出足が早い“全席自由”の会です。

流石に、18時開場なので、13時半に着いたら誰も居ませんでした。

1番に並んで読書していたら、14時に「お兄ぃちゃん!早いねぇー」と、

常連のオバさんというか、お婆さん:推定85歳から声を掛けられました。


「お母さんは、電車ですか?地下鉄?」と訊いたら、

「田舎なもんで、車ですよ」 「えっ!タクシー」

「違うわよ、自分で運転して来て、この辺りは日曜・祝日は、

無料駐車スペースが在るから、そこを確保して止めるの」

そんな答えにビックリして、更に質問を続ける。

 

「今日は、今来られたんですか?」「違うわよ、今来たら無料スペースがないし、

あっても30分くらい歩くような遠くになるわよ、9時頃に来たの」

「9時に来て、車の中で時間潰しですか?寝てたとか…」

「そうじゃないの、車に居たら退屈だから、池袋の権太楼を聴いて来たのよ」

「池袋って、早朝の? 藝術選奨文部大臣賞だかの受章記念の会ですか?」

「そう、国電に乗って、池袋まで行って、10時半ころ着いたら50~60人居て」

「進藤さん、不機嫌そうでしたか?」「誰?それ」「支配人です、恐い顔の」


「…」


「すいません、くだらない質問して、で、権太楼師匠どうでした?」

「良かったわよ、『首提灯』」 「俺もにぎわい座で聴きました、病気明で力が抜けて良かった」


そんな話をしていると、30分後に、両親の為に、早く並んで親孝行の青年A氏登場。

常連で、落語談義に花が咲いて、そこに更に、元脚本家のご意見番登場。

いきなり、今日は、ここが3つ目だと言う。鈴本の早朝勉強会に行って、

菊六くんの小さな勉強会をハシゴ、14時まで居て、それが人形町で、タクシーで日本橋亭へ。

そうそう、その方から聴きました、菊六くんの真打名が「文菊」に決まったそうです。


落語のよもやま話を4時間やって、ようやく開場。

この日の二人会、こんな感じでした。


 

 

・十徳     … 柳家いっぽん


・平林     … 桃月庵白酒


・花見の仇討 … 柳家甚語楼

 

 

仲入り

 

 

・あくび指南 … 柳家甚語楼


・五人廻し  … 桃月庵白酒

 

 

 

 

 

1.十徳/いっぽん

相変わらず、デカくて蛍光色の着物のいっぽんくん。

元気のいい前座さんで、デブにありがちな下品にならないように要注意ですね。

朝呂久、いっぽん、きりんと、落語協会は、歌武蔵級にデカい咄家が増えています。

落語協会だけで、デブサミットの余一会ができそうに思います。


 

 

2.平林/白酒

マクラが大笑いでした。最近、喉風邪を引いて、喉の調子が悪いんだそうです。

それで、喉飴を舐めていたら、カロリー過多で、太り出したそうです。

そこで、うがい薬にしてみよう!という事で、横文字のA製薬が出している、

四文字熟語みたいな漢方を思わせるうがい薬を買ったそうです。

そして、それを使おうとしたら、「水で薄めて使用ください」とだけ書かれて、

何倍に薄めるのか?目安が書いてなかったそうです。


普通、3倍から5倍に薄めて使用下さいとか、

味を確めて、お好みに薄めて下さいとか有るだろう!!

そう思った白酒さん、早速、A製薬のお客様窓口に電話。


プルルルル・プルルルル・プルルルル


「ハイ!A製薬です。」


いきなり、今時のバカ娘の見本のような声に不安になるも、とりあえず訊いてみよう。

「○○という御社のうがい薬を購入したんですが、説明書を見ても希釈率が分からないのですが」

「汽車ですか?」

「汽車じゃねぇーよ、お前んとこ製薬会社だろう、希釈率だよ」

「ひしゃくですか?」

「お前は、金物屋か?! 希釈率! 水で薄める割合が分からないの?!」

「水で薄める割合ですねぇー 少々お待ちください、係りのものに調べさせます」


五分経過 暫くお待ち下さいのBGMが流れ続ける


ようやく、「お待たせしました! 適当でよいそうです」

5分以上待って、“適当”が答えかよ!と思った白酒師匠。

もう、面白そうだから、このお客様承り係をいじってやろうとする。


「お姉さん!すいません、この○○○○って、

漢方薬みたいなうがい薬の名前、これはなぜ、この名前なんですか?」

と、続けて訊ねると、「少し、お待ちください」と、また言うので、

「いい!誰か係りの人に聞かなくていい、お姉さん自身の考えを聞かせて」と言う。

すると、不安たっぷりの自信なさげな声で、

「やっぱり、それは、利き目ありそうな名前だから?かな?」

電話を切って、A製薬は二度と買うまいと思ったそうです。


最近、クレーマー対策で、この女性のようにやや頭の弱い、ザ・ゆとり教育。

物を知らない女性で、今時の、間延びする喋り方の子を選んでいると聞きます。

つまり、クレーマーに、「こいつに言っても“糠に釘”“暖簾に腕押し”」と思わせる作戦。

喋っているうちに、疲れさせて、まぁいいかぁ?!と諦めさせる作戦ですね。

似たような対応として、滑舌が悪く吃音のオペレーターや、

相手の喋ることを“お前は鶏か?!”くらい覚えられない人にするのもあること聞きます。

全部、アルバイトか派遣で、そういう強烈なのを「お客様窓口」にする。

そんな、したたかな企業の作戦なのかもしれません。


そんなマクラの後は、陽気に『平林』をやって下がりました。

久しぶりに白酒くんのこの根多を聴きました。

定吉が「タイラバヤシか、ヒラリンか!1・8・10でモークモク、一つと八つで十、キッキッ」

と、お題目みたいに唱えて歩く場面が、本当に痛快に演じてくれます。


 

 

3.花見の仇討/甚語楼

季節ものの噺ですね、ついこの前、白酒くんでも聴いた『花見の仇討』

演者によって、重きを置く部分や、自分なりに工夫している場面がありますよね。

白酒くんのだと、最初に花見の趣向をみんなで決める部分が面白いですね。

そして、三三くんは、その立ち回りの稽古の場面と、本番での仕草に工夫があり、

談春は、耳が遠いのに目がいい、六部役の叔父さんのキャラクターが笑えます。

遊雀くんは、割と全体を通して丁寧で、全ての場面のバランスで勝負!!


そいう見方をすると、甚語楼くんのは、巡礼兄弟が上野の山に遅れて着いて、

酔った侍を巻き込んでしまう場面ですね。ここからサゲの勢いは良かったです。


 

 

4.あくび指南/甚語楼

マクラで、五島列島に仕事で行って、結局釣り三昧だった話と、

それから、落語の稽古についての実体験を話して、稽古繋がりで『あくび指南』へ。

こいう噺は、甚語楼くんに向いてますね。つい最近聴いた一之輔より良かった。


ただ、八五郎が“あくび”を習う動機が、粋な年増を目撃したからじゃないんですね。

唄も踊りもうまくいかないので、“あくび”でもって感じなんです。

ちょっと、動機が弱い感じがしますが、なかなか、指南風景が笑える『あくび指南』でした。


 

 

5.五人廻し/白酒

去年、成城で聴いた時より、更に良くなっていました。

江戸っ子、軍人、オカマ風若旦那、相撲取り、

この廻される四人の切り替わりがクッキリハッキリで良かったです。

で、玉代返せ!か共通点なんだけど、それぞれプロセスが違い、

どんどん、早くなるというか、遠まわしでなくストレートになる。

この加速加減と、それぞれの理屈の面白さのバランスが良かった。


そして、最後は、杢兵衛さんの部屋に喜瀬川花魁は居て、

サゲへと向かうやり取りでの、杢兵衛さんの間抜けぶり!!

最高に笑いました。良かった。白酒くんを追いかけて良かったと思う一席でした。