はやる心を抑えきれず
はや足で丘陵を進む
栗谷沼のために
はるばる来たのだから

ここは聖域
鳥や魚や虫
そして草木たちが
歓び安らいでいるから

一歩足を踏み入れたとき
異変に気づいた
元気がない
草木に生気がない




沼が
すこし干からびかけていた
鳥と魚の
住処だったのに…

すこし来ない間に
何があったのだろう
周りの沼は
変わりがなかったというのに

鳥の鳴き声が
きこえない
魚の水面をたたくしぶきが
みえない

沼の神は
どこにいる?
いなくなったのなら
わたしがなろうか?

沼に身体を沈めて
いのちを捧げ
沼の神となれるなら
この上ない歓び

また再び
鳥たちが
魚たちの憩いの場となれるなら
安らげる場がつくれるのならば








たぶん血がたりないと
わかっているから
がんばれない
おもだるい朝

おひさまが
やさしくほほえむから
まどろみから
めをひらいていく

熱がほしい
血が煮えくりかえるぐらいの
からだに熱が注がれないと
目が覚めないから

つくりだす熱
熱、熱、熱
恒星のように
あつく、あつく

まんなかから
熱がうまれる
その刹那
はりめぐらされる

血がまわる
天頂から足さきまで
ぐるぐるぐる
心臓をとおして

時のゆるすまで
熱くなるまで
時計のはりをよこめに
まどろみをくりかえしながら

熱をおびた血で
指さきから足さきまで
燃えたぎる炎のように
うごかされていく

おひさまにうながされて
花々の
朝いちばんにひろがる
かおりのように

おふとんにためこんだ
熱気をはなち
芳ばしくもうつくしい
いちにちをはじめる




「早く結婚して
こどもが欲しいんです」
藝大生のチェリストが言った
まだ相手もいないのに

彼女の現実は華々しいのに
描く夢は地に足がついていない
音楽家という未来が
始めからなかったかのように

「この性格だから
しっかりした人がいいです」
足りないものは
外からの足し算

音楽を捨ててまで
結婚は価値があるものだろうか
今までの何百時間との
音楽の日々は何だったのだろうか?

遠く離れた現実と夢のはざまを
回遊している
ついては離れ
離れてはついてを繰り返しながら

結局いつか彼女は
気づくだろう
今の人生の歩みは
楽譜の一音に過ぎないことを 

彼女が芸術家なのであれば
また戻るだろう
人生とは
音を奏でる歓びであったということを