三宅島は縦横三里四方の島で、中央には一座高い山がありまして、島民は此の噴火山を大山と呼んでおります。

三宅島は、坪田、神着、伊豆、阿古、伊賀谷の五つの村に分かれていて、寺院七ヶ寺戸数千三百余。島司を木村大助と呼び神着村に住んでおります。

また、陣屋は伊賀谷村にあり、韮山の郡代、江川太郎左衛門の付属領地であり、彼が五つの村の司法と行政を取り仕切る立場にありましたが、島の実権は木村大助が支配をしております。

更にこの各村には、罪人ではありますが、『炊夫』と書いてカシキと読む、村長みたいな役目がありました。


さて、この三宅島に流された罪人は、この木村大助の指図で、五つの村の何処に住むか?決められて、特に苦役や取調べはありませんが、この最初に決められた村から出る事が許されません。

また、手紙を内地に送る・受け取ると言うのも禁止、更に、水汲み女/妾を持つのも禁止、そして当然ですが、島から抜け出す事も禁じられております。


お虎、この木村大助の前に引き摺り出されたら、まず、この島で楽して生きて行くにはこの男に取り入るしかないと、有りったけの色気と愛想をこの木村大助に振り撒きます。


大助「吉原江戸町二丁目大坂屋花鳥、本名お虎、面を上げい!その方、辻斬り強盗の罪人を逃し、店に放火したとあるが、相違ないか?!」

お虎「お役人様!私は島に流される様な悪党ではありません。親の借金で自ら大坂屋に身売りを致しましたが、

悪い客に騙されて、殺すと脅され匿ったなら、そいつが店に火を付けて逃げて、それが全部私のせいにされたので御座います、冤罪なんです!!


と、泣き崩れたお虎に、四十凸凹の木村大助が、同情と美しさに見惚れて茫然となるぐらいの色気と愛嬌だったので、取り敢えず住む村は神着村と決まり、

お虎の世話係には、お冬と言う女が指名されて、この女も放火の疑いで捕まり三宅島流しになった女なんですね、類は類を呼ぶのか?!

ところが後日、炊夫の勝五郎が呼ばれて、木村大助から相談をされます。


大助「勝五郎、あのお冬に預けたお虎だが、あれをお前の家に預かって欲しいのだが。。。女、二人の家に私が参るのは、何かと誤解を生むのでなぁ。」

勝五郎「承知しました。木村様のお指図なれば、この勝五郎に異存はありません。」

大助「それで、時々、顔を見に参るから、よしなに。」

勝五郎「分かっております。用事を造り留守に致します。御膳!みなまで言わずとも、邪の道は蛇です。」

大助「勝五郎!お主も、悪よのおう。」

勝五郎「何を木村様、御膳程では御座いません。」


そんなやり取りがあり、お虎はお冬の家を出て勝五郎の家に住むようになります。そこへ、木村大助が通い酒の相手をさせる。

勝五郎は、気を利かせて木村が来ると出掛けて行く。しかし、お虎も、なかなかの業師ですから、簡単には身を開きません。

そして、ここらが潮時かと、六回目のお酒の相手をしている時に切り出します。


お虎「御膳の妾と成ります代わりに、家が一軒頂きとう御座います。新築の家を一軒。」


そう言われて男を見せる為に木村大助、炊夫の勝五郎に家の手配を任せます。この勝五郎、二つ名を『小菅の勝五郎』と申しまして、それなりに大きな一家の貸元でした。

それが渡世の義理で起こした喧嘩が元で、三宅島へと送られて、苦労と辛抱を重ねて、やっと炊夫になっておりますから、また、木村に貸を造るチャンス!とばかりに奔走します。


姉妹川の流れで上中尾坂の畔に、島では珍しく水の弁の良い土地があると知り、そこに新築の家を建てます。柾目のいい材木と、八丈竹を網代に組んだ、如何にも江戸から来たお虎が喜びそうな仕上げになっています。

この功績で、小菅の勝五郎は、炊夫の中の頭、頭役と言う役に昇進しまして、罪人の中では一番偉い位へと出世を致します。


一方、お虎はと申しますと、木村大助の妾として罪人と思えない贅沢を島でしております。木村大助はもはやお虎の言いなりで、

三年前に本妻に死に別れた木村は、流石に罪人とは結婚できないので、お虎を本妻にはしませんが、この島の中では、木村大助の妻の如き存在です。

だから、最初は木村大助や小菅の勝五郎から贔屓にされているお虎を陰で妬み意地悪をする罪人が居ましたが、今では全ての罪人が、お虎に擦り寄るので、気味が悪いくらいです。

そして、何よりお虎の待遇で特別なのが、水で島に居ながら、お虎に清水を届ける登板があり、罪人たちは、これをお虎に気に入られるキッカケにしようと励みます。

如何に上手い水を、如何に沢山、お虎に届けるか?競うのです。そんな女王様のようなお虎に衝撃的なニュースが持たらされます、勝五郎の口から。


お虎「勝五郎さん、四月の島へ来る罪人の名前が知れたんだってねぇ。そん中に、あんたが小菅に居た当時の知り合いは居なすったかい?」

勝五郎「居ましたよ、一人だけ。ただ、八丈に流される途中で寄る船なんで、三宅(ここ)に流されるじゃねぇーんだが、

随分昔になるが、下総の侠客で仇を成田で叩き斬って兇状持ちになったお人なんだが、浅草安部川町の左官の金太郎って親分の家に隠れてなさった時、少し話をした親分なんだが、佐原の喜三郎って人なんだ。」

お虎「エッ!喜三郎さんが?!」

勝五郎「お虎さん!あんた、喜三郎親分を知っていなさるのかい?」

お虎「知っているも何も。。。」


お虎と喜三郎の再会はなるのか?次回の展開をお楽しみに!!


つづく