先の“白鳥一門会”に引き続き、今度はバーチャル真打の会、

平たく言うと、一之輔くんの21人抜きで抜かれた奴らの会です。

このメンバーでは、つくし・天どんは完璧に抜かれ、

ぬう生は、一之輔くんの一枚香盤が下なので、かろうじてセーフ!

でも秋には、菊六くんに抜かれてしまいます。

一人たん丈だけ香盤は抜かれていませんが、こいつは年齢を考えると、

人生で遥か遠くに抜かれておることになります。


一方、なぜ三遊亭歌司師匠が、この会のゲストなのか?

これが結構不思議だったのですが、理由は、

本当は、歌司師匠の弟子の三遊亭司くん!彼も抜かれた一人で呼んで、

たん丈なんて出さずに会をやるはずだったらしいのです、企画段階では。

ところが!司くんがかたくなに出演を拒否したので、仕方なくたん丈を加えた。

そんなこんなで、司くんは出ないけど、歌司師匠だけ出演となったのだそうです。


尚、抜擢真打候補の皆さんは、一応、全員新作の根多卸し。

根多お披露目して拍手の多い二人を、ヴァーチャル真打にする。

“ヴァーチャル”というより、この日だけのシンデレラ真打ですね。

しかも、シンデレラなのに、12時がリミットではなく、9時でした。


0.伝説のビニル傘/ふう丈

先に説明したくだりを圓丈師匠が説明する前に、前座にもまだ成っていない、

圓丈師匠付きの見習い“ふう丈”くんが登場し、開口一番を勤めました。

実は、その存在を新文芸坐の“噂の真相2012”で聞いて知っていたふう丈くん。

圓丈一門に「ヤン坊・マー坊」みたいな、“わん丈”“ふう丈”が居る。

そして、この見習い二人は、かなり過保護に育っているらしい。

そんな情報を白鳥くんが喋っていたので、気になる存在でした。

で、どの程度なんだ!と、思って聴いたんですが、思ったよりまとも。

まとも、というより、前座としてはかなりレベルが高い存在です。

たん丈は、既に抜いています、見習いなのに。そして、玉々丈よりも素質ありです。

上手く成長したら、丈二くんも抜くように思います。

圓丈師匠が過保護児童でも、弟子にした所以が分かる感じです。

伸びてください!ふう丈くん。


1.ナマハゲの小咄/たん丈

登場してお辞儀、「ようこそのお運びで…」いきなり絶句5秒。セリフが飛んでいます。

気を取り直して、“楽しく元気に”がもっとうだというたん丈!お前は前座気分か!!

更に、世間話風でオチもないどーでも良い話をだらだら始める。

百歩譲りこのダラサラ話自身は許すとしても、結局5分程で二回目の絶句!!

今度は、本人に明らかな焦りがあり、言葉がしどろもどろに、


これを見かねた圓丈師匠が袖から飛び出して、高座に登場!(拍手が起きる)

「お前!お客さんが引くだろう。とっととナマハゲやれよ!

お客さんは銭払って見てらっしゃるんだぞ!

お前は土下座してお客さん一人一人の肩でも揉め!」

師匠のお怒り分かります。しかし、弟子に取ったのも貴方ですから…


42歳で入門。43歳から前座修行。厄真っ只中での前座修行は厳しく、

前座仕事がまったくできない、ダメの三乗みたいな前座だったそうです。

それでも、馬風会長退任のご祝儀で、二つ目昇進!!

おそらく、この機会を逃すと、小三治体制では昇進無かったでしょう。

落語協会のキウイになるのか?! みたいなぁー 存在です。


なんせ、このたん丈のデキの酷さに周囲が驚き、それが発端で、

圓丈師匠自らが、理事会で「弟子は30歳まで」のルールを提案したそうです。

ある意味伝説の男・たん丈!! 私は、二度と聴きたくない。

見習いのふう丈の前に出ろよ!です。 

この日最低の取り得のない、いや救いの無い高座でした。

エキセントリックに、いきなりなまはげでも良かったんですよねぇー

できないのに、マクラ振るから、全てがおかしくなるのです。

 

2.教え子は競輪選手/ぬう生

師匠圓丈の前座・二つ目時代の名前・ぬう生を継いでいます。

競輪場のヤジが半端なく激しく酷いのに、ぬう生自身カルチャーショックを受けて、

それを落語にしたいと思って作った作品です。ギャグ満載で時々ホロっとさせる。

焦点の定まらない目をした「宮崎あおい」ってキャラが最高に面白かった。

なかなかいい作品でした。


3.蜘蛛駕籠/歌司

何年ぶり?歌司師匠の落語。以前寄席で相撲根多を聴きました。

ちゃんとした江戸弁で、酒に酔った客の仕草がリアルで楽しい。

新作漬けの一日に聴く古典なので、尚更、気持ちよかったです。


4.巣鴨のうわさ/天どん

覇気が無く、イッセー尾形の滑舌を悪くしたような声!天どんくん。

これがもう7~8回目になりますが、やっと面白い一席に当りました。

これまでと違って、展開にドラマがありました。

若返りのクスリを巣鴨で手に入れたお爺さんが、70→20に変身。

二時間のタイムリミットを渋谷で過ごすという噺です。

ぬう生のも良かったが、天どんくんのも悪くなかったです。

取り戻しました兄弟子二人が、たん丈の失態を!!


仲入りに、圓丈師匠が真打に昇進した時の音源が流された。

当時のカセットテープレコーダーで、楽屋口からマイクで拾った音源だ。

雑音がタップリ入ったものなのだが、非常に貴重な立川談志の口上が聞けた。

圓丈師匠も言ってましたが、この口上を聴いただけで、

立川談志の天才ぶりと、落語に対する情熱が分かる。

最近の真打口上や、襲名口上は、中身の無い単なる大喜利に成っている。

鉄板に受ける「失敗」「下ネタ」のエピソードを言い合うことに終始する。


立川談志は、おそらく圓丈(当時はぬう生)が嫌いだったはずだ。

自分の本に嫌いだ!と書いているから間違いない。

でも、尊敬する圓生のお気に入りで、五代目圓楽の弟弟子だから、

口上に並べば、ちゃんと自ら思いを語り、圓丈を激励する。

談志曰く「真打とは、看板として客が呼べる芸を持つ者」

その為に本人には精進させますから、皆様!叱咤激励を宜しくと言う。

圓丈がだらしない芸を見せたら叱り、素晴らしい時は惜しみない拍手を下さいと。


この後、圓生師匠が談志師匠に「昭和の名人」と紹介されると、

「私は名人と呼ばれるのが嫌いで…」と、名人論を語り、

自分が目の当たりにした名人は、橘家圓鏡師匠だけだ!と言う。

それに談志師匠がチャチャを入れるので、漫才のようなやり取りに。

流石に二人とも圓丈真打披露の口上だったと思い出して、

話題を「なぜ、ぬう生って付けたか?」に代わり、

初めて圓生師匠のところに、圓丈師が来た時の思い出を語りました。

それが終わるか終わらないかで、テープが切れてお仕舞いに。

残念!最後まで聞きたかった。でも、貴重なものを拝聴しました。


5.肥辰一代記/圓丈

この噺、初期の圓丈作品の傑作の一つですが、最近やられません。

理由は簡単です。「うんこ」の噺だからです。ダメな客は引くからねぇー

噺の舞台は、昭和三年。まだ、肥汲みが職業として立派に成り立っていた時代。

「肥汲み」の事を、江戸(もう東京に成っている)では「汚穢屋(おわいや)」と呼びました。

勿論、現在、汚穢屋は立派な放送禁止用語です。


まず、昔の汲み取り式トイレの構造説明から入る圓丈師匠!

「皆さん、汲み取り式の醍醐味、分かりますか?」ですから。

師匠曰く、二階の汲み取り便所から“大”を落とす時の音なんだそうです。

汲み桶の“肥”の残量と、季節で、ボットンの音色が変わると言うのです。


100%人気なく嫌われ差別された汚穢屋だが、

江戸時代、大阪冬の陣での汲み取りに活躍した“初代・肥辰”という者があり、

葵の御紋付きの肥柄杓で、その技を神の領域まで一代で極めた。

ここで、肥撒きの秘儀が色々登場します。虹の肥撒きされた道にはタンポポが!みたいな。

それが代々受け継がれて、昭和三年、十三代・肥辰が活躍。

かつぐ天秤桶を、漆塗りにして外は黒、中は朱塗りにして贅を極めた。


そんな十三代目に、薬問屋の長男・孝太郎が弟子入りを希望。

ここで、肥辰一門の厳しい修行や、利き肥の極意が語られます。

そして、めだたく孝太郎は、十四代目を継ぐという!ナンセンス。

笑いました。最高の圓丈ワールド。


そうそう、なんでも剣道をやっている60代は記憶力が衰えていない。

というリサーチ結果があるそうで、圓丈師匠67歳から剣道を始めてみるそうです。

でもねぇーあんだけ剣道やっていた五代目・小さん師匠は、

大して記憶力良くなかったと思います。

 

6.ソング・コップ/つくし

フィリピンで、国家編曲禁止法が制定された話題に触れて、

世界各地で、音楽に関する変わった法律をマクラで紹介しました。

そして、もし、日本で「全ての歌が、原曲通りに歌わないと逮捕されるとしたら?」

この仮定の元、新作落語が展開される『ソング・コップ』

悪くないのですが、終始同じ高いテンションに聴いていて疲れます。

しかも、4時間近い6席目でしから・・・ 察して欲しかったです。

 

結局、ヴァーチャル真打 1位:天どん、2位:つくし 次点:ぬう生。

そして、この会の私の点数は、85点!たん丈無しなら90点でした。