第１４８０回　二人暮らし

先日、実家を出てアパートを借りて一人暮らしをしている女性から相談を受けました。その人によると、仕事を終えてアパートへ帰ってくると、“物が動いていること”がしばしばあるというのです。たとえば家を出るときにテーブルの上に置いたカップの位置が、家に帰ると微妙にずれています。浴室のドアにかけたバスタオルが、端に寄っています。薬箱から出した記憶のない薬がデスクの上に乗っています。夜寝る前に枕元に置いたスマホが、朝起きるとリビングにあることもあります。最初は自分の記憶違いかと思いました。また、もしかしたら寝ている間に、無意識に自分で動かしているのかもしれません。ただ、自分では覚えのない場所にあるはずのないものが置いてあるのは気持ちの悪いものです。

　最初はアパートの管理人や警察へ相談しようと考えました。しかし、物が無くなっているわけではありません。そうなると窃盗の被害届を出すこともできませんから、訴えるところが無いのです。そのため気持ちが悪いと思いながらもそのまま暮らしているのですが、このおかしな現象は一向に収まることはありませんでした。

　私は相談者にアパートの自室や建物全体の画像を送ってもらいました。確認すると何枚かの画像には、初老の男性が明確に映り込んでいました。この男性の不浄霊は土地に棲む地縛霊やこの辺りを漂っている浮遊霊とは違います。この建物には霊道なども通っていませんから、アパート自体に長く棲んでいる霊です。私は相談者に尋ねました。

　「このお部屋は事故物件ではありませんよね？」

「いいえ、古いアパートですが、そういった話はまったく聞いていません」

　相談者は困惑しながら答えました。もし、この部屋で亡くなっている人がいれば、不動産屋は部屋の契約時に告知しなければなりません。それが無いということはとりあえずこの部屋自体は問題はありません。しかし、私はどうも引っかかったので、

「古いアパートですから、このアパートの中で不慮の死を遂げたとか、自殺をした人がいると思います。それを確認できないでしょうか？」

　そう伝えました。不動産屋は契約する部屋以外で亡くなった人が出ていてもそこまでは教えてくれません。相談者はすぐに動きました。同じアパートに長く住んでいるお婆さんがいます。その人とは時々会話を交わしていましたから、思い切って尋ねてみたのです。するとその相談者の斜め下の部屋に住んでいた初老の男性が５年ほど前に“孤独死”していたのです。その人は持病が悪化して動けなくなり、誰にも助けてもらえずに亡くなっていました。そして死後、２か月以上経ってから臭いで発見されたのです。

「やはりそうでしたか………」

　私は相談者に話しました。「その初老の男性は、誰かと関わりたかったのです。話をしたり、お茶を飲んで一緒に笑える人が欲しかったのです。それが出来なくて孤独の中で亡くなりましたが、死んで自分の部屋にとどまって見ると、斜め上の部屋に自分と上手くつながれる（霊的波長の近い）女性が住んでいたのです。この霊は生きていた時よりも亡くなった今の方がある意味幸せだと思っています。この霊はあなたが部屋にいる時もいないときも、この部屋であなたと一緒に暮らしています。そして“自分に気づかれてはいけない”と思いながらも、自分の存在を分かってもらいたくて、自分がこの部屋にいる足跡を残していたのです」

「うえっー」

　相談者は悲鳴のような声を出して絶句しました。

「このままこの部屋に住む続けることは、この初老の不浄霊とのつながりをますます強くします。そうなるとこの場所ではなくてあなたに憑いていくようになりますから、引っ越しをしても離れなくなります。そうなる前に早くこの部屋は出ていかれた方が良いです」

　相談者は私の話を聞いて、直ちにこの部屋を引っ越して行きました。

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