仕草は、上手いに越したことはないが、過ぎると芸が臭くなります。 

まず、基本動作。蕎麦を食べる。
目白の小さん師匠は、大変上手かった。
あれを観ると客が蕎麦を食いたくなった。
蕎麦の太い、細いを音でやり分けた。
ただ、面白いのは、小さん師匠は客前でないと上手くないのだ。
昔、徹子の部屋だったと思うが、蕎麦をすすって見せたが、
ぜんぜんやる気が入ってなくて、ビックリしたのを覚えている。
饅頭や餅を食うのも、良かったよね、目白の師匠。
饅頭を食べて、口の周りを手で拭う仕草は、目白オリジナル?
『長短』の中で、長さんが食べる仕草は、凄く遅い。
こぼれた饅頭のクズが落ちるのまで、ゆっくりに見せるよネ。
 

現役では、さん喬師匠か小三治師匠だなぁー食い物は。
小三治師匠のは、どんぶりや茶碗の重さが見えますよ。
あぁ、これでこそと思います。中堅・若手がやると、
どんぶりが発泡スチロールかよ!!と思えるもん。
談志師匠は、卑しくケチなのに、あんまり食う芸には執着無かったよなぁー
まぁ、戦中戦前の貧しい時代を潜り抜けた芸と、
戦後の豊かな時代の芸の差を、どうしても感じる。
おもいきり戦後生まれの俺が見て思うのだから、
ひもじい時代を一緒に味わった皆さんには、
もっと、鮮烈で圧倒的な差なんだろう。

一方で、食べる仕草とは違って、現代人がまず体験していないものがある。
たとえば、駕籠屋の駕籠を担ぐ仕草や、チョキ船・館船を漕ぐ仕草だ。
もっと体験していないのは、武士が刀を抜く仕草なんてのもある。
こいつらは、明らかに演じ手の想像力と、作法・踊り・音曲など、
習い事で鍛えた所作からの応用がものをいうと思います。

例えば、『首提灯』の道を尋ねる田舎侍が見せる居合い抜き。
この仕草は、目の動きと座っていてながらの腰がしっかり入った、
堂に入った動きでないと、それらしい重みが客には伝わらない。
現役では、柳亭市馬のが絶品です。伊達に剣道をやっていない。
扇子が剣に見える迫力です。刀を鞘に収める仕草がまたカッコイイ。
斬られる町人は談春が1枚上だけど、斬る侍は市馬の方が2枚上手ですね。
雲助師匠も上手いねぇー なのに、弟子の馬石は以前ガッカリしました。
子供が使う、ビニル玩具の刀に見えましたね、馬石の扇子は。
 

船漕ぐのも毎度言いますが、川の流れと櫓を漕ぐ仕草、
この組合せの違いを表現して欲しい。
川下から川上へと流に逆らう場合と、
これが、川上から流に任せて下る場合じゃ、
船頭の声遣い・息遣いが変わるように、
櫓を漕ぐ仕草も違うはずなんです。

あと、竿をかっこよく回す船頭をあんまり最近の落語ではみません。
これも、実際に船に乗って回してみたらいいのにと思います。
また、船といっても大きい屋形船と、小さいチョキ舟では操作が違う。
そんな細かい仕草の違いを表現できる若手が減りましたね。
馬生師匠は、細かく流れるように美しくでした。
この仕草だけは、志ん朝師匠より好きだったなぁー

更に、定番で、いまは殆ど実生活ではお目に掛かれないのが、
キセルを使って、キザミの煙草を吸う仕草ですね。
私は、学生時代に悪戯でキセルを使っていました。
まず、上手に詰められるようになるのに数ヶ月かかる。
吸い加減と、詰め加減が合わないと、キセルは酷いことになります。
特に、スカスカに詰めて、火玉が踊るくらいに吸うと、
火の粉がキセルのラオを通って喉までやって来る。
痛いのなんの!これは、吸ってみないと分からないですね。

この噺にしか登場しない、この師匠しかやらない仕草ってのもありますね。
柏木の圓生師匠がやる、『双蝶々』での、定吉殺しの時の手ぬぐい使い。
首から下げるお守りの紐の長さを、決めてやるよと長吉が、
定吉の後ろに廻って、手ぬぐいで紐の長さを調整するふりをして、
こいつを、ギュっと〆て殺してしまう、緊張の技ですよね。

あと、幽霊の手、特に『へっつい幽霊』の談志の手!!
これが私はたまりません。殆どの弟子がやりますね、談志の幽霊の手!!
そうそう、これは誰れってのはないけど、『青菜』で植木屋さんが食べる氷!!
この食べた直後に、後頭部を叩く仕草をやりますよね。
 

さてさて、最後に、この仕草を振れずには終われません。
それは、21世紀が生んだ仕草なのです。
ある意味、落語界300年の歴史に無かった新・仕草なのです。
最初観た時は、“なんじゃコリャ!!”と思って客は引きました。
二回目に観た時は、“まだ、やっているバカ!!”と、失笑しました。
そして、10年以上続けられた結果、それをやると客は拍手するまでに認知しました。
 


その掟破りの逆サソリ

 

みたいなぁー 芸は、そうです。三遊亭白鳥の座布団でんぐり返しです。
咄家は、体操選手じゃありません。座布団と共に前転しながら、
時に、側転しながら楽屋に帰って行くなんて考えられない事ですよ。
前座さんが、迷惑そうに、白鳥が袖まで運んだ座布団を高座に戻す。
ここで、また客が笑うという。どんだけぇーーーー

更に応用芸として、座布団投げや、座布団飛ばし、座布団巴投げなどなど、
座布団を使った仕草が、若手、特に創作落語家の中に広まっていきました。
落語界の新エポックと呼んでもいい、白鳥の座布団仕草なのですが、
本当に思いますね、継続は力というのか、ブスも毎日見ていれば慣れるのか?
平成の圓朝と呼ばれて、人間国宝に成っていたりしたら、日本は沈没です。