第七話:ナンシーと火龍神(第一段落目) | マーロールのブログ

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水の都アヌテラが、だんだんと小さく見えてくる。ヨゼフはそれを、寂しげに見ていた。


リタ達の次の目的地は、ナンシーの故郷であり、火龍族の里でもあるスクルド町だ。この町は、水の都アヌテラから東に五十キロ行った所にあるデラル島に位置している。更に、その町の近くには火山が聳えている。


「デラル島にはスクルド町の他に、葉龍族が住むバデリウスの樹海があるのね。一気に二ヶ所の神殿を冒険できて、一石二鳥ね」


ナンシーはうかれて言った。


「おいおい、ナンシー。水の都の神殿で、私達は大苦戦を強いられたんだよ。それを教訓にするためにも、冷静に物事を運ぼうよ」


リタは、ナンシーの自惚れを制止した。しばらくして、ヨゼフが二人の所に戻ってきた。彼も地図を見ながら、次の目的地を確認する。ふと、リタはある魔族を思い出す。その魔族とは、彼女達のようにレザンドニウム領国の奴隷だった者だ。


「ねぇ、君達。この地図にある《バデリウスの樹海》という文字を見ていると、《ヒア》って魔族を思い出さないか?」


リタの急な発言に、ヨゼフ達は驚いた。いつもの彼女なら、誰かを彷彿させるなどといったことは口にすることはない、と思っていたからだ。


「ヒアって……。九年間、僕達と同じ部屋で奴隷生活を送ってた、あの弓矢使いのこと?」


「ああ。もしかしたら、今頃はレザンドニウムを脱出してるかもね。故郷のこともありそうだし」


「そういえばヒアは奴隷になりたての頃、『俺は両親を犠牲にした。そして俺自身は妹を守るために自分から奴隷になった』と言ってたわ」


三人が《もう一人の奴隷戦士》の話をしている間に、船長がデラル島に到着したことを告げた。


(リタとヨゼフは、砂と水の龍神から武器を授かって、元の姿に戻った。でもそれは、二人が龍戦士としての素質や資格を持ってたから。私には、それなりの素質や資格があるのかしら?)


ナンシーは船を降りた時から、ぼんやりとそのようなことを考えていた。


「ナンシー」


リタの声が聞こえ、彼女は我に返った。リタは「どうしたの?」と訪ねる。ナンシーは、「大丈夫。何でもないわ」と言い、二人の前に立つ。


火龍族の里スクルド町は、先程三人が船を降りた所から、数十メートル歩いた先にある。


(家に帰ったら、両親の遺骨を埋めるために、墓地に行かなきゃ。ゼネラ族長にお会いするのは、その後よ)


ナンシーは、今後の計画を立てた。数分後、三人はスクルド町に着いた。町に着くと、火龍族の少年や少女が十人ずつ集まり、ナンシーを出迎える。彼らにも、レザンドニウムの領主の呪術によって変えられたナンシーの姿が、判別できるようだ。


「お帰り、ナンシー姉ちゃん」


少女達の挨拶に、彼女はにっこりと笑い、「ただいま」と返す。


「でも、ごめんね。今回は用事を済ませに、この町に戻ったの」


彼女は申し訳なさそうに言った。少年達は、寂しそうな顔をしている。


「もう少し、この町にいてよ。僕達も砂龍のお姉ちゃんや水龍のお兄ちゃんと遊びたいのに」


十人いる少年の一人が、だだをこねる。そこへ、立派な角を生やした、火龍族の男性が現れた。彼の服装は水色の長袖の上着で、極めて清潔である。リタにとっては、自分の父親ランディー王を彷彿させる姿だ。


「そんなに我が儘を言っては、駄目だぞ」


男性はまるで、子供達の父親のような口調で言った。次に彼は、リタ達の方を向く。


「ナンシー、手紙は読んだ。この二人と一緒に神殿を冒険するために、この町に戻ったのだな?」


「はい、ゼネラ族長。九年ぶりに、ゆっくりとお話したいところですが。リタの父親から、彼女を守るように言われているので」


「リタ? 砂龍よ、あなたがあの《砂龍族の王女リタ姫》か?」


族長は、まっすぐリタの目を見て言った。彼女は顔を赤くしながら、「はい、そうですが……」と答える。


彼女は、なぜ族長が自分の身分を知っているのかということを、ゼネラ族長に訪ねた。族長はこれを見てくれたら解る、と言いたげに左の脇に挟んでいた新聞を取り、広げてリタ達に見せる。《ガルドラ新聞》と大きく書かれたその紙は、彼女が仲間を連れて故郷のフィブラス国に帰省した時の様子、王女として《帰省祝いの式典》に出席した時の様子などが、特集記事として載っている。


それを見ると、急にリタ達はそわそわし始めた。


「どうしよう……。僕達が新聞に載るなんて、夢にも思わなかったよ」


「だからあの時、断っておけば良かったのよ。ヨゼフが調子に乗って、砂龍族の男性記者の取材に協力したりするから……」


ナンシーは、ヨゼフを叱る。が、彼は反発した。


「何だよ、僕だけのせいだって言うのか? ナンシーこそ、旅の記念だとか言ってたじゃないか」


「とにかく、下手したら魔道族の奴らに注目されてしまう可能性だってあるのよ。そしたら、私達はランディー陛下に、首をはねられてしまうわ。私達はリタの守護者よ」


「そこまで!」


二人が新聞のことについて揉めている所を、リタが制止した。彼女は顔をしかめて言う。


「確かに君達の意見は、両方とも納得がいく。だけど、今更新聞に載ってしまったことを言ってみても、後の祭りさ。そんな暇があったら、今後どうするべきか考えようよ」


リタの意見を聴き、二人は黙って頷く。その反応を見て、彼女は安心した。が、先程ナンシーが言っていたことが、彼女には気になっている。


(ナンシーが言ってることは、大袈裟だよ。第一、父上はよほどのことがない限り、魔族を処刑したりしないし……)


もしかするとナンシーは、内心では私達のことを気遣っているのかもしれない、とリタは思った。


その時、唐突にナンシーが、「あ、忘れてた!」と叫ぶ。


「どうしたの、ナンシー?」


「私はこれから墓地に行って、両親の遺骨を埋めてこなくちゃいけないのよ。悪いけど、旅支度が済むまで、どこかでお茶しててくれないかしら?」


ナンシーは、早口で言った。二人は黙って頷く。そこで、ゼネラ族長が提案をした。


「せっかく町に来てくださったのだ。私の家で、ゆっくりしていきなさい」


その言葉に、リタは一瞬戸惑った。が、この町にある店は僅かだと思ったのか、彼女は「是非、伺います」と答える。その時、ナンシーが手で合図して、『あなた達、ちょっと良い?』と、小声でこっちに来るように催促する。


『どうしたの、ナンシー?』


『ゼネラ族長のことなんだけど……』


ナンシーの言葉に、二人は唾を飲む。


『一見穏やかで呑気そうに見えるけど、実は凄く短気なの。族長の機嫌を損ねないようにね』


『わかった、気をつけるよ』


三人は、小声で話した。が、族長は全部聴いていたらしく、「何か、言ったかね?」と訪ねる。三人は慌てて首を横に振り、「いえ、何でもありません」と言った。


ナンシーはまた後で合流しましょう、と言いたげに右腕を挙げる。二人も右腕を挙げ、「ああ、必ずね」と合図する。