国立演芸場からイイノホールへ移って最初の“月例三三”でした。
300のキャパだった国立時代は、チケットがなかなか取れない会で、
500のイイノホールでも超満員の大盛況でした。

そんな記念すべき1回目の“月例三三”は、こんな内容でした!!
 

 


・やかん … 柳亭市楽

・悋気の独楽 … 柳家三三

・乳房榎(上) … 柳家三三

 

仲入り

 

・・乳房榎(下) … 柳家三三
 

 

 

 

 

1.やかん/市楽
市馬師匠の総領弟子です、三三くんの会によく登場します。
凄く気に入られているのですが、先の小せん師匠の顔を、
ローラーで敷いて、伸ばして四角くしたような顔です。

講談好きの市楽くん、後半のやかんの所以に向けての、
八五郎とご隠居のやりとりにテンポが有って良かったです。
ゆっくりですけど、彼なりの成長が伺えます。
頑張って欲しいです、柳亭市馬一門の総領弟子なのだから。
 

 

 

 

2.悋気の独楽/三三
マクラでは、まず、高座返しに登場した挙動不審な弟子をイジリました。
落語協会は1年見習いを師匠の元で経験してから寄席での前座修行となるので、
まずは、師匠にピッタリ付いて、高座返しと着物を畳む事からなのでしょう。
1年見習いから前座に上がると、スーパー前座が増えて、このルール前の前座は、
少し肩身が狭いかもしれません。三三くんの一番弟子ですから、頑張って欲しいです。

マクラは、イイノホールの思い出へ。以前、古いイイノホールの時代、
ここで圓朝祭(現在も豊島区公会堂で続いている)が開催されていて、
それを中2の三三くんが見に行った時のことを話しました。
出演が、現在よりもかなり豪華でねぇ。

・楽大(現在の伊集院光) … 子ほめ
・小遊三           … 金明竹
・小さん                         … 粗忽の使者
・圓楽             … 夏の医者
・金馬              … 大仏餅
仲入り

・文治              … 親子酒
・志ん朝                        … 厩火事
・小三治                        … 死神

当時、18時に開演しているのに、終演は22時を回ってしまったそうです。
そして、小三治ファンの蛭田少年は、志ん朝の『厩火事』が終わると、
30人くらいの客が、パラパラ帰り始めるのを見て、悔しかったそうです。
ちなみに、21時過ぎに登場した小三治師匠、マクラは勿論、えぇーすら言わず、
「ねぇーねぇー、あんた!借金どうすんのよ」と、いきなり『死神』を始めたそうです。
これも貴重ですね。演目が決まった会に、小三治師匠が出るなんて!?

そんなマクラから『悋気の独楽』へ。

聴いていそうで聴いていなかった、三三くんの『悋気の独楽』でした。
小三治師匠の弟子は、この話をよくやりますね、〆治、燕路、一琴、三之助で聴いてました。
三三くんの『悋気の独楽』は、定吉の独楽を回す場面が陽気で楽しくていいですね。
ここまで陽気に独楽を回す定吉は、なかなか見られません。

 

 

 

 

3.乳房榎(上)・(下)/三三
この日の下座は、恩田えり師匠。先のノラ屋で「怪談噺のハメモノは恐い!特に『乳房榎』」と言っていた。
三三くんの『乳房榎』は、稲荷町の正蔵師匠から正雀師匠が受け継いだような、
最後の最後、おどろおどろしい場面までやるパターンではなく、圓生師匠が百席でやっている型だった。
それに、下座のハメモノもなく、ストーリーが恐かったなら聴かなくても済む構成でした。
前半は発端の「おきせ口説き」、後半は幽霊の起こり「重信殺し」の構成で、演じられました。
 

宝暦年間、秋本越中守に仕えまして二百五十石を取っていた武家で、
御年三十七になる文武両道な間与島伊惣次がいた。
趣味で始めた絵が家中でも有名になって、
頼まれると絵を描いていたのだが…

家中に悪い噂=「間与島は、俸禄より絵での収入で贅沢をしている」
そんな噂に嫌気もして、自分の絵の才能で生きてみたいと思うようになる。
やがて武家を辞して”菱川重信”という絵師になってしまう。
そして、妻の”おきせ”と生まれたばかりの”真与太郎”と三人で柳島に移り住んでいた。
またおきせは、二十四の絶世の美女で夫婦仲も良かった。

そんな頃、本所・撞木橋近くに住む二十九になる浪人:磯貝浪江が重信の弟子になった。
良く気が付き絵も上手かったので評判は良かった。
宝暦二年五月南蔵院から天井画の龍を頼まれたので、
爺やの正介を伴って泊まり込みで描き始めた。
重信が長期の不在、正介も伴だっているので、家には男手がない。

浪江は留守宅に毎日のように訪ねてくるようになった。

ある日疝気が出たと仮病を使って泊めて貰ったが、
夜更けに起き出し横恋慕していたおきせにせまった。
しかし、激しく抵抗され、殺すと脅してもおきせは操を守ると言う。
最後には、息子を殺すと脅されて、一度との約束でいやいや枕を交わした。
が、二度三度と度重なると浪江に好意をいだくようになった。
 

悪縁で、そのうちおきせの方から誘うようになっていた。
逢瀬を重ねるうちに、浪江はおきせは自分のものになったが、
絵を描き上げて重信が帰ってきたらこの仲は終わってしまう。
浪江の心に、悪い算段が出来上がる。

ここまでが、(上)で、なんと言っても、浪江がおきせに迫る場面が、
ドラマチックで凄い迫力でした。『鰍沢』などでみせる三三独特の表現です。
妙にいやらしくはならずに、艶っぽい展開になり、
客が本当、水を打ったように静かになりました。
張り詰めた重い空気を、惚けた三三くんが一瞬笑いに変えるので、
落語らしく物語は進むのですが、この感じは現役では三三ならではだと思います。

ただ、三三くんは悪くないのですが、イイノホールのマイクの固定がイマイチで、
三三くんが高座で動いて、熱演を揮うと、マイク自身がガサゴソと音出すのです。
これさえなかったら、浪江がおきせに迫る場面は、もっと良かったはずです。
 

浪江は高田の南蔵院に手土産を持って陣中見舞いに訪ねて行った。
重信も喜んで天井画の雌龍、雄龍をみせながら、
南蔵院での仕事の様子などを、事細かに浪江に語った。
重信の対の龍素は、晴らしい出来で、
あと雌龍の片腕を描き上げれば完成と言うところまで仕上がっていた。
 

じいやの正介を連れだして茶屋に誘って一時の贅沢をさせた。
蓄えがあるので、田畑を手に入れてそれを小作に貸して副収入としたい。
ついては、正介に田畑の見立てや管理をお願いしたいと言って、
五両という金を彼に与え、叔父甥の仲になりたいので、
その為の金だからと受け取らせ、親戚同士の杯を交わした。

隠し事はなしと、おきせとの密通を打ち明け、重信殺しを手伝えと脅迫した。
正介自身葛藤もありながら、断れば殺すと脅されてやむなく承諾する。
重信殺しの計画を打ち明け、他言したら寺に踏み込み全員を殺すからと念を押される。

寺に戻った正介は有名な落合の蛍見物に重信を誘いだした。
来てみると大きな蛍が飛び交う様は見事であった。
飲めない重信に酒を飲ませて、雨が来るのを警戒して早めに切り上げ、
帰り路にかかった。田島橋のそばまで来ると、浪江は竹槍で重信を刺し、
ひるんだところを正介の助太刀で隙を作り、一太刀で命を奪った。

寺に逃げ戻った正介は「田島橋の所で先生が狼藉者に襲われて命が・・」
と報告するが周りのものは取り合わない。
そのはず、重信は普段通り絵を描いていた。
どう考えても不思議だったので中を覗き込んでみると、
最後の雌龍の片腕を描き上げ落款を押しているとこであった。

「正介、何を覗く !」との声で「わぁ!」と、後ろに倒れ、
明かりも消えたところに和尚一同飛び出して来て訳を聞く。
明かりを点けて中にはいると、重信の姿はなく、
雌龍の片腕は描き上がり、落款はべっとりと濡れていた。
怪談乳房榎でございます。
 

(下)は、浪江が正介を篭絡するところから、重信を殺すまでの緊張感は、三三くんらしい。
そして、最後のクライマックス!! 重信の幽霊が絵を書き上げる場面で終わるのですが、
まだ続きが聴きたい!と思わせるのも、三三くんの腕だと思います。
この(上)で、20分、(下)で35分ですが、是非、この後の重信の幽霊劇も聴かせて欲しいです。