ちょっと怖かった話
それは後輩の「今度肝試しするんですよね」という一言から始まった。
その時俺は同期H、後輩Tと三人で職場を出ようとしていた。
そこでいつやるのかといった話になる。
俺が言いだした話ではないので傍観していたが、じれったくなったので「今やろうぜ」と言った。
なんせ、スポットには事欠かない。人跡未踏の三階。隣のテナントの試着室(塩が盛ってある)。恐怖のエアコンルーム(こちらはアスベストが満載だ)。
とりあえず隣のテナントはまだ人が残っていたので人跡未踏の三階だ。
かね折れ階段の前まで来る。後輩と俺は下で見守り同期Hが単身様子を見てくることになった。
階段には荷物が乱雑に積まれ、菊の花が十本ぐらいおいてある。
そして横には配電盤がある。感電死した人がいるとか。
「じゃあ行って来て下さいよ、俺たち下で待ってますんで」
「まあいいけど」
「すごいなお前。ただのアホだと思ってたけど見直したぞ」
「F君はいつも一言余計だよね」
掴みかかってくるH。
「とにかく行って来て下さいよ」
「そうだ、これで行って来れたら真の企業戦士として認められるぞ」
「う~ん別に行ってもいいけどF君の言い方が腹立つなあ」
「悪い。ちょっと俺たちマジで怖いんだ。行ってくれないか」
「しょうがないなあ……」
そんな会話をしつつ恐怖をやわらげつつ。
意外にも軽い足取りで階段を上っていくH。
「結構上まで行きましたね……」
「結構長いからなあの階段」
「行った事あるんですか?」
「俺はそこの折り返しの部分までは行けたがそこから先が長くて折れた」
「へえ……」
「わあ!」
Hの叫び声と階段を二段飛ばしで駆け下りる音。
「どうした?」
やれやれ自演かと思うが、なんと足音が二人分あるように聞こえる。ギョッとする。
Hが何者かに追われていると思った俺は思わず階段前から距離を置く。
後輩Tは問答無用、叫びながら走って逃げる。
「おい!」
「うおおおおおおおお!」
俺はTを追いかける。こんなにパニくられるとこっちまで怖くなってくる。
一階に降りる階段の途中で止まるT。
「……様子を見に行こうや」
「はい」
二階に戻るとHがいた。
「どうしたよ?」
「上まで行ったらドアがあったんだよ」
「ほお」
「でもドアの前に子供みたいなのがうずくまっていて入れなかった」
「……マジで?」
「暗くてよくわかんなかったけど怖くなって走って降りてきた」
「嘘ついてんじゃねえよ」
「いや、でも黒いものがうずくまってたのは確かだよ」
「……」
「そういや足音が二人分聞こえたんだよな」
「ほんと?」
「うん。俺にはそう聞こえた。だから俺、Hが追っかけられて逃げてるのかと思ったんだよ」
「へえ?」
「でも、子供って言ったよな?」
「うん」
「ここの人の話でね、子供の走る音が聞こえるから行ってみると誰もいない、ってのがあってな、それと符合しちゃうんだよな」
「……」
「うおおおおおお!」
またパニくって逃げる後輩T。釣られて逃げる俺。最後尾はH。
現在、とりつかれた様な感じは三人ともない。