第１５０９回　霊体（１）

　よく「霊はどのように見えるのですか？」と尋ねられることがあります。見え方はその霊と私の霊的波長がどれだけ近いかによって異なります。ボンヤリと見えたり、影のように見えることもありますが、私と波長がピッタリと合っているようなものですと、生きている人間と見間違えるぐらいにハッキリと見えます。町中を歩いていて、前から歩いてきた人と“ぶつかる”と思った瞬間に体をすり抜けたことがあります。真後ろに来てはじめて気づいて振り向いたこともあります。電車で隣に座ってきた人が、次の駅に着くと消えていたこともあります。私が霊感のスイッチを「オン」にして警戒していれば、近くに来た時点で霊であることは分かります。しかし、ずっとスイッチがオンですと非常に疲れるので、普段はオフにしてボーっとしています。そんなときは全然気が付かずに、体が触れた瞬間に「霊だったんだ」と分かることもあります。

　先日、霊的間口の広い方と除霊を終えた後に話をしていました。その人は学生時代に「恐ろしい霊体験をしたことがある」と話していました。その人は当時は運動部に入っていて、夏休みには３週間の合宿を行っていました。合宿場所は富山県のスキー場にあるホテルです。冬にはスキー客でにぎわいますが、夏は閑散としています。そのためスキー場にあるホテルは大学の運動部の合宿場所になります。この年、合宿も終盤に差し掛かったころ、息抜きも兼ねて、夕食後に”肝試し“が行われました。それはその運動部の伝統行事で、その年に入部した新入部員が、ホテルからほど近いお寺の本堂をスタートして、お墓を通り抜けて裏山にあるお堂に置いた封筒を持って帰ります。その封筒の中には所属する班の翌日の練習メニューが楽なものから厳しいものまでいろいろと書かれています。そんなレクリエーションを兼ねた肝試しでした。

　夕食後に暗闇の中で本堂の前に並んだ新入部員たちは、約１０分間隔で一人ずつ懐中電灯を持って裏山へ入って行きます。コースの所々には、先輩部員がチェックポイントを設けて、事故や不正行為に備えて監視しています。そんな中で相談者は一人で真っ暗な山へ入って行ったのです。子供のころから何度か霊体験をしていた相談者は、スタートしたときから何か嫌な感じがして震えていました。それでも自分だけ逃げるわけにもいかないので、ハラハラしながら先輩のいるチェックポイントをクリアしていきました。やがて最も不気味な夜の墓地に入りました。暗闇の中で時おり懐中電灯に映る墓石はとても恐ろしくて逃げ出したくなります。

～近くに誰か先輩はいないか～

そんなことを思いながらお墓の中を進んでいた時です。

「ここは足元が悪くて脇道も多いから道を間違えないように気を付けてくださいね。私もこれからお堂へ行きますから後を付いてくると良いでしょう」

　突然、横からそう声を掛けられました。慌てて懐中電灯を向けると、法衣の上に袈裟を羽織った初老の僧侶が、ニコニコしながら声をかけてきたのです。

～きっとこのお寺のご住職が事故が起きないように、見回ってくれているのだろう～

　そう考えた相談者は、大学や部活動の話をしながら、僧侶の後について山奥へ入っていきました。老人は終始聞き役で、相談者の話に頷きながら笑顔で返事をしていました。相談者は“ご住職と一緒なら、これ以上心強いものはない”と考えてホッとしていました。ただ、ご住職と一緒にいることを“先輩からとがめられることは無いか”それだけが心配でした。一人でお堂まで歩くのが肝試しのルールでしたから、そのことだけを不安に感じていたのです。そこで、

～次に監視役の先輩に会ったら、このことを確認しよう～

　そう考えて足を進めていきました。しかし、不思議なことにご住職と一緒に歩きだしてから、ところどころのチェックポイントに立っていた先輩には誰も合わなくなりました。もうかなり進んでいるのに、先輩はどこにもいないのです。（２）へ続く。

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