その日,なぜか光は朝から浴室にいた。普段絶対に朝からお風呂に入ることのない光が,朝から自分の身体を必死に洗っていた。特にある部分を念入りに。すでに自分の身体を洗い始めてから5分が経過,浴室に入ってからは10分が経過していた。別に湯船につかるわけでもなく,ただただ必死に自分の身体を洗っていた。
『・・・なんでランティスにあんな話をしちゃったんだろう・・・。』
つい30分前の自分の軽率な発言を後悔しても,自分の言った言葉がなくなるわけでもないため,どうしようもないと,1つため息をつく光。
光が今日ここに来て,ランティスとの会話の中にこんな内容のものがあった。
「ねぇ,ランティス,この前ね,海ちゃん風ちゃんと3人で映画を見に行ったんだけど,そこでね・・・。」
その映画は,中世ヨーロッパが舞台であった。その1つのシーンの中で,ある国の神官が女王に忠誠を誓うために,その女王の足にキスをするというシーンがあったのだ。光は映画の内容うんぬんよりも,そのシーンが目に焼き付いて離れなかった。普段の生活でそういうシーンに出くわすことは光みたいな純朴な女の子にはありえないことである。そのため,『男の人ってこんなこともするのか??』という思いになったらしい。
「私たちの世界では,そういうことってすることはないんだけど,ランティスはそういうことをやったことか,見たことってある??」
いきなり何を聞き始めるんだという,少し困惑の表情を浮かべるランティスではあったが,光はいたって真面目な感じで質問してきているので,無碍にすることも忍びないとランティスは感じた。
「・・・そうだな・・・似たようなことはあるかもしれないな。・・・例えば,姫とザガートのことだが・・・。」
ランティスが光に話し始めたのは,エメロード姫とザガートがまだこのセフィーロにいたときのことである。エメロード姫が柱であるとき,ザガートが新しく姫をサポートする神官に,ランティスが姫を警護する親衛隊帳に任命されたときのことである。そのとき,ザガーとは姫の前にひざまづき,おもむろに姫の手の甲にキスをしたのである。それが,姫に忠誠を誓うものではなかったことは,ランティスからすれば明らかだった。その後エメロード姫とザガートはお互いを想い合う関係になり,魔法騎士招喚を経て,悲しい結末を迎えることになってしまうのであるが。そのとき,ランティスは兄と同じ行動を取ることはなかった。もし仮にセフィーロに忠誠を誓うときにそういう習慣があればしていたのかもしれないが。
ランティスがそう説明すると,光は少し笑顔になって,
「・・・私はザガートのこと,あまり知らないけど,以前夢の中で見たザガートだったら・・・なんかそういうことしちゃいそうだ・・・。ザガートとエメロード姫って,本当に美男美女だから,そういうの似合うかも・・・。」
光は当然2人のことは想像でしかないのだが,ランティスの説明を受けて,そのシーンがたやすく想像できた。それだけ,2人はお互いのことを想い合っていた。そうでなければ,自分達がこのセフィーロに招喚されることもなかった。自分の気持ちをお互いに抑えることができなかったことは知っている光にとって,あの2人であれば,他にも色々なことをしているのではないかと想像することもできる。
そんな光をランティスの一言が現実に引き戻す。
「ヒカルもしてほしいのか??」
一瞬,ランティスの言葉を理解することができない光。思考も身体も固まっていると,ランティスは光の前に膝をつき,光の手の甲に口づけをする。
『・・・わっ・・・わっ!!』
光は一瞬のことで,ランティスの行動に抗うことはできず,少しだけ顔を赤くしてランティスの行為を受け入れた。そして,数秒間ランティスは光の手の感触を味わうと,今度は光に足を上げるように催促する。さすがにそれには,
「・・・えっ??・・・そ・・・それはダメだ!!」
「俺は別に構わないが・・・。」
ランティスは手の流れで,そのまましてしまっても・・・という感じではあった。
「ランティスが良くても,私がダメなの!!・・・だって・・・足だよ??・・・汚いよ??」
「ヒカルの身体なら平気だ。別にどこでも大丈夫だ。」
ランティスはすでにモードに入ってしまっている。確かに,ランティスは光とある行為をするときでも,光がいくら拒否しても,色々な部分に口づけをしてしまう。しかし,そのときは光も気持ちが高揚しているために,ランティスの口づけを受け止めることができているが,今この状態では,気持ちの整理ができなかった。
「・・・だったらせめて・・・身体を洗ってからに・・・。」
そうなんとかランティスを説得して,光は急いで浴室へと向かっていった。
できればランティスに止めてほしい光ではあったが,自分のそうであるように,ランティスも相当に頑固な性格である。1度決めたことは,やり通すタイプである。それを知っているため,今の自分では逃れる術を持っていないことを光は理解していた。
『・・・もう大丈夫・・・かな??』
とにかく念入りに丹念に,自分の足を洗った光。どんなに洗っても洗い足りないものであるが,『キレイになった』と自分に言い聞かせるしかなかった。それ以上に,自分の身体を洗っている最中に,なんとかランティスの思いとどまってもらうための方法を考えてはいたのだが,結局は何もいい方法を考え出すことができなかった。
『・・・もう・・・仕方ないか・・・。』
1つため息をついた光は,自分の身体についた泡をお湯で流して,浴室を後にする。とりあえず,脱衣所で服を着替えて,ランティスの元へと向かった。
「・・・ランティス・・・もう一度聞くけど,本当にするのか??」
「ああ」
それを聞いた光は今度こそ完全に観念した。顔を赤くしながら,おずおずとランティスの前に自分の足を差し出す光。ランティスの唇が自分の足に近づくにつれ,逃げ出したい気持ちにはなるが,少しの間だけ我慢すれば解放される。そう自分に言い聞かせた。自分の手や足,全身にギュッと力が入ってしまう光。
その数秒後,ランティスの唇が自分の足に触れる。それを光は直視することができず,目は閉じられていた。その感触は当然今までに体験したことのないものだった。だが,視界が遮られていたせいか,決して嫌な感じではない。そう思うと今まで光の身体全体を縛っていた力がふっと抜けていく感じがした。
しかし,ランティスは口づけだけでは終わらなかった。いったん,光の足から自分の唇を離すと,今度は,光の足の指に口づけを始めた。
「・・・え??・・・ちょ・・・ちょっと??」
すぐに終わるものだと思っていた光には急転直下な状況である。慌ててなんとかしようと考えるが,頭は混乱してしまって,何をすればいいか分からない。こういう状況に陥ってしまうと,光は何もすることができない性格である。それをランティスも知ってか,さらにランティスは口づけだけではなく,自分の舌を使って,光の足を舐めていく。
どうすることもできず,ただただ光はその行為に耐えるしかなかった。そこにランティスのこの一言が光をさらに追い込む。
「・・・ヒカル・・・気持ちいいか??」
身体中の血液が上半身に集まってきてしまったのかと勘違いするぐらい,光の顔は瞬時に赤くなる。
「・・・よくないよぉ・・・お願いだから・・・もう終わりにしよ??」
本当は少しだけ気持ちがよかった光であったが,それをランティスに言ってしまうと,おそらくこの行為は延々と続けられる可能性が高かった。自分の気持ちが高揚しているときであれば,受け入れることはできたかもしれない。しかし,今は羞恥心の方が勝ってしまう。
ランティスも光の懇願を受け入れ,光の足から自分の顔を離す。ようやく解放された光は深呼吸をして,自分を少しでも落ち着かせようとする。しかし,そうすればするほど,今自分がされていた行為が余計に異常なものであると意識され,恥ずかしくなってしまう。
そんな光を見たランティスは,光をやさしく抱きしめる。『よく頑張った』と光に伝えるように。光もそれに応じて力いっぱい抱きしめ返す。それには『ランティスの意地悪』というメッセージが含まれているようであった。