第１３８８回　殺害被害者の無念（１）

　こういう仕事を何十年も続けていると、死霊や生霊の怖さを思い知らされることがしばしばあります。特に200年以上も前に殺された人が、その恨みを晴らすために、今でもその子孫に祟っているようなケースを見ると、“人の思い（恨みや憎しみ）の重さはどれだけのものなのか”恐ろしくなります。経済事件や詐欺事件の容疑者がマスコミの取材を受けて「私は法律に触れることは何もしていない」と堂々と無実を主張することがあります。彼らは最初から警察の捜査が及んでも抗弁できるような形で契約を結び、書面を残しているからです。しかしもし、ずる賢い彼らが司直の追及を逃れたとしても、騙された人たちの“恨みの思い”は残ります。私に言わせれば、法律よりも“恨みの念”の方が、はるかに強く恐ろしいものです。それが殺人事件となれば、被害者の恨みや憎しみは一入（ひとしお）です。

　以前、このブログでも触れましたが、2009年11月6日、広島県と島根県の県境に近い広島県山県郡北広島町の臥竜山（がりゅうざん）で、女性の頭部が発見されました。DNA鑑定の結果、島根県浜田市で10月26日から行方不明になっていた19歳の女子大生と確認されました。翌11月7日には左大腿骨、11月8日には胴体、11月9日には左足首、11月19日には爪が発見されました。捜査は難航しましたが、2016年になって、周辺地域に住む性犯罪歴のある人物を捜査し直したところ、2004年にわいせつ事件を3件起こして、懲役3年6か月の判決を受けていた人間が、近隣の益田市に住んでいることが分かりました。この容疑者と被害者の間に接点はありませんでしたが、容疑者は被害者の頭部が発見された2日後の2009年11月8日に山口県内の高速道路で事故死していたのです。そして容疑者の遺品を調べたところ、デジタルカメラとUSBメモリが発見されました。その映像は死亡直前に削除されていましたが、復元したところ容疑者の自宅の風呂場で、被害者の体を解体している映像が映されていたのです。この映像が決め手となって、女子大生を殺害した犯人は特定されました。

　私は犯人が事故を起こした高速道路を確認しました。そこは田舎の走りやすい高速道路で普通に運転していれば事故を起こすような場所ではありません。犯人は高速道路で車を運転中に、何か死亡事故を起こすような大きな出来事に遭遇したのです。私はニュースで映された映像を見ましたが、そのとき頭に浮かんだのは、犯人が車を運転中に、突然フロントガラスに覆いかぶさった若い女性の姿です。一瞬浮かんだその顔は、ニュースで何度も見てきた被害者の顔でした。何の落ち度も無いのに理不尽に殺されて遺体を解体された被害者の無念は察するに余りあります。人を殺しておきながら、平然と高速道路を運転していた被害者の視界は、一瞬にして殺した被害者の血まみれの形相で埋まりました。その結果、慌てた犯人はハンドル操作を誤って、ガードレールに激突しました。そして罪の報いを受けて命を落とすことになったのです。

　古い話になりますが、1977年に埼玉県秩父市で貯水槽の中からセーターを着た女性の腐乱死体が発見されました。女性の遺体が発見されたことにより、犯人は2年前に、当時交際していた被害女性を殺してこの貯水槽の中に遺棄したことが発覚しました。遺体発見後に事件はスピード解決したのですが、それには伏線がありました。この貯水槽の周辺では、セーターを着て顔の崩れた女性の幽霊の目撃談が数多く寄せられていたのです。この幽霊をこの地域の多くの人が目撃していたため、それは新聞や雑誌でも何度も取り上げられていました。そのこともあって、普段開けられていない貯水槽の蓋が2年ぶりに開けられることになったのです。無残に殺されて弔われることもなかった被害女性の無念の思いが、幽霊となって現場周辺に何度も現れて、自分の居場所を伝えていたのでしょう。

　このように殺害された被害者の無念が、事件を明るみにしたり、犯人に復讐したケースは世界中で報告されています。次回は海外で起きた同様のケースについてお伝えしたいと思います。（2）へ続く。

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