹でも痛むのか?」
傳助「私の部屋は寒くて!寒くて!冷えますとみえて、小便が近くて難儀しております。」
又左衛門「左様かぁ。そんなに寒いのなら、娘の部屋で寝ろ!あそこは暖かい。」
傳助「いいえ!其れには及びません。お休みなさい!旦那様。」
そそくさと部屋に戻った傳助は心の中で呟きます。『どうして!どうして!お嬢様の隣で寝れるものかぁ?!昼間でさえ出し抜けにあの顔を見るとゾッとして震えが来る程だ。
其れを行燈の光で見たりしたら、間違いなく、気絶してトラウマになる!!桑原!桑原!鬼も十七番茶も出花というが、
年若なのにあんなに醜いんだ!アレが老婆さんになったら、アレより更に艶が抜けたら、そりゃもう妖怪変化か化け物だろう?!桑原!桑原!
然し、声は可愛いんだよなぁ〜、お淑やかで優しいし、控えめな性格なのに、思えば気の毒な方だ。面の醜いは焼き直しが利かないからなぁ〜、気の毒千万だ。
あぁ〜、其れにしても寒い!!もう一度しょんべんに行こう!』と、又、厠へと布団を抜け出す傳助でした。
又左衛門「傳助!又しても厠かぁ?!どうして娘の部屋へ行かん!?暖かいぞ!遠慮はいい、娘の部屋へ行け!!」
傳助「いいえ、旦那様!宜しゅう御座います。」
又左衛門「よいよい、遠慮はするな!暖かいぞ、娘の部屋は。」
傳助「そうまで旦那様が仰るなら、お言葉に甘えまして、お嬢様のお部屋へ。。。」
顔さえ見なければ!?
あの部屋の隅で、壁を見て寝れば、暖かいから直ぐに眠れるに違いない。そう思った傳助、自分の布団を担いで、お津奈の部屋へと参ります。
傳助「お嬢様!今晩は寒いので、お嬢様の部屋の隅で寝ろと、ご主人様の命令に御座います。どうか、部屋の隅で寝る事をお許し下さい。」
お津奈「あい分かりました。此方へ来て眠るがよい、此処は暖かいから。」
傳助「有難う御座います、お嬢様。旦那様の命令ですから、宜しく頼み申します。」
お津奈「本に、お前の布団は、薄いのぉ。私は下に二枚敷いて、上に二枚掛けています。上の一枚を貸してやりますから、是をお使いなさい。」
傳助「お嬢様!恐縮に御座います。其れならば、拝借致します。有難う御座います。」
今までは、綿の抜けた袷布を掛けて、敷布団と共に縦に真っ二つに折って、所謂、『柏餅』と呼ばれる仕様で寝ていた傳助でしたが、初めてフカフカの綿入りの布団を掛けて寝た。
是は今までの寒さが嘘の様な暖かさで、快適な寝心地になった傳助。あとは、お津奈の顔さえ見なければ完璧だ!と、壁の方を向いて寝る事にした。
十八の娘と二十一の男が一つ屋根の下、同じ部屋に寝ておりますから、本来なら落語『お花半七』の様に、ふとしたきっかけが有れば、いい仲が出来上がるハズなのですが。。。
如何せん!お津奈の器量の方が、大問題で、快適なぬくぬくの布団の中、傳助は白川夜船へと誘われつつありました。
その睡魔の波の切れ間、ふと目を開けた傳助、さっきまで点いていた行燈の火が消えて、真の闇に部屋が包まれた事に気付きます。
すると、途端にお津奈の使います髪の油か?はたまた、お津奈自身の色香なのか、えも言えぬ甘酸っぱい香りが、傳助の鼻を誘惑致します。
ふと、見るまいと誓ったお津奈の方へ寝返りを打ちますと、闇に影と成ったお津奈が寝ております。
傳助、是を眺めて心で呟きます。『其れにしても、お嬢様も人の子、鬢(びん)に油なんぞを使うと、可愛くもあり艶やかだ!其れに、声が宜い!傳助やぁ?!っとオイラを呼ぶ声なんざぁ、堪らない。
でも、声に反応して、どんなにか宜い女かと見ると、目に飛び込んで来るのは、妖怪「砂かけ婆』並の化け物だから、一気に萎えてしまい残無い気分に陥る。』と、心で呟いていたつもりの声が、時々漏れてしまいます。
お津奈「傳助やぁ!何をぶつぶつ言っているの?!」
傳助「あぁ〜いや、お嬢様、まだ、起きていらしたんですかぁ〜、アッシはお嬢様が親切にも、お布団を貸し与えて下さった事が嬉しくて。。。感謝の言葉を呟いておりました。」
お津奈「傳助やぁ!お前は私の意(こころ)の裡(うち)が判かったかぇ?!」
傳助「えぇ、お嬢様の想い、この傳助、知らぬとは申しませんし、アッシも、お嬢様のご親切を日頃から嬉しく思っています。しかし、アッシは奉公人ですから、表に出して貴方をお慕い申す訳には。。。参りません。」
お津奈「こんなに醜い、私をかぇ?!」
傳助「そりゃぁ、貴女様の顔は好しくない。だが、貴女の心は菩薩様にも負けない優しく慈悲深い、だから、アッシは貴女の心に惚れました。」
お津奈「其れは、お前!本当かぇ?!」
布団から半身を起こし叫ぶ様に言うお津奈の影に、傳助は、ビビビッ!と電気が走り、そのお津奈の声に色気を感じて、この夜二人は一つになりました。
かの清少納言は、『遠くて近いは、男女の仲。そして近くて遠いは船の路(田舎の路)』と申しましたが、実に上手い事を申します。
かくして、お津奈傳助も、お花半七の様に「させぬ仲」「あらぬ仲」「禁断の仲」と相成りますが、是は『宮戸川』と言うよりも、『味噌蔵』に似た恋に、私は思えます。
烏かぁー、で夜が明けて、民谷家の在る組屋敷界隈では、稀代の醜婦!と評判のお津奈と、その様な関係を持った傳助、最初は、自殺を考える程に、後悔を致します。
しかし、又、寒い夜がやって来て、又左衛門に『娘の部屋で寝ろ!』と、言われ、此れに従いのこのこと、お津奈の部屋へと暖を取りに参ります。
最初、二回は、自身の畳鰯布団を持参した傳助でしたが、三回目からは、身体一つでお津奈の部屋へと夜這いを掛ける。
こんな事を繰り返して、新玉の春を迎えて、睦月、如月、弥生の三月桜が散り、初夏の卯月を迎えておりました。
もう、寒くは有りませんが、相変わらず、傳助はお津奈の元へ夜這いを掛けております。傳助は、もうお津奈を『お嬢様』とは呼ばす『津奈』と呼び捨てにする仲で御座います。
傳助「有難う!津奈、掛け布団を飛び出した俺に、お前の薄手の着物を掛けてくれて。」
お津奈「ハイ、お前さんは、私の大切な旦那様ですし、生まれて来る、やや子の父親(てておや)ですもの、風邪を引かれては困ります。」
傳助「父親!!ってお前。。。まさか?!」
お津奈「当たり前です。毎夜毎夜、夜這いを掛けてまぐわえば、やや子が出来て当然です。ほら、この腹を見て下さい。もう、四ヶ月。この通りで御座います。」
傳助「どうするつもりだ、津奈!こんな事が、ご主人様に知られたら。。。俺は暇を出されるぐらいでは、済まん!!手討ちにされるぞ!」
お津奈「もう、知られております。昨日も、懐妊しているだろうと、凄い剣幕で父に問い詰められました。
私と母で、何とか誤魔化しましたが、もう、一月したら、腹がかなりセリ出して、狸の様に、ポコランポコランポンポコランと成ります。
そうなったら、もう、誤魔化せなくなり、お前さんは父に斬られて、この子は父親無し子に成って仕舞います。
だから、私を連れて、何処かへ逃げて下さい。お前さんの故郷の上総の東金でも、何処へでも、私は付いて行きます。」
傳助「待ってくれ!そんな突然。お前を連れて逃げる甲斐性も、度胸も無い!そんな事を、急に言われても。。。お前を連れて。。。逃げるなんて。。。妖怪と一緒に?!無理だ!
一緒は無理だから、こうしよう、津奈。二人、独りずつ、バラバラに、取り敢えず、一旦は逃げよう。そして、いずれ時を見て又逢おう。」
お津奈「傳助!貴方と言う人は、何と薄情な!私と此の子を捨てて逃げるつもりですか?!」
傳助「違うよ!津奈、連れて逃げても暮らして行けないと、二人、いや、三人共倒れだ。だから。。。」
お津奈「もういいです。全部、嘘だったんですね。醜い私は連れて逃げないと傳助!貴方が言うなら、私にも考えがあります。
直ぐに井戸に身を投げて、此の子共々死んで仕舞います。その代わり、覚悟しなさい!傳助。三日、三日の内に貴様を呪い殺す為に化けて出てやる!!」
元々、化け物の様なお津奈に『化けて出る!!』と、宣言された傳助の恐ろしさ!皆様も想像できると思います。
傳助「分かった、お前を連れて逃げる。だが、きっかけが欲しい。そしたら、俺が両親を亡くし江戸に出て来て以来、親身に面倒を見てくれた神田の伯父貴に手紙を書く、
事の経緯を全部話して相談し、今後の身の振り方や、仕事の相談もするから、五日!五日でいいから待ってくれ。」
お津奈「ハイ!わかりました。では、五日後の卯月十五日に、逃げる段取りで、お願いします。
しかし、燃しもお前さんが、私と此の子を捨ててたら、間違いなく自害して、貴方を化けて出て、必ず取り殺しますからねぇ!覚悟、しいやぁ〜!!」
糸ミミズのお津奈の目が、バチっと開いて、傳助に重圧を掛けます。仕方なくでは有りませんが、逃げる気持ちを前向きに修正する傳助。
神田の伯父に、手紙を書いて、取り敢えず複雑だから会って話す事にして、女を連れて逃げる事。
言いたくないが、相手は徳川家直参の御家人のお嬢様だから、バレたら命がけの駆落である事。そして、相手のお嬢様は懐妊している事。
ただ、この手紙を読んだ伯父を、どんなに美しくお姫様と駆け落ちして来るかと期待させて、あの『出たなぁ!妖怪』と、鬼太郎の決まり科白を言わせるのかと思うと不便であった。
いよいよ、逃げる当時の夜、この後の二人の夫婦の縮図を見るような、お津奈主導、カカァ天下の関係が構築されます。
先ず、この五日間でお津奈は、母お仲を自身の味方に付けて、父・又左衛門が公儀の仕事があるその日に、母自身は又左衛門の名代で無尽に出て、五両の現金を落とし娘に渡します。
お津奈「傳助!当面はこの五両で、暮らしは成り立ちます。それでも、ここの家財道具と、衣類は持って逃げますよ!!」
傳助「津奈?!伯父貴に、手土産が欲しい。その五両から、何んか?買ってもらえるか?」
お津奈「馬鹿言っちゃ困るよ。この五両は、虎の子の、生まれて来るやや子の為のお金だよ。伯父さんには、ほら!その台所にある、沢庵、アレを持って行けばいいよ。」
そして、傳助は鍋釜と履物、そして傘など重たい物を、民谷又左衛門邸から持ち出す段取りを致し、お津奈は、自身の着物を風呂敷に詰めて逃げる事に相成ります。
つづく