第１４９７回　滞留する悪念（３）

　この元同僚から飛ばされた呪詛の念はかなり強力でした。霊能力は低くても、元同僚は“退社の原因を作ったのは、相談者だ”と思い込んでいましたから、恨みの念は強くなります。さらに会社をやめて転職したものの、給料も仕事内容も納得のできるものではありませんでした。その分だけ恨みの思いはさらにアップします。そして何よりも高額な代金を支払い呪詛の手伝いをしている“僧侶くずれ・修験者くずれ”の連中が、悪念を10倍・20倍に増幅していますので、それも侮れない力になっています。

　私は2重に張った家の結界を点検・確認して、弱いところは強化しました。そして寝室に「写経」を掲げて、ベッドを”魔鏡“で2重に囲いました。そして携帯している「モリオン」と「神符」に加えて、天眼石のブレスレットを左手に付けてもらいました。これはもうこれ以上ない強力な壁になります。その結果、またしばらくは平穏な時間が流れました。相談者のタイミングは良くなり体調も回復してきました。これで今度こそ解決したと思いました。

　しかしまた災いは訪れました。相談者が昼間、歩道を歩いているときに、すごい勢いでこちらに向かってタイヤが転がってきたのです。そのタイヤはカーブを曲がったトラックから外れたものです。それがまるで相談者に狙いをつけたように、まっすぐに向かってきて相談者に激突したのです。相談者はぶつかった反動で後ろに飛ばされて頭を強打しました。幸い頭蓋骨の骨折や内出血もなく5日間の入院で退院できました。ただ、このアクシデントの起こり方が普通ではありません。運転中の車からタイヤが外れることは滅多にありません。しかもそれがたまたま歩道を歩いている自分に向かってきてぶつかることは、寿命まで生きてもほとんどの人は体験しません。この“あり得ないことが起きた”のは、会議室で怪我をしたときと同じです。そして相談者は入院中にまた金縛りに遭って元同僚が体の上に乗ってきたのです。

　相談者は退院すると家の結界や自分を守るお守りを点検しました。すると結界の基点に使っていた大きな「カミナリ水晶ポイント」が「天然塩」を敷き詰めた器の中で倒れていました。そして寝室に掲げた「写経」が床に落ちていました。そしてベッドを囲っていた「魔鏡」の位置もずれていたのです。私は連絡をもらってすぐに相談者の家へ駆けつけました。悪霊も悪念も結界が張られていると、その中のどこか弱い部分を探してそこに圧力をかけて隙間を作ります。そこから入り込んでターゲットになる人に悪影響を与えるのです。私は家の中に溜まっていた悪念を祓い、隙間のできた結界を補修しました。しかし、それで安心することはできません。

　～どれだけ守りを強化しても、この呪詛の悪念はさらに強い力でこの結界を壊してくる。そして隙間が出来てしまえば相談者にまた災いが降りかかる～

　このことは明らかでした。そこで私は作戦を切り替えました。まずはこの相談者へ向けられている呪詛の力を利用して、それを相手へ跳ね返すことにしたのです。このケースでは悪念の発信者は特定されています。それなら発信者の家に結界を張ることで、元同僚の悪念が、呪詛グループとつながることを阻止します。さらに結界を張ることで、元同僚の出した悪念は、３倍になって自分に跳ね返ります。いかに霊能力の低い元同僚でも、自分の出した悪念が３倍になって自分を襲うことになれば、肉体的にも精神的にも経済的にもかなり辛い状況に追い込まれます。その結果、元同僚が悪念を出すことをやめてくれることを目指したのです。

　私は相談者に案内されて、深夜に元同僚の家を訪れました。そして家を囲うように家の周囲に穴を掘ってそこに「天然水」と「天然塩」と「特大のカミナリ水晶」を埋め込みました。そして家の横に止めた車の中から、マントラを唱えて元同僚の家に強い結界を張ったのです。（４）へ続く。

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