第三章 佐野槌
佐野槌の女将が、長兵衛にこんこんと意見はするが、
結果、生まれ変わったつもりで出直すならばと五十両を貸してやる。
この話の見せ場である。 喬太郎と文左衛門の真剣なやりとりに、
さっきまでの笑いに包まれていた場内が、シーーーンと静まる。
佐野槌の女将に最初、五十両の現生を見せられた長兵衛が、
「なんだ、ここにハナから来れば良かったんだ」と呟く、
それを耳にした女将が、「お前さんは、何て料簡なんだ!
その銭持って、また、博打場に行く気だねぇ?」と吐き捨てるように云う。
そして、その五十両はねぇ、と、廓にあるお金は一つきゃないとワケを話す。
そのお金は、さっき見受けされた朋輩の花魁の代金だというのである。
女将自身も、ここ佐野槌に売られて来た身、それが年が明ける前に、
身請けされると、こうしてお足が残るんだよ、
そんな女の業と執念がお金に成って残るのさぁ。
分かるかい長兵衛さん、ここには、そんな銭しかないんだよ。
あんたねぇ!借りるんならそのつもりで持って行くんだよぉ。
そう言って凄む、喬太郎の女将。なかなか堂に入っておりました。
最後に五十両を手にした長兵衛が、佐野槌に娘お久をカタに預けて、
別れの言葉を交わしてから吉原を後にします。
親子のしばしの別れの場面ですが、ここは意外とスッキリした別れでした。
第四章 吾妻橋
吾妻橋を手代風の若者が一人歩いていると、そこへ。妙な野郎が逆方向から現れます。
そうです、実に妙な野郎です。バーテンダーの格好をしてシェイカーを振る丈二くんです。
そのバーテンダーに、手代がぶつかって、「何処見て歩いてやがんだ!このすっとこどっこい」
と、言われるのです。倒れた手代は、ビックリした表情でゆっくり立ち上がり、
「何を言ってやがんだ、ぶつかって来たのは、てめぇの方からじゃねぇーか」と呟いて、
懐を確めると、無い!無い! 水戸様からいただいた、カケの五十両が無い。
慌てて、バーテンダーを追いかけるが、もう、影も形も見当たらない。
途方にくれる手代。そう、この手代こそが、近江屋の手代:文七です。
とぼとぼと吾妻橋の真ん中へ歩いて行って、そこで身投げしようとする。
そこに通りかかったのが、吉原を出て懐に五十両を抱えた長兵衛さん。
何だろうと観ると、若い男:町人風/大店の手代みたいなのが、
今まさに身投げをしようとしているじゃありませんか?
「おい、待てやめろ!」と、止めに入ると、その男と揉み合いに。
そして、そのはずみで、長兵衛さんの方が、どかんぼこんと大川に落ちてしまう。
「助けてくれ! 俺は泳げないんだ!」と、叫ぶ長兵衛さん。
天空を掴むように、手を高く上げてモガき苦しむ長兵衛さん。
いい塩梅だと、死神(小せん)まで登場する。もう万事休す、南無阿弥陀仏と思ったその時、
再び、神の登場です。
金毘羅さん(扇辰)と、不動様(喬太郎)が二人で登場。
あの死神、俺が守護神として贔屓にしていた金持ちの枕元に座りやがって、
それを取り殺した、そんな恨みのある死神野郎だ!
ってんで、二人で呪文を使って追い払います。
小せんの死神に二人が唱えた、呪文は。
「あじゃらかもくれん 爺むさい! あいつあれで38歳って本当ですか?パンパン」
呪文で死神は飛ばされて、長兵衛は九死に一生を得るのでした。
そして、ここからは古典の文七元結と同じ展開に戻ります。
長兵衛が、どうしても死ぬと云ってきかない文七に、
お久をカタにして、佐野槌の女将から借りた五十両を投げつけます。
どうせ石ころだろうと、投げられた財布を手にして文七が驚きます。
「棟梁! ありがとう御座います」という文七の声が、夜の闇に吸い込まれます。
(仲入り)つづく
佐野槌の女将が、長兵衛にこんこんと意見はするが、
結果、生まれ変わったつもりで出直すならばと五十両を貸してやる。
この話の見せ場である。 喬太郎と文左衛門の真剣なやりとりに、
さっきまでの笑いに包まれていた場内が、シーーーンと静まる。
佐野槌の女将に最初、五十両の現生を見せられた長兵衛が、
「なんだ、ここにハナから来れば良かったんだ」と呟く、
それを耳にした女将が、「お前さんは、何て料簡なんだ!
その銭持って、また、博打場に行く気だねぇ?」と吐き捨てるように云う。
そして、その五十両はねぇ、と、廓にあるお金は一つきゃないとワケを話す。
そのお金は、さっき見受けされた朋輩の花魁の代金だというのである。
女将自身も、ここ佐野槌に売られて来た身、それが年が明ける前に、
身請けされると、こうしてお足が残るんだよ、
そんな女の業と執念がお金に成って残るのさぁ。
分かるかい長兵衛さん、ここには、そんな銭しかないんだよ。
あんたねぇ!借りるんならそのつもりで持って行くんだよぉ。
そう言って凄む、喬太郎の女将。なかなか堂に入っておりました。
最後に五十両を手にした長兵衛が、佐野槌に娘お久をカタに預けて、
別れの言葉を交わしてから吉原を後にします。
親子のしばしの別れの場面ですが、ここは意外とスッキリした別れでした。
第四章 吾妻橋
吾妻橋を手代風の若者が一人歩いていると、そこへ。妙な野郎が逆方向から現れます。
そうです、実に妙な野郎です。バーテンダーの格好をしてシェイカーを振る丈二くんです。
そのバーテンダーに、手代がぶつかって、「何処見て歩いてやがんだ!このすっとこどっこい」
と、言われるのです。倒れた手代は、ビックリした表情でゆっくり立ち上がり、
「何を言ってやがんだ、ぶつかって来たのは、てめぇの方からじゃねぇーか」と呟いて、
懐を確めると、無い!無い! 水戸様からいただいた、カケの五十両が無い。
慌てて、バーテンダーを追いかけるが、もう、影も形も見当たらない。
途方にくれる手代。そう、この手代こそが、近江屋の手代:文七です。
とぼとぼと吾妻橋の真ん中へ歩いて行って、そこで身投げしようとする。
そこに通りかかったのが、吉原を出て懐に五十両を抱えた長兵衛さん。
何だろうと観ると、若い男:町人風/大店の手代みたいなのが、
今まさに身投げをしようとしているじゃありませんか?
「おい、待てやめろ!」と、止めに入ると、その男と揉み合いに。
そして、そのはずみで、長兵衛さんの方が、どかんぼこんと大川に落ちてしまう。
「助けてくれ! 俺は泳げないんだ!」と、叫ぶ長兵衛さん。
天空を掴むように、手を高く上げてモガき苦しむ長兵衛さん。
いい塩梅だと、死神(小せん)まで登場する。もう万事休す、南無阿弥陀仏と思ったその時、
再び、神の登場です。
金毘羅さん(扇辰)と、不動様(喬太郎)が二人で登場。
あの死神、俺が守護神として贔屓にしていた金持ちの枕元に座りやがって、
それを取り殺した、そんな恨みのある死神野郎だ!
ってんで、二人で呪文を使って追い払います。
小せんの死神に二人が唱えた、呪文は。
「あじゃらかもくれん 爺むさい! あいつあれで38歳って本当ですか?パンパン」
呪文で死神は飛ばされて、長兵衛は九死に一生を得るのでした。
そして、ここからは古典の文七元結と同じ展開に戻ります。
長兵衛が、どうしても死ぬと云ってきかない文七に、
お久をカタにして、佐野槌の女将から借りた五十両を投げつけます。
どうせ石ころだろうと、投げられた財布を手にして文七が驚きます。
「棟梁! ありがとう御座います」という文七の声が、夜の闇に吸い込まれます。
(仲入り)つづく