新型コロナウイルスの世界的流行によって海外旅行にいけないかわりに、約億人の中国人が国内旅行に出かけていると推計されています。

そうした中、旅行会社の調査によると、人気の観光地1位は新型コロナウイルスの"震源地"である「武漢」が選ばれました。日本人からするとぎょっとするような現象が、現在の中国の旅行シーンで起きています。

なぜ、新型コロナウイルスの発生地である武漢が一躍人気の観光地として脚光を浴びているのか、その理由について解説します。


まず、中国政府は武漢における新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に抑え込み、それが奏功したことによって、武漢が安全であることを国内外にアピールしたことが一因として考えられます。

ここで、武漢の新型コロナウイルスの感染抑え込みまでの経緯を振り返りましょう。2020年123日に、中国政府は武漢市のロックダウンを発表し、空港・鉄道・フェリーなどの交通機関が運行を全て停止しました。

厳格な移動制限や感染者の徹底隔離などの対策により、武漢の新規感染者は減り続け、48日に3か月以上にわたり続いていた武漢市のロックダウンが解除されました。この日以降から、武漢が徐々に感染拡大前の状況を取り戻していきます。

さらに、米国からの武漢への批判を回避するために、990万人という史上空前の規模を対象にした武漢市民へのPCR検査を実施し、陽性患者はもちろん、無症状感染者とその濃厚接触者まで徹底的に捕捉し、隔離しました。

この徹底した「封じ込め」施策が成功したので、武漢をはじめ湖北省全体の新規感染者は以後低い水準で推移しています。

そして9月、中国当局が外国のメディアを招き、武漢の最新状況を紹介する取材ツアーが行われました。

この取材ツアーでは、ロックダウンが解除された後、武漢の街や学校、病院などを案内することによって、新型コロナウイルスの収束を迎えた「安心安全」の武漢をアピールしていました。


また、湖北省政府が行っている「惠游湖北」観光誘致キャンペーンの効果も大きな要因として考えられます。

88日に、湖北省政府はコロナ禍で全国からの支援に感謝する気持ちを込めて、今年の年末までに全国の観光客に対し、省内約400か所のAクラス観光地の入場料無料化を実施しました。

(※中国政府は国内の重要な観光地に対して等級を付与しており、A5Aまでの等級が存在します。なお、黄鶴楼は最高評価の5Aの観光地です。)


武漢も市内の23か所のAクラス観光地を無料で開放し、

「打卡大武汉(大武漢にチェックインしよう)」キャンペーンをスタートしました。


この入場料無料化のキャンペーンの実施により、武漢を訪れた観光客は大幅に増加しています。

武漢市の統計によると、キャンペーンが開始された1か月間で延べ256万人が無料観光地を訪れ、市内観光地全体の1日あたりの来場者数は前年同期比34%増えました。

それに伴い、ホテルや飲食店など関連観光サービス業の回復も牽引しました。

また、観光客数のうち約45%は湖北省外からであり、省外の観光客の誘致に効果があると見られています。


湖北省政府の最新発表によれば、920日までに「惠游湖北」キャンペーンに参加した観光地に訪れた人数は2,000万人を突破し、もたらした観光収入は18.25億元(約282億円)に上ったとされています。

また、101日からの8連休に向けて、武漢市は黄鶴楼の夜見学や芸術の展示会、中国の伝統文化を楽しむ体験イベントなど計100個に及ぶ観光テーマを企画し、さらなる観光客の誘致を図る見通しです。


中国国内では新型コロナウイルスの感染状況は落ち着いており、早い段階で経済活動が再開することができたことにより、国民の間でも「自粛ムード」が薄くなっています

上述した「百度」の「2022庆搜索大数据(2022年国慶節検索データ)」によれば、2022年国慶節休暇に向けて、「国内旅行」の検索ボリュームは去年と比べて36%成長し、中国人の国内旅行に対する高い意欲を示しています。


また、「知乎」という中国のQ&Aサイトで、「中国政府はいち早くコロナの封じ込みに成功した」「中国がもっとも安全な国」など、中国国内の新型コロナウイルスの状況に大きな信頼を持っているような投稿が多く見られています。


また、国慶節連休に武漢に旅行することに対し、中国最大のSNSWeibo」では意欲的な投稿が多く見られます。


武漢は、新型コロナウイルスの発生地として今もなお全世界から注目されている場所です。しかし、感染封じ込めに成功したことや、当局による観光促進キャンペーンがなされたことにより、少なくとも中国国内からは、もはや危険視される土地ではなくなっているようです。


また、中国全体のムードとしても感染に怯えて外出を控えていた時期はもはや「過去」のものであり、国慶節中に国内旅行のピークを迎えるとも考えられています。