これで四ヶ月連続での月刊談笑です。
この間、『らくだ』『井戸の茶碗』『百年目』『鼠穴』『妾馬』『お直し』と聴いて、
今月が、『抜け雀』と『浜野矩随』です。大根多6連発の最後に相応しい会でした。
1.道灌/吉笑
この前座さんを聴くの、これが三回目です。2ヶ月前もこの『道灌』でした。
立川流も、柳家の流れを汲んでいるいるので、この『道灌』から習うようですね。
さて、吉笑くん、2ヶ月前の『道灌』からは、かなり進化していて笑えました。
ただ、噺のリズムが“今時のお笑い”風で、落語ではないんですよねぇー
まだまだ、これから稽古と経験で、成長していくのでしょう。
2.抜け雀/談笑
マクラで、AKB総選挙と選抜されるネ申7の話に触れて、
どうも、あいうのは、大嫌いなのだとカミングアウトし拍手が起きました。
そして、師匠談志の話になって、あのくらい反対主義者はいない、
なんせW杯:南アフリカ大会で、「日本負けろ!」と言っていたからねぇ。
更に、震災や原発についても、弟子には語っているそうですが…
あえて、言いません。そう言って『抜け雀』へ。
演出が斬新な『抜け雀』でした。
まず、倅の方の貧乏・絵師が、大酒呑みではありません。
自然を愛し、花鳥風月に対する感動と、その表現に富んでいる風流人なのです。
そして、連日、人の良い宿の主人を連れて、裏山・小川など自然を散策します。
そうそう、『抜け雀』といえば、その舞台は相州小田原なのですが、
談笑の『抜け雀』は、特に場所を特定して演じません。
だから、抜け出る画に千両の値を付けるのは、大久保加賀守ではないのです。
“さる大名”と言って、サラッと演じます。
更に更に、あの墨を擦るくだりがありません。
だから、「お前の見えの下に付いている二つあるものは何だ!」
「見て分からないような目なら、銀紙でも貼っておけ!」がありません。
それどころか、倅れが描く画は、実に写実的でまるで生きているように見えます。
しかも、その生きているような画から、雀が抜け出るという設定です。
あと、この貧乏な倅絵師は、一文無しと相場は決まっていますが、
談笑の貧乏絵師は、なぜか、一文持っています。
そんなゆるーい展開から、雀の画のおかげで宿屋は有名になります。
有名に成った宿に、貧乏絵師の父親の絵師が登場しますが、
なんと!名前こそ名乗りませんが、水戸藩のお抱え絵師だと関係を説明し、
この雀を書いたのは、ワシの倅であると告白します。
で、止まり木を描くと言って、篭を描くところは古典に忠実ですが、
「父親を篭かきにした!」ってオチではありません。
この後、親子が対面し、倅が「何て余計なことをするんだ、クソおやじ」と罵り、
おやじも「このバカ息子、何時まで経っても了見が定まらん奴じゃぁ」と嗜める。
親子喧嘩になり、せっかくの抜け雀の画が、二人が加筆し過ぎて台無しに…
「あぁーなんてこった」と、宿の主人が嘆くと、水戸藩の絵師の弟子が、
「主人、それは仕方ない、親子鷹だけに、雀はひとたまりもないぞ!」
談笑の『抜け雀』、悪くはありません。アレ?っとは感じるけどね。
宿屋の主人がお人よしで、女房の知りに敷かれているのは古典通りだし、
ギリギリの線で、古典の良さは残して演じてくれます。
3.浜野矩随/談笑
マクラで、また談志の話をしました。
若くして売れて、良い方向に時代が流れ始めると、
正のスパイラルとでも言うべき、運気の回転が起きるというのです。
談志師匠なんかは、その典型で、テレビで人気者になり、
そのおかげで人が集まって来る。そして、芸の肥やしをそこから吸収、
ちょうどいい塩梅の頃に、テレビを卒業して落語に専念できる。
すると、また、テレビで売れた時代とは違う種類の人が集まり、
更なる肥やしを、その人々から吸収し、芸が大きくなる。
この正のスパイラルで、化け物のような芸人・立川談志が誕生したというのです。
そして、名人『浜野矩随』へと入ります。
全く奇をてらうことなく本寸法で演じます。
矩随の母親が死なないハッピーエンドの志の輔や、
ひょっとこ某みたいなギャグ満載の志らくとは違って、
100%人情噺で、泣かせる『浜野矩随』を演じ切りました。
なんだろう、談志に語りのリズムがそっくりなんですよ。
こんな談笑を観たの、本当に初めてでした。
やればできるジャン!と思っちゃいました。
次回から三ヶ月も月刊談笑聴くか?と迷ったのですが、
あえて、三ヶ月間を空けて、また秋から聴くことにします。
さて今回の月刊談笑の点数は、96点!!