マリモのダイニング |   マリモ博士の研究日記

  マリモ博士の研究日記

      - Research Notes of Dr. MARIMO -
  釧路国際ウェットランドセンターを拠点に、特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」と周辺湖沼の調査研究に取り組んでいます

《はじめに》

先に本ブログの「マリモ?を食してまいりました」で紹介したクロバイガイのコロッケ、単に「マリモに似ているから」でも十分に価値が高いのですが、実は「マリモ?を食べるとマリモ保護が進む」カギにもなるのです。まだ構想の段階ですが、実現したら楽しかろうな

 

【釧路新聞文化欄・日本マリモ紀行#588,2022年10月10日】

 

 近年、阿寒湖では、マリモの生育を脅かす水草の繁茂が問題となっている。マリモと水草は光資源の豊富な浅瀬をめぐって競争関係にあり、1980年代から始まった湖水浄化対策が奏功して湖水の透明度が上昇した結果、10年ほど前から水草の生育状況が優勢に転じた。そのあおりで、球状マリモの減少やマリモ分布面積の縮小が進んでいるのである。

 

 マリモの衰退を防ぐためには、水草の生育量を人為的にコントロールすることが不可欠だ。そのため、2014年から水草の除去を進めてきたものの、時間の経過とともに水草の生育状況は元に戻ってしまうため、長期的かつ継続的に取り組む体制の整備が求められていた。

 

 対策の一つとして構想されたのが、市民参加による水草の除去活動である。ついでに、得られた水草の資源化を図るべく、草本なら何でも食べてしまうヤギに水草を与えて乳を取り、チーズに加工して参加者へのお土産にすれば、きっと喜ばれるに違いない。

 

 ところが、本格的なヤギのチーズなど食べたことがない。どんなものか確かめようと、2017年に東京の国立科学博物館でマリモ企画展を開催した折、五つ星ホテルのレストランに出かけて色々試してみた。種類によって好みは分かれるだろうが、全体にあっさり目で、ウシとは違ったうまさがある。同時に、ひと切れ千円前後という値段にも驚かされた。

 

酒田市のフレンチ・レストランNICOの名物料理,クロバイガイのコロッケ.マリモのファンならずとも,出てきただけで歓声が上がる.

 

 以降、実際にヤギを飼ってチーズ製造に取り組んでいる方を訪ねて教えを請う一方、水草の堆肥化やアルコール発酵の可能性についても検討を進めた。チーズと育てた野菜を皿に盛り、バイオ燃料を使ってコーヒーを入れたり、卓上ランプを灯したりすれば、素敵なマリモのダイニングになるだろう。湖の栄養循環などをテーマにした環境教育や自然体験と組み合わせれば、さぞ面白いプログラムが展開できるに違いない。

 

 だが、問題があった。メイン・ディッシュを欠いているのである。もちろん、マリモと並んで阿寒湖を代表するヒメマスも悪くないが、これでは芸がない。「マリモで何とかならないか」と悩んでいたところ、数年前、「これだ」と言える一品を知った。山形県酒田市のフレンチ・レストランNICOで、マリモそっくりな料理を供していたのである。

 

 先のシルバー・ウイーク、ようやく念願かなって、このマリモにありつけた。大皿に載った球体の直径は約4㌢。表面は緻密、濃緑色でいかにもマリモである。正体はクロバイガイのコロッケで、皮に竹炭の粉末が練り込んであるという。なるほど、その上にパセリのパウダーを振りかけてあるから、遠目には濃緑色に見えるわけだ。「中身が阿寒湖の恵み、例えばマリモも食べるレイク・ロブスター(ウチダザリガニ)の身なら完璧だな」などとめぐらしながら、料理を堪能した。

 

 食事はおいしく、楽しくに尽きる。が、マリモが置かれた厳しい現状や阿寒湖の生態系に思いを馳せながら、食を通じてマリモの保護に貢献する・・・世界に類のない、そんなセットメニューがあってもよいだろう。

 

ころもをナイフで破ると,クロバイガイのガーリックソテーが顔をのぞかせる.色々な具材に応用できそうだ.