深夜のコンビニのバイトを上がって、家に帰る。

眠い。手も足も冷えている。それでも机に向かって、参考書を開く。親に負担をかけたくないから、塾には行っていない。志望校の判定はまだ届かない。それでも、あと一年、ここで踏ん張れば――そう自分に言い聞かせて、ページをめくる。

こういう男子が、日本のどこかに必ずいる。

彼が、志望校の募集要項を開く。

そして、あるページで手が止まる。

自分には、応募できない枠がある。

学力が足りないからじゃない。努力が足りないからでもない。家庭が裕福だからでもない。

ただ、男に生まれた。それだけの理由で、その扉は最初から閉まっている。

 

 

 

1.女子には二つの入口。男子には一つしかない

女子受験生には、男女共通の選抜に加えて、女子だけが応募できる選抜がある。

男子受験生には、その選択肢がない。

どれだけ困っていても、どれだけ努力していても、性別を見た時点で入口から外される側がいる。

数字で見ても、これはもう「一部の難関理系大学だけの話」ではない。

2025年度入試では、女子枠・女性枠を導入した大学が国公立30校、私立36校に広がった。

2026年度の国公立大学入試では、理工系女子を対象とする選抜を実施する大学が38大学49学部に達している。

国立大学の理工系女子枠の募集人員は、2026年入試で736人に達した。

前年から184人増え、3年前の38人と比べると約19倍である。

東京科学大学では、2026年度の女子枠募集人員が合計154人にまで拡大した。

 

 

女子は、男女共通の選抜に加えて女子枠も選択肢にできる。男子は、その選択肢を最初から与えられない。

男子受験生が感じる苦しさは、単に「女子が優遇されていて悔しい」という話ではない。

自分も同じ大学を目指している。自分も同じように努力している。自分も将来に不安を抱えている。それなのに、自分だけは最初から応募資格がない。

まだ答案の一枚も書いていない。まだ一問も採点されていない。それなのに、性別の欄を見られた時点で、勝負の外に置かれる。

彼が欲しいのは、特別扱いではない。ただ、自分も同じ場所で挑戦する機会だ。

努力が評価される前に、扉が閉まる。それがどういう気持ちか、閉められた側にしか分からない。

 

 

 

2. 困っている男子でも、男というだけで奨学金が受け取れない

性別による違いは、大学入試だけでは終わらない。

石川県では、公益財団法人ほくりくみらい基金が、理工系・工業高校・高専などを志望する女子生徒を対象に、「Masako基金 STEAM Girlsプログラム」を2026年5月に立ち上げた。返済不要の給付額は一人10万円で、年間30人規模への給付が予定されている。

 

 

だが、ここでも男子生徒は最初から応募できない。

考えてみてほしい。

父を早くに亡くして、母の稼ぎだけで暮らしてきた男子がいるとする。弟や妹の学費のことも頭にある。それでも理系に進みたくて、必死に勉強してきた。

家は苦しい。理工系に行きたい。将来のために努力している。

女子であれば、この基金に応募できる。彼は、できない。

条件が足りないからではない。困窮の度合いが軽いからでもない。ただ、男だからだ。支援を必要とする理由より先に、性別が見られる。

同じように理工系を目指し、同じように経済的不安を抱えていても、女子なら応募できる制度に、男子の自分は応募できない。

「男は、自分で何とかしろということなのか」

そう感じるのは、被害妄想でも僻みでもない。制度の設計そのものが、実際にそうなっている。

制度を作る側に、冷たい意図はないのかもしれない。それでも、外された側に届いてしまうメッセージがある。

お前の困難は、わざわざ手を差し伸べるほどのものじゃない。お前は男なんだから、自分で何とかしろ。

そんなつもりはない、と作った側は言うだろう。だが、閉め出された17歳には、そうとしか聞こえない。

 

 

 

3. 進学だけでは終わらない。男性には年齢の壁まで付く

苦しいのは、こうした性別による条件が、大学進学だけで終わらないことだ。

東京都は「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」で、都内商店街での開業を対象に最大844万円を助成している。対象は女性、または39歳以下の男性。
 
 
女性には、この制度上の年齢制限がない。ほかの要件を満たせば、40歳の女性は応募できる。一方、40歳の男性は年齢要件の時点で、この枠の対象外になる。

岩手県の「いわて希望応援ファンド」でも、通常の助成率は経費の2分の1以内だが、代表者が女性、または39歳以下の若者であれば3分の2以内に引き上げられる。ここでも、女性は年齢を問われず、男性は若くなければ優遇されない。
 
想像してみてほしい。

40歳の男が、もう一度立ち上がろうとしている。一度事業に失敗したのかもしれない。会社を追われたのかもしれない。それでも、家族のために、あるいは自分の人生をやり直すために、最後の資金をかき集めて店を開こうとしている。

その男が、要項の対象者欄を見る。「女性、または39歳以下の男性」。

彼は、女性なら年齢を問われず届いたはずの枠に、一歳の差で手が届かない。同じ40歳でも、性別が違えば結果が変わる。

「男は40を過ぎたら、もう応援する価値もないのか」

「女の再挑戦は後押しされて、男の再挑戦は自己責任なのか」

そう問いたくなったとして、それを誰が責められるだろう。

なお、東京都には性別や年齢を問わない別の開業支援制度もあり、40歳以上の男性がすべての支援から排除されているわけではない。ただし、そちらの助成上限は694万円である。女性または39歳以下の男性を対象とする制度は最大844万円であり、男性にだけ年齢条件が付く構造は残っている。

誰かが裏で示し合わせているわけではない。目的も、財源も、実施主体もバラバラだ。それでも、男の側から人生を眺めたとき、景色は不気味なほど一貫している。応募できない枠。あとから付く年齢の条件。それが進学から起業まで、人生の節目ごとにくり返し立ちはだかる。
 
 
 

4. なぜ、男子の苦しさは「見えなくなる」のか

女子枠や女性限定支援には、分かりやすい理由が付けられている。

理工系に女性が少ない。管理職に女性が少ない。起業家に女性が少ない。だから女性を後押しする必要がある。

その説明自体は理解できる。

しかし、その議論では一人一人の男子が消えてしまう。

「男性はこれまで有利だった」「理工系は男性が多い」「社会の中心は男性だった」

こうした集団全体の話が、目の前の男子学生に重ねられる。

だが、今受験している17歳や18歳の男子が、過去の男性社会を作ったわけではない。彼らが管理職を独占したわけでも、女性の進学を妨げたわけでもない。

ただ、男性として生まれただけだ。

それでも、過去の男性が有利だったという理由で、現在の男子が支援対象から外される。困窮家庭の男子も、地方の男子も、「男性」という大きなくくりの中に押し込められる。

女性の少なさは社会問題として扱われる。一方で、苦しんでいる男子の存在は「男性は恵まれている」という言葉で消される。

困っているのに、困っていると認めてもらえない。

助けを求めても、「お前は有利な側だろう」と返される。

苦しいと口にすれば、被害者ぶるなと笑われる。不公平だと言えば、女性の足を引っ張る人間として扱われる。

だから、多くの男は何も言わなくなる。言ったところで、聞いてもらえないと分かっているからだ。

俺が我慢すればいい。俺が黙って、自分で何とかすればいい。――そうやって飲み込んだ声が、いったいどれだけあるだろう。誰にも数えられないまま、消えていく。
 
 
 
 

5. 助けるときは対象外。評価するときは結果を出せ

男性は、結果を出すことを求められる。

学歴。収入。安定した職業。貯蓄。社会的地位。

結婚や婚活でも、男性はこれらを持っているかどうかで評価されやすい。収入が低ければ努力不足と言われ、仕事が不安定なら将来性がないと言われ、結婚できなければ魅力がないと言われる。

だが、その競争の入口では、男子だけが応募できない枠が存在する。男子だけが受け取れない奨学金がある。男性だけに年齢制限が付く起業支援がある。

助けるときは「男性だから対象外」。

評価するときは「男性なのだから結果を出せ」。

女性の少なさは、女子枠や女性限定支援を設ける理由として制度上扱われる。一方、同じ制度から外れる男子個人の困窮は、「男性全体は有利だ」という集団論の陰に隠れやすい。

なぜ男性だけは、いつも自分で立ち上がらなければならないのか。

なぜ男性の痛みだけは、社会問題ではなく個人の弱さにされるのか。
 
 
 
 

6. 制度を推進する側は、何を根拠にしているのか

男子側の不利益を検討するには、制度を導入する側の根拠も確認する必要がある。

推進派の立場はこうだ。理工系分野の男女比は国際的に見ても極端に偏っており、この偏りを放置すること自体が別の形の不平等だ。女子枠は多くの大学で一般選抜と選抜区分を分け、学力試験も課しており、能力担保との両立を図っている。京都大学新聞の取材に対し、文科省高等教育局の担当者は、男性比率が極めて高い分野でさらに男性を対象とする措置を追加する合理性は乏しい、という趣旨の説明をしている。

しかし、ある分野で男性全体の比率が高いことは、目の前の困窮した男子に支援が不要であることを意味しない。集団の人数と、一人一人が置かれた生活状況は、本来別の問題である。学部全体では男性が多くても、その一人一人が経済的、社会的に恵まれているわけではない。

このロジックをどう評価するかは、人によって分かれるところだろう。少なくとも、女子枠は公表された制度として運用されており、2018年に発覚した医学部入試の女子減点問題のような「秘密裏の操作」とは性質が違う。

ただし、公表されていることと、公平であることは同じではない。「男性は応募できません」と要項に書いてあれば、不利益がなくなるわけでもない。
 
 
 
 

7. 結婚防衛ラボとして、男子に伝えたいこと

男子学生には、厳しい現実を知っておいてほしい。

社会が必ず自分を公平に扱ってくれるとは限らない。努力すれば、必ず同じ機会が与えられるとも限らない。困っていれば、誰かが助けてくれるとも限らない。

男というだけで、支援する必要のない側に分類されることがある。それでも、男性には結果だけが求められる。収入を上げろ。安定した仕事に就け。貯金を作れ。結婚相手を安心させろ。

支援から外されても、結果だけは要求される。

進学、就職、収入、資産形成は、その後の結婚や家族形成で男性に求められる条件にも直結する。男性は支援から外されても、その後の就職、婚活、結婚では収入と安定を求められる。だから、進学や仕事の段階から生活基盤を守ることは、そのまま結婚に人生の安定を依存しないための防衛にもなる。

だからこそ、早い段階で現実を知る必要がある。

利用できない制度を知らないまま進路を決めない。自分が利用できる奨学金、選抜方式、地域支援を徹底的に調べる。資格を取る。収入源を増やす。若いうちから資産形成を始める。会社だけに依存しない。結婚だけに人生の安定を求めない。

制度の不公平を見抜く。同時に、不公平への怒りだけで人生を止めない。

男の苦しさは、放っておいても誰かが自動的に救ってくれるわけじゃない。悔しいが、それが今の現実だ。

だからこそ、自分を守る知識と、自分を支える資産を持つ。頼れる場所を、一つでも多く増やしておく。一度つまずいても、また立て直せる人生の作り方を、若いうちから身につけておく。

本当は、そんな備えをしなくても救われる社会であってほしい。困っていれば、性別に関係なく手が差し伸べられる社会であってほしい。

でも、まだそうなっていない。ならば、知らないまま丸腰で立たされることだけは、避けなければいけない。

守ってもらえないかもしれない。その前提の上で、それでも自分の人生を自分で設計していく。

それが、男子学生の段階から始まる、いちばん静かで、いちばん確実な結婚防衛だ。
 
 

参考ソース

  • 旺文社パスナビ「2026年入試女子枠拡大続く」

  • リセマム「【大学受験2026】女子枠の拡大続く…旺文社が実施状況&事例を公開」(国立大学理工系女子枠、2026年入試で736人・前年比184人増)

  • ReseEd「【大学受験2026】理工系「女子枠」京大や阪大など8大学増の38大学」

  • Yahoo!ニュース/All About「東京科学大学「女子枠」の不公平感をデータで検証」(2026年度女子枠定員154人)

  • 京都大学新聞社「【特集】「女子枠」制度を考える」(文科省担当者コメント)

  • 公益財団法人ほくりくみらい基金 プレスリリース「Masako基金 STEAM Girls プログラム」(2026年5月22日)

  • womantype「女性活躍推進助成金を分かりやすく解説」(東京都・若手女性リーダー応援プログラム助成事業)

  • 大槌町・九戸村ほか「いわて希望応援ファンド地域活性化支援事業」公募要領(岩手県、助成率1/2→若者・女性2/3)

  • 東京都・公益財団法人東京都中小企業振興公社「令和8年度 若手・女性リーダー応援プログラム助成事業/商店街起業・承継支援事業」募集案内(844万円枠と694万円枠の対象者比較)

※実施主体について:東京都の助成金は都、いわて希望応援ファンドは公益財団法人いわて産業振興センター、Masako基金は民間財団のほくりくみらい基金と、それぞれ別の主体が運営している。