あなたは木になりたい?


先日、知人から「これ、絶対観たほうがいいよ!」と勧められた映画『パーフェクトデイズ』をAmazon Prime Videoで観ました。この映画、トイレ清掃員として働く主人公の日常を淡々と描いているのですが、なんとセリフがほとんどないんです。そのため、観る側は主人公の行動や表情から「彼は今、どんな感情を抱いているのだろう?」と想像しながら物語に引き込まれていきます。観ているうちに気づいたのですが、この映画は単なる「人間ドラマ」を描いているだけではなく、人間が抱える感情の存在、そして喜怒哀楽そのものについて深く考えさせられる作品だと感じました。 


 特に印象的だったのが、主人公が「木」を写真に撮ったり、部屋で植物を丁寧に育てたりするシーンです。植物って感情を持たないし、何も言わないじゃないですか。でも、人間は喜びや悲しみ、怒りや楽しさといったいろんな感情を抱えながら生きていますよね。この対比がすごく表れているんです。「感情を持つのって疲れるよね。でも、それが人間だよね」というメッセージが込められているように感じました。 


そして、ラストシーン。主人公が涙を流しながら笑ったり、少し苦しそうな表情を浮かべながら車を運転するシーンで終わるのですが、「なぜこのような終わり方なのだろう?」と考えさせられました。でも、多分そこが狙いなんですよね。観る人それぞれに考えさせる余地を残してくれているというか、「答えは自分で見つけてね」的な。 


私の解釈では、主人公の生き方は「植物になりたい」と願うほど感情に疲弊しながらも、完全に感情を捨てきれない人間の矛盾を表現しているように思います。喜びや楽しさ、悲しみや怒りといった喜怒哀楽を抱えることこそが人間の本質であり、それを超越することはできない。むしろ、その矛盾や感情の多面性こそが人間らしさそのものであって、感情に疲れることもあるけれど、結局それを日々受け入れるしかない。それが人生なのだと。このことが「パーフェクト・デイズ」というタイトルの意味なのかな、と思います。 


ちなみに、「パーフェクト」という言葉には「完全」「完璧」という意味がありますが、この映画では「欠けた部分や矛盾を含めて全部ひっくるめて人間らしい」ということを表しているのではないかと感じました。つまり、「完全、完璧な日々」というよりも、「不完全こそ人間の本質であり、それこそが完全、完璧な状態」といったニュアンス…なんだか深いですよね。 


 そんなわけで、観終わった後もしばらく考えさせられる映画です。興味があったらぜひ観てみてください。

パーフェクト・デイズ