ここまでのストーリー展開は、実に新鮮で楽しいのですが、私が聞いた事のある神田派の天一坊とは、まるで違います。


まず講釈では、法澤の生立ちは語られず。澤乃は子を産むと直ぐ死にます。産後の肥立ちが悪くて。それで、おさん婆さんが、お墨付と長光の短刀は娘の肩身に所持しています。


そのおさん婆さんは、寺に女中として働いていると、其処へ後に天一坊となる法澤が、仏門の修行でやって来て、娘の産んだ子が生きていれば、法澤ぐらいか?と、おさん婆さんは思い、

そんな思いからおさん婆さんは、法澤を何かと目を掛けて、親切にするから、法澤もおさん婆さんに懐きます。


そして、14で入門した法澤が16になった時、囲炉裏を囲んで鍋を食べながら、酒を久しぶりに飲んだおさん婆さんが、酔った勢いでポロッと法澤に、娘澤乃と、源六郎公の事を話し、お墨付と長光の短刀を見せてしまいます。


このお墨付の日付が、たまたま、法澤の産まれた日と同じで、死んだ若公と自身の誕生日が一緒だと法澤は気付いてしまうのです。


その日、おさん婆さんにしこたま酒を薦めて、酔い潰して、手拭いを首に掛けて、おさん婆さんを絞め殺す。殺した死体を、わざと首から上を囲炉裏に突っ込んで焼いて事故に見せ掛ける細工までするのです。


そうしておいて、お墨付と形見の短刀長光を盗み、次は隙を見て師匠感応院も殺して、寺の金目な物を盗んで、檀家から餞別まで貰って長崎の丸山へ働きに出る法澤。


長崎丸山では、加納屋利兵衛と言う廓で働き、そこでは法澤ではなく、吉兵衛となのります。

三年無休で働いて稼いだ金三百両を持って江戸表に出て、将軍様の御烙印だと名乗り出るつもりでしたが、長崎から江戸表へ向かう船が難破して、伊予に着く吉兵衛。


講釈だと、ここ伊予の山中で、水戸家浪人の赤川大膳と藤井左京と言う二人と出会い。この二人は伊予山中の山賊の頭でしたが、これを八代将軍の御烙印と騙し家来にします。


ここで、山賊一味から優秀そうなのを家来にして、大膳の叔父天中坊日真が住職の法華寺に身を寄せます。寺の名前は忘れました。場所も飛騨だったか?岐阜か?


この寺に、紅白の幕を張り、『徳川天一坊様在所』と大きな看板を上げて、全国から優秀な武芸者を集めて、徳川天一坊の大名風行列を作り江戸表へと入る計画でいる天一坊一味。


そして、更にここへ日真と旧知の仲で、この後、天一坊を巡り大岡越前守の強敵となる、元京都九条家軍師・山之内伊賀亮が加わり、いきなり江戸表へ下ると、暗殺の恐れがあるとして、

先ずは、大坂へと向かい天一坊の仮住まいを作らせて大坂、京都の奉行所に認知させ、朝廷の権威を利用して、既成事実を積み上げてから、八代将軍吉宗との対面を求めて江戸表へと入ります。


まだ、私が読んでいる本だと、澤乃もおさん婆さんも、感応院も生きているし、なんと言っても、天一坊となる法澤が、『母をたずねて三千里』状態で、悪に染まっておりません。

講釈の法澤は、おさん婆さんと感応院を直ぐに二人殺しますからねぇ。施行して鳥目を手にするような殊勝な部分は描かれておりません。