前回は、自分の死を察知した息子が、死を前にして母親に会いに来た話を書きました。自分の死を感じた人が親しい人にお別れを言いに来たのですが、別のケースもあります。以前、よく私に相談する方が話していました。その人は学生時代にロックバンドを組んでいました。4人組のバンドでした。メンバーは同じ大学に通う男子4人です。当時は皆がプロを目指していて、勉強そっちのけで毎日会って練習していました。そして小さなホールや集会場を借りて定期的にコンサートを開いていました。プロデビューしたわけではなく、それだけの実力もありませんでしたが、ありがたいことにコンサートをすれば応援してくれる女子が何人か集まってくれます。ステージに立てば、プロになった気分で気持ちよく演奏できるのです。そんな楽しい青春の日々を送っていたのです。
そんな4人でしたが大学を卒業するとそれぞれが別の道へ進んでいきました。相談者はきっぱりと音楽をやめて、一般企業に就職しました。他の二人もしばらくは音楽にしがみついていましたが、30歳を前に将来を考えて地元の会社で正社員として働き始めました。残ったもう一人のA君は、「オレは絶対にプロになる」と宣言して、地元を離れて東京へ引っ越しました。そしてアルバイトで食いつなぎながら、自分の作った曲を録音して、レコード会社や音楽事務所へ売り込んでいました。それからしばらくして、A君から「新しく4人組のバンドを組んでプロデビューを目指す」と連絡が入りました。そのときは4人で集まって、A君の成功を願って乾杯をしました。しかしそれからA君からは音沙汰なしで、デビューした形跡もありませんでした。そして相談者も他のメンバーも日々の仕事や生活に追われて、音楽のこともA君のこともすっかりと忘れていました。気が付けば4人とも40歳を過ぎていました。
相談者はあるとき、ふと忘れていたA君のことを思い出しました。特に夢に出てきたとか、噂話を聞いたわけでもありません。最後に会ってからもう10年ぐらいが経過していました。その間、まったく連絡は取り合っていませんでした。ただ、何となく気になったのです。それから相談者はA君のことが頭から離れなくなりました。そして勇気を出して、A君へ連絡を入れてみました。するとA君はまだ、以前住んでいた都内のアパートにいて連絡が取れたのです。相談者はA君のアパートの近くで待ち合わせて、二人で居酒屋でお酒を酌み交わしました。
久しぶりに会ったA君は年は取りましたが、何も変わっていませんでした。今も曲は作っていて、自分では歌わずに、ゲーム音楽やタレントのプロモーションビデオなどに売り込んでいました。ときどき採用されているようですが、ヒット作はありません。それでもまだ夢を語っているA君が相談者には、とても懐かしく、誇りに思えました。自分はとっくの昔にあきらめた夢をまだ追求しているA君が輝いて見えたのです。
「だけど、時々自分の人生を考えるよ、これでよかったのかなぁ… お前たちはみんな音楽にさっさと見切りをつけて、シフトチェンジして上手く生きている。オレだけ貧乏くじを引いたとは思わないけど、未だにバイト暮らしで結婚もできない。オレが音楽を目指したのは、こんな貧乏暮らしをするためじゃなかったんだけどな…」
A君はお酒が回るとそうつぶやいて下を向きました。
「………まあ今日は飲もうぜ!おごるよ」
相談者はそう言うのが精一杯でした。そして二人で明るくなるまでお酒を飲んで、その日は別れました。
A君が急性心不全で亡くなったと連絡が来たのは、それからわずか1週間後のことでした。アルバイト先の会社で突然胸を抑えて倒れてそのまま亡くなったのです。相談者は考えました。
~オレがあの日、A君を無理に飲ませたことが心不全を引き起こさせたのではないか。或いはA君が亡くなることはあらかじめ決められた運命で、それで生きているうちにもう一度話すためにオレがA君を誘ったのか~
私は悩んでいる相談者に答えました。
「動物でも猫は死ぬ前に姿を隠すと言います。死期が近づいた象は、仲間の群れを離れて“象の墓場”で最期を迎えると言います。人間にも自分や親しい人の死期を感じるセンサーはついています。あなたがA君の死期を無意識に感じ取ったために、死ぬ前にもう一度どうしても会いたくて、彼に連絡をしたのでしょう」
青春の思い出であるA君の死は相談者にとって大きな痛手です。それでも死ぬ前にとことん話が出来たことは、わずかでも救いにはなったように思います。
2022年9月1日から、紀伊國屋書店をはじめとする全国の書店、インターネット書店(アマゾン・楽天など)で、シュンさんの本が発売になりました。「地球はどうしてできたのか」「人類はどうして誕生したのか」「霊界の仕組みや構造はどうなっているのか」そして「幸せに生きるすべはどのようなものか」、シュンさんがさまざまな体験に基づいて明確に答えています。悪質な”霊感商法”が問題になっている今だからこそ、霊や霊界について正しい知識を身に付けて、悪徳業者を見分けるポイントを把握してください。
■書名
霊界が教えてくれる
この世で幸福になる方法
■著者:霊能者SHUN(シュン)
■四六判248頁
■定価1650円(本体1500円+税10%)
■ISBN978-4-341-08818-7
■発売 株式会社ごま書房新社
目次
序章:地球の誕生と人類の出現
第一章:霊界の存在とその仕組み
第二章:人の縁の不思議
第三章:心霊スポットが危険な理由
第四章:霊障は理不尽なもの
第五章:先祖と私たち
第六章:この世の上手な過ごし方