このシリーズも本年二回目、通産四回目になります。
サスペンス仕立ての北村作品を、三三くんが落語ではなく、
一人芝居風に語ります。今回は「六月の花嫁」という作品です。
 


この作品は、三遊亭圓朝作の三題噺『鰍沢』が登場します。
つまり、推理の一部が三題噺風に展開するのです。
直接、『鰍沢』は関係ないのだが、三題噺の代表として、
この噺が選ばれているのです。ならば『芝浜』でもいいのでは?
そんな事を思いながら、始まるのを待ちました。

 

クラリネット

 

出囃子の代わり?と思いながら聴くクラリネット。
完全に「六月の花嫁」の筋を忘れていた私は、
このクラリネットの存在を忘れていました。

「六月の花嫁」は、友達のお金持のお嬢様:峰さんの軽井沢の別荘へ、
その水道の水を抜きに行くというお話なのです。
峰さんは、同じサークルの葛西さんと吉村さんという男子二人と、
私と、私の親友恵美ちゃんの女性二人を誘って行くのです。

そして、軽井沢へは峰さんの運転する車に乗って向かう五人。
途中の中央高速のサービスエリアで、葛西さんが吉村くんの頭に、
タバコの煙を吹きかけて、頭から煙を立たせて周囲を笑わせたり、
晩秋の碓氷峠の光景描写、カラマツの黄金に輝く様子を伝えます。
この辺りは、三三くんらしい描写で光景が目に浮かびました。

別荘に着いた五人は、最近サークルで流行っているチェスに興じます。
まずは、一階の居間で峰さんVS葛西さんが対戦し、1勝1負。
更に、私と峰さんが夕飯の支度をしている間に、
二階では、恵美ちゃんVS吉村さんが対戦し、吉村さんの2勝1負でした。
やがて、夕飯の準備ができ5人で夕飯を食べた後、峰さんVS葛西さんで、
もう一度、チェスをやろうとしたのだが、白のクイーンの駒がないのです。

 

リスが咥えて行ったわけでもなかろうに…
 


葛西さん、吉村さんの男性ふたりが、まず、二階に置き忘れたか?と、
クイーンを探しに行き、これを追いかけるように、恵美ちゃんも二階へ。
三人でかなり徹底的に探したが、クイーンはみつからない。

五人は、チェスを諦めて、トランプを始めるのですが、
お湯が沸いてケトルが鳴り、台所へお湯をポットに移し変えに行った私が、
何気に開けた冷蔵庫で、卵の代わりに置かれた"クイーン”を発見するのです。
そう!、クイーンは、冷蔵庫の卵ポケットに置かれていて、
クイーンの身代わりに、卵が1つ消えていました。
 

ここから三題噺風に展開し、風呂に入る再に、脱衣所の戸棚で吉村が消えた卵を発見!
ここで、私が気づくのです。卵は、小さなスタンドミラー/鏡の代わりに置かれている事に。
そして、今度はチェスの盤が置かれているケースをみると、そこに消えた鏡が有ったのです。
誰が、こんな周りくどい三題噺のような、しりとり隠しを仕掛けたの???

ここから謎解きへと展開し、恵美ちゃんが「リスのようなものが隠したんだワ?!」
と、言った事をヒントに、私が犯人は恵美ちゃんに違いない!!と、思って、
”リスのようなもの”とは、つまり亜流のリス、即ち「亜リス」=アリス!!
アリス、女王・卵・鏡というえば、「ガラスの国のアリス」が謎解きのキーワードだ!!
と、このしりとり式の物隠しのカラクリを解いたのでした。
恵美ちゃんが、ここで謎を解いた私に、クラリネットを披露するのです。

そして、恵美ちゃんが、その通りよ!と白状してめでたく一見落着したのですが、
なぜ、こんな事を恵美ちゃんが私たちにやったのか?という動機が謎のまんまで、
しかも、深夜に恵美ちゃんは、寝ている私に「ごめんなさいね」と、謝罪するのです。

鏡の国のアリスの謎は解けたのに、喉に骨がつかえているように、
なんとなくすっきりしない私は、この話を円紫師匠にして、
最後の謎時をお願いするのです。すると、見事に円紫師匠は、
この最後の謎を解き明かして、私をスッキリさせてくれます。
ネタばらしになるので、最後は書きませんが、なかなか面白かったです。
 

 


この後、三三くんは、もう一席『鰍沢』を披露しました。

この噺は、結構難しい噺です。語り手とこの救われない情念噺が、
どれだけ合うのか?という問題があります。上手い下手じゃないのです。
だから、この噺に限っては柏木の圓生師匠より、稲荷町の正蔵師匠の方がいいです。
そいう意味で、三三くんの語りはこの噺に非常に合っていると思います。
月ノ戸花魁の鬼気迫る部分が、やり過ぎず程よく演じてくれるので好きです。
三三くんの代表的な噺の一つに加えていいと思う『鰍沢』です。