第１４５９回　リンク（１）

　仕事でも勉強でも、スポーツでも芸術でも、その成功・失敗のきっけかになったポイントが、実は本線から外れた思わぬところに隠れていることがよくあります。夢や目標を実現するためにずっと努力を重ねていても、なかなかそこに辿り着くことができないでいたときに、不意に訪れた一つのきっかけによって壁を打ち破れることがあります。逆に目標達成へ向けて順調に進んでいたのに、本線とは離れたところに隠れていた地雷を踏んで、すべてを台無しにしてしまうこともあります。最近、ニュースを見ていて改めてそう感じた出来事がいくつもありました。

　たとえば政治問題でいれば、政治家として良い政策を立ててそれを伝えるために毎朝、駅前に立って演説をして、ようやく信頼を得た時に、政治とは全く関係のない問題が発覚して、今までの努力を一瞬で水の泡にした人が何人いたでしょうか。

　12月８日に、シリアで父子２代にわたって50年以上も独裁政治を続けていたアサド政権が崩壊しました。そして反政府勢力が首都ダマスカスに迫ってくると、独裁者だったアサド大統領は飛行機でシリアを脱出してモスクワへ亡命しました。50年という長きにわたる独裁政治の中では、何度か政権崩壊の危機がありました。特に2011年の「中東の春」と呼ばれた民主化運動は、中東や北アフリカの独裁政権を倒して、周辺国へ広がりを見せていました。シリアでも“アサド独裁政権の打倒運動”が全国各地で勢いを増して、反政府派の軍隊は首都へ迫っていました。そのときアサド大統領は反対派勢力の拠点へ激しい空爆を加えて、反対派を見つけては捉えて拷問や虐殺を繰り返していきました。そうして“恐怖”によって反政府運動を抑え込んだのです。

　その時にアサド政権を支えたしたのが、「ロシア」「イラン」「ヒズボラ（レバノンのイスラム教シーア派の政治・武装組織）」です。この3つの勢力は、優秀な軍事顧問団を派遣したり、強力な武器や兵士をシリアへ与えて、アサド政権が民主化勢力を弾圧することを助けてきたのです。しかし、2011年から考えても23年間、どうやっても倒せなかったアサド政権がここにきてあっさりと崩壊しました。そのきっかけはシリア以外の問題にありました。一番の支援国「ロシア」は、2022年2月から始まったウクライナ侵攻の長期化によって武器も兵員も全力を挙げてウクライナへ投入しています。そのためアサド政権を今までのように強く支援する余裕が無くなりました。「イラン」も今年10月にイスラエルから大規模な空爆とミサイル攻撃を受けて、その報復のミサイル攻撃を行いました。そのため「イラン」も今後の「イスラエル」との戦闘悪化の可能性を考えると、アサド政権を支援する余裕はありません。そして「ヒズボラ」は、「ハマス（パレスチナのガザを統治しているイスラム教原理主義の政治・武装組織）」が、昨年10月にイスラエルをミサイル攻撃して、「イスラエル」と戦争状態になったことから、「ハマス」を直接軍事支援することになりました。そして今年9月から「イスラエル」と「ヒズボラ」も戦闘状態に入ったことで、同じくアサド政権を支援する力が無くなりました。

　つまり、シリアのアサド政権は、今月に入っても50年以上も続けてきた通りに、国民を暴力や恐怖で縛りつけてシリアを統治していました。そのやり方に何らミスも変更もありません。今まで通りに統治していました。しかし、アサド政権を支援してきた「ロシア」「イラン」「ヒズボラ」のそれぞれの事情によって、自国の支援が薄くなり、その間隙を突いた反政府勢力が攻勢に出て、あっという間に崩壊してしまったのです。

　独裁者は自らが招いたこととは言え、何とも言えぬもどかしさを感じながら父子で50年以上も統治した自国を旅立ったことでしょう。そしてこのような出来事は何も政治や戦争に限ったことではありません。人生のさまざまな場面で、良くなるか、悪くなるかのポイントは、そのこと自体とはかけ離れたところに隠れていることは多いのです。（2）へ続く。

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