第１５３６回　悪霊の執念（２）

　相談者にとって夫と子供を同時に失うという、これ以上の悲しみはありません。しかし、退院して夫の実家に戻ってきた相談者には、待ったなしに決めなければならないことが待っています。それはこれから自分がどこで暮らしていくかという問題です。つい１年前までは夫の実家で義父母と自分たち夫婦と子供と５人で暮らしていました。しかし、１年前に義父が亡くなり、今回の交通事故で夫と息子が亡くなりました。今は夫の実家には義母と自分しか残されていません。退院後、夫と息子の位牌は夫の実家の仏壇の中に収められています。しかし、このまま義母と二人でこの家で暮らすことは相談者にとって大きなストレスになります。

　今までも義母との折り合いは決して良くはありませんでした。それでもいつも周りは誰か他の家族がいましたから、その人が“中和剤”になって、義母とぶつかることなく表面上はつつがなく暮らしていたのです。しかし、”緩衝材“となって嫁姑の対立を回避してきた長男３人がいなくなった今、姑と上手くやっていく自信が相談者にはありませんでした。また、義母さんは加齢のせいか、少しずつ認知症の症状が出てきていました。物忘れが激しくなり、今までよりも怒りっぽくなっていました。膝や腰の痛みを訴えて、家で横になっている時間も増えてきました。まだ、介護ヘルパーを頼んだり、施設を探す段階ではありませんが、このまま進めば、要介護状態になるのも時間の問題と思われました。この状況を察した夫の兄弟は、何度か家にやって来て、

　「〇〇さん、夫の実家と言うことはあなたの家でもあるんだから、これからも遠慮なくここに住んでください。お母さんだって一人じゃ不安だし、あなたが一緒なら心強いと思うのよね」

　この言葉は、“これからもこの家にいて、ずっとお母さんの面倒を見てちょうだい”と言っていることに他なりません。年を取ってきたお母さんの世話や介護を相談者に押し付けようとしているのです。言い換えればこの家にタダで住まわせてあげる代わりに、無給で家政婦と介護士をしてくれと言っているのです。その本音は相談者にもハッキリと伝わってきました。この家は相談者にとっても住み慣れた思い出の残る家です。でも、思い出はこの家にあるのではなく人に付いてきます。愛する夫と子供がいたから、この家に思いが残ります。その大切な二人を失った今、相談者にはこの家に未練はありませんでした。今後の身の振り方を相談された私はハッキリと答えました。

　「義母さんの親族は、誰も義母さんの面倒を見ようとしませんから、あなたがこの家を出ることには反対するはずです。でも、ご主人と息子さんがいなくなった今、この家に住むことはあなたにとって悲しみを引きずることになります。あなたの人生はまだあと半分も残っています。これから第２の人生を歩み、そこにまた幸せを見つけることだってできます。お母さんが一人で生活できているうちに、この家を出て一人で暮らしてください。この家は霊的に見ても非常に悪い因縁を持っています。そこで折り合いの悪い義母さんと二人で暮らすことはさまざまなトラブルを引き起こします。今この家を出ないと、もっと姑さんとの関係を悪くして憎み合ってから出ていくことになります。当面の生活は貯蓄以外にも、生命保険、自動車保険で賄えるでしょう。ご主人と息子さんの位牌も自分の住まいに移動して、そこでお二人の供養をしながら次の人生をじっくりと考えてください」

　こういったケースでは、ご主人の実家にとどまった方が良いのか、出て行った方が良いのか、正解はありません。その人たちの状況によって選択は異なります。私は相談者がこのまま実家にいる先の未来を観た時に、肉体的に介護で疲れ、姑さんの嫌味やわがままに振り回されて、暗く沈み込んでいる顔しか浮かんでこなかったのです。それなら思い切って家を出て、新しい生活を始める方が、相談者にとってはなるかに有意義な未来になると感じました。思い出は家を出ても、心の中にしっかりと刻み込まれています。それはどこで暮らしていても生涯消えることはありません。その思い出を胸に秘めて、自分の足で歩む第２の人生で幸せをつかんでほしいと思いました。

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