張孔堂の結束の硬さに感じたか?漢と生まれたからには、天下を目指したい!そんな気持ちが湧いたのか?柴田三郎兵衛は、正雪の右腕・張良となり、張孔堂の筆頭軍師となります。

そして、この日から、毎月一と五の日は、張孔堂に、正雪、忠彌、柴田の三人は必ず集まって、天下取りの作戦会議が持たれた。


さて、そんな寛永十七年の春。まだまだ、大坂方に組した浪人が巷に溢れていた。そんな大坂方の残党に、武勇に優れた者が無いか?

柴田の案で、大坂方残党ネットワークができつつありました。そして、この日も情報がもたらされた。


柴増上寺天神谷に、元會山と言う名の坊主が住んでいる。この坊主は、大坂方の将で、明石嘉門之助則遠の忘れ形見、幼名・菊丸だと言う。現在は吉田初右衛門、三十六歳。

どの様な腕前か?身の丈は六尺、色は黒く還俗して大分経つと見えて、頭は黒い毛が短く刈り込まれているし、髭は伸び放題だった。

その會山坊主が、行水を使って、庭の木陰で涼んでいると、突然、男が垣根を越えて入って来た。

その男は、自分と同じく六尺はある大男で、血の付いた匕首を握っている。「賭場で喧嘩になって、人を殺して逃げて来た。銭はやるから、匿ってくれ!」と、言う。

すると、會山坊主の初右衛門、いきなり不適に笑い、「お前はどう言う料簡なんだい!自分は人を殺しておきながら、てめぇだけ、命、助かる気かい?」

「つべこべ言わず、匿え!!」、匕首をチラつなせて脅しに掛かる。すると、垣根の向こうに、二、三人、男の追っ手と思わしき奴らの声と足音が聞こえて来る。

「さて、人殺し野郎!ここで、俺に〆殺されるか?外の連中と、鬼ごっこの続きするか?二つに一つだ!」

言葉を合図に男が匕首で飛び掛かるが、初右衛門、手刀で匕首を簡単に叩き落として、物凄い形相で、腕を掴みへし折る勢いで、逆手に捻る。

男は堪らず「すまん!私は張孔堂の門弟で、加藤市右衛門と申します。吉田初右衛門殿ですよね、無礼の段、平に平に、御容赦を!!」

有らん限りの声で加藤が怒鳴ると、漸く、初右衛門の表情が普通に戻った。

そして、垣根から、金井半兵衛、坪内左司馬、熊谷三郎兵衛の三人も止めに入った。

加藤が、三人に遅い!と怒鳴り、危うく初右衛門に右腕をへし折られる所だったと泣きが入る。すると、初右衛門も加えた四人は腹を抱えて笑い出した。


そこへ、更に遅れて、由井正雪、丸橋忠彌、柴田三郎兵衛の三人が現れて、張孔堂についての説明と、元大坂方の残党が決起している事を伝える。

直ぐに張孔堂で酒宴となり、主だった師範・門弟が紹介されて、皆んな大望を抱き、徳川家と戦う同士だと分かる。

かくして、初右衛門は直ぐに張孔堂の一員となります。

そして、この後、吉田初右衛門は、正雪の作戦で重要な大坂での決起の大将となるのですが、それは、まだまだ、先の話です。


問答は有りませんでした、この本。


つづく