1980年代。昭和。


田舎町。

彼と暮らす町は

海が近くて綺麗な町だった。


だけど

思い出は一切ない。


深夜、衝動的に溝の中に隠れた日。

結局彼は又明け方に帰ってきた。


私を探した彼は

ようやく私のSOSに気づいたのか、

よく覚えていないが…

次の日曜デートしようと言ってくれた。


彼と暮らして

彼と外食したり、デートなんて

一切なかった。

暮らして毎日顔を合わすということは

そんなもんなんだと思っていたし、

デートしよう、と、

そう言われて私は凄く嬉しかった泣くうさぎドキドキ


あえて、

私に時間を使ってくれる特別な日、

私と向き合ってくれる日、

そう感じたんだと思う。


その日だけは

私だけの彼なんだと、嬉しかった。


当日

メイクをして髪を整え、

服を着替えていた時、電話が鳴った。


嫌な予感しかなかった。

会話から、副業の彼女であることは

すぐにわかった。

だけど、だけど、

今日は私と約束している。

久しぶりのデートだし、特別な日。


だから、私は彼を信じた。

今日は断ってくれる、と。


だけど、会話から、

すぐにそれは

絶望にかわる。


彼は

ごめん、

どうしても行かなきゃならないと言った。


彼女の下に付く人物が

今からなら時間が取れる、と。

だから、

俺が一緒に行って話さなきゃならない、と。


ネズミ講。

そうね。

彼の下に初めて出来たのがその彼女。

その彼女の下に誰か付いて、

その人が売れば

彼に収益が入る。


彼はそれでお金持ちになり、

将来私と裕福に暮らすのが夢。


ふっ……

何億回も言われたし、聞いた言葉。


私は初めて、そう初めて

駄々をこね、泣いて彼を責めたし

困らせた。


今日は、一緒って言ったじゃないっ。

なんで断れないのっ?!


だからっ、俺は将来、お前と……

お前の為に頑張って…</√<**>:/


何億回も 何億回も

聞いた言葉がまた出てくる。


もういいっ!


私は飛び出す。


……追いかけても来ない。




終わった。

1人で海を見に行き、私は思った。

つらい。さみしい。

悲しい。腹が立つ。怒り。

悔しい……。恨み…。


副業なんかで儲かるわけがない。

そんな簡単に、

あの冴えない彼に

誰かがこの先ついて行き

結果成功するなんて、ただの夢でしかない。


彼女が初めてついた下の子。

それを大事に育てたい気持ちはわかる。

だけど、何故それが彼女なの?

女だったの?

やましい気持ちはない?

は?まさか。

あるに決まってるよね。


毎日毎晩、私より一緒にいて

私より優先して率先して会いに行く。

女も女だよ。

一緒に暮らす女がいるのに

少しは遠慮しないの?

配慮ないの?


私は理解ある彼女なの?

彼の夢を応援し

かげで支える良い彼女?


ふ、バカにするなよ。

2人してバカにしてるんだよ。


涙。


応援なんてしてないよ。

するわけないじゃない。

そんな余裕私にはないよ?

自分を支えるのでいっぱいだよ。


彼は

私を必要としてくれた。

孤独からやっと救われる、そう思った。


だけど

よけい孤独。


ウジウジ

グジグジいつまでも泣くしかなかった。


誰かに幸せにして貰える、

私はずっとそう思ってた。


自分で幸せは掴むものなんて

あの頃は考えもしていなかった。


ドタキャンしたんだから

今日はさすがに早く帰るだろう、

そんな期待も夕方になり夜になると

またあきらめにかわった。


何度あきらめて

何回裏切られたか。


さみしい。


爪はもう食べない。

そう誓ったのに

食べてしまう。


不安しかない。

孤独しかない。

人は誰からも無視され

愛されていない、必要のない人間だ

そう感じると震えて

行動が思考が制御できなくなる。

自分を痛めるのは

誰かに気づいて欲しいから。

心配されたり目を向けて欲しいから。


私を見て、私を見て!

誰か私を見てください。

私を大切に思ってください。


そんな嘆きはだけど

誰かに伝えないと伝わらない。

だけど、伝えようとしても…

嫌われるのが怖くて自分を出せないんだ。


それ以来

彼とは話したくても

話せなくなった。

どこかで何かあきらめたのかもしれない。


ただただ、気づいてもらうのを

待つだけの、無となった。


だからよけい誰かと話したくなり

私は友達に電話する。

だけど

心はそこにはない。


そんなある日。

また会いたいね、そうだね、

いつなら大丈夫?

いつでも大丈夫だよ。

じゃ、〇〇にしようよ、そうだね。


友達数人と昼に約束し

夜、新しくできたディスコに

私はその日行った。


久しぶりのディスコだった。


お酒を飲み、軽く踊り

爆音の中、大声で話して笑う。

楽しかった

瞬間は嫌なことを忘れられた。


その時、

数人の男の子たちがやってきた。

久しぶりに話す彼以外の男。


そして私は2人の子から、

別々に

電話番号が書かれたメモをもらった。




前にも書いたけど

精神状態最悪ではあったけど

私は顔だけは

お人形さんみたいに可愛かった。


ただコンプレックスだらけで

自信なんて持ったことはない。


愛されるべき人間ではない、と

ずっと思って生きてきた私。

だから、

好きになられると

必要とされていると強く感じてしまう。


それが

病気だと気づいたのは最近であり

当時は知るよしもない。


ディスコから帰り

しばらくはまた土の中のセミのような

そんな生活を送る。


ただ少しずつ

友達と会い、話し、笑うことは

刺激となっていたように思う。


友達の着ていた服に興味を持ったり

メイクグッズを買ったり。

雑誌を買ったり。


だけど

夜になるとまた

彼を待ち、無言電話をかけ、

狂いそうになる、それの繰り返し。

イマゴロカレハ

カノジョトワラッテイルンダロウ

ワタシハココニイルキヅイテ


キヅイテ

頭の中で永遠に繰り返す言葉。




もらった電話番号が気になったのは、

随分経ってからだった。


2枚ある中から、その1枚を選んだのは

ディスコで

ずっと私にだけ優しかったから。


素直に誠実に言葉を発する人、

それが彼の第一印象だった。


ドキドキしながら電話をかける。

…覚えているかな?

もちろん。

ずっと、待ってました!


その日から、彼とは

たまに電話するようになる。

最初は話しを聞いてくれるのが

ただただ嬉しかった。

なんでもない会話ばかりだった。


そのうち、

友達と話すのとは違い、

好意を寄せてくれている感が心地良くなる。

思いやりだったり、

優しい言葉だったり、

そういうのが心地良かった。




1度2人で会いたい、

そう言われたのは何度目かの電話。


同棲していることは

話していなかったけれど、

彼がいることは話していた。

私が電話番号を教えない事からも

薄々同棲はわかっていたと思う。


それなのに

会いたい、と。


私は。

会いたいとは思わなかった。

ただ、さみしい時に

電話できれば良かった。


でもその後も断りきれず、

いや、

断ったら電話できない仲になるのが

嫌で、仕方なく約束をした。


だから

私は約束の日、行かなかった。

ブッチした。


同棲している彼に悪いから?

いや、そんなことは頭にはなかった。


ただただ、そう

面倒くさかった…。

会いたい気持ちがなかったのだ。


ただ、しばらくして

勝手なもので

また夜にさみしくなった。


話したくて

彼に怖々電話をしてとりあえず先に謝る。

彼は、

車で3時間待ったと笑いながら話す。

そしてまた懲りずに

一生懸命、何故会いたいかを説いてくれた。


ポロリ。

好意が嬉しかった。

そうか、、、

彼は、私が必要なんだ。


必要なんだ。


必要なんだ。





その日から毎日電話をし

初めてのデートを迎える。


ドライブして

食べて話して、一緒に歩いて笑う。


それだけの事だけど

彼の

私を見る目や言葉、態度、仕草、

それらが同棲している彼からは

見えない聞かないものばかりだった。


そう、

優しくてキュンキュンしたのだ。


同棲している彼に悪いなんて

これっぽっちも頭になかった。


彼がいるから

同棲している彼に耐えることができる……

最初はそう思ってた。


だけど、

段々さみしいから電話ではなく

話したいから毎日電話するようになり、

会いたいからデートしたくなった。


同棲している彼のことを考える時間が

みるみる減り、

私の心臓が、

ドクドク脈を打ち出す瞬間到来。


不思議と

眠れるようになり、

食べるようになり

彼と約束した日が楽しみになり、

それだけが頭をしめる。


同棲している彼が副業で女の所へ

行っても

逆に、

ゆっくり彼と電話できる喜びのほうが

大きくなっていった。


実家に行くと嘘をつき、

地元に帰り彼とデート。


そんな時、彼から

正式に付き合って欲しい、

彼女になって欲しい、

だから、今の彼とは別れて欲しい、

そう言われた。


そう言われて

初めて私は、今の状況を考えた。


気持ちはもう彼にある。

惹かれている。


彼と付き合うには、

同棲している彼と、そう、別れなければならない。


情はあった。

ひどい生活でも

数ヶ月、私の頭の中を占領した人だ。


だけど

そう、もういらない。


幸せになりたい。

必要とされている人の、そばにいたい。


私は


別れを決意する。