<A story of Marimo>
【北海道新聞・朝の食卓, 2020年4月3日】
釧路在住の絵本作家・木島誠悟さんが「わたしはマリモ」と題する児童向け絵本をつくったのが2018年。市民団体「マリモでくしろを盛り上げ隊」による活動の一環で、現在、英語版と中国語版が発刊されるまでになっている。
阿寒湖のマリモの暮らしを紹介する物語の最後、襲いくる嵐の中で年老いた大きなマリモが波にもまれて壊れてしまう。しかし、それは死ではない。ちぎれた破片から小さなマリモが生まれる瞬間でもある。この「生命の再生と循環」というテーマが国を超えて共感を呼ぶようだ。
絵本の話が持ち上がった際、はなから外国語版が計画されていたわけではなかった。18年の夏、釧路を訪れていていた英文学者の大野光子さんが偶然絵本の存在を知り、あれよあれよという間に英訳の話が進んだ。さらに、19年夏に私が台湾を訪れた際、お土産に持参した絵本が日本語に堪能な動物学者の張東君さんの手に渡り、中国語版の発刊につながった。
いずれも周到に計画されたのでなく、小さな出会いと熱意の連鎖が形になった点で、いかにもマリモの物語にふさわしい。
マリモはロシアやドイツ、フランスなど北半球に広く分布する。絵本がこれらの国々のみならず、マリモ研究で日本と交流のあったアイスランドやエストニアの言葉にも訳され、広く読まれるのを期待したい。
波打ち際で回転するマリモの破損断片.光資源の豊富な浅瀬で活発に光合成を行って,急速に成長する.