マリモのお昼寝 |   マリモ博士の研究日記

  マリモ博士の研究日記

      - Research Notes of Dr. MARIMO -
  釧路国際ウェットランドセンターを拠点に、特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」と周辺湖沼の調査研究に取り組んでいます

<Marimo's nap>

 【北海道新聞・朝の食卓, 2020年6月19日】

 

 初夏は植物の成長が旺盛な季節。それは阿寒湖のマリモとて例外ではない。年間で最も日差しが強く、昼が長いこの時期、活発に光合成して大きくなる。とはいえ、葉っぱを持つ植物と違い、球状のマリモは表面全体で光を浴びなくてはならない。そこで、回転する必要が出てくる。

 

 晴れて湖面が凪いだ朝、冷たく澄んだ水を通って太陽光が湖底に差し込むと、マリモは光合成を始める。日が当たるのは球の片面だけだ。ところが、午前10時を過ぎると、マリモはおもむろに動きだす。遠く離れた太平洋から海風が吹き込み、波が起こってマリモを揺らすのだ。

 

 湖底にカメラを据えて微速度撮影してみたところ、マリモは揺れながら少しずつ回転していることが分かった。回転数は1時間に1~2回。こんな巧妙なやり方でマリモは満遍なく光を受けていたのである。

 

 この事象を知ったとき、揺りかごの中でお昼寝している幼子と、その寝返りに手を貸す母の姿を思った。もちろん、揺りかごは阿寒湖で、幼子はマリモ、母は海風だ。

 

 とくれば、波が子守歌となろうが、およそ1秒ごとに左右に大きく揺れるマリモの群れは、ヴェルディ作曲のオペラ「椿姫」の中の「乾杯の歌」を合唱しているかのようで、子守歌にしてはいかにも気ぜわしい。けれど、これですくすく育つのだ。マリモは動く植物―。そう実感する体験であった。

 

 

風が吹いて波が起こると,マリモの群落全体が揺すられるように動きます.

ずっと「ナブッコ」の「行け,我が想いよ,黄金の翼に乗って」のリズムかと思っていましたが,

今回,水中画像で振幅速度を測ったら,ずっと速いことが判明。「乾杯の歌」に修正しました。