『見る物』



 ある秋の朝。遮光カーテンを開けた私は、庭に大きなダンボール箱を見つけた。

 …何だろう。昨日の風で飛んで来たのかな。それとも。

 箱は1メートル辺の立方体。昨夜はこれが飛ばされるほどの強風ではなかった。それにダンボールはガムテープで丁寧に閉じられている。中に何か入っているようにも見える。

 …誰が捨てて行ってんだろう。迷惑だなぁ。

 嫌な予感がした。
 不法に投棄した廃品、と言うには、箱が余りにも汚れていなかった。ガムテープも、辺に平行にきっちりと貼り付けられていた。それはつまり、誰かが、何らかの意志を持って、他ならぬ私あてに置いていったに違いないのだ。
 私はパシャパ姿のまま、サンダルをつっかけて庭に降りた。
 近づくと、今まで嗅いだことのない不快な臭いがした。やや腐敗臭に近い。寝起きで空腹の私は軽い吐き気を覚えた。
頭上の電線にはカラスが数羽、こちらを見下ろしじっとしていた。
 私の腰の高さまである謎のダンボールに手を置き、軽く叩いてみた。反応はない。犬や猫を捨てたものではなさそうだ。しかし漂う臭気は有機物のそれである。勝手に私は箱の中が生き物であると確信していた。それが生きているかどうかは別として。

 …警察に連絡すべきだろうか。でも何事もなかったら近所を騒がせるだけだし。

 世間はまだ通勤前である。近隣の人々はまだ寝ているか、朝の支度をしている時間帯だ。パトカーがこの辺りに停車しただけで、ちょっとした騒ぎになる。それくらい静かで穏やかな住宅街だった。
 この辺りで一軒家に一人暮らししているというだけで好奇の目で見られている私が、ここで騒ぎを起こす事は、変人のレッテルを固める結果になるだろう。だから。

 …まずは箱を開けてみよう。

 意を決した私はガムテープをはがし始めた。箱を開けた。中にあった「それ」が何なのか気づくのに数秒かかった。
 ああ、変人というのはこういう細工をする人を指すのだ。私は変人の足元にも及ばない…

 私は気を失った。



(つづく)
※すべてフィクションです。