駿河屋留吉が仕組んだ、息子・留次郎への『軟化計画』は、上手く行き過ぎまして、店の金をくすねては、潮来の鶴屋へと通い雛鶴花魁の処へ居続けをする様になります。
留吉「婆さんやぁ!倅が、ちと、柔らかく成り過ぎたなぁ〜。」
女房「柔らかく成り過ぎたじゃぁ、有りませんよ。クラゲか?蒟蒻?マンボウの刺身ですよ。」
留吉「マンボウの刺身は、小田原ぐらいしか、食べる土地は無いだろう?柔らかい物の全国区じゃない。」
女房「そんな事は、どーでも、宜しい。それより、留次郎!遂に、私の手文庫からも、十両盗んで鶴屋へ行きました!」
留吉「其れは由々しき事態ですよ。公儀の法でも、十両盗むと首が飛ぶと、決められています。其れを知っていて、十両盗むとは。。。倅は、どういう料簡をしているのやら?!
たとえ母親からでも、十両の金子を盗む様になった事は、本当に捨てがたい!今日と言う今日は、小言ぐらいでは済まされない!膝突き合わせて意見しましょう。」
その日の九ツ半。もう八ツに近い真夜中で御座います。駿河屋は古い家由えに、留次郎が抜足、差足、忍足で、二階の自分の部屋へ帰ろうとしましても、
ミシミシ!ミシミシ!
と、床の軋む音と、ハシゴがたわむ音は、どうやっても消せません。理由(ゆえに)、奥に居る留吉夫婦に帰って来た事は、筒抜けです。
留吉「留次郎!何をコソコソ、盗っ人の様に家へ帰るのだ!!ハシゴを下りて、奥に直ぐ来なさい!貴様に、尋ねたい事が在る!!」
締まった!バレちまった。と、留次郎、観念致しまして奥の両親の部屋へ参ります。
留次郎「是は是は、お父上、お母上も、まだ起きてらっしゃったんですねぇ?私は、てっきりお休みだとばかり思いまして、なるべく静かに部屋に入ろうとしたまでです。」
留吉「そんな事より!貴様、婆さんの手文庫から十両盗んで、鶴屋へ遊びに行ったと言うのは本当か?
宜いか?十両盗めば首が飛ぶんだ。其れを、お前は、母親の手文庫から何の断りも無く十両の金子を持ち出すとは!
お前が、その料簡を改めて、廓通いを慎むと申すならば、考えてもやろうが、そのままの料簡ならば、貴様は勘当だ!!」
留次郎「父上!お言葉ですが、私は確かに母上の手文庫から十両持ち出して、鶴屋へ行きましたが、其れは盗んだのではなく、お借りしただけで必ず返金致します。
一昨日、母上が既に寝ていらしたので、わざわざお起こししても、十両ばかりの金子の事で失礼かと思い、黙って持ち出しました。せめて書置の一つも残すべきでしたね?反省致します。」
留吉「何を調子の宜い事を抜かしてやがる。借りたと言うのなら、何時返すと言うんだ?!答えろ、留次郎!!」
留次郎「ハイ!今、此処で返しますよ。ささっ、母上!十両です。そして、銭は借りたら金利/利息と言う物を付けて返すのが、公儀の法ですから、利息として三両もお支払いします。
其れから、父上にはご心配を掛けたお詫びに、この鶴屋から土産に貰った『灘の生一本』を、一升徳利のまんま進呈致します。」
留吉「おやぁ?!どう言う風の吹き廻しだ。なぜ、鶴屋に二日間居続けした貴様が、十両返せるんだ?其れどころか、金利手数料を自ら三両負担するとは、貴様は何時から『ジャパネットたかた』に成った!!
しかも、俺にまで『灘の生一本』を土産に遣すなんて!!帰り路、本当に盗賊にでも成ったのか?其れとも、遂に、博打も打つ様になっちまったのかぁ?!
早く、その十三両と『灘の生一本』の出所を答えなさい!お前の答え次第では、本当に勘当にします。人別帳から抜かれる覚悟で!早く答えなさい、留次郎!!」
留次郎「父上、盗んだ銭でも無いし、ましてや、博打なんてやりません。」
留吉「じゃぁ〜、なぜ、十三両と『灘の生一本』を貴様が持っているんだ?!」
留次郎「私は、父上と違って大そうモテる上に、鶴屋の雛鶴花魁の『間夫』に成って通い詰めております。だから、私の玉代、飲食代、そしてお土産代は、花魁が立て引いてくれるんです。」
留吉「立てを引くたって、其れを万度やっていたら、直侍の三千歳花魁みたいに、自分が借金塗れ(まみれ)に成り、大変な事に成るはずだ。
だから、百両使えば十両ぐらいは立て引いてくれるかも知らないが、其れを間夫だ、なんぞと言って廓通いを止めないならば、やはり留次郎、貴様は勘当だ!!」
留次郎「父上、私も商人の端くれです。直侍とは違うんです。ちゃんとソロバン勘定をして、雛鶴の借金が、嵩まない様に工夫しながら、
その上で、私が鶴屋で百両使うならば、自己負担は、十五から二十両。残りの八十から八十五両は、雛鶴が立てを引ける様に工夫しています。」
留吉「何だ?其れは?!そんな事が、どうやって出来るんだ?八十両の金子を花魁が立て引いて、其れが借金に成らないなんて!?手妻遣いじゃあるまいし、そんな事がどうやって出来るんだ?!」
留次郎「まぁねぇ、他ならぬ父上だから教えますが、他言無用に願いますよ。先ずは雛鶴の玉代台帳を広げて見たんです。
すると、流石、鶴屋の板頭ですよ。一月に五百両から、紋日の在る月は、千両からの玉代が上がるんです。
其処で、薄く広く他の客から、吝な客には一割から一割五分、豪気な客からは二割五分から三割の玉代を割増徴収して、雛鶴が私の為に貯金してくれるんです。
また、割増の集金にも一工夫します。日々の玉代を割増ばかりしていると、アレ今日はなぜ、高いんだろう?と、怪しまれますからねぇ〜。
だから時には、『父が病で』とか言って手紙を書いて、『文違い』のお杉の様に、集金する事もあるのです。」
留吉「お前って奴は、偉い!!其れでこそ、ワシの倅だ。今度は百両貸すから、百三十両にして返してくれ!!」
留次郎「お父さん、広く薄くです。ところで、潮来の新町の若い芸者に、染奴と言う芸者が居て、此れが透き通る様な色白で、ぽちゃぽちゃっとした下膨れの、如何にもオヤジさん好みの奴でして、
その染奴に、先日座敷で話をしてみると、年寄好きで若い男には興味が無いと言う。
其処で、うちのオヤジが、お前さんみたいな芸者が好みだと水を向けると、是非、今度お会いしたいと言うんです。
どうです、お父さん、明後日、二人で寄合の帰りに、新町の染奴を上げて、遊びませんか?」
留吉「何にぃ〜、色白、ぽちゃぽちゃ、下膨れの芸者!!ヨシ、明後日だなぁ!一緒に、新町へ行こう。婆さん、久しぶりに色街へ行く、着物と小遣いを頼む?!」
女房「嫌ですよぉ〜、お前さんまで。ミイラ取りがミイラに成っちゃ!!」
そんな訳で、時々、留吉・留次郎の親子して、潮来の色街で遊ぶように成りまして、留次郎は、もう家には月に四、五日しか帰らず、鶴屋に居続けの有名人になります。
アさて、そんな鶴屋には、雛鶴花魁目当ての客が数多在る中に、飯岡助五郎の身内で、『土竜(モグラ)ノ新助』と言う、シケたチンケな博徒が御座います。
このモグラ、同じ『しんすけ』でも、夏目ノ新介とは大違いで、見た目は不細工、腕っ節はカラっきし弱い。飯岡の中でも下っ端中の下っ端で御座います。
しかし、このモグラ!ただのモグラじゃ御座んせん。博打に関しては、天性の才能と、場を読む力が御座いまして、まず、負ける事が無い。
勿論、負けない為に、新助なりの努力が御座いまして、一つの賭場で大勝ちをしない。兎に角、目立つ存在になると、やっかみ恨み妬み嫉みを買って博打に勝てなくなるのを知っていますから、広い範囲を旅して賭場巡りを致します。
東は奥州は仙台から、西は相州の小田原まで、自身の身の丈に合う勝負ができる賭場を訪ねて稼ぎ(シノギ)を致します。
この土竜ノ新助が、一月半ぶりに飯岡へ戻るので、久しぶりに鶴屋へ行くからと、雛鶴宛に文が届きます。
留次郎「どうしたんだい、雛鶴?!浮かない様子で?!」
雛鶴「私のお客ではあるんですが、飯岡ノ助五郎親分の身内で、土竜ノ新助ってチンピラが居るんですが、そのモグラが、博打で儲けたから鶴屋に遊びに来るってんですよ。」
雛鶴「いいじゃないかぁ〜、博打に勝って銭を持って遊びに来るんだから、宜いカモじゃないかぁ〜。」
雛鶴「其れはそう何ですが、まぁ〜意地汚い田舎者で、遊び方が野暮で、しつこいの何のって。。。正直、お金だ!と、思うから相手するけど、夜鍋はしたくないお客です。」
留次郎「お足を頂戴するからには、宴会だけとは行くまい。夜鍋するから金子を払うんであって、夜鍋抜きには出来まい。」
雛鶴「留さん!何とか貴方のお知恵で、夜鍋させない手段(て)は有りませんか?」
そう愛する雛鶴から鼻に掛かった声で言われた留次郎、相手がチンピラとは言え長脇差なのに、悪い事を思い付いてしまいます。
此のモグラが来たら、兎に角、宴会で陽気に盛り上げて煽てて、呑ませて食わせて、宴会場で酔い潰す作戦です。
予め、芸者・幇間とも入念に打合せして、土竜ノ新助が喜ぶような世辞と、宴会芸と、料理、そして酒を用意致します。
そんな事とは露知らず、土竜ノ新助は、懐中に百五十両の金子を入れて、鶴屋へとやって来る。勢いよくハシゴを駆け上がり『引付』へ。
新助「婆さん!そら、祝儀だ。雛鶴を頼む。」
遣手婆「雛鶴さんから、承っております。私の一番大事な、モグ。。。新さんが来るから宜しくと。ささぁ、奥へどうぞ。」
お客様、一名様、百合の間へご案内!!
遣手婆の指図が有り、若衆の通る声で宴席の支度の出来た『百合の間』へ通された土竜ノ新助。唐紙を開けてビックリします。
一人で遊びに来たのに、其処は二十畳はあるダダ広い部屋。更に芸者が八人、幇間が五人(内の一人は留次郎が化けて居ります)、そして店の中居と若衆も三人ずつ。
つまり、雛鶴とモグラを加えると、二十一人に成りますから、広過ぎるって事は有りませんが、其れにしても文句の一つも言いたく成るのが人情です。
新助「やいやい!てめぇ〜達。何で呼びもしないのに、この座敷に居るんだ?!』
留次郎「いえねぇ〜、雛鶴さんからの声掛かりで『私の間夫が、長い旅から帰るから、皆んなでお祝いしておくれ!』と、頼まれまして、申し遅れました、アッシは幇間の三八で御座います。」
新助「なんだ!雛鶴の考えた趣向なのかぁ?それなら宜いんだ。」
留次郎「では、芸者衆から自己紹介のご挨拶です。」
芸者八人、幇間五人が、其々、自己紹介してからのご挨拶!先ずは、ご祝儀を下さい!私たちに祝儀を切らないと、雛鶴花魁は出しませんよ!と、言わんばかりである。
仕方なく、懐中からギッシリ小判の詰まった胴巻を出して、新助が七両二分を小粒で取り出して、肌銭で一人に二分ずつ配って行った。
留次郎「早速のご祝儀、有難う御座います。流石、雛鶴花魁の間夫だけの事はある。空気を読んでの、電光石火のご祝儀配り!!ヨッ、色男!憎いねぇ憎いねぇ!」
何が憎いか、モグラには分からないまんま、乾杯!お帰りなさいまし!と、酒肴が運ばれて来ますと、三味線が三丁、太鼓は大太鼓と締め太鼓の二つ、其れに笛と鐘まで入ります。
つまり、留次郎以外の幇間は、太鼓と笛、鐘要員で、芸者も三人の大年増は腕っこきの三味線使いで、四人の年増が踊り手、唯一若い芸者が、モグラの隣で酌婦を務めます。
そして、一節やると全員が酒肴のあるお膳に戻り、食うわ!呑むわ!で、地獄の餓鬼の如し!!アッと言う間に、皿やお鉢を空にします。
新助「おい!三八、雛鶴花魁はまだ来ないのかい?!ちょっと様子を見て来てくれ!」
留次郎「ハイ、畏まりました。」
留次郎、宴会場を出て廊下を渡り、雛鶴の部屋へと参りまして、
雛鶴「どうだい?モグラの様子は?」
留次郎「面喰らってたよ、十九人でのお出迎えに。まだ、素面だし、あと半刻ばかり奴さんを焦らしてからの方が宜いなぁ、雛鶴!お前が座敷に来るのは。
其れから、銭はたんまり持ってやがるぞ!百両は固い。もっと持ってやがるかもしれない。兎に角、今日は手一杯!散財させましょう。」
悪い算段が出来上がっておりまして、そうとは知らない土竜ノ新助は、煽ててられて、また、周りの芸者、幇間の呑み食いに負けじと、たらふく呑む!食べる!そして、踊らされ唄わされ、みるみる出来上がって参ります。
新助「お〜い!三八、三八、まだ、来ないのか?雛鶴は、何時まで化粧してんだ?!いい加減にしなさいよぉ〜、ったく!!」
留次郎「間夫に逢うんで、入念なんでゲスよ、暫く、お待ち下さい。」
引っ張りに、引っ張って、一刻の間、雛鶴をお預けにして、散々呑み食いさせた所で、待ちに待った真打・雛鶴の登場です。
雛鶴「お待たせしました、新さん!元気?」
新助「やい!雛鶴、遅いぞ、ささぁ、こっちへ来〜い!」
新助の隣に座った雛鶴が、薦め上手に酒を酌してくれますから、新助、もう半刻も経つと二升近い酒を呑まされて、意識を失って伸びてしまいます。
「ヨシ、皆さんお膳の上の料理を、喰い尽くしたら撤収です。」そう、留次郎が声を掛けると、芸者と幇間達は、また餓鬼と化して、アッと言う間に、お膳の上を空に致します。
そして、伸びている土竜ノ新助に、掻巻を掛けてその場に寝かせて置きまして、留次郎は雛鶴の部屋へと下がります。
この時留次郎、流石に、百両金の胴巻を抱いたまんま、新助を此処に寝かせては置けないので、懐中から胴巻を抜き取り預かります。
そして、二刻程時が流れて、八ツの鐘が鳴り『お引け〜』と言う若衆の声で、新助が目を覚まします。
喉はカラカラ、しょんべんはしたい、掻巻が掛かっているから、雛鶴の部屋か?と思って起きると、さっき迄宴会をしていた、あのダダっ広い部屋だ?!
兎に角、しょんべんして、値千両と値が決まった水を飲みたくてしょうが無い。廊下へ出て、ハシゴを降りて、厠を使う新助。
そのまんま、丁場の横の部屋で寝てた若衆を引っ叩いて起こし、台所から水を持って来させます。その水を一気に飲むと、些か、冷静になる新助。
アッ!百五十両の胴巻が無い!!
もう、間違いなく盗られたと思いますから、モグラの小さな脳味噌で考えます。雛鶴がグルで、あの三八に盗ませたに違いない!!
今度は、静かにハシゴを上がり、抜足、差足、忍足で『百合の間』に戻り脇差を取って、そのまま雛鶴の部屋を目指します。
雛鶴の部屋の前で、一呼吸ついて、脇差の鞘を払う新助、勢いよく戸を開くと、更に次の間の障子戸を蹴破り中に入ります。
戸の開く音で、モグラが殴り込んで来た!と、思った留次郎と雛鶴は、一つ布団に二人で入っておりますから、此処に踏み込まれたら、万事休す!!
留次郎「雛鶴、俺がお前の体に重なって、布団の中へ潜ずり込んでやり過ごそう!」
そう言って留次郎が、布団へ潜ずり込むと、新助が、勢い良く中へと入って来ます。
新助「雛鶴!貴様、俺の胴巻を盗んだなぁ?!」
雛鶴「何の事だい?私しゃ知らないよ!」
新助「白らこいのぉ〜、あの三八とか言う幇間と、貴様グルだろう?面倒臭せぇ〜、布団にこの脇差を突き刺して、貴様を殺してから、ゆっくりと探すとしよう。」
是を聞いた布団の中の留次郎が驚いた!此処に隠れて居たら、雛鶴諸共串刺しにされて仕舞う。一か?八か?だ!!
留次郎、掛け布団を跳ね退け、新助にその掛け布団を被せて、一瞬、前を見えなくする。更に、さっき新助の懐中から抜いた胴巻を出して、中の小判を、部屋に撒いて、雛鶴の手を引いて、隣の部屋との境界の唐紙を突き破り、逃げ込んだ。
一方、新助は、撒かれた胴巻の小判を見て、あの三八の野郎、雛鶴と出来てやがったのか?!と、完全にブチ切れて、銭を拾うのは二人を叩き斬ってた後からだ!!と、直ぐに跡を追い掛ける。
土竜ノ新助が、段平片手に隣の部屋へ、勢いよく殴り込んで行くと、ガッシリした男が一人、浴衣に広袖を羽織って、お膳には鮪の刺身、燗酒をちびりちびりやっている。
新助「やい!今、男と女が逃げ込んで来たはずだ、其奴等盗っ人だ、素直に出して貰おうかぁ?」
男「おう!おう!貴様、誰の部屋に殴り込んで来たが分かっているのか?俺は、岩瀬ノ重蔵一家の代貸!勢力富五郎だ!!
この部屋を、貴様が家捜しして、猫の子一匹見付からない時は、お前の小指(えんこ)飛ばすぐらいじゃ済まないぞ!其れを覚悟で家捜しするなら、好きにしやがれ!」
土竜ノ新助、相手が勢力富五郎と聞いて、ビビリました。勢力とモグラでは、月とスッポン、人間国宝と前座見習くらいの違いです。
土竜ノ新助、『ご迷惑様でした!』と、自分の方から謝まって、雛鶴の部屋へ引き返し、胴巻と百五十両を拾って、駆け込む様に丁場へ降りて勘定を済ませようと、その伝票を見て又ビックリ!!
百二十八両也
一方、勢力富五郎の部屋では、もういいぜ!出て来なさいと、二人を押し入れから出してやり、あんまり素人さんが、長脇差を相手に、舐めた真似は辞めなさいと、富五郎、意見を致します。
この一件が、キッカケで、留次郎の廓遊びは止まりまして、命の恩人である勢力富五郎との付き合いが始まります。
富五郎も、留次郎の父、荒生ノ留吉の噂は聞いておりますから、この留次郎を弟の様に可愛がります。
そして、この勢力富五郎と駿河屋留次郎の関係が、この後に起こる『大利根河原の決闘』では、重要な情報を笹川側に齎されます。
其れは、飯岡ノ助五郎が、一家の精鋭八十人を三隻の船に乗せて、天保十五年八月六日に、夜討ちを掛ける。
この情報をいち早く知った留次郎が、勢力富五郎に知らせた事により、笹川側も十分道具を揃えて、十一屋には精鋭を揃えて迎え討つ事ができたのです。
さて、物語は、いよいよクライマックスの、その決闘へとなるのですが、それは又、次回以降のお楽しみです。
つづく
p.s.
・天保水滸伝「潮来の遊び」 神田紅