三生三世十里桃花:番外編3


画像は、中国ドラマ『三生三世十里桃花第52話(YouTube)』より引用しました。
https://youtu.be/GhIUlvzD1g0
 
 
 
特別推薦枠(1)

洗梧宮の仙官と宮女たちは最近、天族太子・夜華君の御機嫌があまり良くないことをヒシヒシと肌で感じ取っていた。

これまでの太子殿下は物事に淡泊で思慮深く静か、激することはおろか、動揺することもなかった。長年お仕えしている彼らでさえ、太子殿下の表情の変化を読めることなどない。

…それが、白浅上神が九重天・天宮にやってきて以降、太子殿下は上神の前では常に穏やかな表情を見せる。何か、こう『笑顔のお面』を顔に張り付けているかの如くだ。

…だからなのか太子殿下の機嫌が一度悪くなると、上神が太子殿下の御前にいる時でさえ、殿下は眉をひそめて『不快』の表情をハッキリとお見せになるのだ。

仙官や宮女たちはピリピリと緊張し、背中に冷たい刃を感じていた。これはきっと殺気に違いない。本日の太子殿下は尋常ではない。きっと太子殿下は腹のそこからお怒りなのだ。

太子殿下の『怒り』の原因は、昨日の事件にあった。



昨日、

太子殿下は数日間にわたる会議の合間、ようやく得られた僅かな休憩時間に白浅上神をお誘いになり、瑶池で花見をしてゆるりと過ごされた。

ちょうど瑶池周辺は霧が立ち込めて煙り、瑶池の『芙蓉』は美しい花を咲かせていた。

上神は『白い芙蓉』を見て大変ご満足で、太子殿下と手をつなぐと身体を気遣う言葉を述べた。
「…最近は休む暇も無く忙しく働いたのに、私のために時間を作ってくれて嬉しいわ。疲れているでしょう?良ければあちらの東屋で、私の膝枕で休むことにする?」

太子殿下の顔に、ハッキリとした笑みが広がった。殿下は上神の手を握り返し、上機嫌で応えた。
「…そうしよう。」

そう太子殿下が答えた矢先、阿離殿下が突然現れて叫んだ。
「母上、母上、向こうに大きな蝶々がいるの。阿離は長い時間頑張って追いかけたのに、まだ捕まえられない。母上、母上、阿離を手伝ってください。」

阿離殿下はそう言いながら、上神を引っ張り走って行く。阿離殿下の足は瞬く間に、前方の橋の向こうへ消えて行った。

仙官や宮女たちは見た。

突然、瑶池の脇に置き去りにされた太子殿下が歯をギリギリと鳴らしている姿を。
 


今日、

白浅上神は何故か突然、心に思うことがあったらしい。急に太子殿下の寝衣(パジャマ)を作ろうと、長昇殿で採寸を始めた。

上神はたくさんの布地を、太子殿下の肩や顔に当てて顔写りを確認して比較し、ため息をついた。悩ましく言う。
「どの布も、男前の貴方にとても似合うわ。」

太子殿下の顔が、赤くなった。

上神は考えながら切々と言う。
「ここにある布全部で、夜華の寝衣を作りたい。こんなに似合うのだもの。全部必要だわ。」

太子殿下は笑ってこう返した。
「…それは私が貴女に言うべき言葉だよ。」

太子殿下の邪魔をしてはいけないと、理解力のある宮女たちは分かっていた。いまが、退出すべきタイミングである。

その時、どこからともなく阿離殿下が突然、長昇殿に現れた。

阿離殿下は丸々と太った腕でそのまま、白浅上神の脚に抱きつく。
「母上、母上、先生が出した宿題が難し過ぎて、阿離にはどうしてもわからない問題があるの。母上、阿離の先生になって解き方を教えてください!」

宮女たちが呆然としているうちに、阿離殿下は上神の手を引き走って行く。阿離殿下は敷居を跨ぐときに踵を引っ掛けて転びそうになり、上神に抱き上げられた。
「団子、気をつけなさい。危ないでしょう?」
「えへへへっ。」

阿離殿下は上神に抱き抱えられたまま、長昇殿の敷居を跨いだ。

宮女たちは見てしまった。

阿離殿下が、太子殿下に『あかんべー』をした瞬間を。

怒りのため、ふるふると身体を震わせる太子殿下を一人長昇殿に残して、宮女たちは急ぎ席を外した。緊急待避である。



太子殿下の足下には、2枚の布地が転がっていた。先程まで、上神が太子殿下の顔に当てていたものだ。

宮女たちは去る際に、見てはいけないものを見てしまった。

太子殿下は眉を強くひそめただけではなく、その美しい額に不釣り合いな青筋を立てると、ピクピクと2度浮き出させた。




❇️追記
絶不調のため、後日、『主語』の修正作業を行う予定です。

 

 https://youtu.be/GhIUlvzD1g0