成城で3回連続で浚って、にぎわい座で1回やる。
最初のうちは、両方聴いてその進化を楽しもうとしていましたが、
成城の3回のうち1つを確保するのに骨が折れるのと、
中1週間で2回、全く同じ演目を同じ演者で聴いても、
そうそう進化するもんじゃない!と分かったので、
成城か、にぎわい座か、どちらか1回聴くことにしました。
さて、そんなラス前の談春アナザーワールド、こんな演目でした。
1.おさん茂兵衛/談春
今回も前座を上げず、タップリ談春が1時間ずつ2席やりました。
マクラでは、お盆前なので胡瓜の馬に、茄子の牛、
幼い頃は、何とも感じなかったけど、46歳の今はよく分かると言う談春。
来るときは、馬で早く来て頂いて、帰りは牛でユックリと。
そんな叙情を喋りながら、友人に胡瓜が冷蔵庫にない!どうしよう。
そうだ!胡瓜の代わりにズッキーニを使おうと、ズッキーニの馬を作った奴が居て、
「そんなことして、バチが当たらないのか?」と訊ねると、その友人が、
「大丈夫、ご先祖様には、御免なさいって言った、今年は外車ですって」
この小咄から、師匠談志の精霊舟が、長崎のファンの手で用意される話へ。
師匠の新盆、各地で談志の新盆イベントがあるそうで、談春は徳島の阿波踊の係らしい。
そうそう、長崎の精霊流しは、もう精霊舟を海には流さないんですね。
これも時代なんだなぁーと思いました。港で壊して、輸送船に乗せて沖に捨てるらしいです。
さだまさしの歌に出て来る、線香花火、長崎の線香花火だから雲の上から見えるんですよ、
って、話を談春がしてました。 あれは一度見るべきですね、長崎の線香花火。
線香花火じゃなく、閃光花火かよ?!って思いますから。巨大でバチバチと爆音がします。
精霊舟を海まで担ぐのは男衆の仕事で、女性は線香花火を持って付いて行くのですが、
その火粉が足に当たりながら、絶対に熱いはずなのに、我慢して歩いています。
精霊舟に付いて歩く女性の表情が、それを物語っています。
こんな話で、会場がシーンと成ったところで、『おさん茂兵衛』に入りました。
『おさん茂兵衛』は、こんな筋のお噺です。
色町に活気があった時代、深川やぐら下は花柳界でも非常に勢いがありました。
そんな深川の置屋から縮緬浴衣の揃いを深川仲町呉服屋中島屋惣兵衛に注文があった。
縮緬浴衣、高価で粋な注文です。当時、一番は京都でしょうが、江戸からは遠い。
そこで、江戸最寄の産地は桐生だったので、主人惣兵衛は、
女嫌いで堅物の二十五になる手代茂兵衛に30両持たせて使いに出した。
この茂兵衛の女嫌いは筋金入り、女人が側を通ると寒イボが立ち、
隣に座られたりしたら、思わず立ち上がって席を外すほどでした。
そんな茂兵衛が江戸を発って3日目に上尾の宿に入った。
この茂兵衛は、根っからの忠義者。路銀もできるだけ切り詰めて旅をする為に、
宿場の場末の一膳飯屋に入ったが、中で働く二十一、二になる女性で、
頭は櫛巻き、着物は腰紐で結び、化粧もなかったが実にイイ女であった。
茂兵衛は、その女性が気になって発ち去る事が出来なかった。
生まれて初めて女性を見て“ビビビッ”と来てしまったのだ。
どうにも、その女が気になり、もうこれ以上食べられない程まで、
ご飯をお代わりしても、その場に留まる茂兵衛だった。
ここで、談春流の地噺らしく、上尾と言うと埼玉で育った談春師にとっては、
凄く高校野球が強くて、甲子園でも常連だった野本監督の上尾高校。
談春少年の中学校にも、監督がスカウトに来て、「君、野球やる気あるか?」
と、談春少年に声を掛けたそうで、勿論「ハイ!」と返事すると、
「ヨシ、手を見せてみろ」と言われて、手を見せたら、笑いながら「ダメ、不合格!」
と、手を見ただけで取り消されたそうです。談春も私同様にドラえもんみたいな手です。
蟹なら、身が詰まって高値だったのに、残念とは、本人の弁で、爆笑に。
さらに、茂兵衛さんを有名人に喩えるならば?
と、考えて若い10代の頃の柳家花緑くんを思い出すとエピソードを挟みます。
ウブだった頃、若い日の柳家小緑は、芸の為に女は、邪魔だ!とか言ってたそうです。
それが、恋を知り、女を知ってからは… 志らくの芝居に出たりしてね。
女優さんと接し、合宿で稽古して一つ釜の飯食べて、大人の刺激三昧!!
ねぇ、結局、婚約破棄ですよ。
談春も志らく映画に1カットだけ出てくれと言われて、
その役が、シャブ中の目をしてバットを狂ったように振り回す役だったとか。
談春は、志らくに、こんなデブのシャブ中はおらん!と断ったとか。
また、別の想い出として、花緑が10代の頃、世間知らずで面白いから、
談春の家で、甘口で飲みやすいシャンパンを薦めたら、
調子に乗って一本呑んで、グテングテンに成ったそうなぁ。
呂律も廻らず、ひどい状態なので、そのまま寝かせておいたら、
11時45分に、ムクッと起き上がり、「兄さん!一つだけお願いがある」と言う。
「何だ、まだ具合悪そうじゃないかぁ、寝てろ!」と、談春が言うと、
「頼むから、大相撲ダイジェストでけ見せて欲しい、
見ないと明日、おじいちゃんとの会話が噛合わないから」と答えたそうです。
地元の三婦(さぶ)親分の事を小耳に挟み、
“藁をも掴む”そんな思いで親分のところに頼みに行った。
女嫌いの茂兵衛なのだが、生まれて初めて恋に落ちた。
だから半刻でいいのでお茶を酌み交わしたいので、
こちらで会わせて貰えないかと懇願した。しかし親分曰く
その女性は品川で芸者をしていて、売れに売れた。
上尾の祭に来たが三婦親分の身内で金五郎がどうしてもと言って、
親分に仲に入ってもらって夫婦になった。
金五郎はタチの悪い奴だし、
自分の子分の女房を紹介したとなると、
こりゃもう世間様に示しが付かないので諦めろと言う。
諦めきれず、庭に出て井戸に飛び込もうとする茂兵衛。
三婦親分の子分達に止められ、
祭で野郎も銭が必要だから、この30両は預かるので、
ここで待っているようにって事になった。
金五郎は女房おさんに女郎屋に2~3日行って金を作ってくれと、
言っているところに親分が来て、
「半刻話をしてやって、命を助けてやったら30両の金が入る」やってくれるか。
金五郎は乗り気だが、おさんは嫌がった。
「出来れば2~3日泊まって全財産巻き上げてこい」とまで言われた。
女房を売ってまで、金をほしがる亭主に呆れるばかりであったが、
親分に言い含められて出かけてきた。
亭主・金五郎は金さえ入れば女房さえ切り刻むのと比べ、
茂兵衛は「あのお金はご主人のもので、
私は思いが遂げられたら死ぬ覚悟です。」と言われ、
心が”雪と炭”程違うのに気付いた。(この表現がたまりませんね、”雪と炭”)
道ならぬ事ではあるが、茂兵衛と一緒にいて、
どうか3日でもいいから添い遂げたいと、
おさんの心がここでがらりと変わった。
手に手を取って逐電するという、おさん茂兵衛の馴れ初めです。
百席にある圓生師匠のとは、かなり違う、談春らしい地噺でした。
2.鰻の幇間/談春
二席目のマクラでは、閉会したばかりのオリンピックに触れました。
今回の五輪で、日本人のMVPは?!と言うとなかなか一人に絞るのが難しい。
そんな中でも、最初の金だった女子柔道・松本選手は印象的でした。
柔道の松本選手、あの闘争心剥き出しのような表情は、
意外にも、過度の緊張を解し、リラックスする為の行動だったんですね。
談春曰く、松本選手がもし競走馬だったら、ゲートインの前に、
馬があんな表情したら、出走除外になる!には笑いました。
その前に、ドーピング検査されますよ、馬があんな肉食獣顔をしたら。
桶川のマクラでも話した、談春は競泳の入江君が好きで、
彼の顔が、良い泳ぎを見せる度に、両生類化していくと言っておりました。
そして、この後、競歩が面白いという話をしてから、テレビ番組ソロモン流の話へ
つい最近放送された、ソロモン流の放送に付いても本人が語りました。
業界内からは、色んな批判が聞こえまますよと。
まぁ、あの番組自身、殆ど落語なんて聞いた事のないディレクターが、
世の中の一般視聴者向けに番組を作っているので、
伝統芸能の落語で、本来人を笑わせるはずのものにおいて、
泣かせる咄家が居ますよぉーーーって、感じの番組を作った訳です。
落語なんて、笑点ぐらいしか知らない人には刺激的な番組なんでしょう。
ところが、あの番組を、ご通過の皆さんが見ると違う反応になるのです。
何が泣かせる落語だ!紺屋高尾だ!となるのです。
異論、反論、オブジェクションが渦巻く展開に成ったのです。
つまり、意外とあのソロモン流って一般視聴者が見る番組ではなく、
「○○さんが出る!」となると、その関係者、業界、ファンが見る番組なんですね。
ここでも、談春が師匠談志だったらと口にしました。
談志なら、少なくとも同業者からは、こんなに意見が出なかっただろうと。
文句も言わせない位置まで登ってしまった談志の偉大さを、
また一つ感じたソロモン流だったと言っておりました。
私は、インターネット上にアーカイブされた録画で見ました。
新しいものに挑戦して、伝統を守りながら、音響に細心の注意を払って、
自分の芸をお客様の心にお届けする“嗜好品”なんだ!!焼肉屋の社長じゃない!!
みたいな感じで描いているんですけどね、落語ファンはどう見たんでしょうか?
結構、滑稽にうつりましたよね、空振りするキザな部分が特に。
そこをみんな業界人は突くんだろうなぁー 分かるような気がします。
最後に、中村勘三郎丈から留守電があった話をしました。
いいことをいます。暗中模索、試行錯誤で、目一杯走っている46歳だけど、
60歳になったら、もう少し迷わず、自分も楽しめる芸になると思うって、
そう言ってたねぇー どうかなぁ?俺の経験から言わせてもらうと、
還暦じゃ無理だと思うよぉ。でも、頑張ってね落語、師匠の分も。
そんなマクラから、『鰻の幇間』をやりました。
談春の『鰻の幇間』は、去年は、神宮の花火大会での落語会で聴きました。
その時と、筋は殆ど同じでしたが、やっぱり、にぎわい座だとリラックス度が高く、
幇間の一八のヨイショ芸が、強く印象に残る展開でした。
一方、御新香がキムチだったり、掛け軸の文字を“相田みつを”作品にするのは、
これはどうなんだろうと思います。初めて聴いた時は受けますよね。爆笑です。
でも、二回目三回目になると、分かっていても笑えるか?と思うクスグリです。
ただ、キムチのところで、今年は女給がキムチの製造方法を説明し始める展開だった。
あれは、寝床のがんもどきの茂蔵と一緒で笑いましたけどね。
そういう工夫を、毎年重ねれば、これも型にまで成長させられるかも?とは思います。
あと気になったのが、シャリシャリに凍らせた日本酒が、このうなぎ屋には登場します。
これも、何だろう?酒飲みじゃない談春の違和感のように思います。
蕎麦屋なら普通に置いているようね、シャーベットの日本酒。
それでも続けて欲しい、夏の談春の一席になる『鰻の幇間』でした。