(「僕は博士ではないけど、ご主人様からは『頭がいい奴だなあ』と言われています」とビーグル犬まろさんオス10歳)
政府が博士号を取得した専門人材の就職支援に本格的に乗り出すそうです。
そのために、今月8月26日に経済産業省と文部科学省が合同検討会を初めて開催するとのことです。
(第1回 博士人材の民間企業における活躍促進に向けた検討会(METI/経済産業省))
そもそも文部科学省が2040年には2020年に比べておよそ3倍の人口100万人当たりの博士取得者数にする、という目標があり、アカデミックポストが増加するわけもないので、産業界でも積極的に博士の採用をしてくれというスタンスでいるようなのです。
ちなみに、現状では人口100万人当たりの博士取得者数はアメリカで286人、イギリスで344人、日本は126人だそうなのです。お隣の韓国も344人だとか。
それで、政府によると、博士は技術革新に欠かせない人材なので日本も増やして企業が採用しやすい環境を整え産業競争力を強化する、と。
でも、この話ってどうも訳が分からないのが、企業の側のニーズをちゃんと把握してそんなこと言ってるのだろうかと言うことです。案の定、日刊工業新聞社のアンケートによると、企業の側ではそれほど乗り気ではないということらしいのです。
そもそもが、「博士が技術革新に欠かせない」という政府は言うのだけれど、どんな分野でどの程度の博士需要があるのかなんて、分かっているのだろうかと不安になるのです。これまで企業が博士採用を渋ってきたのはまさに「需要が無いから」だったからではないでしょうかと。企業の研究開発にマッチするような人は、大学の研究室との関係で採用者が供給されたりとかあって、それ以上はお腹いっぱい、だったのかもしれない。
私は30年以上前になりますが、オーバードクターを3年やった後にラッキーにも30代で一般企業に就職できましたが、その企業ではまあまあ博士を採用する風土があったものの、なにかにつけて某お役所から来た上司からは「ドクター(博士)は毒多(ドクター)だ」とか言われたし、当時(今もかもしれない)、世間でよく言われていたのが「博士は専門分野に特化していて頭が固い」というものでした。何も知らないくせに、「博士」と誰もかれも一緒くたにしてなにが「頭が固い」なんだか。周囲の人からは「上の人たちは、『頭が良い』人は嫌いだから、気を付けなさい」としつこいくらいに言われていたし、まあそういうものなのでした。仕事も、最初から覚悟はしていたけれど学位の研究とは関係ない仕事で、「専門知識を生かす」ということもなく。結局は、企業で「学位をとった研究と関係がある研究」でもしていない限りは、アカデミックな世界とは離れるわけで、博士をとった人にも相応の覚悟が必要になるでしょう。私の場合は、一応、経済的には恵まれたし結婚もできて普通に家庭を築くことができたので「ラッキーだった」ということにはなります。ただ、アカデミックな世界を夢見て研究してきた人がそれとは関係ない企業に行くこと、「儲け、利益、営業活動」が重視される世界で「現場の研究をしているなら出世の道はないよ、少なくとも会社の中で役員や社長になるのは別の人たち、キミたちは蚊帳の外」という企業では、自分の立ち位置が難しいしアイデンティティの問題にも直面するでしょう。「ジョブ型雇用」なんて言っても、どうせ「天井」はありに決まってるから。「博士は独立して研究できる」とか言っても、会社組織の中でそんな「放流」が許されるものなのか。上司だ部下だのといった枠組みでしかありえないですから。
で、そういうことを本当に考えて文部科学省だの経済産業省だの政府だのが博士を増やせ、アカデミックな世界に行けなかった人は企業に協力してもらって採用してもらえ、ということを言っているのか、なんだかとても安易な感じがするのです。
それに、その「博士を増やせ」で、これまでの「企業が博士を採用しやすいように」ということで作られた制度では、目を疑うようなものがありました。本当に情けなく思うのです。それは何かというと、「博士人材の雇用に伴う法人税等の税額控除の活用促進」。博士を雇用すると、法人税が有利になる、と。「お土産」つけないと採用しないような人材を企業が採用するものでしょうか...というか、博士って企業にとってそこまでうとましいものなのでしょうかね。この制度って、障害者を雇うと助成金があるとか、税金で有利になるとかいう制度を思い出させます。「博士人材」って、政府にとっては一種の障害者なのかな、と。そもそもが、そんな「技術革新」を生むような人材なら企業だって直ぐにでも欲しいでしょう。
でも、そもそもが企業の側だって博士が研究してきたような仕事なんてないからというのを解決しないと、根本の解決には至らないのでは。いや、もしかして分野がぴったりの或いは類似の博士を採用したら技術革新に結びつくなんて状況があったとしても、企業の側でそれに気づくような人材がいないという問題だってあるでしょう。
私は政府は訳の分からない意味不明の「博士取得者3倍」にこだわるよりは、普通に大学に研究費を増やした方がよっぽどいいのではと思うのです。
単に「博士を3倍」って、どこにどういう博士需要があるのかなんて分析もしないで「博士は技術革新に欠かせない」とかって言うのは、政府は、役人は真面目に仕事してるんだろうか?って不安になります。