これは私が田舎で働いていた頃の話です。
ある日職場へ向かう途中老婆に呼び止められました。
こんなところに家があったのかと思うような、景色に溶け込んだような古い家の前で、私は老婆に家に蛇が居るので追い出して欲しいと言われました。
私は蛇が特に怖いというわけではありませんでしたが、普段見慣れないものだけに少し困りました。
しかしご老人が困っているようだったので引き受け、家の方に向かって行きました。
家の前にはとぐろを巻いた白蛇が居ました。
恐ろしいというよりは神々しいという感じでしたが、老婆は蛇に怯え私に「殺してぇな」と頼んできます。
白蛇は神の御使いであったり執念深い生き物代表だったりするので、私は殺さずに遠くに投げることにしました。
テレビで見たように、頭を抑えれば噛まれないと思い手を出しましたが、予想より素早くて噛み付かれました。
少し血が滲みましたが痛みもなく、そのまま捕まえて藪の方に放りました。
老婆の方を見ると、そこに姿はなく物凄く低い声で「殺してくれなんだか」という声だけが聞こえました。
家の方に目を戻すとそこに家はなく、小さい石の祠もような物があり、細く真新しい注連縄だけが明るく見につきました。
噛まれたはずの指に傷はなく、白昼夢でも見ていたかのような体験でした。
後日、村の長老格の御仁と話す機会があったので聞いてみたところ、遠い昔よく子供が神隠しにあっていた時期があったそうで、当時の村の氏神の神主が山姥が子供をさらって食っているとして、村人と共に老婆の家へ行き証拠もないままに殺してしまったらしいのです。
それを聞いて老婆をかわいそうに思った私は祠?に行き注連縄を切りました。
それで老婆が解放されるかは分からないけど、無実のままそこに縛られてる気がしたから・・・。
数年前に村は地滑りで消えた。